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人肉嗜好症  作者: 京介
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6.獲物

 私は歩き続けながら、考え続けた。

 獲物は二人。取り逃がすようなことがあってはならない。私は運動神経には自信がある。何とかなるとは思っていたが、殺し損ねることは私自身の破滅を意味する。

 慎重にいかなければならない。

 胃袋が食べたものをきちんと消化し始めているのか、気分はかなり良くなっていた。まだ少し身体がふらつくことはあるのだが、これなら隙をついて人を殺すくらいは何とかなりそうだった。

 その獲物の二人はというと、なにやら後ろでごちゃごちゃ話をしていた。話題はどうも探している少女についてらしいのだが、少し距離があるので具体的な内容がはっきりと分からなかった。連続殺人鬼という単語が出た時は冷や汗が出たが、私がその殺人鬼であることは、ばれていないはずだ。もしばれていたら、あんなに無警戒に私についてくるなど考えられない。

 家にたどり着くあいだ、私は頭の中で二人を殺すイメージトレーニングを繰り返した。殺すとしたら一人ずつの方が確実だろう。となると一時的にでも二人を引き離す必要がある。さてどうするべきか。

 しかし初対面の人間をうまくコントロールする術を私は持たない。仕方がない、なるようになるさと私は開き直った。

 今までうまくいってきたのだ。これからだってきっとうまくいく。

 私は浅く深呼吸をすると歩みを止めた。

 家に着いた。

 私は振り返った。二人は振り返った私に気が付いて立ち止まる。

「着きましたよ、ここが私の家です」

「さびしいところですね」

 女が言った。たしか灰谷という名前だったと思う。

「失礼ですよ!」

 慌てた様子で咎めたのは、たしか……苗字を忘れてしまった。下の名前は純と言ったはずだ。

「静かでいいじゃない」

「ええ、静かでいいところですよ」

 私は答えた。実際、ここは良いところだった。ちょっとやそっと叫び声を上げられても、聞かれる心配もない。私は頑張って笑顔を作った。

「さあ、どうぞ」と言いながらドアを開けた。

 しかし、ここで純が思わぬ行動にでた。

「僕はやっぱりいいです。外で待ってます」

「え? どうしたの純」

 灰谷が驚いたように言った。私もかなり動揺したが、顔に出さないように気を付ける。

「どうかされましたか?」

「いや、なんでもないんです。ちょっと周囲を散歩したいなと思って」

 純は辺りを見回しながら言った。どうも挙動が不自然だった。

 警戒されているのか? と私は考えた。だとすると意外と勘が良い。

 とはいえ、私をそこまで危険視はしてないはずだ。もしそうなら、この灰谷という女が私の家に入ることも止めるはずだからだ。自分だけ入りたがらないのは、おそらく理由は分からないがなにか危険なものを嗅ぎ取っているということなのだろう。

 本能的なものなのかもしれない。仕留めるのが大変そうだ。

 それ引き換え灰谷と言う女の警戒心の無さはどうだろう。「あっそう? じゃあ、ちょっと待ってて」などと言いながら私を置いてさっさと玄関に上がり、靴を脱ぎ始めている。警戒心のかけらもない。

 先に家に上がられて死体を見つけられでもしたら大変なので、私も急いで家に入る。純が困ったような表情で外に立っていたが、気にしている余裕はなかった。

 まずはこの女からだ。

「さあ、こちらへどうぞ」

 女を先導する。勝手にふらふらされて死体でも見つけられたらたまらない。私は女をリビングに案内し、テーブルに座らせた。

「ちょっと待っていて下さいね。いま持ってきますから」

 私は台所に移動すると包丁を手に取った。後ろ手に隠してリビングに戻る。女は大人しく座っている。私は女の背後に移動した。包丁を振りかざす。

「あっ、ありましたか?」

 私の気配に気が付いた女が振り返った。その顔が驚愕に歪む。その歪められた顔に向かって、私は包丁を振り下ろした。

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