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ライトノベルじゃあるまいし  作者: ASK
第三章【ミミル・追憶】
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第5話 自分勝手

短いです、すみません。


私情で申し訳ないのですが、シャレにならない忙しい用事に追われています。


お詫びに今週は平日にもあげられたらいいのですが。



 冷えた何かが頬に触れ、湿ったカビの臭いに目が覚めた。


 側頭部を襲う激痛に顔をしかめる。額から頬にかけてべったりと張り付いた血は、乾いて固まっていたが、顔をしかめた時にいくらか剥がれた。もう血は止まっているらしい。


 敵だらけの街で意識を失ったところまでは覚えている。というかそうなったら普通、すでに殺されていてもおかしくないのだけれど、私はこうして目を覚ました。


 手足は縛られていて、身動きは自由に取れない。屋根上から落ちたせいだろうか、全身が痛い。鈍痛が血のように体を巡る中、真っ暗などこかの中で視線を散らす。


 思ったより狭いらしく、窓や通気口も見当たらないただの狭い部屋のようだ。石造りの牢屋という言葉が浮かんだが、牢屋にしたって環境が悪すぎる。鉄格子の窓くらいあってもいいだろうに。


 瞳孔が開き、目が慣れて、この埃っぽい部屋の扉を見つけた。取っ手は高い位置にあるので届きそうにない。そもそも手足を縛られているので立ち上がることさえもできないが。


 何もない長方形の部屋の中、真っ暗な闇を見つめて思う。



「……これは絶望的な状況ってやつじゃないかな」



 痛む頭をフル稼働させて、現状を予測するに、恐らくは敵──混血獣人クティノスに捕まって、何らかの利用価値を模索する意味も込めて、こんなところに放置されているのだろう。


 ここがクティノスの軍部か、あるいは『輝石の都』の街中のどこかなのかまではわからないが、いずれにせよ私1人での脱出は難しそうだ。



「おじいちゃん、怒ってるかな」



 フロガのおじいちゃんの忠告を聞き流し、まんまと敵陣地に捕まってしまった私のことを彼は許してくれるだろうか。


 いや、そもそも怒るとかそれ以前に、もう私への興味は失せているかもしれない。何かの理由で私と行動を共にしてくれていた彼にとって、こんな形で足を引っ張る私なんて、もう必要ないのかもしれない。


 そうならば私はもう、ここで死ぬか、何かに利用されるだけで、人生が終わる。


 現状、私の味方と呼べるのはフロガのおじいちゃんくらい。彼に見捨てられたならば私はこの世界で生きていけない。ましてや敵陣地内。


 私は幼児体型だから、女として(・・・・)使われる(・・・・)ことは無いだろうけど、殺されるか、家畜のような日々を送ることになるかもしれない。人体実験とかの実験台にされたり、ひたすら労働させられたり……あぁ詰んだ。


 迷惑しかかけていないくせして、フロガのおじいちゃんの助けを待つことしかできない私。情けない。


 ──少しの恐怖と、山のような自己嫌悪に苛まれていると、不意に光が差した。


 正面の扉がゆっくり開き、隙間から差し込む光が、宙を舞う埃をキラキラと照らしている。冷たい石の床に多くの足音が響く。1人では無いようだ。



「おい、この女、起きてるじゃねぇか」


「構わない。さっさと運ぶぞ」


「女、少しでも暴れようとしたら、殺すからな」



 3人の男が部屋に入ってきた。ガタイの良い1人が私を乱暴に担ぎ上げた。他の2人は横に並んでいるが、私を見張っている。


 男の肩に担がれて、私は部屋を出た。



「“上”は今どうなってる?」


「この女の名前を出しただけで攻撃をやめたらしいぞ」


「ははっ、まじか。ぞっこんだな」



 上……とはどういうことだ? というか何が行われているんだ。そして私はどこに連れて行かれるのだろうか。


 ──割と急な階段を登る。石造りの壁を眺めながら、なるほど先ほどまでいたのは地下だったのかと気がついた。


 廊下の先、両開きの扉を押し開け、男たちは外へ出る。地上だ。心地よい風が傷口を撫でた。頑張って頭をあげると、そこには何十人もの男たちが、武器を握って立っていた。



「来たか。おい、そこで押さえとけ」



 隊列の先頭に立つ1人の男が命令し、「は!」と敬礼した、私を担ぐ男が小走りで隊列の前へ。私を下ろし、そして首に腕を回して来た。背後から首を締められる形。いや実際には締め付けられてはいないが、もう片方の手に握られた刃物が見えて、いずれにせよピンチだと察する。


 隊長らしき男が声を張る。



「龍皇! この女の命が惜しければ大人しく殺されろ! そしたらこの女は助けてやる!」



 ──何を言ってる。


 離れた位置に立つフロガのおじいちゃんと目があった。そして改めて思う。何を言ってるんだこいつらは。


 私の命に、そこまでの利用価値はない。私を殺されたくなかったら立ち去れ……くらいならばまだしも、殺されろというのはどだい、無理な話だ。


 それにフロガのおじいちゃんが私をこれからも必要としているかも定かではない。こんなことが交渉材料になるわけがない。



「──この俺が、そんな餓鬼のために命を捨てるとでも思ってるのか?」



 予想通りの返答が聞こえて来た。しかしクティノスの兵士たちは動揺した様子はない。ニヤリと笑った隊長が、腕を組んだ。



「そうは言っても、この女の名前を出した途端に、攻撃をやめたのは貴様の方ではないか、龍皇」


「聞き覚えのある名前に反応しただけだ。お前らを殺さないとは言っていない」


「しかし現に何もしてこないではないか! この女ごと我々を燃やし尽くせばいいだろうに、何故そうしない?」


「その餓鬼に別れの挨拶でもしておこうってだけだ。この俺は律儀な男だからな」


「強がるのもいいが、下手に時間を稼ごうとするならば、この女を殺すぞ」



 会話についていけない。フロガのおじいちゃんは、私なんて人質としての価値はないと言っているのに、どうしてこの兵士たちは諦めないんだ? 私ごと殺されるのも時間の問題じゃないか。


 フロガのおじいちゃんも何を突っ立っているんだ。



「おい! 紀伊きい!」


「ふぇっ、はい!」



 突然の呼びかけに驚いて声が裏返った。



「お前、この俺に言わなきゃならないこと、あるだろう」



 ジリジリと兵士たちが移動し、私を睨むフロガのおじいちゃんを囲み始めた。もうクティノスたちはフロガのおじいちゃんを逃す気は無いらしい。


 私は言葉を考える。言わなきゃならないこととは一体なんだ。



「……えっと、あの。迷惑かけちゃってごめん、おじいちゃん」



 謝罪だろうか。



「そんなこと聞いてねぇ」



 違ったようだ。



「言うべきことがあるだろ、この状況で」



 完全に兵士たちに包囲された。私は相変わらず背後から首に腕を回され、刃物を向けられている。


 クティノスの兵士たちは、私を人質として、フロガのおじいちゃんが攻撃を仕掛けないことをいいことに、有利にことを進めていく。


 よくわからないが、フロガのおじいちゃんは攻撃をしない。……いや、できないのだろうか、本当に。私がいるから?


 自信過剰過ぎやしないか、龍皇ともあろう男が、自分を傷つけないために攻撃をしていないと考えるのは。でも本当にそうだとしたら。


 そこまで思ってもらえているのだとしたら。


 ここで私が言うべきこと。


 ──私ごとこいつらを倒して、だろうか。


 ──もうこんな私には構わないでいい、だろうか。


 何にせよ、彼に迷惑をかけ、最後までとことん役立たずの私には、自己犠牲という道しかない。



「おじいちゃん──」



 私は死んでも、フロガのおじいちゃんの足を引っ張ってはいけない──けれど。



「──助けて! お願い!」


「よく言った」



 こんなところで、死んでたまるか!


 まだ人間領ミミルに帰れていないどころか、らんらんと再会すらできていない。こんなところで大人しく死んで終わりだなんてふざけるな。


 自分勝手でも何でもいい。私は生きたいんだ、何が何でも。



「よく見ておけ、紀伊──炎ってのはこんなにも美しい」



 火の粉を撒き散らす炎の柱が立ち昇る。幾つもの炎の柱は混ざり合い、竜巻となって熱で羽ばたく。ほんの一瞬。兵士たちが攻撃体勢に入り、私の背後の男が私の喉元に刃物を突き立てた瞬間に。


 緋色の花が鮮やかに咲き乱れた。


 悲鳴をあげることすらも許さない灼熱の薔薇が、兵士たちの喉を焼き、目を焼き、その命を焼く。暴れまわる炎の竜巻に、次々と兵士が飲み込まれ、そして黒く染まる。


 肌を焼く熱さに目を細めた。気がつけば手足を縛っていた縄は焼き切れていた。


 汗が滲む熱さの中で、忘れていた全身の痛みが蘇る。膝が折れ、力なく前に倒れる。



「もう行くぞ。高級な肉は次の街で買えばいい」



 地面に叩きつけられるかと思われた私の体は、熱く、太い腕に抱かれた。


 横抱きに抱き上げられ、目が合う。



「ありがとうおじいちゃん……ごめんね、私、悪い女で」


「自覚があるなら十分だ……あとな、胸ポケットの中の箱、出せ」



 突然そう言われ、私はフロガのおじいちゃんの革ジャンの胸ポケットに手を入れる。硬い感触。小さな箱を取り出すと。



「それをお前にやる。武器屋の店主を名乗る男に金を渡されたからな、金は邪魔だからそれを買った」


 武器屋の店主って、あの人か。確かに私が採取してきた素材は置いて逃げてきたから、お金をもらっていなかった。だからと言って龍皇に直接代金を渡しに行くっていうのも凄いけど。


 高級な肉をそのお金で買えばよかったのに、と思いつつ、箱をあけた。



「──シトリン?」


「……知らん」



 箱の中に入っていたのは、黄金に輝く黄水晶シトリンのイヤリング。


 金髪金眼の私にこのチョイスとは……まったく、何もわからないフリしてこの人は。



「ふふ、嬉しい。ありがとうおじいちゃん、大好き」



 ──焔の薔薇が彩ったクティノス軍部を背に、最低なワガママ女こと私は、親愛の意を込めて龍皇の頬に唇を当てたのだった。


短くてすみませんでした。


キリのいいところで納めたら3000字ほどになってしまった……ので、来週までに1、2話投稿できたらいいなと思ってます

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