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暗殺少女は魔力人形の夢を見るか  作者: 鰯づくし
5章:暗殺少女と戦乱
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動乱の始まり

「……どういうことだ?」


 薄暗い会議室に、苛立ちを無理やり抑え込んだ声が重々しく響く。

 そのつぶやきに答えられるものは、この場にはいなかった。


 そして、言葉を発した彼も問いかけのつもりはなかったのだろう。

 答えが返ってこなかったことには、何も言わなかった。


 それだけに、一人苛立ちに飲まれている、とも言えるが。


「よもや三度『神託』が覆るとは……その上、なんだこの結果は」


 その手には、伝書鳩が運んできた手紙が握られていた。

 陰謀を企てていたカーチス達には、本国との連絡員が同行していた。

 あの時、闘技場にはおらず外で待機していたため、ドミニクに見つけられることだけは避けられたある意味幸運な人物。

 もっとも、結果を報告することに、かなり胃を痛めることにはなったが。

 何しろ、直接現場を見ていなかったのだから、報告できる情報は断片的なものになる。


「カーチスが破れ、優勝したのはイグレットという女。

 ……女が勝ったという時点でも理解ができぬのだが。

 その後、暴走したカーチスと二人もろとも討ち取られたらしい、だと……なぜそんなことが起こりえるのだ」


 怒りを通り越して、純粋な疑問を浮かべる。

 何しろカーチスは、物理的な力だけであれば彼に匹敵する。

 まして暴走状態になれば、止められる人間などいるはずがない。

 高い魔力を有しているため、魔術による攻撃もほとんど有効打にはならなかったはずだ。

 だが、半刻にも満たない時間で制圧された、と。


「人間どもに、そのような手練れがいたというのか」

「結果からは、そのように考えるしかございません。

 とても、信じられませぬが……」


 やっと、一人の男がその言葉に答えた。

 信じられぬのも無理はない。

 彼とて腕に覚えはあるが、人型のカーチスにすら、勝てる自信はなかった。

 だが、そのカーチスが破れたというのだ、何が起こったのかなど、理解できぬであろう。


「いかがいたしましょう。そのイグレットとやらが何者であるかの調査をいたしましょうか」


 問いかけに、しばしの沈黙が訪れて。

 やがて、重々しく口が開かれた。


「いや、必要あるまい。名前と外見は割れたのだ。

 一々調べて後手に回る必要はあるまい」


 そう言うと、地図に視線を落とすことしばし。

 とん、と指が地図を叩いた。


「奴にコルドバを落とさせよ。

 包囲を完成させてから押しつぶせば、いかな武人であろうと所詮は個人。たやすく仕留められるであろう」


 指し示されたのは、コルドバ。

 バランディアとコルドール、そしてガシュナートに接する国境都市。

 レティ達が経由した街だった。


「ああ、あの制御装置も余分に貸し与えよ。あれがあれば、一日で落とせるであろうからな」

「はっ、かしこまりました!」


 今日もなんとか首が繋がった。そのことに安堵しながら、部下たちは一斉に頭を垂れた。





「はっ、気楽に言ってくださるぜ、あのお方はよぉ」


 伝書鳩によってもたらされた密書を見た男は、誰はばかることなく吐き捨てた。

 きらびやかな衣装を纏った体は筋骨隆々、よく日に焼けていて実にたくましい。

 しかし、そんな衣装とは裏腹に、浮かべる表情は粗野で、獰猛ですらあった。


「また何やら無理難題をふっかけてきましたか」


 傍に仕える老齢の男が、伺うような視線を向けてくる。

 その視線に晒すように、手紙を乱暴に開示した。


「コルドバを落とせ、だとよ。

 ったく、コルドール攻めの準備をしてた最中によぉ……。

 また物資を動かさなきゃならねぇ、軍団を動かさなきゃならねぇ!

 現場の苦労を知らねぇやんごとなき方はお気楽ですなぁってよぉ!」


 苛立つ主に、側近の男も諫める言葉を持たない。

 主の言葉は、まさに側近も思ったことだからだ。


「準備さえできれば、あれらを使い問題なく落とせはするでしょうが。

 その後も含め、全ての段取りを丸投げでございますか」

「ああ、よきにはからえ~だとよ。

 くっそ、ほんっとムカつく野郎だぜ」


 ぐしゃり、密書を握りつぶす。

 だが、それ以上のことはしない。

 いっそ細切れに破り捨てたいくらいではあるが、それをやると魔術がかかっていた場合検知される恐れがある。

 そのことを警戒して自制するくらには、まだ理性が残っていた。


「ならばその段取りは、せめて私めが引き受けましょう」

「へっ、さすが気が利くじゃねぇか。

 んじゃぁ、委任状を書くから、そっちは好きにしやがれ」


 そう言うと、早速男はペンを手にし、委任状を書き始めた。

 乱暴な言葉遣いとは裏腹に、書かれていく文字は整っており、教養を感じさせる。

 と、その手がふと止まった。


「ああ、あいつも動員しろ。念のため、だ」

「は、かしこまりました。では姫様にもそのようにお伝えいたします」


 側近の言葉に、鷹揚に頷く。

 そしてまた、男は紙にペンを走らせ始め……やがて書き終わり、印章を押す。


 その印章は、ガシュナート国王ゴラーダのものだった。

華やかな宴が終われば、現実がやってくる。

何が、どうしてこうなった。それらを知らずに、次はない。

議論を重ね、模索する向こうに未来があるのだから。


次回:見え隠れするもの


遮るものを、打ち壊すためにも。


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「元暗殺者ですが、公爵家令嬢付きのメイドになった結果妙に懐かれてしまって、これはこれでとセカンドライフを楽しんでいます」

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