交易都市コルドバ
ドミニクの妙技に大いに盛り上がった後、休憩も終わりまた旅路に就く。
とはいえ今度はドミニクが戦士たちからひっきりなしに質問責めに遭い、商人達からは更なる称賛と継続的な契約を遠回しに迫られて。
結果として、レティはドミニクのセールストークから解放されることになった。
あるいは、もう必要ないとドミニクが判断したのかも知れないが。
実際のところ、百の言葉よりも雄弁なものを見せられた。
実に的確に、急所を抉られた。
嫌でも自覚させられた。
そんな思考に沈んで、ただでさえ少ない言葉がさらに少なくなったのを、エリーはそっとしておいてくれた。
そこからの旅路は実に順調で、何事もなく目的地へと着いた。
依頼料が無駄になったのでは、と気になったレティへと、商人は笑いながら。
「いやいや、命の恩人への恩返しと思えば安いものです。
何より、ドミニクさんにはいいものを見せていただきましたから。
あ、ドミニクさん、あの剣斬りの話をよそでもしていいですか?」
「あん? ああ、あんなのでよけりゃぁ構わないよ。
なんならあたしの宣伝もしとくれ、もうちょい引退はしないからさ」
「ええもちろん、私の舌と人脈にかけて!」
そんな社交辞令的なやりとり。
お互いに、それが後々色々な影響が出ることになるとは知る由もなく。
ともあれ、彼女達は、ひとまずの目的地へとたどり着いた。
国境都市コルドバ。
バランディア王国に属し、コルドール王国とガシュナート王国とも接する規模の大きな都市だ。
軍事的に重要な拠点であるため長大な防壁に囲まれており、バランディア第二騎士団が常駐もしている。
それでいて交易の要所でもあるため人の行き交いも多く、街は活気に満ち溢れていた。
「本当にお三方にはお世話になりました。
何かありました際には、必ずお力になりましょう!
……ところでこの後はどちらに向かわれるのですか?」
「いえいえ、どういたしまして♪
あ、私たちはコルドール王都へ向かうつもりなんですけど……」
エリーはそう言いながら、ちらり、ドミニクの方を窺う。
そこには、それはもうにんまりと嬉しそうなドミニクがいた。
「なんだいなんだい、やっぱり剣術大会に行くんじゃないのさ。
だったらなおのこと、ちゃんと鍛えておいた方がいいよ、イグレット。
あんたなら一月もあれば見違えるって」
「いや、違う、それとは別件、だから……。
まってエリー、そんな目で見ないで、違う、違うから」
相変わらず無遠慮にレティへと絡んで来るドミニク。
絡まれているレティもろとも冷たい目で見るエリー。
普段の面影などどこにもなくうろたえるレティ。
そんな三人を楽し気に見やりながら、商人は言葉を続けた。
「でしたらちょうどいい。王都へ向けて明日出発する商隊があるのですが、彼らの護衛をお願いできませんか?」
にこやかに。おだやかに。楽し気に。
かつ、抜け目なく。
そんな商人が気に入ったのか、ドミニクはにやりと笑い返して。
「もちろん構わないよ。
で、依頼料はどんくらいもらえるのかね?」
「そうですね、お三方の腕を見込んで、これくらいで……」
「おっと、悪かないが、もう一声欲しいところだねぇ」
「いやいや、ドミニクさんには敵いませんなぁ」
実に和気藹々と和やかに。
それでいて腹の底での計算を隠しながらにじませて。
互いに互いの腹を探る交渉を、明らかに楽しんでいる二人。
それを見ていたレティは、小さくため息を吐いた。
「ドミニク、どうしてあなたが仕切っているの……」
まだ、一緒に行くと決めたわけでもないのに。
そう思わざるを得なかった。
「どうせ王都へは向かうんだろ?
だったら、あたしを師匠にするかどうか今晩じっくり考えて、明日聞かせておくれ」
結局、商人とドミニクの間で決まった依頼料は悪いものではなかったどころか、むしろかなりの好条件であったため、断る理由もなく。
少なくとも護衛としては三人揃ってコルドール王都へ向かうことは確定した。
後は、ドミニクを師匠として受け入れるかどうか。
判断を任せながら、明日商人の店の前で落ち合うことを約束して、馴染みの宿があるとかでドミニクとは一度別れた。
やけに自信たっぷりだったのは、ここまでの流れからすれば当然のことだろう。
ドミニクと別れた二人は、どちらかともなく顔を見合わせて、苦笑する。
「……とりあえず、宿、探しましょうか」
「そうだね……なんだか精神的に疲れたし」
そう言いながら、歩き出した。
夕暮れの迫る街並みは、二人とも初めて見る景色。
なんとなく心細くて、どちらからともなく手をつなぐ。
それだけで満たされて安心してしまうのだから、なんとも現金なものだ。
柄にもないことを思いながら、レティはエリーと見知らぬ街の雑踏を歩く。
比較的ジュラスティンの服装と似たバランディアの民に入り混じる、より動きやすそうな服装のコルドールの民。
馬に乗ることが多い彼らは、それに合わせて服装を変化させたのだという。
また、日差しの強い国土ゆえか、身を守るようにゆったりたっぷりと布を纏ったガシュナートの民も行き交っていて。
感じる異国の情緒に、遠くに来たのだという思いを強くする。
きゅ、とエリーの手を握る。
きゅ、と握り返される。
互いに顔を見合わせて、なんとなく、笑いあう。
どこか居場所のないような気持が、それだけで、なくなる。
ここが自分の居場所であるような気がして、満たされて。
とりとめのないことを話しながら、街を歩いた。
「こことか、良さそうじゃないですか?」
「ん……そう、だね、ここにしようか」
歩いているうちに見つけた宿は、小ぎれいで程よくにぎやかな雰囲気。
受付へと行けば、ちょうど二人部屋が空いているというので迷わずそこを選ぶ。
部屋へと入り、荷物を隅に置いて、ふぅ、と一息つく。
「夕食は、下の酒場でとりましょうか」
「そう、だね……探すのも面倒だし、悪くなさそうだし」
そんなことを言いながら、二人並んでベッドに腰かける。
なんとなく。
なんとなく、また手をつないだ。
「……どうしたんですか?」
「……ううん、なんでも、ない」
言いたいことは色々あった。
ただ、それが上手く言葉にならなくて。
気が付いたら、エリーの手を握っていた。
「ふふ、変なレティさん」
そう言いながら。
エリーは、とても嬉しそうに微笑んだ。
異国の夜。時に不安になり、時に浮かれる、そんな夜。
旅の情緒に欠かせぬと、人は異国の食に舌鼓を打つ。
それは、時に幸せな出会いとなる。
次回:異国情緒との遭遇
時に、知らなかったことを後悔するほどに。
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