四十話〜少女の決意〜
紗雪視点です
「っ……」
私は今泣きながら自転車を漕いでいる。
泣いている理由は、密かに好意を寄せていた星野先輩に彼女が居たからだ。
小学二年生の頃からソフトボール一筋だった為、男の人を好きになったりした事は今まで無かった。
ソフトボールが私の恋人だった様な物だ。
「うぅ……。星野先輩……」
涙が止まらない。
視界が悪くなる為必死で涙を拭う。
「人とか車が来るから泣くの止めなきゃ……」
ゆっくりと自転車を漕ぎながら少しずつ進んで行く。
あの時、光先輩は直ぐに私が星野先輩を好きだと言う事を見抜いた。
恐らく人一倍察しが良い人なのだろう。
「星野先輩の優しさに思わず一目惚れしちゃったけど……最初から私なんかが好きになって良い人じゃなかったんだな……」
暗い気持ちになりながら帰宅をする。
長野君が朝乃宮中に居た事も気掛かりだ。
大嫌いなあの人と接点が有ったかも知れない……。
「野球部のマネージャー辞めようかな……」
家の前の自転車置き場に自転車を止め、鍵を掛けて玄関のドアを開けた。
「紗雪、お帰り」
ママが笑顔で出迎えてくれたけど、私は下を向いたまま何も言わずに歩いた。
「どうしたの? 紗雪。学校で嫌な事でも有った? 」
「別に……ママには関係無いよ」
無視しながら自分の部屋のドアを開ける。
「ちょっと……紗雪! 理由を話して頂戴! 」
ママが私の肩を掴む。
「五月蝿い! 触らないでよ! 」
私はママの手を撥ね除ける。
ああ……。私は最低な娘だ。
ママに当たり散らしちゃダメなのについつい当たってしまう。
「紗雪……何が有ったの? 」
ママが私の頭を撫でながら抱擁をしてそう聞いて来る。
「あぁ……うぅ……ママ……」
また涙が溢れて来る。
「ママに話してみて? 」
「好きな人が出来てね……。でもその人には彼女が居たの……」
「あら……そうだったのね…… 」
優しく話を聞いてくれるママ。
私はあの時の出来事を話した。
「それは残念だったわね……。でもその男の子に嫌われちゃった訳じゃ無いでしょ? 」
「うん……。でもね……。先輩の彼女さんがとても怖かった……」
光先輩の目……。全てを吸い込む様な生気の無い目……。
突然思い出してしまい、恐怖のあまり抱き付いてしまう。
「どうしてもその男の子が欲しいなら無理矢理奪っちゃいなさいって言ってあげたいけど、紗雪はお利口さんな子だからそんな事しないし……」
「うん……。もう良い……。片思いのままで居る」
星野先輩と一緒に同じ時間を過ごせるだけで良い。
私はもう、そう決めた。
「そっか……」
ママは一瞬悲しそうな表情をしたけど直ぐに笑顔になった。
「野球部のマネージャーとして、星野先輩のそばに居られるだけでも私は幸せだから……ママ、話を聞いてくれて有難う」
「お安い御用よ。どう致しまして」
あの人の事はいつか長野君に聞く事にする。
ママのお陰ですっかり元気になった私は自分の部屋へ向かった。




