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人肉嗜好症  作者: 京介
5/8

5.棲家

 僕と真理亜さんは、公園で出会った男の案内で、彼の家へと向かっていた。男は津田村と名乗った。

 津田村の少し後ろを歩きながら、真理亜さんが僕を見る。

「でも、手帳を拾った人に出会えるなんてラッキーだったわね」

「そうですね。手帳になにかヒントがあるかもしれませんし」

 それにしても……と僕は続けた。

「手帳が公園で見つかったということは、青崎さんはやはり事件に巻き込まれてしまったんでしょうか」

「どうだろうね。私が考えていたよりは、その可能性はあるかもしれないって思い始めたところよ。昨日の夜から行方が分からなくなっていて、なおかつ通学路の途中にあった公園に手帳が落ちていたんだもの。事件性があるんじゃないかって、どうしても考えちゃうわ」

 仮に青崎塔子が事件に巻き込まれていたとして、僕たちにできることはあるだろうか。

 手帳を確認してそれが塔子さんのものだったら、真理亜さんはどうするだろう。事件性はともかく、他人の手帳を拾ったのだから、本来であれば警察に届けるのが正しいのかもしれない。たぶん真理亜さんは手帳の中を確認してから青崎景子さんに連絡を取り、一緒に警察に事情を説明しに行くのだろうと予想した。真理亜さんはそのあたりは意外と常識人だ。

 でも塔子さんが殺人鬼にさらわれたのならば、今も生きている可能性は低い。

 今まで犠牲になった少女たちは行方不明になってすぐに遺体で見つかっていた。

「まあ、まずはその手帳を確認してみないと分からないけれどね。本当に手帳が本人のものなのかも分からないし。全てはそこから」

「……そうですね」

「それで、もし手帳が塔子ちゃんのものだとしたら、彼女は昨日、あの公園に立ち寄っているのは間違いないわね。本当は昨日落としたとは限らないけれど、まあ大した問題ではないわ」

「手帳を落としたということは、そこで犯人ともみ合いになったとか?」

「塔子ちゃんの身に何かあったのなら、あの公園でしょうね」

 それはそうなのだろう。

 しかし、どうにも腑に落ちない。僕の中に、何かもやもやとした感情が生まれている。違和感が消えない。何かが決定的におかしい気がしていた。喉に小さな魚の小骨が引っかかっていて、気になって仕方がないような、なんとも言えない気持ちがする。

 しかし、いくら考えても違和感の正体を掴むことができない。姿を現しかけたと思った瞬間、すぐに引っ込んでしまう。

「手帳だけ落としますかね。普通はカバンごと落としたりするものではないですか」

「カバンごと落とすよりは手帳だけ落とるほうがあり得るでしょうね。カバンは大きいから、落としたりしても、たぶん犯人が気付いて持って行ってしまうはず」

「たしかにそうですね」

 塔子さんは犯人ともみ合いになり、手帳を落としてしまった。そして犯人はそのことに気が付かずに、塔子さんを連れて逃げた。

 話の筋としては、こんなところだろうか。

 犯人はやはり男だろうか。女の可能性もあるが、やはり人を誘拐するのならば体格的には男の方が犯人像にはしっくりくる。

「真理亜さんは、犯人はどんな奴だと思います? 連続殺人事件の犯人についてですけど」

「そうねえ。あまりピンとこないけど、あの公園の半径三〇キロメートルくらいに住んでるのは間違いないでしょうね。この辺りをホームグラウンドにしてるみたいだし」

 まあ私たちには関係ない話よ、と真理亜さんはそっけなく言った。連続殺人事件については、あまり関心は無いようだった。

 僕たちの仕事はあくまで失踪した青崎塔子さんを探し出すことだ。そちらに集中しなければならない。

 僕は少し先を歩いている男を見た。先ほどは気分が悪そうにしていたが今は大丈夫そうだ。ただ、ときどき身体をふらつかせるので少々危なっかしい。

 津田村さんは立ち止まるとこちらを振り返った。

「着きましたよ、ここが私の家です」

 男の家は古い一軒家だった。いつの間にか、住宅地を抜けてしまっていた。周囲に家はほとんどなく、静かなところだった。

「さびしいところですね」

 真理亜さんが言った。

「失礼ですよ!」

 と僕は小声でたしなめたが、真理亜さんは何がいけないのか理解できないという顔をしている。

「静かでいいじゃない」

「ええ、静かでいいところですよ」

 津田村さんが笑顔で言った。彼が気にしている様子がないので、少し安心した。

「さあ、どうぞ」

 ドアを開け、津田村さんが言った。

 なぜだか僕は、背筋が寒くなった。理由は分からない。

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