二十九話〜先輩の尋問と過去〜
「先輩……何だか怖いです」
「……嘘を吐かなかったら早く終わる……」
先輩はまるで刑事の取り調べの様な事を言う。
恐らく僕を取って食うつもりなのだろう……。
「嘘なんて吐きませんよ……」
「……分かった……」
僕は怯えながら先輩の質問を待った。
「……遥には……彼氏は居ないの……? 」
「はい……? 」
僕は驚きながらそう言った。
何故なら僕の事について質問されると思ったからだ。
「……何で鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をしているの……? 」
先輩もきょとんとした顔をしている。
「い……いえ……、てっきり僕の事かと……」
「……翔の事はスーパーで会った時に聞いた……」
「そう言われてみればそうでしたね」
僕はホッとした。
「……うん……。それで……どうなの……? 」
「遥には彼氏は居ませんよ。中一の頃に一回だけ二年の先輩に告白されたみたいですけど、軽い感じがしたから振っちゃったって言ってました」
「……そう……」
先輩はとても残念そうな顔をした。
「どうしたんですか? 」
「……遥は明るくてとても良い娘なのに……男子達は見る目が無い……」
先輩も僕と同じ事を思っていたのか……。
「ですよね……」
「……うん……。……鳳君はどうなの……? 」
「昇は彼女を作る気は無いみたいです。理由は部活に集中出来なくなるかららしいです」
「……それは残念……」
先輩は深く溜息を吐きながら、用意していた紅茶を啜った。
「……答えてくれて有難う……。尋問は終了……」
「どう致しましてです」
意外とあっさり終わったな。
「……翔……」
急に真剣な表情になる先輩。
「……話しておきたい事が有る……。この事は……私の友達にも話した事が無い……」
「僕で良ければお聞きしますよ」
「……有難う……。私の過去の事なんだけど……」
先輩の過去……一体どんな事が有ったのだろうか。
「はい」
「……私がお父さんと二人暮らしなのは知ってると思うけど……お母さんは私がまだ小さい頃に交通事故に遭って……死んじゃった……」
「そうだったんですか……」
「……うん……。……私が先に横断歩道を走って渡って……お母さんが私の後を歩いてたら……急に青信号を無視した車が物凄いスピードでお母さんを目掛けて突っ込んで来て……」
先輩の声が震えている。
「犯人は最低ですね……。逮捕はされたんですか? 」
犯人に対して怒りがこみ上げて来る。
「……うん……。……お母さんを撥ねた後……直ぐに車から降りて……警察を呼んで……自首した……。お母さんは……即死だった……」
「そんな……」
驚き過ぎて言葉が出て来ない。
「……犯人の女性は私に何度も泣きながら謝ってた……。謝ってもお母さんは戻って来ない……」
「謝れば済む事じゃないですからね……。命を奪ってますから……」
遺族の人の事を考えない人間が犯罪を起こすのだ。
「……うん……。……犯人は実刑を受けて慰謝料を払ったけど……私とお父さんは慰謝料なんて要らなかった……。……絶対に許せないから……」
先輩が泣きながら僕を見る。
「先輩……」
「……ねぇ……翔……私が悪いのかな……? ……私が横断歩道を先に渡ったりしなかったら……お母さんは……死なずに済んだのかな……? 」
「先輩は何も悪くないですよ……。軽い気持ちで運転して先輩のお母さんの命を奪った犯人が完全に悪いです」
「……翔……うぅ……有難う……」
そう言うと先輩は僕に優しく抱き付いた。
「僕が付いてますからね」
僕が先輩の為に何かしてあげられるのなら答えてあげよう。
そう思いながら先輩を慰めた。




