四十八話〜紗雪の迷い〜
5月8日(火)部活終了後
「今日も一日疲れたね」
僕は隣に居た長野に話し掛ける。
「はい。でも楽しいですよね」
「だね。練習はキツいけど慣れて来ると段々上手くなって行く気がするよ」
「ですね。努力は決して裏切らないですからね」
長野が笑顔で答える。
長野の言う通りだ。
何事も始めた頃は誰だって出来ない物だ。
何度も失敗を繰り返して行ってやがて成功する。
やれば必ず出来るのだから。
「星野先輩!」
この明るい声は白山さんだな。
僕は後ろを振り向いた。
白山さんは走りながら、僕と長野が居る方向にやって来た。
「白山、今日もマネージャーの仕事お疲れ様」
長野が白山さんにそう言った。
「有難う。長野君も練習お疲れ様。星野先輩と話したいんだけど良いかな? 」
「良いぜ。星野先輩、お先に失礼します」
長野はそう言うと僕に深々と頭を下げた。
「長野、お疲れ様。また明日ね」
「はい! さようなら! 白山もじゃあな! 」
「うん、長野君。また明日ね」
長野は走って去って行った。
「白山さん、何か悩み事? 」
僕がそう言うと彼女は少し困った顔をした。
「はい……。少し相談に乗って頂きたくて……」
「良いよ。どうしたの? 」
「有難う御座います。実は私……ソフトボールに未練が有るんです」
「中学時代はソフトボール部だったんだよね? 」
「はい……。どうしても諦められなくて……」
「そうなんだ……。今でも練習はしてるの? 」
今にも泣き出してしまいそうな表情の白山さん。
「今は……辞めちゃいました……」
「そっか……」
「高校を卒業したら、ソフトボール部の有る大学に行きたいなと思っているのですが……」
白山さんの表情が少し明るくなる。
「偉いね。もう大学に行くって決めてるんだ」
僕がそう言うと、彼女は照れ臭そうに笑った。
「はい。将来はプロになりたいんです」
「成る程、白山さんは凄い夢を持ってるんだね」
「えへへ……。星野先輩はプロ野球選手を目指しているのですか? 」
「なれたら良いなとは思ってるけど難しいからね。僕なんかのレベルじゃスカウトに注目されないし」
僕のウィークポイントは長打力が無い事だ。
「そんな事無いです! 星野先輩は打って走れて守れるじゃないですか! それに引き替え私なんて……」
駄目だ。また白山さんの表情が暗くなってしまう。
「夢が有るなら決して諦めちゃ駄目だよ。努力すれば報われるんだから頑張ろう」
「そうですよね……。私、頑張ります! 」
明るい表情になった白山さん。
良かった。
「その意気だよ。僕もプロを目指すからお互いに頑張ろう」
「はい! 星野先輩、有難う御座いました! 」
「どう致しまして。お疲れ様、また明日ね」
「お疲れ様です! さようなら! 」
白山さんはそう言うと、自転車置き場に向かって行った。




