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暗殺少女は魔力人形の夢を見るか  作者: 鰯づくし
4章:暗殺少女の目指すもの
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花咲くような語らい

「……まさか、こんなに待たされるとは思わなかった」


 随分と遅れて荷車と共に戻ってきたドミニクに、レティがジト目で愚痴を言う。

 だが、悪びれもせず、むしろ意味ありげな笑みを浮かべながらドミニクが答えた。


「はは、こっちもまさか、なことが起こってねぇ」

「まさか、なこと?

 一体何があったんですか?」

「そいつは見てのお楽しみ、まずはやることやろうじゃないさ」


 不思議そうに尋ねるエリーに、返ってくるのは煙に巻くような言葉で。

 何のことやらわからないエリーとレティは、互いに顔を見合わせて首を傾げるばかりだった。





 ドミニクの指揮のもと手分けして男達を縛り上げ、ついでに無雑作な止血もして。

 うめき声を上げるのを無視して荷車に乱雑に積み込んでいき。

 積み終われば、ガタゴトと荷車で男達を運んでいく。

 ちなみに、抵抗する者もいたが、レティとドミニクが大人しくさせた。

 様々な手段を用いて。

 ……若干、また護衛達から距離を置かれたような気がするのは、気のせいだろうか。


 ともあれ、無事男達を捕虜にして、荷馬車の方へと戻ってきた。

 その傍に立つ見慣れない女性に気づいたレティが目を細め、じぃ、と見やり。


「ねえ、エリー。あの女の人が、逃げてきた人だよね?」

「え? あ、はい、そうです、あの人です」

「……そう」


 エリーの答えに、小さく頷いて。さらにじぃ、と見つめていた。

 と。

 横合いから、エリーにくいくい、と遠慮がちに袖を引かれる。


「ちょっとレティさん。なんでそんなに見つめてるんですか。まさか目移りですか?

 まだそんな何日も経ってないのに、もう? どういうことなんですか、まさか私は遊びだったんですか。

 それともああいう人が好みなんですか? だったら私だって髪を染めて肌を焼くことだってやりますから」

「まって、まって、違うから、違うから!

 ……私にはエリーだけだから、安心して」


 遠慮がちでありながら、なのに重々しくもつらつらと延々と流れ始めるエリーの無感情な声に、慌てて制止の声を掛ける。

 それから耳元に口を寄せて、エリーにだけ聞こえるようにささやけば、途端にエリーは動きを止めた。

 覿面に、耳まで真っ赤になってしまいながらも何も言わない様子に、今度はおろおろと慌てることしかできず。

 そんなレティの動揺をよそに、しばらくしてエリーは復旧した。満面の笑みとともに。


「んもう、レティさんったら、またそんなこと言ってぇ!

 他の人だって聞いてるのに、だめですよ、そんなこと言ったらぁ!」


 にこにこと、それはもう嬉しそうに照れくさそうに言いながら。

 ばしん、と良い音を立ててレティの背中を叩く。

 その見た目にそぐわない、中々の力で。

 叩かれたレティは、ぐふっ、と聞き慣れない声を出しながらよろめき、それでもほっとしたような顔を見せた。


「ええと……ごめん……?

 その、誤解が解けたみたいで、良かった……?」


 腑に落ちない。理不尽だ。そう思いながらも、機嫌が直ったエリーを前にして口にすることはできず。

 なんとも言い難い、苦笑のような表情を浮かべるしかなかった。


 

 そして、そんな茶番を見せられた周囲は。


「なあ、ドミニクの姐御」

「なんだい」

「どうにかなんねぇのかい、あのバカップルは。聞いてるこっちがむずがゆくてしょうがねぇんだが」

「どうにかできるんなら、とっくにあたしがどうにかしてるよ。我慢して聞き流しな」


 ひそひそと、げんなりとした顔で言い合っていた。

 ……一部、それを嬉しそうに眺めている野郎もいたけれども。




「それはそうと。

 ねえ、ドミニク。あの人もしかして……コルドールの王族?」


 ひとしきりエリーをなだめ終わったレティが、唐突に声をかけた。

 それを聞いたドミニクは、面白そうに片眉を上げる。


「ほう、なんでそう思った?」

「あの人の着てる服の袖の紋様、見覚えがある。多分、襟のも同じ系統。

 コルドールの王族にだけ許されたものだったと思うのだけれど」

「正解だ、よく勉強してるもんだねぇ」


 愉快そうに笑うドミニクと。

 完全にドン引きしている護衛達がそこにいた。


「いや、なんでこの距離でわかんだよ!?

 知ってるのはともかく、模様とか見えねぇだろ、普通!」

「え……訓練?」

「できねぇよ、普通訓練じゃ、んなことできねぇから!」


 口々に男達に言い募られて、理不尽だ、と思わざるを得ない。

 そんなレティを、我が事のようにどや顔で見ているエリーがいた。



 そんなこんなで馬車まで戻ってくれば、件の女性……ツェレンが出迎える。


「皆様お疲れ様でございます。

 ああ、そちらのお二方は、こうしてきちんとお話させていただきますのは初めてですね。

 私、ツェレン・バトバヤル・コルドールでございます。どうぞお見知りおきを」


 楚々とした、いかにも上等の教育を受けている貴婦人の仕草で挨拶をしながら。

 キラキラとした憧れに光る瞳を隠すこともしない様子に若干レティは気圧され、エリーは警戒の色を強める。


「これは、どうも……私は、イグレット。平民なので、名字のない、ただのイグレット」

「私も同様に、ただのエリーです。どうぞよろしくお願いいたします」


 それぞれに頭を下げる二人へと、ツェレンはまた頭を下げ返し。

 顔を上げれば、幾度も二人の顔を見比べて。ほぉ……とため息を吐いた。


「あ、あの、どうかなさいましたか……?」


 何か粗相でもあっただろうかと、この時代の流儀に疎いエリーが心配そうな声を出す。

 いかに武力でなんとでもできるとはいえ、王族相手に粗相をしてしまっては面倒だ。

 などと思っているエリーの内心を露知らず、ツェレンは緩やかに首を振った。


「いえ、その、何かあったということではないのですが……。

 何とも、お似合いだなぁ、と思ってしまいまして。

 イグレット様が旦那様で、エリー様が奥様なのですよね?」


 唐突に投げかけられた発言に、レティとエリーが固まる。

 背後では、必死に爆笑を抑えているドミニクと護衛達がいた。


 そんな二人の内心を知らず、ただひたすらに、ツェレンは憧れの表情で二人を見る。


「あんなにも強力な魔術を使われるエリー様と、見惚れるような剣技をお持ちのイグレット様……。

 見目麗しい見た目ももちろんですれけれども、役割でも互いに補い合う、まさに理想のお二人ではありませんか。

 私、憧れてしまいます」


 にこにこ、何も含むところのない笑顔に、レティは完全に硬直してしまい、何も言えず。

 かたやエリーは。


「そ、そんなそんな、レティさんと私が完璧パーフェクトなふーふだなんて、そんなそんな!

 でもでも、やっぱり、そんな風に見えちゃいます?」


 リミッターを振り切ってしまったのか、にこにこにこにこ、ちょっともじもじもじもじ、普段あれでも抑えていた本音を照れながら嬉しそうに暴露する。


「ええ、とてもとても。

 私、こういう愛の形もあるのだと、目から鱗が落ちる思いでございます」

「そ、そんな、愛の形だなんて、そんなっ!

 で、でもぉ、そうかも知れませんね……なんてっ♪」


 最初の警戒心はどこへやら、すっかり心を許してしまったエリーと、そんなエリーに、嬉し気に応じるツェレンがいた。


そして、それを見ていたレティは困ったように眉を寄せてながらぼやく。


「ねえ、ドミニク」

「なんだい」

「私今、どんな顔をしたらいいのかわからないのだけれど」

「奇遇だね、あたしも同じだよ」


 珍しく。ドミニクも、ため息を吐いた。

閉ざされた扉を開けるには二つある。

鍵を使うか、蹴破るか。

閉ざされた口を開くにもまた同様。


次回:ヒリつくような尋問


蹴破り方も種々雑多。



※派生作品始めました!

「元暗殺者ですが、公爵家令嬢付きのメイドになった結果妙に懐かれてしまって、これはこれでとセカンドライフを楽しんでいます」

下にリンクが出ているはずです!


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