第83淡 対スライムその70
「まさかあんな値打ち物だったとは……。」
秋空の下、これまで常々愛用してきた鑑定単眼鏡を陽の光に翳し、色んな角度から眺めながら呟く俺。
本日は、ピンクスライムの発生が午後からの予定であるため、午前中はビベイロの街を訪れ、少々の商いと魔石等の下見を実施していた。
商いの方は、露店を準備し始めたタイミングで、たまたまた顔見知りの若手商人が通ったので、一気に商談が済んで良かったが、
上機嫌で向かった道具屋で、衝撃的な出来事があったのである。
ビベイロの道具屋は、普通の日用品やらの区画と冒険者用や魔道具といった類いの区画に別れた横広な店構えしており、
奥には、道具の整備場所や簡易倉庫が軒を連ねている。
「へぇ~、結構、雑貨屋みたいな感じなんだ。」
俺は、日用品が所狭しと並べられた区画から入って、興味深く商品を眺める。
時刻は午前の早い時間帯にも関わらず、店内には既に先客が何人もおり、店員は対応に追われていた。
少年が入ってきたのを一別する程度の反応。
ウィンドウショッピングするにはおあつらえ向きな環境である。
「しかも、結構、盛況なのね。」
そんな中、俺の目に止まったのは、恐らく高額な魔道具や魔石が納められたガラスケース。
商品の右横に説明プレート、下に値段プレートが置かれている。
「風の魔石。品質D、装備に付加した場合、40%速度が向上……(中略)……値段は、白金貨5枚。
う~ん、流石、高額棚って値だな。」
微かに感嘆の声を上げながら眺める俺。
そんな俺の眼に紋様の刻まれた単眼鏡が飛び込んでくる。
500㏄のビール缶くらいの大きさ&形状で、俺が所持している鑑定単眼鏡と比べて、段違いのサイズだ。
「え~っとなになに、鑑定単眼鏡。品質D、動物等に対しては対象の名称、種族、植物や鉱物等に対しては名称を鑑定出来る……(中略)……値段は、白金貨8枚っ!?」
白金貨8枚、つまり前世の価値だと約8百万。
確かに対象の名前が分かるだけで、大きな判断材料になる。
魔物相手だったりすると、誤って格上に挑んだりしたら一貫の終わりなため、尚更重要であろう。
鑑定自体が便利かつ重要な事なのは分かっていたが、
教会の倉庫に山積みになっている物の中に、こんな高額な価値を持つ物があるとは思っていなかったのだ。
しかも、大きいので色々細部まで分かるのかと思いきや、白金貨8枚の鑑定単眼鏡でも、俺の所持してるのからするとだいぶ型落ち感は否めない性能。
俺の所持してるやつは、どれだけの値段が付くのか、想像も出来ない代物と言えるだろう。
「……あんな乱雑に置かれてたら、普通は分からないよな。」
ショックを受け呆然とした様子でその場を後にする俺を店員や他の客は不思議そうに見ていたが、今はそれどころじゃない。
「ちょっと常識を再構築する必要があるかも……。」
考えてみれば、この世界において教会の存在は絶対的である。
宗教的な縛りが日常生活で全然感じられないため、意識していなかったが、
日常の基本的な祭祀は教会が取り仕切っているし、洗礼の儀なんか人生に最も影響を及ぼす行為も教会が握っているのだから、当たり前と言えば当たり前だ。
「教会の建物からして寄進で出来てるからな……カルベリオ村創建当時から連面と続く寄進。その中には貴重な物が含まれていた……とかか?」
それでも不自然感はあるが、カルロス爺さん相手でも直接的には流石に聞けないので、追々、少しずつ色んな人から情報収集する必要がありそうだ。
そんなこんなで、カルベリオ村に戻って昼食を摂った後、ピンクスライムの待つ(?)スライムホイホイまで前進。
午前中の事があったので、いつもより慎重に鑑定単眼鏡を覗き込む。
「……ピンクスライムで間違いない……けど、扱いについつい気を使っちゃうな。」
鑑定を終えると、鑑定単眼鏡を小さめの麻袋に納めて、更にそれを腰の中くらいの麻袋に仕舞う俺。
これまでは、そのまま麻袋に放り込んでいたが、価値の一端を知って、丁寧に扱う事にしたのであった。
別に今まで乱暴に扱ってたわけじゃないけどね……一応、借り物だし。
「それじゃあ、スライムを叩きますか……そいっ!」
ヒュッ……ガンッ
気を取り直した俺は、拳大の石を投擲。
立ち位置は、すぐ樹の陰に入れる場所だ。
想定外な事もあったが、戦闘で浮き足立つ程ではない。
ボゥゥッ×3
ピンクスライムからは、予想通り参火球が飛んでくる。
当然、樹を使って遮り、無効化。
あとは樹伝いに少しずつ近付きながら投石を加えていけば、ダメージを与えつつ相手の魔法も誘える。
近距離まで辿り着く頃には、ピンクスライムの体力をイイ感じに削れ、かつ、魔力を枯渇させていた。
そうなれば、そのまま近接戦闘に突入だ。
「どっこいしょーいち(死語)っ!」
ドゴンッ
俺は、一足飛びに踏み込んで、振り下ろしの重打をぶちかます。
会心の一撃を入れられたピンクスライムは、大きく身体を凹ませられながらもワンツーで反撃。
シュッ……シュッ
バゴンッ
そのピンクスライムの反撃途中、ワンツーのツーの場面で、俺は、杖を振るって触手ごと凪ぎ払う。
「どうよ?拳より鋼の方がカッチカチやろ!そりゃっ!!」
ドゴンッ
そして、一突き。
シュッ……シュッ……
突きを決めたところに、ピンクスライムが再びワンツーを繰り出してくるが、
今度はボクシングのウィービングの要領で、Uの字を描くように触手ストレートをかいくぐる。
「蝶のように舞い、蜂のように刺すっ!」
ドゴォッ
「フシュー……。」
そして、ウィービングで屈み込んだ態勢から渾身の突き上げを喰らわすと、空気の抜けるような音ともにピンクスライムが霧散。
ドロップした魔力回復薬も拾って完全勝利だ。
ここで、レベルも上がっていたりと、いつもなら戦闘の余韻に浸る所であるが、俺の思考は、別に向いていた。
「……カルロス爺さんは、今日も酔いどれ状態だろうな。他にも掘り出し物があるかもしれないな……。」
教会の物置を久しぶりに覗いてみようというわけである。
売り払うとかそこまで不義理な事はするつもりはないよ?
……今のところは……。
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主人公のステータス
名前:アルベルト=ガルシア
種族:人
性別:オス
年齢:7歳
身長:125cm
体重:25kg
出身:カルベリオ村
所属:なし
業:-1
徳:-2
Lv:83
状態:正常
体力:38/38
魔力:11/11
筋力:30
反応:19(➕1)
耐久:20
持久:19
※( )内は、前話からの変化値
職業:戦士Ⅱ
能力:棒術経験値向上D、棒威力向上D、重打E、擦過耐性E
技能:棒術Ⅱ、投擲術Ⅱ、探索術Ⅱ
加護:なし
装備:鋼杖、麻の服、木皮の靴、(戦闘時のみ木製短冊胸当て、同背甲、同肩当て、同籠手、同肘当て、同膝当て、同すね当て)




