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暗殺少女は魔力人形の夢を見るか  作者: 鰯づくし
5章:暗殺少女と戦乱
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探り合い・晒し合い

「ふふ、やっと話してくれましたね。

 ありがとうございます、エリミネイター。

 ええと……略称のエリーで呼んでも構いませんか?」


 エリーの言葉を受けて、ナディアはどこかほっとしたような口調で応じる。

 そして、早速距離を詰めてきたことに、内心で感心し、同時に呆れる。

 そのやり口は、どこか自分のそれに近いものがあったから。


「はい、それは構いませんが……。

 ジェニーだけでなく、私の略称までご存じなのですね」


 確認するように、慎重に問いかける。

 ジェニー自身から聞いたのか、何某かの資料か何かから情報を得たのか。

 明らかにナディアの持つ情報は、この時代の一般的なものを遥かに凌駕している。

 それは、どこから来ているのか。それは同時に、ジェニーとの信頼関係がどこまでなのかを知る物差しにもなるだろう。

 ……いや、今更確認するまでもないのかも知れないが。


「ええ、ジェニーが教えてくれましたから。

 ……最初にジェニーが、自身の略称を教えてくれた時は驚きました」


 その時のことを思いだしていたのか、ナディアはどこか懐かしむような微笑みを浮かべる。

 当のジェニーは、素知らぬ顔だが……恐らく、あれが彼女の素なのだろう。


「ジェニーが、教えてくれたのですか。

 初期に作られたジェニーが……」


 最初期の実験段階を経た後のマナ・ドールはひたすら出力だけを求められた。

 その追究が一定の成果となったのが、ジェニーのような初期型戦略級マナ・ドールである。

 後に、その高すぎる威力により持て余され、使われることは稀になってしまったのだが。

 

 当然、出力だけを求められたため、感情だとかコミュニケーション能力だとかは二の次だったはず。

 エリーの知るジェノサイダー達は軒並み、指揮官の言うことに忠実に従うだけの戦闘機械でしかなかった。


 だが、ここにいる彼女は……明らかに、それらとは違う。

 感情の片鱗らしきものがあり、自分の意志らしきものがある。

 盲目的に従うだけの機械では、ない。

 そのことが、どうにもエリーの感覚と合致しない。


「やはり、ジェニーは初期に作られたのですね。

 あなたの方が後期型だとは聞いていましたし、納得もいたします。

 こう言う言い方が適切かはわかりませんが……あなたは、なんとも人間に近しい……いえ、ほとんど人間と遜色ない印象を受けます」


 あっさりと受け入れて納得したナディアの様子に、エリーは苦笑を浮かべてしまう。

 情報収集を怠らず、かつ、新しい情報にも拒否反応を示さず、適切に対応しようとしている姿の印象は悪くない。残念ながら。

 

「私のような戦闘戦術級は、人間の指揮官とのコミュニケーション能力が不可欠ですから。

 それもあって、人間に近しい知能を与えられているようです」


 そして、そのおかげで何にも代えがたい幸せを手にすることができた。

 そのことはどれだけ感謝しても足りないし、手放すわけにはいかないと思っている。

 こんな状況、絶対なんとかしてみせる。

 心の中でそう誓っているエリーの表情を見ていたナディアは、ふぅ、とため息を吐いた。


「やはり、ジェニーをあなたのようにするには、まだまだ足りないものが多いようですね……」

「それは、その通りでございますが……お言葉ですが殿下、むしろジェニーにこれだけ感情的な行動があるだけで、驚嘆に値します。

 一体、何をどのようになさったのですか?」


 言いながら、ジェニーを見やる。

 視線を向けられたジェニーは、怪訝そうに小首を傾げた。

 こんな反応が返ってくる時点で、エリーの覚えている彼女達とはまるで違う、と言っていい。

 それがナディア王女のやったことであれば。

 そう思っての問いかけだったのだが。


「いえ、私は何も……ジェニーと出会った時には、すでにこうでした。

 その後手に入れた資料を基に、冒険者達から部品を買い集めはしましたが……。

 資料を読んで予想はしていましたが、やはり、ジェニーはあなたの知っているジェニーとは違うのですね?」


 ナディア王女の問いかけに、こくりと頷く。

 むしろ、エリーの知っているジェニーに比べれば、驚くほどに感情豊かだ、とすら言えるのだから。


「はい、まるで違う、と申し上げてもいいでしょう。

 同系統と何度か会ったことはありますが、明らかに違います。

 彼女達は、もっと機械的な反応しかありませんでした」


 となれば、考えられることは、そう多くない。

 ジェニーへと顔を向け、エリーは問いかける。


「ジェニー、もしかしてあなたは、大規模な修理や改修を受けたことがありますか?」


 その問いかけに……ジェニーはこくりと頷いた。


「肯定。一度事故で大破したことがあり、その際に大規模な修理を受けた。

 その際に情報処理回路が更新された記録がある」

「やっぱり、そうだったんですね……」


 ジェニーの返答に、エリーは頷き返す。

 であれば、理解できる部分もある。できない部分も、あるのだが。


「なるほど、だからジェニーはこういう反応ができるのですね。

 ……ですが……なぜ、このような回路があるのでしょう……?

 ジェニーやあなたの前で言うのも申し訳ないのですが、マナ・ドールは兵器として作られたのですよね?」


 さすが、と言っていいのだろう。

 ナディアは、エリーがかつて抱いた疑問へと即座に辿り着いた。

 なぜ、このような感情があるのか。その意味、とは。


「はい、私達は兵器として作られています。

 私の場合、コミュニケーションを取る意味において、感情があった方がいいから、と思っていました。

 ……ですが、どうも違う気がするのです」

「ごめんなさい、エリー。あなたにも、それはわからないのですか?」


 その事実には落胆してもいいだろうに、ナディアはそのことをおくびにも出さない。

 あの感情的に見えるゴラーダの娘としては、どうにも対照的だ。


「はい、はっきりとは。

 ですが……先日、手掛かりのようなものに触れることができました」


 唐突に脳裏に浮かぶ、あの時の記憶。

 情報処理回路の交換作業中に見た、夢のような何か。

 あれが、何かの鍵になるに違いない。

 なぜだか、確信めいたものを感じている。


「とはいえ、まだ確信にいたるものではございません。

 ですから……ナディア殿下、お持ちの資料を、私にも見せていただけませんか?」


 もしかしたら、何か見つかるかも知れない。

 ……同時に、ナディアがどこまでマナ・ドールについて把握しているかもわかるかも伺える。

 ここまで情報交換をしていながら、エリーはまだ王女を完全には信じていない。


 そのことを知ってか知らずか、ナディアはあっさりと頷いてみせた。


「ええ、もちろんです。

 あなたから意見をいただければ、大変心強いです」


 あまりにあっさりと頷かれたものだから、エリーの方が面食らってしまった。

 元々の性格なのか、計算なのか。

 委ねられてしまい、拒否することが心情的に難しくなってしまったことに、苦笑する。


「かしこまりました、では、資料を拝見させていただけますでしょうか」


 しかし、こうなってしまえば、やるしかない。

 そう腹を括り、エリーは笑顔を見せた。

結果があれば原因がある。

全て因果の果てにあるのが浮世ならば、その出会いも因果なのだろう。

流れに身をゆだね、その中でつかみ取るのが人生ならば、彼女がつかんだこれは。


次回:知りたくなかった事情


それもまた、人のエゴ。



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