第34淡 対スライムその30
「……いい?今日、午後からの祭りの間は、僕の傍にいるんだよ?」
「は~い!」
朝1番の集団保育所。
子守り役のアントニオが10人の幼児達を前に火祭りでの注意事項を述べていた。
まあ、述べるといってもアントニオもまだ8歳。
3~4コのあれはしちゃだめ、これはしちゃだめくらいの簡単な内容だった。
ただ、上は8歳、下は2歳と年齢に幅がある中で、2~3歳の年少者達に伝わったかどうかは疑問である。
返事はしたものの、その後すぐに銘々好きな事をし出ている。
そんな中で俺に近付く人物が居た。
「アル~、ちゃんとトニオ兄ちゃんの話聞いてた?」
トニオというのはアントニオのあだ名みたいなもので、アルというのはもちろん俺の事である。
話し掛けてきたのは、マルタという俺より1つ年上の女の子。
名前が俺の母親と同じでややこしいが、よくある名前なので、被りは仕方ない。
マルタちゃんは、3軒隣くらいの農家、エルナンデス家の長女で
外見は、癖のある赤毛を2つに分けた短めのツインテールで、少しつり上がった翠の瞳が気の強そうな感じ。
ロリ趣味はないけど、外国人の子供って可愛いよね。
……俺も金髪青目だけどさ。
「ちょっとアル!聞いてるでしょ?」
そのマルタちゃんであるが、せっかちというか、結構イラである。
自分の思い通りにならないと、癇癪を起こして大声を出してくる。
「……ごめんごめん、ちゃんと聞いてたよ。」
こういう時は、素直に謝る事が先決。
話はそこからだ。
その甲斐あって、マルタちゃんもすぐに機嫌を直して話を続ける。
「トニオ兄ちゃんが、お話してた通り、皆、1ヶ所に居る事になるでしょ?だから、アルは、私の食べたい物を持ってくる係ね。」
「……『だから』の後の話が整合性が取れてないんだけど……とりあえず、それってパシりじゃんっ!」
近くに居るからというよく分からない理由で、パシりは勘弁だ。
しかし、そんなこちらの気持ちは、いざ知らず、マルタちゃんは自信満々の顔でズズイと顔が触れそうな距離まで近付いてくる。
「当たり前じゃない。
私の近くに居させてあげてるんだから、そのお返しをするのは。
……アルは、年下なんだから、私の言う通りにすれば良いの!」
「そんな無茶苦茶な……。」
さも当然といった様子で丁稚奉公を強要するマルタちゃんに困り顔の俺。
「口ごたえするなんて、アルのくせに生意気よっ!
やるの?やらないの?断るっていうのなら……」
「ぼ、暴力反対……わかったよ~。」
自然な動作で胸ぐらを掴み、畳み掛けてくるマルタちゃん。
もちろん、俺のステータスなら振り払うのは簡単なのだが、今の段階で波風立てたくない俺は、了解の意を伝える。
マルタちゃんは、俺の回答に満面の笑みを浮かべる。
しかし、ここで安心するのはまだ早い。
この調子で、次から次へと無理難題は続くはずなのだ。
「あとアル……。」
「よ~しっ!、パトロールごっこ行くぞ~♪」
そのため、俺は、マルタちゃんの言葉を遮るようにわざと大きなを出すと、一目散に集団保育所として使われている村の集会所から、飛び出す。
そして、マルタちゃんを置き去りにする事に成功した。
アントニオには、既に午前中の間、居なくなることは言い含めてあるので、問題はない。
しかし、その他では、問題がないわけではない。
「……そんな事よりスライムホイホイがどうなってるか心配だ……。」
実は、2日前を最後にスライムホイホイに行けていなかったのだ。
普段なら、火祭り当日に来るはずの行商が2日前からカルベリオ村を訪れたため、それに合わせて小さなバザールが開かれた。
これにより、俺の母マルタが田畑等の作業に行かなかったのである。
であるからして、スライムホイホイ内にスモールイエロースライム6匹、もしくはイエロースライム1匹の発生が予測される事態となっている。
ちょっとした不安感を抱えながら、調整池へと急ぐ俺。
少し距離を置いた樹の陰からスライムホイホイの様子を窺う。
「…………あちゃ~……あの大きさ、イエロースライムになっちゃってるわ。」
つい先日、もう少しステータスを上げてからと決めていた矢先にこれである。
試しに鑑定してみると……
種族:イエロースライム
状態:正常
体力:26/26
魔力:6/6
筋力:6
反応:3
耐久:12
持久:8
……うん、イエロースライムで間違いないないね。
「はぁ~……さてどうするか……。」
俺は、この状況に一時、頭に手をやって溜め息を付いていたが、気を取り直してイエロースライムを安全に倒せる戦法を考え始める。
「投石で体力を削るのは、これまで通りにやるとして……あとは、威力なりが上がっているだろう火球対策だな。」
ステータス的には、スモールイエロースライムが、
体力:20/20
魔力:5/5
筋力:5
反応:3
耐久:10
持久:7
だから、倒せない相手では全然ないが、これまでの経験上、火球が強化されていそうである。
「スモールイエロースライム2匹と戦っていた要領を踏襲しつつ……鋤で弾けるか試してみるって流れが妥当かな。」
俺は、これまで通り避けるのを前提にしつつ、防御の手段を確立する事にした。
戦い方が決まったら、あとはやるだけである。
「時は来た、それだけだ!」
俺は、樹の陰から半身を出して、イエロースライムがこちらに気付くように手を振ってみる。
……ボゥゥッ
果たしてスライムにモノが見えるのか分からないが、どうやら俺の存在に気付いたようで火球、それもソフトボールサイズの火球を飛ばしてくる。
「想・定・内っ!」
保険のため正面から弾く事はせず、樹の陰に隠れながら、火球目掛けて鋤を振り下ろす俺。
ボスッ
「あちちっ……っと大丈夫だけど、大きいだけあって、結構燃え広がるな~。」
叩いた感触は、スモールイエロースライムの火球と大差なく、少し大きな豆腐のような感じで、難なく下へとはたき落とす事が出来た。
しかし、その大きさの分だけ地面に当たった瞬間、燃え広がって火の粉が足元にかかったのである。
「まだ、撃ってこれるかどう……か?」
鋤で弾く事が可能と分かった俺は、今一度樹の陰から半身を出して、イエロースライムの出方を見る。
ボゥゥッ
「はい、キタァーーッ!」
ボスッ
今度は、先程より離れた位置にはたき落としたので、火の粉がかかる事もなかった。
それから、まだもう1発くらい撃ってくるのではないかと警戒したものの、その気配がなかったので、お返しの投石だ。
「喰らえっ、ジャイロボールだっ!」
ボールではなく石なのだが、投げなれたもので、スピードの乗ったテニスボール大の石がイエロースライムにジャストミート。
イエロースライムは、石の当たった衝撃で身体の一部を飛び散らせながら、プルプルと揺れていた。
「投石もちゃんとダメージが通ってるみたいだな……まだまだいくよ~っ!」
そうして投石する事、10回。
スモールイエロースライムサイズより一回り小さいくらいまで、良い感じに削る事が出来た。
あとは、とどめである。
重打は残念ながら、大きな音をさせてしまうため、祭りの間は素振りでしか使わないと決めているので通常の近接攻撃だ。
「そりゃ~っ、お命頂戴っ!」
ドガンッ
「フシュー……。」
イエロースライムは俺の振り下ろしの一撃を受けて四散。
結果、イエロースライムに対しても2発の火球にさえ気を付けていれば、大丈夫そうな事が分かった。
経験値的にもレベルが上がった事を考えれば、悪い相手じゃないだろう。
まあ、火祭りと牛追い祭りが終わるまでは、火球の大きさからして、打ち落とさない限り、村人に見付かってしまう可能性があるから、
しばらくの間は、出来るだけグリーンスライムが湧いた傍から、倒していく方式にするけどね。
「よし、懸念事項も解消出来た事だし、午後からは、祭りを楽しむか♪……変な要求されなきゃいいけど……。」
マルタちゃんの理不尽な要求には若干の不安を残しつつも、元来た道を引き返す俺であった。
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主人公のステータス
名前:アルベルト=ガルシア
種族:人
性別:オス
年齢:3歳
身長:97cm
体重:15kg
出身地:カルベリオ村
所属:なし
業:-1
徳:-2
Lv:34
状態:正常
体力:23/23
魔力:4/4
筋力:17
反応:13
耐久:13
持久:13(➕1)
※( )内は、前話からの変化値
職業:戦士Ⅰ
能力:棒術経験値向上E、棒威力向上E、重打F
技能:棒術Ⅰ、投擲術Ⅰ
加護:なし
装備:×牛引き鋤、麻の服、木皮の靴




