第41淡 対スライムその37
「イエロースライムのデカイやつは、どんくらいの火球撃ってくるんだろうな~。」
樹の洞に隠していた木製短冊アーマーを装着しながら、イエロースライムの上位種、ビッグイエロースライムについて考察する俺。
「スモールでテニスボールサイズ、ノーマルでソフトボールサイズという事は……バレーボールくらいかな?」
ソフトボールサイズの火球でも、まともに当たれば火傷は免れない。
予想通りバレーボールサイズだったとして、どうやってそれを防ぐかが課題だった。
そのため、樹にぶら下げた薪を使って、飛んでくる火球に対する事前シミュレーションもしていた。
その結果、鋤の目一杯端っこを持ってスイングし、出来るだけ身体から離れた位置で火球を弾く、又は粉砕する対策を採用している。
もちろん、樹の陰に避けるのが基本だから、その暇がない場合の処置って事ね。
「2週間……長かったな。戦闘がなかった分、実戦感覚が衰えてないかだけ心配だわ。」
…………ん?
カルベリオ村南西側の森の件はどうなっかって?
探索はしたよ、この2週間。
今回も南北に何回か往復して、地形や植生等を色々確認していた。
しかし、特に南東側の森と変化はなかったのである。
言うまでもなく魔物とのエンカウントもない。
……えっ、ゴブリンが度々目撃されてたんじゃないかって?
春先の話だったよっ!!……シクシク
そう、アレハンドロがゴブリン云々を話していたのは、春先。
それから5ヶ月近くが経過しているのだが、流石にその状況をカルベリオ村として放置するわけにもいかず、アレハンドロら自警団が撃退に動いていたようであった。
結果、ゴブリンは、撃退されて村周囲にはいなくなっていたのだ。
そして、ガルシア家内、特に幼児のいる前で、退治の生々しい話が上がる事もなく、
散々探索した後、期待していた魔物いない事を不思議に思い、カルロス爺さんを通じてそれとなく聞いてみた所、その事実が判明した。
「ゴブリンなんて近場にいないって聞いて……昨晩、枕を濡らしちゃったけど……俺にはまだスライムホイホイがあるっ!」
拳を強く握り締めながら、自分に言い聞かせる俺。
そんなわけで、装備を整えてスライムホイホイ前に到着。
注意深く覗き込むと、大きな黄色い影。
「居た居た……イエロースライムのビッグちゃん。……これまた存在感あるな。」
2.5mもの半透明の黄色い塊である。
その色からグリーンよりインパクトは強い。
気になるステータスを鑑定してみると……
種族:ビッグイエロースライム
状態:正常
体力:32/32
魔力:7/7
筋力:7
反応:3
耐久:13
持久:8
反応と持久以外は、イエロースライムより上であった。
イエロースライムが……
体力:26/26
魔力:6/6
筋力:6
反応:3
耐久:12
持久:8
このくらいでそこまで伸びてないようにも思えるが、スモールグリーンスライムが……
種族:スモールグリーンスライム
状態:正常
体力:3/3
魔力:1/1
筋力:1
反応:2
耐久:5
持久:4
このくらいだから、それからしたら、相当強い存在なのが分かる。
「反応があんまり上がってないのは、やっぱりそういう種族って事なんだろうな。」
そして、ステータスを確認したら、あとは実力の程をご拝見だ。
俺は、いつでも樹の陰に身を隠せる位置で、息を整える。
「よし、バッチこーいっ!」
身を躍らせてビッグイエロースライムの前に跳び出す俺。
ボワゥッ
「うおっ!?」
予想通りバレーボールサイズの火球が飛んでくる。
しかし、予想していたとはいえ実際の迫力は段違いである。
それでも、思わず驚き声を出してしまったものの、樹の陰に入ってやり過ごす事に成功。
「デカイだけあって風切り音もヤバイな。……あとは、2発目、3発目があるかどうか……。」
ボワゥッ
同じ要領で火球を誘発してみると、案の定、2発目を放ってくるイエロースライム。
「……3発目は……ないようだな。」
2発目もやり過ごし、もう一度、自分の姿を晒したが、3発目はこなかった。
試しに次はいつ放てるようになるのか待ってみると、1時間ちょっともかかってしまう。
魔力の減り具合を鑑定した限りでは、バレーボールサイズの火球には、魔力を3消費するようだ。
「俺も調子に乗って魔力を消費しないように気を付けなきゃな~。
でないと、今のビッグちゃんみたいな魔力が足りなくて能力を使えないって状況にもなりかねないし。」
俺は、こうなったら貰いだなと思いつつ、投石でビッグイエロースライムを削っていく。
耐久も少しは上がってるようだが、問題なくダメージが通っているようだ。
「体力が高い分、投げ甲斐があるな。」
鑑定しながら、逐次投石していき、14~15回投げた所で、ビッグイエロースライムの体力は、残り一桁代に。
巨体も削られ今やイエロースライムと変わらない大きさだ。
「ここまでは、想定内……いくぞっ。」
お次は、接近戦だ。
俺は、得意のダッシュ弱突きをビッグイエロースライムに繰り出す。
「せいっ!」
ドスッ
問題なく決まるダッシュ弱突き。
しかし、次の動作に移行しようとした瞬間、ビッグイエロースライムから触手が俺に向かって真っ直ぐ伸びてくる。
ドン
「おおっ?」
防具を着ていたせいか、強く押されたくらいの感じでダメージはないが、後退りさせられる俺。
そのため、そのまま後ろに数歩下がり距離を取る。
この状況を見定める必要がありそうと思ったのである。
俺がビッグイエロースライムをみると、触手をゆっくり引っ込める所。
その触手は、今まで見てきた触手と異なり、かなり太いものであった。
従来の触手は、太くても直径2㎝程とホワイトボードマーカーくらいなのに対して、ビッグイエロースライムの触手は、直径10㎝程で、拳大と言える太さなのである。
「へ~、このクラスになってくると近接戦闘の手段も持ってるという事か。
まあ、それもそうか。
逆に考えたら、遠距離攻撃しかなくて、弾切れになったら、やられっぱなしっていう状態が普通じゃないもんな。」
カラクリが分かってくれば、それにどう対処するかとなるため、俺は、触手の有効範囲を調べる事にする。
ただ、ビッグイエロースライムの出方を窺いながら近付いたものの、なかなか触手を伸ばしてこない。
業を煮やして、軽く鋤で小突いてみる。
「おっ、出た出た。」
気を付けていれば、触手の速度はそこまででもなく、今度は、身体を半身にする事で回避する事が出来た。
触手は、50㎝程度真っ直ぐ伸びるとそこで止まり、ゆっくりと引っ込められていく。
「……途中から曲げたり、フック気味に打ったりとかは出来ないのかな?」
引き続き、小突きと回避を繰り返したが、どうやら直突きしか出来ないようである。
そして、7~8回小突いた所で空気が抜けるような音をさせて地面に消えていくビッグイエロースライム。
「なるほどね~。
魔法もそうだけど、上位種になる程、ステータスだけじゃなく、こういう風に色々バージョンアップしてくのか~。
……初見の相手は、今まで以上に慎重にいかないとだな。」
一方、俺の方は、ビッグイエロースライムを倒してレベルアップはしたが、反応値が1つ上がった以外は変化なし。
今後も、未知の魔物と戦う時には、ステータス値で圧倒するというより、戦法で上手く倒す方が現実的という事を踏まえると、
攻撃面では、重打と鋤自体の威力、
防御面では、木製短冊アーマーへの依存がより高まりそうである。
「そう考えると能力と装備の向上も大きいけど、
意外とこっちの世界でも技能というか、日頃の鍛練の成果が勝利の鍵……かもね。」
この異世界でも、戦いの基本は変わらない事に改めて気付かされた俺であった。
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主人公のステータス
名前:アルベルト=ガルシア
種族:人
性別:オス
年齢:3歳
身長:98cm
体重:15kg
出身地:カルベリオ村
所属:なし
業:-1
徳:-2
Lv:41
状態:正常
体力:25/25
魔力:5/5
筋力:19
反応:14(➕1)
耐久:14
持久:13
※( )内は、前話からの変化値
職業:戦士Ⅰ
能力:棒術経験値向上E、棒威力向上E、重打F
技能:棒術Ⅰ、投擲術Ⅰ、探索術0
加護:なし
装備:×牛引き鋤、麻の服、木皮の靴、(戦闘時のみ木製短冊胸当て、同籠手、同肘当て、同膝当て、同すね当て)




