十話〜罠〜
「私、光先輩の事嫌い」
怒りながらショッピングカートを押す遥がそう言った。
「流石にあの発言はね……」
「一方的に物を言い過ぎだよね」
「うん。酷い言い掛かりだったね」
光ちゃんは僕の事をカケちゃんって呼んでくれてたし、僕が光ちゃんって呼んでも怒らなかったな……。
僕はそんな事を思いながら買い物カゴの中を見た。
鶏肉やサラダ油、遥の好きなジュース等が入っていた。
「唐揚げの材料はもう買い物カゴに入れたんだね」
「そうだね。後は他に買いたい物を入れるだけだよ。 何か欲しい物が有ったら入れて良いよ」
「有難う」
僕はそう言うとジュース売り場に向かった。
「獅子神ドリンクは無いかな……」
獅子神ドリンクとはエナジードリンクの一種だ。
使用されている原材料等は他に発売されているエナジードリンクとほぼ変わらないのだが、カッコいいラベルが気に入ったのだ。
赤いラベルの色で獲物に食らい付いているオスのライオンの姿が印刷されている。
派手なパッケージの為、沢山有るドリンクの中から見つけるのは簡単だ。
僕は獅子神ドリンクを探し始めた。
しかし……。
「マジか……」
僕は愕然とした。
獅子神ドリンクが置かれていたであろう場所が売り切れになっていたのだ。
獅子神ドリンク 税込208円
そう書かれた値札のみがそこに有った。
「何で今日に限って売り切れてるんだ……」
僕はショックを受け立ち尽くした。
「……どうしたの……? 」
僕は声がした方を見る。
そこには寒川先輩が居た。
「先輩……」
「……落ち込んでるけど……大丈夫……? 」
先輩が心配そうに言う。
「大丈夫じゃないです……。 僕の好きなドリンクが……」
「……そのドリンクって……これ……? 」
先輩は自身の買い物カゴから獅子神ドリンクを取り出して僕に見せる。
ふと先輩の買い物カゴの中を見ると、全部で五本の獅子神ドリンクが見えた。
「そ、それです! 」
「……欲しい……? 」
「はい! 欲しいです! あれ……? でもどうして先輩が僕の好きなドリンクを知ってるんですか? 」
先輩がまだ在校中だった頃には教えてない筈だけど……。
「……遥が……私に教えてくれた……」
「成る程です。 先輩は遥と仲が良かったですからね」
遥と先輩は一年前の夏に、野球部の予選大会で吹奏楽部が演奏の応援に行った時に偶然知り合ったのだ。
「………うん………。翔………。これから私がする質問に全部正直に答えて欲しい………。答えてくれたら………このドリンクを分けてあげる……」
「はい。 良いですよ。」
仕方が無い。 獅子神ドリンクをゲットする為だ。
「………もし嘘を付いたら………お仕置きするから………」
先輩がニコッと微笑んだ。
お仕置きって一体何をされるんだろうか……。先輩の笑顔が怖い。
「り……了解です」
「………一つ目の質問………。さっきの言い争いは何だったの……? 」
「それはお菓子売り場での出来事ですか? 」
「………それ以外に何が有るの………? 」
少し不機嫌になる先輩。
「で、ですよね……。 すみません」
「………私は遠くから見てて会話がよく聞こえなかったから………謝らなくて良い………。早く答えて………」
「遥と光ちゃんが僕の事で喧嘩して僕が止めに行ったら、光ちゃんに遥とは妹以上の関係だったんだねって言われまして……」
「成る程……。二つ目の質問……実際はどうなの……? 」
「妹以上の関係になる事は絶対に有り得ません」
「……ん……分かった……」
「……三つ目の質問……蒼井さんとは……仲良くないの……? 」
「光ちゃんとは春休み中に別れました。 理由を聞いたんですが、話してくれませんでした。光ちゃんから話せる時期が来たら話すとは言われましたが……」
「……そう……」
「はい……」
「最後の質問……。今付き合ってる人は居るの……? 」
「居ませんよ」
「……答えてくれて有難う……。質問は終わり……」
「いえいえ、じゃあ獅子神ドリンクを……」
「……どうぞ……。要るだけあげる……」
「え? 」
「……質問する為に……有るだけ全部買い物カゴに入れたから……」
「あはは……。そうだったんですか」
誘き寄せ作戦か……先輩には一杯食わされたな……。
「……うん……」
「じゃあ僕は二本で良いですよ」
何故二本かと言うと、僕と遥の分だ。
幾ら好きな物とは言え、流石に五本も要らない。
「……? 」
不思議そうな顔をして首を傾げる先輩。
可愛い……。
「先輩は獅子神ドリンクを飲んだ事は有りますか? 」
「……ない……」
「じゃあ買って飲んでみて下さい」
「……私が買うのはイヤ……。翔が奢って……」
先輩が僕を涙目で見る。
「わ、分かりました。 僕が奢ります」
「……翔……有難う……」
先輩が僕に抱き付いた。
「せ……先輩! 」
先輩の豊満な胸が僕の体に触れる。
「……ご褒美……」
「う……幾ら何でも抱き付くのはマズいですって……」
僕は先輩から体を離した。
「………翔は………イヤだった……? 」
嫌ではなかった。 正直柔らかくて最高だった……。って僕は何を考えているんだ!
「時と場所を考えて下さい……。 それにもし遥が見てたら……」
僕は先輩を極力傷付けない様にそう言い、恐る恐る周りを見た。
アイスクリームのコーナーに居た遥が僕達を見て赤面していた。
「遅かった……」
僕は泣きながらスーパーの床に膝から崩れ落ちた。
読んで下さる皆様のお陰で10話まで執筆する事が出来ました(^_^)
有難う御座いますm(_ _)m
エタらずに続けて行きます!




