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暗殺少女は魔力人形の夢を見るか  作者: 鰯づくし
1章:暗殺少女は夢をみるか
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その人形、危険につき

「というか……あなた、食事するの……?」


 背負い袋を下ろしながら、不思議そうに尋ねる。

 携帯用の保存食……保存性が良い代わりにやたら硬いパン、栄養価の高いナッツ類などを取り出し、渡した。


「あ、こんなにありがとうございます。

 食事、は……する、と言えば、します。人間のそれとは意味合いが違いますけど……」


 曰く。

 彼女の体内に虚空炉ヴォイド・ジェネレイターと呼ばれる魔導装置がある。

 そこに何か物質を放り込めば、それを想像もできないほどの超高圧で圧縮、消滅させ。

 物質を構成していた魔素が純粋なエネルギー状態で取り出されるので、それを魔力変換して使うのだという。


「……なるほど? よくわからないけど……食べられたらなんでもいい、と」

「口を、喉を通れば一応なんでもいいのはいいです、小石とかでも。

 ただ、見た目がよろしくないのと……なんでか、味覚も付けられてるものですから、できればご遠慮したいんですけど」


 そう応えて、硬いパンをかじって。


「……これもできればご遠慮したい味してますね……」

「それは我慢してもらうしかない、かな……」

「地上に出たら美味しいものいっぱい食べてやるぅ~!!」


 泣きそうになりながらパンに噛り付き、削り取るように食べていく。

 その様子を無言で眺めていたレティはふとつぶやいた。


「……お金、あるの?」


 ぴたり、とエリーは動きを止めて。

 ぎぎぎ……と錆び付いた蝶番のような動きで首をレティへと向けて、泣きそうな声のままで。


「えっとぉ……しゅ、出世払いで……?」

「……まあ、いいけど……私もそんなにお金持ってないからね……?」


 ふぅ、とため息をついた。



「さ、さあ、エネルギー補給完了、いつでも行けます!」


 痛い沈黙を破るかのように声を上げ、エリーは立ち上がる。

 それに合わせるように立ち上がったレティは荷物を纏めなおして。


「……遺体をそのままで行くなんて、とか言わないんだね」

「……あ~……私も従軍したことが何回もありますので……埋葬にどれくらい手間と時間がかかるか良く知っていますから。

 こんな場所だと尚更ですし、この場所はもう、誰もいなくなるし……あちらの方々は、どうやら敵さんのようですし」


 少し不思議そうな声音の問いかけに、苦笑のようなものを浮かべながらもサバサバとした声でそう答える。

 そう、と小さく頷くと、レティはエリーに並び、扉へと向かって歩いていった。


 4体の物言わぬ骸が、それを見送った。



「基本はエリーが前衛。その方が射線が確保できてやりやすいんだね?」

「はい、それに大事なご主人様を前に出して危険に晒すだなんて、できませんっ」

「そ、そう……わかった、じゃあ、それで。

 私は後衛で主に後方と左右の警戒、奇襲の対応、と」


 握った両拳を胸の前で揃えて力説するエリーに、何とも言い難いくすぐったさを感じて視線を逸らす。

 ふんす、と力強い鼻息に、なんでそんな機構がついているんだろう、と場違いな疑問を覚えながら。

 すらり、と小剣を抜き放つと、扉の前に立つ。


 小さく口ずさむ呪文、しばらくの後広がる小さな魔力のさざ波。

 敵探知の魔術。

 扉越しのため精度は低いが、最低限わかりたいことはわかる。

 

 扉のすぐ向こうに敵はいない。

 しかし、開けて10mもしないうちに最初の接敵があるはずだ。

 ……それから、扉を開けてすぐのところに、男の遺体が一つあるはずだ、とも。


 そう告げると、エリーは不思議そうな顔をして。


「そんな地味な魔術、良く覚えようと思いましたね」

「……たまに言われる……あなたの時代でもそうだったんだね……」


 小さくぼやきながら扉の前を譲ると、エリーが入れ替わる。

 す、と表情が真剣なものになり、ちらり、と視線をレティに送る。

 こくり、と頷かれたのを見るや、扉を開き……前に、踏み出した。

 軽く5人は並んで歩けるような広い通路の先、T字の曲がり角。何か大きな影が見える。


「あそこの曲がり角に敵影。あの形は多分アイアンゴーレム」

「了解です!」


 そう応えると……スタスタと無警戒に歩き出す。


「え、ちょっと、エリー?」


 予想外の動きに、慌てて……それでも周囲に警戒しながら後を追う。

 足音に反応したのか、曲がり角の向こうから、予想通りにアイアンゴーレムが顔を出した。

 その形状を認め、うん、と納得したような顔になったエリーが口を開いた。


「マナ・ドール、エリミネイター識別番号739の権限により停止命令を発令。

 至急停止せよ。

 

 ……やっぱり、だめかぁ…」


 ゴーレムに向かって突き出した手が、ブゥン……と小さな音を経て、青白く光る。

 それを受けてゴーレムの頭部が一瞬青く光り……直ぐに点滅する赤い光へと変化した。

 恐らくは、暴走により指示が拒絶されたのだろうことは、レティにもわかった。

 エリーは小さくため息をつくと、また息を吸いこんで。


 その手のひらに、魔力の光が集まっていく。

 十分に集まったところで。


「マナ・ブラスター」


 その言葉が引き金となって。

 手の平に集まった光が爆発的に広がる。

 迸る光がすぐに方向性を持って……荒れ狂う濁流のように暴力的に、アイアンゴーレムへと殺到し……炸裂。


 ゴギィン!!と何か太くて硬いものが折れる金属的な音がした。


 しばらくして光の奔流が収まると……そこには、上半身が消滅した、ゴーレムだったものが崩れ落ちていた。


「……これが…あなたの、力……?」

「はい、これが私の装備の一つ、『マナ・ブラスター』です。

 いかがですか?」


 にこやかな笑顔を見せるエリーに、困ったような顔しか返せない。

 ここまでとは、思わなかった。そう、顔に書いてある。


「まあ、伊達に戦術級は名乗ってないってことです。

 ……それにしても……」


 得意気だった表情が一変し、少し切なげな表情を浮かべると、ゴーレムに近づいていく。

 その表面に、そっと触れて。


「このゴーレム、やはりこの施設の防衛システムのものでした。

 でも、私の命令も受け付けなくなってる……」


 顔を上げ、天井を見て、壁を眺めて……目を細める。


「この天井も、壁も見覚えがあるのに……照明は消えかかってるし、塗装なんてほとんど残ってない。

 ここ、案内が書いてあったんですよ、前は」


 指さされた壁には、魔物が付けたであろう擦過痕はあったが、文字らしいものはなかった。

 それこそ、綺麗さっぱりと。


「……ほんとに、1500年も経っちゃったんですね~……まだ、信じらんないや……」


 ぽつりぽつりとそう言葉を紡ぐ彼女に、かける言葉が見つからない。

 何とも言えない空気の中、しばらく沈黙が流れて……やがて、吹っ切れたような声を出す。


「言ってても仕方ないですよね、どうしようもないんだし。

 それでも私は動いてるんだし、新しいマスターもいるんだし」


 まだ少し、元気はないけれど。

 精いっぱいの笑顔を向けてくる彼女へと、返したのは……困ったような顔で。

 どうにも、表情が上手く動かない。


「……今更だけど、私に付いてきて良かったの?

 私は、皇国の軍人でもなんでもないし……」

「いいんです、ちゃんとシステムに認証されたんですから……それは、私を使っていいということですし。

 もしかしたら、レティさんの血に、昔の人の名残があったのかも知れません」


 そこで一度言葉を切ると、じっと見つめてきて。


「それに、レティさんは良いマスターです、私にはわかります!

 ……わかるんです、ほんとですよ?」


 そうやって微笑みかけてくるエリー。


 ああ、違う、こうじゃない。こんな表情を見せたいわけではないのに。

 どうにも、表情は硬いまま。

 ……いや、どんな表情を見せたい、というのだろう。

 そんなことを思ったことがあっただろうか?


「……なら……そうであるように。

 これからは、私があなたと一緒にいるから……」


 そう言うと、レティはエリーの手をそっと握った。

 少しだけ震えていた手は、レティが握ると震えが止まった。

 ……いや、硬直していた。


「エリー?」

「……はっ!? 

 ……そういう、そういうとこですよレティさんっ

 今までどれだけの女の子を誑かしてきたんですか、酷い人っ!」

「……なんだか凄く理不尽な扱いを受けている気がする……」


 ぼやくレティの手をぎゅっと握り返すと、エリーは満面の笑顔を浮かべて。


「でも、ほら、やっぱりそうだった。

 レティさんは、良いマスターです」

「……そう? よくわからないけど……」


 何となく、視線を合わせられなくて逸らしてしまう。これで、二度目か?

 そんな気持ちになる自分が、不思議でならない。


「じゃあ、わかってもらうためにも、まずはここを抜け出して帰りましょう!」

「う、うん……」


 これではどちらがマスターやら。

 肩を竦めると、歩き出したエリーに続いていった。

ヤバい依頼は切り抜けた。街へと帰り日常が始まる、はずだった。

「いつも」はいつも突然に奪われる


次回:招かれざる客


そして歯車は狂いだす。

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