第63淡 対スライムその53
「さてと、茶っこいのの魔法はどんなもんか……。」
俺はスモールブラウンスライムに対しても、他のスライムと同じようにまずは投石で自分の存在に気付かせる事から始める。
魔法を使わせてその特性を掴むためだ。
「そいっ!」
ボスッ
俺が投げた拳大の石がスモールブラウンスライムに命中、その身体の一部を削る。
「投石のダメージは通る……あとは……。」
ファイアボールへの対応である。
カルロス爺さんの事前情報からすれば、ただ避けるだけでは下策。
横移動で火球の飛来する主線は外しつつも、軌道が変化した際に、鋤で打ち落とすか、弾けるようにしておかなければならないだろう。
ボゥッ
「……来たっ!」
飛んできた火球は、拳大。
サイズは大した事ないが、スピードはこれまでのものより速く、一般人が全力で投球したくらいの速度があった。
しかし、俺の今の反応をもってすれば、ある程度余裕を持って避けれる。
後ろ斜め後方に跳び退く俺。
「うおっ!?」
すると、俺の移動に合わせたようにクイッと火球の軌道が変わり、俺に向かってくる。
思わず、声をあげてしまったが、この動きは想定内。
事前情報入れてなかったら危なかったかもだけどね。
バシッ
透かさず、鋤を振るって火球の横っ面を叩く。
「打った感触も……やや重くなってる?」
手に伝わってくる感触からは、これまでの火球に比して、芯があるというか、グッと中身が凝縮してる感じがした。
そして、俺が横っ面を叩いた火球は、バラバラになり、
火の粉を撒き散らしながら、大きく方向を変えて明後日の方向に飛んでいき、間もなくして消える。
「……へぇ~、不自然に曲がるのは、微妙にファンタジーで、何だか見てて面白いな。
まあ、火の玉が飛んでくるだけで十分ファンタジーなんだけどさ。」
いずれにせよ、火球については、問題なく対応出来そうである。
自信を深めつつ、次弾に備える俺。
ボゥッ
ボゥッ
「今度は2発立て続けにかよっ!」
それを感じ取ったのか次は、撃ち終わるとすぐに次の火球をという要領で、攻撃してくるスモールブラウンスライム。
ただ、球質が重くなったとはいえ、俺にとっては、多少打ち応えがよくなった程度の火球。
しかも、一撃で打ち落とす事が可能。
間髪入れずに2発飛んで来たとしても、避けずに、鋤を振るうだけで対処出来そうである。
「ふんっ!……ふんっ!」
バシッ……バシッ
2発目を叩く時は、弱振り気味になって威力か下がるから、
用心のため重打を使用して、しっかり打ち抜かせて貰ったけどね。
「ふぅ~、ファイアボール3発か。……4発目はあるかな?」
……すぐには飛んで来ない事から、鑑定。
残りの魔力からすると、1度の戦闘で放てるのは3発までのようだ。
「多少、知恵がついてきてるのかね?……1発じゃ対処されると判断して、2発放ってきてるとしたらだけど。」
それから投石での削りもそこそこに近接戦闘に移る。
武道等でよく使われる半身の構えから片方の足を動かした後、他の足も直ちに同様に動かし、両足の相対的な位置を保つ……所謂継ぎ足歩行で慎重に近付き、スモールブラウンスライムの近接攻撃手段とその間合いを図るのだ。
1歩、また1歩と近付く俺。
なかなか次の一手を打ってこないスモールブラウンスライムであったが、50㎝程の距離となった所で、丸い身体の上部が盛り上がる。
ヒュンッ
盛り上がった部分が1本の棒状になったと思った次の瞬間、棒状だったものが微かな風切り音をさせて振り下ろされる。
「見えるっ!」
カンッ
俺の鋤とスモールブラウンスライムの触手が交錯し、乾いた音が辺りに響く。
俺の方は、鋤の刃先で受け止めただけだけどね。
そして、受け止めた後、よく見ると棒状だった触手が、更にショートソードのような形状に変化している。
また、受け止めた感じ、そこまで触手の斬撃に重みは感じない。
しかも、少し鋤に力を込めただけで押し返す事が出来る。
しかし、押し返したと思った所で、フッと押し返した触手が引っ込み、今度は横から触手が振られる。
「温いわっ!」
俺もその動作を見て、鋤を横に振るう。
カンッ
再び交錯する鋤と触手。
ただ、俺の振りの方が圧倒的に重いというか、その勢いのまま、スモールブラウンスライムの触手を根元からポッキリと折った上に、はね飛ばす事に成功する。
「……あらら、意外とモロいわけね。」
それでも懲りずに触手を再構成するスモールブラウンスライム。
鋤で触手攻撃をはね飛ばす事、3回。
「懲りないな……あれ、黙ってたら、これってエンドレス?」
そのまま打ち合う事、もう3回。
いい加減、切りがないのに気付いた俺は、はね飛ばしに加えて、その合間に出来る隙を文字通り突いていく事にした。
振り払ってから弱突きの繰り返しである。
「そらそらぁ、お前の斬撃はそんなもんか!」
ドスッ……ドスッ……ドスッ……
断続的に突きを繰り出す俺。
スモールブラウンスライムに確実にその突きが決まっていく。
「……フシュー……。」
しばらくして、いつもの空気のぬけるような音と共に地面に消えるスモールブラウンスライム。
「……う~ん、俺の筋力が上がってるのもあるだろうけど、接近戦の方は、いまいち子供に付き合って、チャンバラしてる感覚でしかないな。」
危なげなく勝利する事が出来た。
それはそれで良い事なんだけど、もうちょっと張り合いある相手をイメージしていたからね……。
ステータスを確認するとレベルアップしていたが、なんとも不完全燃焼なブラウンスライム戦であった。
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主人公のステータス
名前:アルベルト=ガルシア
種族:人
性別:オス
年齢:5歳
身長:112cm
体重:20kg
出身:カルベリオ村
所属:なし
業:-1
徳:-2
Lv:63
状態:正常
体力:30/30
魔力:8/8
筋力:24(➕1)
反応:16
耐久:17
持久:17
※( )内は、前話からの変化値
職業:戦士Ⅰ
能力:棒術経験値向上E、棒威力向上E、重打E
技能:棒術Ⅱ、投擲術Ⅱ、探索術Ⅱ
加護:なし
装備:×牛引き鋤、麻の服、木皮の靴、(戦闘時のみ木製短冊胸当て、同背甲、同肩当て、同籠手、同肘当て、同膝当て、同すね当て)




