第27淡 対スライムその23
妹が出来たという事を聞いてから3日経った。
自分でも良く分からない有頂天も何とか落ち着き、今は新しい得物を物色している。
産まれてくる可愛い妹のためにも、兄は強くならねばなるまい。
「……う~ん、火祭りの準備で倉庫が開けっ放しになってるみたいだから、来たんだけど……。
これっ!というのがないんだよな~。」
火祭りというのは、夏の初め頃に開催されるお祭りで、不要になった木材やら、とにかく可燃な物を集め、それを動物を象った篝火にして燃やすというごくごく単純な行事だ。
勢いよく燃え上がった大きな篝火を前にして、日々の糧がある事を神に感謝するんだとか。
去年見た限りでは、飲んでどんちゃん騒ぎしてるだけだったけど……。
何れにせよ、その準備のため、カルベリオ村の集合倉庫が不用心な状態になっているのである。
「ツルハシか……悪くないんだけどね。
……ピッチフォークも惜しいとなんだよな~。」
倉庫の奥に行けば行くほど、壊れているようなしょうもないガラクタの比率が高くなるのだが、
俺の希望に対して微妙にかする物もあるので、あれでもないこれでもないと、かれこれ小一時間。
「この大きいのは、牛引き用の鋤か。
ってうわっ、接続部が折れてるや……ん、でもこれって大きなスコップみたいになるんじゃ……。」
そこで、やっとお眼鏡に叶いそうな品が出てくる。
田起こしのため牛が引く鋤の1種で、完全な状態なら、角スコップに、牛に担がせる木製の接続部が付いているような構造なのだが、
その接続部が割れてしまっているものだ。
「接続部を削ってしまえば、良い感じかも……でも、俺の体格からしたら、大きいし、かなり重そうなんだよな~。」
今持っている溝堀りスコップでさえ、90㎝と俺の身長とほぼ同等な上、握り手も3歳児の手では、両手でやっと回る状態である。
本来であれば体重の1%くらいの重量が取り回しが良いのだが、重量も0.5㎏程ある。
牛引き鋤に至っては、鋤の中では比較的小さいものもはいえ、長さも厚みもスコップより2回り近く大きい。
全長120㎝で、重量は刃先が鉄製という事もあり、手に持った感覚だと3~4㎏はありそうだ。
「攻撃威力アップの、攻撃速度ダウンって感じか……。
……う~ん…………こればっかりは、使ってみてからだな。」
俺は、しばし、メリットとデメリットを考えたが結論が出ず、結局、実戦で試してみる事にする。
そうなったら、善は急げだ。
手近にあった壊れたツルハシの刃先やらで、手早く牛引き鋤の接続部を切り離し、調整池に向かう。
「今の所、防御が紙だからな~……攻撃は最大の防御とも言うけど、ちゃんと使いこなせない限りはなんともね……。」
ブンッ……ブンッ……ブンッ……
道中行きすがらも、両手で縦、横、斜めと振ってみた感じ、身体が結構ブレてしまう。
筋力的には大丈夫なのだが、体格及び体重からしたら、それも仕方がない。
その代わり音からして威力はだいぶ上がってそうだ。
「このじゃじゃ馬を使って、どう戦法を組み立てるか……ふむ~……。」
そして、頭の中でもイメージアップをして、少し使い勝手が見えてきた所で調整池に到着。
「……スライムは……っと居た居た。」
スライム溜まりを覗くと、中に居たのはスモールイエロースライム。
先ずは、放ってくる火球を咄嗟に防ぐ事が出来るかどうかだ。
念のため、いつもより距離を取って、スモールイエロースライムに石を投げ始める。
「重い武器があるから、どうしても手投げ感が強くなっちゃうな~。」
俺的には納得いく投球が出来ていないのだが、筋力と反応がそこそこあるのでスモールイエロースライムにダメージが通っていく。
ボゥッ
「来た来たっ!…よいしょっ!!」
そこにスモールイエロースライムからの反撃、火球が飛来。
俺は、それに対して鋤を右下から打ち上げるように振るう。
初動は多少遅いが筋力でカバーして、難なく火球を散らす事に成功。
ただ、振り抜きざまに、身体が同じ方向に持っていかれそうになってしまう。
「おっとととっ!……得物に重量が乗ってる分、いつもより手応えが少ない感じだな。」
当然、想定内の事なので、流れに逆らう事なくクルッと身体を左回転させて勢いを殺す俺。
うん、火球を打った感触も確かめられた。
「……あとは、スライムのぶっ叩き具合だ…なっ!」
俺は、言うや否やスモールイエロースライムに急速接近。
途中で2発目の火球を放たれたが、横回転しながら鋤を振るって散らす。
「無駄無駄無駄無駄無駄ぁ~っ!!」
駆け寄った勢いのままジャンプ一番、今度は打ち下ろしの一撃だ。
「重打っ!」
ドゴンッ
鋤は重低音をさせて地面に若干めり込む。
「ありゃ、手応えが……ない?」
俺の手に伝わったきたのは、ほぼ地面を叩いた感触であった。
不思議に思いつつ、鋤を地面から上げると、下にはペシャンコになったスモールイエロースライム。
核も完全に潰れ、フシュー音をさせる事なくそのまま地面に消えていく。
「重打を使ったとはいえ……スモールイエロースライムなら余裕で1発といった所か……。」
俺は、マジマジと鋤を眺めながら、改めてその威力に感心する。
「やるじゃな~い?
この武器は……アリ!だな。」
そんなわけで、今日からメイン武器が溝堀りスコップから牛引き鋤に変わった。
そして、そのおニューの武器に惚れ惚れした俺は、レベルが上がったのにも気付かず、鋤に好き好きと頬擦りをし続けるのであった。
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主人公のステータス
名前:アルベルト=ガルシア
種族:人
性別:オス
年齢:3歳
身長:97cm
体重:15kg
出身地:カルベリオ村
所属:なし
業:-1
徳:-2
Lv:27
状態:正常
体力:21/21
魔力:3/3
筋力:16
反応:12
耐久:12
持久:12(➕1)
※( )内は、前話からの変化値
職業:戦士Ⅰ
能力:棒術経験値向上E、棒威力向上E、重打F
技能:棒術Ⅰ、投擲術Ⅰ
加護:なし
装備:×牛引き鋤、麻の服、木皮の靴




