第96淡 対ハリーその1
チュンチュン……
朝靄がうっすらと残るものの爽やかな朝、小鳥の鳴き声が森のそこかしこから聞こえる。
春も中盤を過ぎた頃であるが、まだ空気は幾分ひんやりとしていた。
「……居たぞ。」
そんな中、ささやき声で俺に獲物の発見を伝えるアレハンドロ。
俺は、狩りの極意を盗むべく父アレハンドロと行動を共にしていたのである。
俺自身、これまで散々狩りをしてきて、その知識は持ち合わせているつもりだが、
やはり本職ではないため、知り得ないノウハウもあるだろう。
そんなわけで、以前から事あるごとにねだっていたのが、本日やっと同行を許されたのである。
この世界での初めて狩りに出る相場年齢は早くても10歳を越えてかららしいので、
先月8歳となったばかりで、前世で言う小学校3年生くらいの俺には本来2~3年は早い話なのだ。
まあ、一昨日、スライムホイホイに湧いていたパープルスライムを倒してレベルアップを果たしてLv96に達しており、実力的には大人顔負けどころじゃないけどね。
で、発見した獲物は、野兎。
「近付く時は風下からだよ?」
アレハンドロの指示に従って大きく野兎を回り込み、距離にして30mの場所に狙撃ポイントを見繕う。
「よし、ここから狙おうか……。」
そこで、おもむろに背中から楢と動物の骨で作られた複合弓を取り出すアレハンドロ。
アレハンドロの本来の武器は、鷲獅子の長弓⬆反応向上Bという名前からしても凄そうな弓であるが、
狩りの時にはそれは使わず一般的な中型の弓を使用する。
矢も、矢尻に鉄が使われたよく使われるものだ。
アレハンドロ曰く「射的への鍛練は欠かさないけど、あれは強力過ぎて、逆に狩りの腕を鈍らせちゃうからね。」とのこと。
能力についても普通の狩りではあまり使っていないようだったので、これも聞いてみると……
「うん、アルの言う通り能力の『剛弓』を放った方が効率的だよ。
多少狙いがズレようが威力の高さで仕留められるだろうからね。
……ただ、それじゃあ腕は磨けない。狩人にとって弓の腕、特に精度は生命線なんだ。
それを地道に磨いていく事が、今日より明日、ひいては将来の自分に繋がっていくのさ。」
にこやかに答えるアレハンドロに俺は感心したものだった。
「今日より明日……久しぶりに良い事を言ってる気がする。」
そう俺が言うとアレハンドロは、ズッコケる。
「……それじゃあ、普段ちゃらんぽらんみたいじゃないか。」
「マルタ母さんやメイシャとののろけトークばっかだもん。」
俺のこの指摘には苦笑いを浮かべるしかないアレハンドロであった。
……場面を戻して、野兎に対し、微かにキリキリと音をさせて弓矢を引き絞るアレハンドロ。
ビュッ……ドスッ
次の瞬間、離れた矢はぶれる事なく野兎の首元に突き刺さる。
「……凄い、頚椎まで寸断したのか。
弓を引きながらも、矢の羽根の向き等を微調整して、矢尻がぶつかる瞬間に頚椎の角度と水平になるよう射出していたような……。
この世界の平均がどんなものか知らないが、那須与一の扇の逸話に近いレベルだわ。」
俺は、アレハンドロに聞こえない声量ではあるが、思わず感嘆の呟きを漏らす。
野兎は、首が不自然な角度に曲がった状態でその場に崩れ去り、ピクリとも動かなくなっていたのだ。
「やった、凄いよアレク父さんっ!」
その後、改めて子供らしい賞賛の声を上げる俺。
アレハンドロも集中した表情を解いて、満足そうに頷く。
「……少しは、普段ちゃらんぽらんな父親の面目躍如になったかな……。」
そして、ポツリと呟く父アレハンドロ。
……あっ、意外と気にしてたんだ?
どんな言葉が人の心を抉るか分からない。
もう少し気を使ってあげようかなっと思う俺であった。
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主人公のステータス
名前:アルベルト=ガルシア
種族:人
性別:オス
年齢:8歳
身長:133cm
体重:30kg
出身:カルベリオ村
所属:なし
業:-1
徳:-2
Lv:96
状態:正常
体力:38/38
魔力:12/12(➕1)
筋力:35
反応:20
耐久:23
持久:22
※( )内は、前話からの変化値
職業:戦士Ⅱ
能力:棒術経験値向上D、棒威力向上D、重打E、擦過耐性E
技能:棒術Ⅱ、投擲術Ⅱ、探索術Ⅱ、格闘術Ⅰ
加護:なし
装備:鋼杖⬆反応向上F、麻の服、木皮の靴、(戦闘時のみ鋼鉄製短冊籠手⬆筋力向上F、木製短冊胸当て、同背甲、同肩当て、同肘当て、同膝当て、同すね当て)




