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三十二話〜麗奈の罠〜

 


 「……翔……少し待ってて……」


 ドアの前に立った先輩はそう言った。


 何か用事なのだろうか。


 「了解です」


 ガチャッ……バタン


 先輩はドアを閉めて玄関を降りて行く。



 僕はふと先輩の机を見た。


 「あ……」


 僕が去年先輩の誕生日にプレゼントした猫の置き時計が置いてあった。


 「大切に使ってくれてるんだな」


 タイマーをセットした時間になると猫の鳴き声が流れるといった物だ。


 「あの時はとても喜んでくれたっけ」


 僕が思い出を懐かしんでいると、扉が開く音がした。



 「……どうしたの……? 」


 後ろを振り向くと、お盆にコップと獅子神ドリンクを乗せた先輩が立っていた。


 「僕がプレゼントした時計使ってくれてるんですね」


 「……うん……。……私の為にプレゼントしてくれたから……」


 微笑む先輩。


 「とても嬉しいです。有難う御座います」


 「……私の方こそ有難う……。……翔が買ってくれたドリンク……一緒に飲もう……? 」


 「良いんですか? 」


 「……うん……。翔と一緒に飲むって決めてたから……」


 先輩は缶のプルタブを開けて、コップに獅子神ドリンクを注ぐ。


 「そうだったんですね」


 「……これで半分こ……」


 先輩がコップを僕に渡す。


 「すみません。頂きます」


 僕は獅子神ドリンクを飲む。


 ゴクゴク……


 美味しい。飲み慣れたいつもの味だ。


 「……味はどんな感じ……? 」


 「少し酸味が有りますけど、甘さも有るのでエナジードリンクでは飲みやすい方だと思います」


 「……そう……。……私は初めて飲むから……」


 先輩もドリンクを飲む。


 「……ん……炭酸飲料みたいな感じがする……」


 「炭酸が入っていないのも有りますよ。これには入ってますが」


 「……成る程……。……私はちょっと苦手かも……」


 先輩は少し困った様な顔をした。


 「先輩って炭酸嫌いでしたっけ? 」


 確かサイダーとか飲んでた様な記憶が有るけど……。


 「……嫌いじゃないけど……エナジードリンクは何とも言えない味がする……」


 「そ……そうですか……。確かに飲みにくいですからね」


 アルギニン等の色々な成分が入っているので、正直言うとコーラとかの様に美味しくはない。


 やる気を出したい時に飲む物だ。飲み過ぎは身体に毒である。


 「……捨てるのは勿体無いから飲んで……? 」


 「あ、はい……。了解です」


 僕は缶からコップにドリンクを注ごうとする。


 「……待って……」


 先輩に呼び止められる。


 「どうしました? 」


 「……そのまま飲んで……? 」


 先輩は悪戯っぽい笑みを浮かべた。


 「そ…それって缶に口を付けて飲めって事ですか? 」


 僕はドキドキしながら聞く。


 「……うん……」


 「間接キスって事ですよね……? 」


 「ふふっ……。そうなるね……」


 先輩はニコニコしながら僕の問いにそう答える。


 「どうしてもやらなきゃ駄目ですか? 」


 「……翔が嫌ならしてくれなくても良い……」


 先輩がゆっくりと抱き付いて来る。


 所謂(いわゆる)色仕掛けと言うやつだ。


 「先輩……当たってますって……」


 「……別に……翔になら良い……」


 先輩が照れながら小声で呟く。


 「え? 」


 「……何でもない……。……やらないとぎゅ〜って抱き締めるから……」


 理性がヤバい。


 「わ……分かりました……。飲みます」


 光ちゃん……ごめん!


 僕は缶を手に持ち、獅子神ドリンクを飲み干す。


 「……ふふ……有難う……。……これで翔との大切な思い出がまた一つ増えた……」


 先輩はそう言うと僕から離れる。


 「ど……どう致しましてです……」


 嗚呼……色々と大事な物を失った気がする……。


 僕は心の中で泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

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