第23淡 対スライムその19
ドゴンッ
調整池中に響きそうな大きな音とともに樹が激しく揺れる。
「この手応え、たまりまへんな~。」
エセ関西弁になってしまう程、気分爽快な一撃に酔いしれる俺。
重打を能力を得てからのこの3日間、その検証に明け暮れていたのだが、
自分の攻撃の威力が増す感覚の虜になってしまっていたのである。
「カ・イ・カ・ン……ってやつだな。」
満足そうに頷いている俺だが、ただ漫然と重打を放っていただけではない。
そこはちゃんと色々な条件で使ってみて、その特性を明らかにしていた。
「フッフッフッ……元々持っていた棒威力向上Eにより攻撃の威力は1.4倍、
そこに重打Fで1.2倍で、
計1.68倍。
……更にこの2つの能力は、基礎となる攻撃の威力との掛け算となるから、助走をつけたりして威力を増せばそれに1.68掛けで……
最大通常攻撃の2~3倍威力がある攻撃が放てるぜっ。」
その上、職業による補正もあり、普通の村人からするととんでもない威力だ。
ただ、問題もないわけではない。
いくら堅い樹が先端部に使われているとはいえ、木製のスコップでは、武器としての耐久力が心許ないのである。
現に何回かのMAX攻撃で、所々が欠けてきていた。
「……う~む、金属製の得物をそろそろゲットしないといけないな……。」
どこから金属製の得物をゲットするか思案を巡らせながら、スライム溜まりを覗くと、調整した通りビッググリーンスライムが6匹とグリーンスライムが5匹居る。
あと小一時間程で、スモールイエロースライムの姿が拝めるはずである。
「さあ3日振りのバトル……楽しませてくれよ~。」
俺の方も、やる気満々で待機。
待機前にいつも通り石を集めたりとか下準備は当然やったけどね。
そこに1匹、また1匹とスモールグリーンスライムが加わっていき、あと1匹で連鎖的に合体すればという所までくる。
「イエロースライム……どんな奴なのか。」
俺の方も準備万端、鑑定単眼鏡を手に持ち、いつでもばっちこい状態だ。
そんな俺の前をぷよぷよとスモールグリーンスライムが横切り、ついにはスライム溜まりに落ち、合体による微かな光が連続する。
「……おお~、これはこれは……確かに見た目からしてイエロースライムだ。」
光の後に残っていたのは、スモールグリーンスライムと同じ30㎝くらいの黄色い半透明のスライム。
鑑定単眼鏡で透かさずステータスを確認する俺。
種族:スモールイエロースライム
状態:正常
体力:20/20
魔力:5/5
筋力:5
反応:3
耐久:10
持久:7
「う~ん、ビミョー……っというか弱い。」
ビッググリーンスライムのステータスが
体力:24/24
魔力:4/4
筋力:5
反応:2
耐久:10
持久:7
だったから、一応、魔力とか反応は上がってるんだけど……ビミョー。
別に強い魔物を期待してたわけじゃないよ?
下手して負けてしまったら、経験値稼ぎって目的どころじゃないわけだしね。
ん~、でも、やっぱりビミョー。
経験値としてもあんまり大した事なさそうなんだよね。
「……き、気を取り直して……そいっ!」
俺は、スモールイエロースライムの実力を確かめるべく石を投げる。
ボスッ
ちょっと避けそうな素振りも見えたが、普通に当たる。
あ、でも、まあまあ耐久力があるのかグリーンスライム程、石の当たった衝撃で崩れる体片の量は少ない。
再び鑑定すると体力18/20になっている。
「っという事は……それそれそれっ!」
石を8回程投げて3度目の鑑定。
見るからに弱っているスモールイエロースライムは、体力2/20だった。
一投あたり2ダメージ受けてるのね。
「これで終わりかな?……ほいっ!」
10投目となる投石が命中すると、フシュー音とともに地面に溶けてしまうスモールイエロースライム。
「俺のレベルは……あれ?上がってる!
ビッググリーンスライムより楽に倒せたのに不思議だ……。」
戦った実感のないままレベルアップしている俺。
なんとも狐につままれたような感覚だ。
「……スライムが実力を発揮する前に倒してしまったのか?
何れにせよ勝って兜の緒を締めよじゃないけど、気が弛まないようにしないとな。」
そこで、ふとスライム溜まりにウニョウニョと動く物体。
何かと思って視線を向けるとスモールグリーンスライムだ。
スモールグリーンスライム溜まりにスモールグリーンスライムが居る。
うん、ごぐごく自然な事だ……
「……っていつの間に!?」
調整池から来たのであれば、俺も途中で気付くし、そもそも調整池で発生するサイクルにしては早過ぎる。
「別に居たのが、横の草むらとかから這い出してきて落ちたのか?なんだか不吉な予感がする……。」
30分後…………はい、スライム溜まりでもスモールグリーンスライムが湧くようになってました。
ペースは、調整池の約2倍。
つまり、調整池一帯としては約3倍の湧き具合になったという事である。
「スライム溜めて倒してたら、魔素的なのもここに溜まっちゃったのか……これってヤバくないか……。」
しかし、現時点で解決法は見出だせない。
「カルロス爺さんに聞くしかないか……
ん?……いや、でもよく考えたら経験値稼ぎ的には調度良い気も……。」
…………結論。
さぁ~、明日もバリバリ狩るぞ~。
自分の利益のために、スライム溜まりを活用する事に決める俺であった。
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主人公のステータス
名前:アルベルト=ガルシア
種族:人
性別:オス
年齢:3歳
身長:96cm
体重:15kg
出身地:カルベリオ村
所属:なし
業:-1
徳:-2
Lv:23
状態:正常
体力:21/21
魔力:3/3
筋力:15
反応:11
耐久:11
持久:11(➕1)
※( )内は、前話からの変化値
職業:戦士Ⅰ
能力:棒術経験値向上E、棒威力向上E、重打F
技能:棒術Ⅰ、投擲術Ⅰ
加護:なし
装備:溝堀りスコップ、麻の服、木皮の靴




