八話〜卒業生〜
「よし、家の鍵掛け完了っと」
遥が鍵を掛けた事を確認すると、一緒にスーパーに向かって歩く。
「ねえ、お兄ちゃん」
「何? 」
「光先輩の事はまだ好き? 」
遥がそう言って光ちゃんの事を聞いて来た。
勿論まだ好きだ。 光ちゃんから別れの理由を聞いたとしてもずっと好きだと思う。
僕には彼女しか居ないのだから。
「うん、何時迄もずっと好きだよ」
何が有っても決して変わらない気持ちを遥に伝えた。
「了解だよ。 それを聞いて安心したよ」
そう言って満面の笑顔になる遥。
「どうして? 」
僕は気になって理由を聞いてみたけど、 まだ秘密だよと言われてしまった。
きっと遥なりの考えが有るのだろう。 僕は気にせずに分かったよと返事をした。
遥とその後も色々と会話をしながら歩いて行くと、スーパーの看板が見えた。
スーパー丸黒と書かれている。
僕達は幼い頃から此処のスーパーに買い物に来ているのですっかり見慣れた風景だ。
「ショッピングカート持って来たよ」
いつの間にか遥が買い物の準備をしてくれていた。
「有難う」
「えへへ、どう致しまして」
お礼を言いスーパーの中に入る。
「お兄ちゃん、何か食べたい物は有る? 」
「鳥の唐揚げが食べたいな」
「了解だよ」
遥はそう言うと精肉売り場へ向かう。
僕も遥の後を追う。
が、その途中に見覚えの有る人を見つけた。
僕はその人物に話し掛けた。
「寒川先輩、お久し振りです」
「……あ……翔……。久し振り……」
僕が話し掛けた人は寒川麗奈先輩。
今年の黒ヶ原高校の卒業生で元野球部のマネージャーだった先輩だ。
確か進路は大学に進学した筈。
「こんな所でお会い出来るなんて奇遇ですね」
「……うん……。今日はたまたま……遠くへ買い物に行こうと思ったから……」
「そうなんですね。 僕は小さい頃からよく此処に買い物に来てますよ」
「……翔……家近いの……? 」
「はい。 近いと言っても少し歩きますが」
「……そう……」
寒川先輩が心なしか微笑んだ様に見えた。
先輩にはミステリアスな雰囲気が有る。
クールであまり喋らない性格の為、先輩の友達や他人からよく誤解されると昔、先輩から聞いた事が有る。
「……翔……今……スマホ持ってる……? 」
「はい。 持ってますよ」
「……Seinは……やってる……? 」
先輩がSeinをインストールしているか聞いて来た。
Seinと言うのはコミュニケーションアプリだ。
無料でメールをしたり、通話をする事が出来る。
「はい。 やってますよ」
僕がそう言うと先輩は笑顔になった。
「……そう……。一緒に……色々な事を話したい……」
「……だから……私と友達になって欲しい……」
先輩は顔を赤くしながら僕にそう言った。
「良いですよ。 そんな事言わなくても先輩はもうとっくの昔に僕の友達ですよ」
僕は先輩にそう言った。
「……翔……有難う……。……とても嬉しい……」
「喜んで下さって僕も嬉しいです」
「……ふふ……良かった……。これ……私のQRコードだから……」
先輩はそう言って僕に友達追加用のQRコードを送った。
「了解です。 後で追加しておきますね」
「……うん……。待ってるから……。 ……翔……またね……」
「はい。 ではまた」
僕は笑顔で先輩と別れて、急いで遥を追いかけた。




