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人肉嗜好症  作者: 京介
2/8

2.四人目の被害者

 私は目を覚ました。見慣れた天井が視界に広がる。

 ゆっくりと身を起こすと時計を確認した。午前六時。身体の節々が痛んだ。昨日は少し無茶をしてしまったのかもしれない。まさかあれほど抵抗されるとは、正直なところ、考えていなかった。

 私は部屋を出て階段を降りる。一階にある浴室に目的のものがあった。

 浴室からはうめき声が聞こえた。私の気配を察したのかもしれない。

 浴室のドアを開け、中に入る。

 一人の少女が浴槽に横たわっていた。意識が朦朧としているようだったが、私の顔を見ると顔が恐怖に歪んだ。

 この少女は昨晩つかまえた。学校帰りだったのだろう、制服姿の彼女を車に押し込んでそのまま家に運んだ。彼女は散々、抵抗した。そのせいで私は顔に傷を負ってしまった。消毒はしたが、思ったより傷は深く、ひどく痛んだ。

 少女を制服姿のまま縛り、動きを封じて、空の浴槽に放り込んだ。叫ばれても迷惑だったので舌を切り取って、タオルを噛ませた。

 あれから何時間も経っている。浴室は血の臭いが充満していた。口に噛ませたタオルが真っ赤に染まっている。血が止まっているのかどうか、見ただけではよく分からなかった。どのみち、これから殺すのだから関係なかった。

 私がナイフを取り出すと少女は目を見開いた。口元が動いたような気がしたが、タオルのせいでよく見えなかった。私は制服にナイフを滑らせる。少女は目を閉じ、ひたすら恐怖に耐えているようだった。少女は、すでに自分の死が避けられない運命にあることを理解しているはずだった。自分の命が今まさに消滅しようとしている。この少女は今、何を考えているのだろうか。神様に祈ったりするのだろうか。私は神様に出会ったことがないから、きっとこの少女のような立場に置かれても、祈ったりはしないだろうな。そんなことを考えた。

 私は少女の身体にある骨と骨の隙間を見つけた。ナイフを両手で持ち、一気に体重をかける。ナイフは思いのほか軽く、少女の肉体に埋まる。少女が絶叫した。しかし、声は出ない。目と口を限界まで開き、血と涙を流しならが少女は絶命した。

 生き物が死ぬと、体重がわずかではあるが減少するらしい。いわゆる魂と呼ばれる存在が抜け出しているのかもしれない。

 少女が息絶えた瞬間、たしかに何かが身体から抜けたような感じがした。私はその正体が知りたかった。魂と言うものが存在するとするならば、その確たる証拠をつかんでみたかった。

 少女の亡骸から衣服をはぎ取った。これはゴミとして捨てるわけにはいかなかった。後で庭で焼くことにする。隣の家とは少し距離がある。少しくらいものを燃やしても問題はない。

 問題は死体だった。私が殺した少女はこれで四人。三人目までは自宅から少し離れたところに遺棄していた。今になって思えば、なかなか危険なことをしていた。正直なところ、四人目をこれまでと同じように処理することは怖かった。

 シャワーでお湯を出すと少女の死体に浴びせた。出血は思ったより多くは無いようだったが、それでもお湯は赤く染まった。浴槽の栓は抜いたままにしてある。できるだけ血液は出し切っておきたかった。

 赤いお湯を見ながら考えた。

 どうしようか。衣服と一緒に燃やすわけにはいかないだろう。隣の家とある程度距離があるとはいえ、手や足を一斗缶に投げ込むところなど見られてしまっては大変だった。そもそも、人間などそう簡単に燃えるものでもないだろう。

 かといってこのままにしておくわけにはいかない。死体はすぐに腐り始める。少女の身体を簡単に観察する。体重は五〇キログラムほどだろうか。五〇キログラムの肉の塊を保存するような場所はない。

 ひとつ、思いついたことがあった。

 食べてみるというのはどうだろう。人肉喰いは近代社会においてはタブーとされている。しかし、それ以前の文明においては、人の肉を食べるという文化は決して珍しいものではなかった、と本で読んだことがあった。私も試してみたいという欲求が大きくなっていった。食べるのならば、血はもっとしっかり抜いておく必要があるだろう。

 私はシャワーを止めるとロープを用意した。それを死体の足首にくくりつける。足を上にして逆さ吊りにしたかったのだが、あいにく梁のようなものは浴槽にはない。仕方がないから浴槽のドアを開けたまま、ドアノブに足をくくりつけた。少女の首にナイフを当てて、頸動脈を切る。すでに死んでいるせいかあまり血は出なかった。本来なら生きている時に行うべきだったのだろうが、少なくとも、ただ横たえておくだけよりもましだろう。

 しばらくそのまま置いておこう。

 私は少女の衣服を持って裏庭に出た。庭の中心に一斗缶が置いてある。私はそこに少女の衣服を放り込んだ。後で燃やしてしまうつもりだった。

 私は家に戻ると二階の寝室へと移動した。血が抜けるまで、しばらく寝ることにした。



 小一時間ほど仮眠を取った私は、一階へと降りて行った。

 浴室に入ると、血の臭いが鼻腔を刺激した。少女の首から流れ出た血が床を濡らしていた。私はシャワーで床を汚した血を洗い流す。

 少女の死体を確認した。身体は白くなってきており、ある程度の血抜きには成功しているようだった。完璧とは言えないが、これくらいできれば十分だろう。

 私は少し前に読んだ本を思い出した。人体の解体方法について詳細に書かれた本だった。著者は当然のことであるが、想像でこの本を書いている。動物を解体する技術を人間に応用したらどうなるだろうか、という趣旨らしい。

 まさかこの本を参考にして、本当に人を解体する人間がいるとは著者も考えなかっただろう。

 私は本の内容を思い出しながら黙々と少女を解体した。脂肪のせいで手が滑り、何度かナイフやノコギリで自分を傷つけそうになったが、作業はおおむね順調に進んだ。私は少女の死体から、両手足と頭を切り取った。

 少女は右手、左手、右脚、左脚、頭、胴体の六つに分割された。

 私は少女の胴体部分から肉の塊を切り出すと、流水で洗う。

 とりあえず、これをこれから食べてみようと思った。そろそろ昼食の時間になる。ちょうどいい。



 フライパンにオリーブオイルを引いて熱する。すぐに表面の温度が上がり、オリーブオイルの良い香りがした。ステーキサイズの少女の肉を、熱したフライパンの上に置いた。肉は鉄板の上できゅうっと身をよじらせる。オリーブオイルに肉の香ばしい匂いが重なった。

 適度に火を通すと肉を皿に移した。昼食はこれだけだ。余計なものは何もない。肉も塩と胡椒で味を付けただけ。

 少女の肉は、牛や豚などの一般的な肉とほとんど違いが無いように見えた。人間もここまで分割してしまえばただの肉だ。私は肉を口に運んだ。遭難により人間の肉を喰わざるを得なかった者は、自身の持つ倫理観により、激しい嘔吐感を感じたそうだ。人間は人肉を食べることに抵抗を感じるのだ。本来ならば。

 私は肉を一口ほどの大きさに切ると口に入れた。何度か咀嚼してから呑み込む。

 しかし私は抵抗感などもなく肉を食べることができた。我ながらびっくりするほど簡単に、私は人の肉を食べてしまった。

 思っていたよりもおいしかった。私はもう一口食べる。やはりうまい。正直、今まで食べたどんな肉よりもおいしかった。こんなにおいしいのなら、もっと早くに食べておけば良かった、と後悔したほどだ。

 そうか、と思った。人肉はおいしいからこそ、食べることがタブーとされているのだ。もし人肉食が常態化すれば、人間はたちまち共食いをしてしまうだろう。そうなったら、人類は人口を維持できずに滅んでしまうはずだった。

 私は少女の肉を食べながら笑い出した。他の奴らは人肉のうまさを知らない。これを知っているのは私だけだ。何とも言えない優越感が私を包み込んだ。

 私は夢中で肉を食べ続けた。

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