王道楽土の魔王様
「よくあるファンタジーNAISEIモノを書いてみたいなー」と思いつつ放置していたネタです。
雑なプロットをインタビュー形式で誤魔化していくスタイル。
――まったくどうしてこうなったのやら。私は余生をひとり静かに暮らしていければ、それで良かったというのに。
「またまた御冗談を」
――冗談なものか。私はただ研究が続けたかっただけだ。
「その御研究のために、棄民を拾われたのでは?」
――余計なしがらみがないのは好都合だったからな。
「しかし一度に百人というのは多すぎたのではありませんか?」
――これだけ豊富な検体のある世界だ。できるだけ多く集めようとするのは当然だろう。
「ですが集めた者たちは食わせていかなければなりません」
――当然だ。一生を全うしてもらわねば私の研究に必要なデータは期待できん。
「ですから村を御開拓なされたのでしたね」
――うむ。人里離れた山中にな。
「御勝手に」
――どこぞの国が開拓しているわけでもなし、猟師も分け入らんような場所だ。構わんだろう。
「そうではなかったから、軍を差し向けられることになったのでは?」
――よもや迷い込んできた人間が隣国の偵察兵などとは思わなかったのだ。仕方がなかろう。
「最初は二十人ほどの兵隊が訪れたのでしたね」
――ああ。西の王国に属し税を納めよ、だったか。まあそれくらいなら構わなかったのだが。
「国に属し、納税するなら代官を置かねばなりません」
――条件を詳しく尋ねてみれば、勝手なことを言い出したからな。蹴り出してやった。
「で、争いになった」
――我儘が通らなければ暴力でかたを付けようなどと、まったく野蛮なことだ。
「そこで魔法をお使いになられたのでしたか」
――魔法ではない、魔術だ。この世界の基礎については最初に調査を済ませておいたからな。設計の仕様書内で可能なことをしたに過ぎん。
「ですが山ひとつをまるごと不殺の結界で覆う魔術など、御身の他に誰も実現できてはおりません」
――技術的には可能なのだが。
「魔術の開発には様々なコストがかかるものです」
――とはいえ、その時は条件定義が甘くていろいろと困ったこともあったのだが。
「害虫が大量発生したとか」
――気付くのに遅れてな。報告を受けてすぐに解除したのだが、お陰でその年の収穫は三割減の大打撃だった。まったく我ながら情けないことだ。
「そこで御身の手で農地の開拓を行われて」
――私の失策で損失を出したのだ。補填をする責任があろう。
「なんということでしょう、寂れた山村が一年で大農村に」
――よもや三圃制すら知らないとは思わなかったのだ。
「井戸も御掘りになられて」
――農地が広がればそれだけ水も必要になるのだ。当然だろう。
「その井戸にはもれなく揚水ポンプが」
――山中だからな。どうしても井戸は深くなる。仕方があるまい。
「村民が礼だと言って屋敷を建て替えたとか」
――そんな無駄をする時間があるなら、もっと自分たちのために働けば良かろうに。
「ですが今でもお役に立っているではありませんか」
――おい。私とて折角の好意を無にするほど無粋ではないぞ。
「ですが献上品を展示する博物館をお建てになるのはやりすぎです」
――いや、あれはな。皆が見たいというし、まあ、一つくらい文化的なものがあっても良いだろう。
「今では貴重な文化遺産となっているようですが」
――あれも私の研究のサンプルだ。問題はない。
「そんなことをなさっておられる間に、今度は東の大公国からも使者が来て」
――そうだ。あれらは私に【騎士】として仕えよ、とか言ってきたのだ。この世界の仕様書によれば、騎士の任命権は神々のものとされていたはずなのだがな。
「王権神授、でしたでしょうか」
――まあ歴史を考えれば、そういった変化があるのも当然だったのだ。その時は思い至らず、そやつらも蹴り飛ばしてしまった。
「で、また軍勢が押しかけてきて」
――また来られても面倒だったのでな。麓から中腹まで【迷宮化】の魔術をかけてやった。
「迷い込んだ兵はそのほとんどが帰らぬ人となったと言われております」
――いや、獣の餌になったものもいたそうだが、ほとんどは抜け出てきたぞ。まあ大半がそのままこの村への移住を希望したので帰らなかったのは事実だが。
「そのせいで、村の人間も外へ出ることができなくなったそうですね」
――こちらの村人も、故郷の様子を見てみたい、置いてきた家族や友人を連れて来たいと、色々あったようでな。そのあたりに考えが及ばなかったのは、私の至らぬところだったのだろう。だが元より村の中だけで生活に困るようなことがないはずなのだ。
「生活に困ることがないどころか、凄まじい豊かさだったと聞きますが」
――それは比較対象が悪い。何ぞあればすぐに軍を差し向けるような政を行っていては、豊かな暮らしなどできようはずもない。
「毎年食べきれないほどの食料が収穫されたとか」
――食は生命の根幹だ。活力の源でもあるしな。余裕ができて料理研究が捗ると、新しい作物の種をねだられるようになって少々面倒ではあったが。
「衛生管理、でしたか。それも?」
――当然だ。不潔であればそれだけ命を落としやすくなる。石鹸、トイレ、洗濯板、それから衣類もだな。病死という変数にも興味が無いではなかったが、疫病で全滅するよりマシだろう。
「【魔術刻印】も」
――なんと言っても山の暮らしは危険が多い。こんなところまで連れてきてしまった責任上、自衛する力くらいは持たせておかねばなるまい。
「やりすぎでは?」
――そんなことはない。全て必要なことだった。
「左様で御座いますか。それで、その頃から交易を始められたとか」
――東西どちらともな。まあ互いに立場もある。最初は近隣の村との沈黙交易だったのだが。
「麓の村はその頃の?」
――左様。最初はちいさな掘っ立て小屋を交易所と呼んでいたのが、護衛の宿泊所だの行商人の市だの、あれやこれやでどんどん大きくなっていってな。終いには村になっていた。
「貨幣をお作りになられて」
――作り始めたのはそれよりも随分と前だな。農地開拓をした時に、いくつか鉱床を見つけていたから、研究用に金属を取り出しておいた。だが正味のところ、貴金属にはあまり使い道がなくてな。
「農村ではそうでしょうね」
――最初は鍛冶屋に回してな。金属加工の技術開発にアクセサリーを作らせたりもしたが、大きなものは農作業の邪魔になると言って、あまり広まらなんだ。で、余ってしまったので、気まぐれに村の中だけで流通する通貨として作っておいたのだ。
「交易でその貨幣が求められるようになって」
――最初は冗談のつもりで出したのだが、向こうがやたらと食いついてな。まあ使い道もないし、構わんだろうということで放出したわけだ。農村と国とでは、貴金属の価値も随分と違う。
「【旅する銀貨】でしたか?」
――ああ。どれくらい流通するのか、村の中での貨幣経済の必要性を見ようと思って、定期的にビーコンを打ち出す【魔術】を刻んでおいたのだ。
「貿易摩擦というのは、この頃のことでしたか?」
――そうだな。こちらはあちらが求める作物やら加工品やらを輸出する。通貨もな。だがこちらは必要なものが無い。一方的になっても面倒になると思ってある程度こちらで作っていない作物やら輸入していたのだが、それでもあちらの生産力を圧迫することになったようでな。最終的に輸出過多になった。
「移住希望者も増えたとか」
――外の生活は苦しかったらしい。こちらも外界のサンプルが増えるのは歓迎だったのでな。迎え入れてやった。
「で、またそれで軍を差し向けられたのでしたね」
――納得できる暮らしをさせてやれば、逃げる人間などいないだろうにな。あちらの不備をこちらに押し付けられても、鼻で笑う以外に答えようがあるか。
「村人が自衛のために軍を編制して」
――あれには流石に驚いた。いつの間にそんなことをしていたのやら、気がつけば整列から行進まで見事にこなすようになっていてな。だがまあ戦術研究はろくにできていなかったんで、戦闘となるとゲリラ戦になってしまったようだが。
「一人ひとりが魔術使いの戦士です。随分と恐れられたと聞き及んでおります」
――最初から居た連中の中には騎士格まで刻紋を育てたものも少なくなかったからな。
「そう言えば、何故出撃を御認めになられたので?」
――戦死という変数は滅多に得られない、というのが一番の理由だ。
「村人から嘆願なされたと聞いておりますが」
――ああ、いや。そんなことも、あった、か?
「先日、最長老様が涙ながらに語っておられましたが」
――年寄りの言うことだ。当てにならんだろう。
「左様で御座いますか。ではそういうことにしておきます」
――おい。
「それで、その頃から再び使者が来るようになったのでしたか」
――大使館を置かせて欲しい、とか言われてな。まあこちらの主権を脅かさんのであれば、いちいち戦争というのも面倒だ。交渉の手間も省けるかと認めたのだが。
「両国から来たのですね」
――そうだ。まあ一方の肩を持つのも面倒かと思って両方に許可を出したら、競合し始めてな。村人を誑かしておかしな派閥が出来ていって。
「却って面倒におなりになったと」
――まあ、そういうことだ。
「大使を追放したとか」
――こちらの主権を脅かす侵略行為だ。条約違反だろうといったら随分と騒がしかったが、一部村人の同行を認めたら、最後は納得していたぞ。
「それで村をお分けになって」
――派閥の主要な連中、まあ面倒なスピーカーどもだな。どうせならばと両国の交易村に移住させた。
「魔術刻印を剥いで」
――当然だ。あれは山の暮らしのために与えたもの。山から出るなら必要はあるまい。それでも農業の知恵くらいは持っているはずだ。真面目に働いていたのであれば。
「両国としては思惑を外されたのでしょうね」
――戦ばかりかつまらん謀まで巡らせてな。
「そもそもそのような神業、御身の他には思いもよらぬということを見落とされております」
――他人から奪うことに狂奔している暇があったら、知を磨いて国を富ませることを考えれば良かろう。そんな阿呆な連中を、いちいち相手にしていられるか。
「そうして東西両国を敵に回して現在に至ると」
――そうだ。まったく理不尽極まりない。
「自業自得という言葉を、御存知ですか?」
――無論だ。それは私が教えたことだろう。
「ええ、ええ。それはそれは只今に至るまで、よくよく理解できるように」
つづくない