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暗殺少女は魔力人形の夢を見るか  作者: 鰯づくし
1章:暗殺少女は夢をみるか
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「魔力人形」と称する少女

 マナ・ドール。


 確かに、彼女はそう言った。

 多少は魔術をかじっている程度のイグレットでも聞いたことはある。


 フレッシュゴーレムと呼ばれる存在がある。

 培養した生体部品などを組み合わせて作られた、生体素材で作られたゴーレム。

 ストーンゴーレムやアイアンゴーレムに比べて体は脆いが、その分動きが俊敏で器用さも高い。

 かつては要人の警護や魔術師のお供によく作られていたと聞く。


 その中でも特異な存在が、マナ・ドールだ。

 膨大な魔力を有し、高い知能でそれを操るその存在は、古代魔法文明時代、戦争を左右することすらあったと言われている。

 それだけにこぞって戦場へ投入され、兵器として消費されて、現存するものは確認されていない。

 

 ……少なくとも公式には。


 目の前の少女は、自らがそれだと名乗ったのだ。

 そして、それを裏付けるかのようなシチュエーションと、何より彼女から感じる魔力。

 本物、と認めるだけの状況証拠は揃っていた。


「……どうかされましたか? レティ様」

「ええと、うん、そうだね……まず……あなたは、何者……?」

「はい、先程も申し上げましたが、戦闘戦術級マナ・ドール、エリミネイター、エリーと申します。

 これから、あなたをマスターとしてお仕えさせていただきます」


 すらすらと、何度も練習したかのような滑らかさでそう告げると、極上の笑みを浮かべ頭を下げる。

 何か眩しい物を見たかのようにイグレットは目を伏せた。


「質問があるのだけど……マナ・ドール、は聞いたことがある、けど……戦闘戦術級、というのは?」

「はい、対個人、対小集団から中規模集団への対応を想定したマナ・ドールです。

 近距離から中距離の制圧・支援射撃を目的として設計されております。

 攻撃装備としては、魔力を集めて直接的にエネルギーを相手に放出するマナ・ブラスター。

 複数の標的相手に照準し、誘導弾を放つマナ・ボルトがございます。

 防御装備としては、中出力の対物理・対魔術フィールドを展開可能。

 私の本体とマスターのお体を守るには十分な防御力を持つかと」

「……良くはわからないけれど、強そうだということは、わかった……。

 エリミネイターというのは、種族名のようなもの?」


 にこやかな笑顔のままエリーは頷いた。


「はい、そのように思っていただければ。

 私たちは用途に合わせて複数種類設計されており、それぞれに名称がつけられております。

 ですので、エリミネイターが正式名称となりますが……もしレティ様さえよければ、エリーと呼んでいただけると嬉しいです」


 打算の一切ない爽やかな笑顔でそう告げるエリーを、どうしていいのかわからない顔でイグレットは見つめる。

 初対面からこんなに親しげにこられた記憶は、今まで一度もない。名前の愛称呼びなど言うまでもなく。

 おまけに、マスター、主人扱いなど……むしろ使われる立場だったのだから。

 そこまで考えて、ふと気になったことを尋ねる。


「……なぜ、私がマスターに?」

「それは、マスターが解除操作を実行し、血液登録をしていただいたからですが……。

 ……もしかして、良くご存じなかったのですか?」

「良く、というか……完全に当てずっぽうだったのだけれど……」

「まあ……そんなことがあるんですね……」


 気まずそうに視線をそらしながらのイグレットに、驚いたようにエリーは目を瞬かせた。

 しばし、考えるような沈黙があり……しかし、またすぐに笑顔になった。


「とはいえ、認められてマスターとして認証、登録されてしまいましたので、今更私ではどうにもできません。

 これからどうかよろしくお願いいたしますね、レティ様!」


 明るい声でそう告げると、お辞儀をしてきた。

 その下げられた頭部を見ながら、イグレットは考えてしまう。


 ……どうしたら、いいんだろう……。


 完全に想定外の事態だった。

 彼女をどうするべきか、など、判断することは難しい。

 しかしふと、グレッグが「お宝をいただいてこい」と言っていたことを思い出した。

 

 ……彼女も、お宝と、言えなくはない。


 むしろ、その能力が本当であればその価値は計り知れないものだ。

 そう結論付けると、少女へと顔を向けた。


「わかったのだけど……一つだけ、いいかな……。

 様付けは、ちょっと……慣れない、から……」


 困ったように眉を寄せ、指で頬をかいた。


 その仕草を見ていたエリーは、しばし硬直する。

 何やら小さくブツブツと言っているところをどうしたのかと覗き込むと、はっと我に返り。


「わ、わかりました、ならば……レティさん、はいかがでしょうか?」

「ん~……まあ、仕方ない、かな……。

 じゃあ、よろしく、エリー」


 そう言って、イグレットは……レティは、右手を差し出した。

 嬉しそうに笑うエリーがその手を握り返した。


 レティは気づいていなかった。

 暗殺稼業の自分が、まるで無警戒に右手を差し出してしまったことを。

 そして、右手を取られたことに、なんの不安も感じなかったことを。


必要のない道のり。必要のない時間。

無駄なだけのはずなのに、どうしてこうも満たされるのか。

初めての感覚に戸惑いながら、切り捨てるにそれはあまりに惜しく。


次回:初めての帰り道


行きはよいよい帰りは怖い。


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