一話〜高三になって初めての朝〜
4月9日(月)7時30分
「ん……」
眠っている僕の体に、柔らかな朝の日差しが当たる。
「学校に行きたくないな……」
そう言って僕は起きた。
何故学校に行きたくないかと言うと、同じクラスで元カノの蒼井光ちゃんと会ってしまうからである。
「光ちゃん……」
僕はそう呟くと、家族の居るリビングへ向かった。
「あっ、お兄ちゃんおはよう! 」
妹の遥が僕に挨拶をする。
「遥、おはよう。 父さんもおはよう」
僕は遥と椅子に座って新聞を読んでいた父さんに、挨拶をした。
「ああ、翔おはよう」
僕の家族は、同じ高校に通う二年生の妹の遥と父さんの二人だけだ。
母さんは、まだ僕と遥が小さい頃に他の男と不倫をして逃げた。
母さんに対しては、憎いと言う感情しかない。
一途だった父さんを裏切ったし、僕と遥を捨てて出て行ったからだ。
男手一つで僕と遥を育ててくれた父さんを、僕は尊敬している。
きっと遥も僕と同じ気持ちだろう。
僕はオーブントースターで焼かれた食パンに、苺ジャムを塗って食べた。
食パンの丁度良い焦げ目のほろ苦さと、ジャムのしつこ過ぎない甘さが心地良くて美味しい。
「やっぱり遥の焼く食パンは美味しいね」
「だな。 いつ嫁に行っても恥ずかしくない」
僕と父さんは遥を褒めた。
「も〜……二人とも私を褒めても何も出ないよ〜」
遥が恥ずかしそうに照れる。
「ご馳走様でした」
僕は朝食を食べ終わると歯磨きをして鞄を持ち、既に登校する準備をしていた遥と一緒に家を出ようとした。
「お前達、待ってくれ。 父さんも出るぞ」
僕と遥の背後から、父さんの声が聞こえた。
出勤用の鞄と車のキーを手に持っている。
父さんが外に出ると、遥が家の鍵を掛けた。
「お父さん。行って来ます」
「ああ、父さんも行って来るよ。 二人とも今日から新学期だけど頑張れよ」
「うん、有難う」
僕達は父さんにそうお礼を言い、出発するのを見送って学校に向かった。




