表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗殺少女は魔力人形の夢を見るか  作者: 鰯づくし
6章:暗殺少女の向かう先
222/256

舌戦と舌禍

「ほう、随分と突拍子もない話ですね」


 謁見の間で神官を迎えたリオハルトは、平坦な声で応えた。

 この場には、レティはもとより、バトバヤルもナディアもいない。


 神官は、リオハルトへの謁見を要求してきた。

 つまり、バトバヤルやナディアがいることを把握していない可能性がある。

 となれば、彼らがいることなど教えてやる必要はないだろう。

 一民間人であるレティはなおのこといる必然性はなかった。


 そして、聞かされたよもやの言葉に、苦笑が漏れそうになるのを押さえ込みながら、リオハルトは言葉を続けた。


「そのイグレットなる女性が、『神罰対象者』となる程の大罪を犯したと。

 少なくとも我が国内では、そのような話を聞いたことはありませんが」


 不思議そうに尋ねるリオハルトへと、神官は尊大な表情と態度を崩さない。

 むしろ胸を張り、朗々たる声で答えを返してきた。


「それも致し方ありますまい、何しろ彼奴めの犯した罪は教団の秘儀に触れるもの。

 いかな国王陛下といえど、易々と知られていてはむしろ困ります。

 そして、だからこそ彼女はすぐにでも捕らえねばならぬのです」


 どこかリオハルトを見下すような顔で得意げに言い切った彼を、リオハルトは随分と呆れたような目で見ていた。

 ふぅ、と小さく吐息をこぼしてから、小さく首を振った。


「話になりませんな」

「……なんですと?」


 完全に虚を突かれたらしい神官は、口を半開きにした間の抜けた顔で問い返す。

 まさか、そんな反応をされるとは微塵も思っていなかったらしい。

 彼ら神官の対人交渉のお粗末さは知っていたが、まさかここまでとはと呆れながら、リオハルトは言葉を重ねた。


「話にならないと言ったのですよ。

 古来より『神罰対象者』の指定は、悪逆なる為政者や強欲なる商人、悪名高い犯罪者に対して行われてきました。

 それは、俗世の法や秩序では対処しきれない存在へ、教団という俗世を超越した権力が介入する、言わば救済措置。

 広く世間のために振るわれる最後の手段でした。

 だというのに、どんな罪かも話せぬ教団内部のことに使うなど、権力を私するにも程がある。

 『神罰対象者』も、随分と俗っぽい使われ方をされるようになったものですね」


 最後に向けた視線に含まれていた蔑みの色に、神官は敏感に反応し激高する。


「な、何を言いますか!

 これには深遠なる神の思慮があってのこと、それに対してそのような不敬な物言いなど!」

 

 神官の剣幕に、しかしリオハルトは涼しい顔だ。

 この程度で、などと随分安く見られたものだ、とリオハルトは思ってしまう。


「不敬なのはそちらの方でしょう。

 慎重に振るわれるべき神の裁きを、そんな軽々に扱うなど。

 あなた方こそ、神の威光を軽んじた不敬な行いをしていませんか?」


 言葉とともに、静かに視線を向ける。

 睨むだとかそんな強さはない。それなのに、反論の言葉が出てこない程の圧迫感。

 渇く喉に、思わず神官は唾を飲み込む。

 ここまでの威、あるいは彼の王を前にした時かそれ以上。

 などと思い至ったことに自身で気がついて慌てて首を振り、そんな考えを打ち払う。

 それこそ不敬ではないか、と主への忠誠心を奮い起こす。


「神を軽んじるなどと、なんと失敬な!

 あなたのその物言い、教団の決定への、つまりは神のご意思への反逆と見なされますぞ!」


 びし、と音がする程にリオハルトへと指を突きつけた彼は、得意げな顔を取り戻していた。

 そうだ、そもそも彼にはこの切り札があったのだ。

 こう言われて膝を屈しなかった者など、例え王であっても居はしない。


 今までは、そうだったのだ。


「至極当然の指摘を神への反逆と取るなど、片腹痛い。

 我らが神は、そのように不寛容なお方ではありますまいに。

 それとも、あなたにとって神とは、理を軽んじ無理を通すをよしとする存在だと?」


 とても不思議そうに。

 なんの他意も無く、ただ不思議そうに問われて、目を見張った。

 反論されるなど予想もできず、そしてそれに対する言葉も持ち合わせていない。

 何か足下が崩されてしまったような感覚に、彼の思考は停止してしまったのか、言葉は返ってこなかった。


「ふむ、ここまでのようですね。

 そちらがイグレットなる女性を『神罰対象者』として指定したことは認識しました。

 ですが、その決定には疑問が残る。それがこちらの立場になります」


 淡々としたリオハルトの言葉に、神官の顔が歪む。

 それは怒りなのか、恐怖なのか、あるいはその両方か。

 高ぶった感情のまま、彼は叫んだ。


「そっ、そのようなことをおっしゃって、よろしいのですな!

 であれば、このバランディアにも神罰が下りましょうぞ!」

「おや、神罰が。少なくとも今この瞬間に、私は何も下されていないようですが」


 彼の脅し文句は、どうにも一々リオハルトには響かない。

 それがまた神官の焦りを生み、感情を煽っていく。


「遠からず下されましょう!

 ガシュナートを見ているがよろしい、神に逆らった者の末路として!

 そして、その次はバランディアです!」


 高ぶった結果、つい、口走ってしまったことだったろう。

 だがそれを聞いたリオハルトは、少しばかり目を細めた。

 まるで、補足した獲物を逃がすまいとする肉食獣のように。


「ほう。つまりガシュナートに何かが起こり、それはつまり教団によるものだと」

「そうですとも、その神罰の恐ろしさに震えるがいいでしょう!」


 得意げに言い放った、つもりだったのだろう。

 だがどうにもその姿には、虚勢しか感じられない。

 それが若干哀れでもあるが、同情してやるほど、リオハルトは優しくなかった。


「なるほど。書記官、今の発言をしかと記録しておくように」


 謁見の間、その隅に控えていた書記官へとそう告げる。

 その発言の意味を、神官は理解できていなかった。

 

無知が罪だとすれば、その罪で振るわれた牙もまた罪なのだろう。

罪には罰を、牙には牙を。

振るってきたものは、やがて自分へと返りくる。


次回:反抗計画


抗う相手は、神かそれとも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 対ガシュナートでの敗戦は、神官さんに伝わってないのですね。 こっちの伝令兵さんが頑張って素早く連絡したからこその優位、報われたッ [気になる点] クーデターの一件、公式にはレティたちのこと…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ