つるはし
マリーアントワネットを追い出した効果は、
すぐに現れた。
城から出て行った時の、
彼女の見た目は、
こんな感じだった。
小麦粉をふんだんに使い、
高く積み上げられた髪型が、
白く輝き、
ウエストを細く見せるために、
巨大に膨らんだスカートが、
空間を占拠する。
これらは皆、
異世界の人々の度肝を抜いたようだ。
これなら、
ドワーフ籠絡も、
早く終わりそう。
ついでに、
ドワーフの里で、
得意技の
頭上の軍艦
を見せれば、
抜群のチンドン屋効果を発揮するだろう。
でも、
この光景に、
最大の衝撃を受けたのは、
出入りの業者達だった。
商人達が、
突然、
動き出したのである。
それまでは、
つるはしをいくら注文しても、
商人達は、
持って来ようとも、
しなかった。
それどころか、
武器や防具を、何とかして売り込もうと、
必死だった。
軍需品は高い。
「それが無ければ、滅んじゃいますよ」
と、
脅されちゃうとねえ。
いくら高額でも、
買うしか無いよね。
利幅を、
かなり多めに設定しても、
仮想敵国をでっちあげれば、大丈夫。
前世で、
ネトウヨ達が一生懸命やっていたことは、
ただの税金の無駄遣い。
必要だ!
必要だ!
と主張すればする程、
その物自体の値段が高くなる。
世の中の、この仕組みに、
ついて行けていない人達が、
ネトウヨになるのだろう。
死の商人ほど儲かるものは無い
のだが、
それを私が頑なに拒んで。
挙げ句の果てに、
開戦の直前になって、
つるはしを手に入れるために、
チンドン屋まで派遣するとは!
さすがの商人達も、呆れたのか?
と思ったが、
内情は、
どうも違うようだ。
私がやらかしてしまったのが、
原因らしい。
私は、
つるはしゴブリンに、
初期設定を極振りした。
その結果、
数千体のつるはしゴブリンを、
所有することになったのだが。
つるはしは、消耗品である。
それを使う魔物が数千いる
ということは、
つるはしは、
もっと要る。
どうも、
商人達は、
つるはしを買い占めていたようなのだ。
私に高く売り付けるつもりで。
でも、
つるはしが、
思うように手に入らない私は、
八交代制を導入してしまった。
人件費を削って利益を増やしたい
資本主義者にとっては、
思いもよらぬ暴挙だ。
そのため、
商人達は、
つるはしを売る好機を、
待っていたのだが。
ドワーフ籠絡隊が出発したことで、
つるはしが、
不良在庫化する危険性が高まった。
ドワーフが作る製品は、
よほど品質が良いのだろう。
商人達が脅威を感じている。
それにも増して、
商人達が恐れているのは、
マリーアントワネットの
宣伝力
だ。
他人に知られることの重要性が、
骨身に染みているからね。
さすがマリーアントワネットだ!
前世では、
政治的な事を、
何一つ、していないのに、
世界中で知られている
だけのことはある。
やはり、
彼女は核兵器と同じだ。
使い方を一度でも間違えば、
国が滅びる。
商人達は、
こぞって、つるはしを持って来た。
そのおかげで、値崩れして。
それでも、
不良在庫を売り抜けたいのだろう。
集まったつるはしの総数は、
一日で、三千を超えた。
この異世界に、
こんなに沢山のつるはしが有るとは!
ただの工事用具だけれども、
これだけの数のつるはしが有れば、
充分に敵と戦える。
もしかして、
真田の親父が、
ドワーフを酒で釣ろう
と言い出したのは、
これが目的だったのか?
あの親父、怖い。
共産主義魔王
滅亡まで、あと一日。




