第1話 光
こんにちは。勉強が忙しい。受験生だし定期考査前だし。もうダメだ。僕は死ぬ。いや死なないけども。
更新が遅いの……許しテレンス・リー。
本編いけゴラァ!(逆ギレ)
──人間領ミミル。
という名の、異世界? に私たちは今、いるらしい。あくまでこれはフィクションに染まった傘音っちの見解ではあるけれど。
場所は『自警軍』と呼ばれる治安維持機関の『警軍本局』の正面。先ほどまで中にいたのだが、特に用もない人が長居できる場所でもないので、今しがた出てきた。
大きな噴水と、それを囲むように綺麗な円を描く色とりどりのタイル。敷かれたそれらの上を歩くのが勿体無いと思えるほどに、少女心をくすぐる見た目だ。
とりあえず近くのベンチに座る。
「……これから、どうしましょうか」
手を少し震わせながら、少女は言う。肩下までの灰色の長髪。異常に整った目鼻立ちが彩る可愛らしい顔も、今は不安と恐怖に犯されている。
瑞樹っち、こと、千葉瑞樹。頭の切れも良く、大抵は冷静なので、今後どうするかを決める際にはある程度頼ろうと思っていたが、やはり女の子。怖くなってきたらしい。
「そんな怖がらなくて大丈夫だよ瑞樹っち。私たちがついてるし、みんなでいればどうにかなるから」
「……はい」
「でも、僕たちは今、家もなければお金もない。お腹もすいてきたけど買うことすらできないし」
やはりファンタジーっぽい世界観には慣れているのか、この中で最も冷静かつ正確な判断ができるのは傘音っちかもしれない。
柊傘音。青みの強い黒髪セミロング。ぱっちりした両目を囲む丸眼鏡がよく似合う。スカートの下、膝上までのスパッツをいつも履いているが、らんらん曰く、これが最高にエロいらしい。
「むぅ……では、アルバイト探しますか?」
「そんなのあるかなぁ、というか、簡単にできるものなの?」
「お金を稼いで、少なくとも今日くらいは生き延びましょう!」
別に今日くらい何も食べれなくとも死なないが……まぁ、前向きなのはいいことだ。紗江っちの良さでもあるし。
菊里紗江。肩にかかる桃色の髪、そして桃色の瞳。天然なところはあるが、その実、らんらんの家に泊まった時は一発やるつもりだったりと、何も知らないお馬鹿さんキャラというわけでもない。
何よりも特徴としては、その巨大な胸。同性の私でも一度は顔を埋めてみたいと思うほど、形良く、柔らかそうなそれは魅力的だ。
「普通にアルバイトって言っても、いろんな申し込みとか面接とかあるんじゃ……?」
「瑞樹っちの言う通りかも……でも、何もしないままよりかはいい。どこか働かせてくれるところを探そう」
町を歩く。噴水広場のタイルの如く、やたらとカラフルな町並み。少し多すぎるほどの人の波。時折見かける尻尾や大きな耳の生えた人、毛むくじゃらの人。
やはり、現実感はない。獣人とでも呼べばいいのか、猫みたいな顔の人もいる。可愛らしいが、違和感は拭えない。
ともかく、そんな不思議な町を歩いて一時間ほど。疲れて休んでいる時、紗江っちが。
「うぅ、お手洗い行きたいですー」
「公衆トイレも見つからないし……どこかの家でトイレ貸してくれるかな」
「もうだめです……そこの草むらでしてきます」
「紗江っちダメダメダメ! 女の子なんだから!」
「誰も見てませんよ……もう我慢できません」
「あぁもう! ちょっと頑張って耐えて!」
紗江っちを横抱きに抱えて走る。最も近くの家の扉を叩く。
「すみませーん!」
扉の向こうから足音が聞こえ、やがて開かれた。
「どうしました?」
「あの、お手洗いを貸して頂けませんか? もう我慢できないらしくて」
「むふふ、勿論ですとも。 そこの2つ目の扉だよ、むふふふ」
太った男性は、髭をいじりながらニヤリと笑う。あまりに見た目が怪しすぎる。いや勿論、人を見た目で判断するのはよくない。しかし、紗江っちみたいな美少女に、トイレを貸す時に、あんな笑みを浮かべられては、疑うしかない。
紗江っち1人だけでいかせては、何か起こりそうだ。男は獣だからね。
「ありがとうございます!」
私は紗江っちを抱えたまま小走りでトイレへ向かう。驚いた様子の男を置き去りに、扉を開ける。するとそこには。
「あれ? トイレじゃない──きゃっ!」
突然背中を強く押され、部屋の中に倒れる。何とか紗江っちを下敷きにしないよう、うまく倒れることに成功したが、そんな場合ではない。
扉が閉まる音に顔を上げると、鼻息の荒い太った男が、内側から鍵を閉めていた。
「……何のつもり」
「はぁ、はぁ……、君達だって、女の子だけで男の家に訪れることの意味くらい分かってるだろう? はぁ、はぁ」
「……何を言ってるの?」
「だから、そういうサービスなんだろぉっ!?」
唾を撒き散らし、大きな声を出す男。恐怖で心臓が縮む思いをした私だったが、そんな私よりも。
「きゃっ! ……あ、もう……!」
突然の大声に驚いた紗江っちが、臨界点を突破する。
「ぁ、……紀伊ちゃ……見なぃで……」
「むっひょおおおおおおおおおおお!」
紗江っちを抱いていた私の膝に感じる温かさ。滴る水音に、目の前の太った男が叫ぶ。
「も、も、漏らしてくれたぁあ! こんなサービスまで! 最高だぁ君達ぃ!」
「最低……!」
さすがに、やばいやつだと理解する。逃げるしかない。
私の胸元に顔を埋めて泣く紗江っちを持ち上げ、走り出す。一か八か、あの扉を蹴破って外に出る。
「おお! 天使の水たまり! オアシス!」
男に阻まれると警戒していた私だったが、男は私たちに目もくれず、さっきまで私たちがいた場所の温かい水たまりに飛び込もうとする。
このままなら、逃げられるかもしれない。……でも、紗江っちが大事な何かを失いそうだ。それは許せない。
「変態オヤジが……調子乗んな!」
私は紗江っちを抱えたまま回し蹴り。舌を出して今にもあの水たまりを吸い込もうとしていた男の側頭部を捉える。
「え?」
すると、太った男はまるでボールのように吹っ飛ぶ。部屋の壁にヒビを入れるほどの衝撃で、壁にぶつかり、男は泡を吹いて気絶した。
私のどこにこんな力が? というかそもそも、紗江っちを抱き上げることすら私には難しいことなのに、こんなに簡単に。
……それは後だ。早く逃げよう。
「紗江っち、もう大丈夫だからね。よく頑張ったね」
「でも、紀伊ちゃんの服、汚しちゃいました……」
「汚くない汚くない。こんな美少女のなんて、さっきの男じゃないけど、確かにサービスだよ」
別にサービスだとまでは思わないが、紗江っちが傷つくのは見たくない。それに、洗えばいいだけだ。
「どこかで下着と服、洗いたいよね。あと体も」
「さっき休んでたところの近くに川がありました」
「じゃあそこで水浴びがてら、だね」
すっかり落ち込んでる紗江っちを抱いて、私は変態男の家を出る。待っていた傘音っちと瑞樹っち。
「大丈夫? なんかすごい大声が聞こえたけど」
「大丈夫……ではなかったけど、もう大丈夫。ちょっと、服が汚れちゃったから、川の方行こうか」
「ほんとだ、なんか濡れてますね紀伊さんと紗江さん」
「急ごう急ごう!」
私は走る。紗江っちだって、漏らしちゃったことをバラされるのは恥ずかしいだろう。
人のいない草むらを抜け、辺りを見渡す。大丈夫、誰もいない。目の前の静かな川を見て呟く。
「紗江っち、もういいよ、川入ってきな」
「はい。……ありがとうございます、紀伊ちゃん」
ぐしょぐしょのスカートの端をつまんで、紗江っちは川へ向かう。私も服を脱ぐ。
「ちょ、ちょっと! 誰か来たらどうするんですか!?」
「大丈夫だよ、誰もこないって」
私は全裸になる。別に人は見当たらないし、女の子だけだ。胸がこの中で最も育ってないのだけが少し恥ずかしいが、別にいい。
「紀伊さん、全裸はさすがに……あぁ紗江さんまで……」
「冷たくて気持ちいいよ、瑞樹ちゃんもどう?」
「傘音さん、いつの間に!?」
瑞樹っち以外、全裸になった。らんらんが見たら喜びそうな空間だけど……とりあえず服を洗おう。
渋々、服を脱ぐ瑞樹っちを横目に、服をゴシゴシ。今更だが、これが乾くまで何を着ていようか。そこまで考えていなかった。
──やがて日が落ちてきて、空が夕焼けに染まる。木の枝に干しておいた服がそろそろ乾く頃だ。散々水遊びをしたが、この辺で終わらせよう。
と、その時。
「……何してんだ、お前ら」
背の高い草むらと、木々の間からいきなり出てきたのは背の高い男。
「きゃー!」
瑞樹っちが水の中に体を隠し、悲鳴をあげる。
私たちもすぐに水の中へ。やばい、見られた? まだらんらんにも見せたことないのに。
男は私たちの反応を見ても、目をそらしたり顔を背けたりしなかった。
「ちょっと! 向こう行ってください! 裸なんです!」
「ぁあ? そもそもここは変態女どもの遊び場じゃねぇんだよ。メスは大人しく子供でも作ってろ」
ブチ切れそうになったが、この喋り方には心当たりがあった。この、女をとことん蔑んだ発言、それにあの茶髪。
「──あ! えっと……香沙薙、さん!?」
私たちがこの世界に来た時、助けてくれた茶髪の男。香沙薙さんは、冷たい目で裸を見てきた。
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釣りを始めた香沙薙さんから少し離れたところで服を着る。
香沙薙さんを怖がるみんなを見て、私が行こうと決める。無論、私も怖い。それに嫌いだ。
「あの、香沙薙、さん」
「メス豚は話しかけんな」
「メス豚じゃないです、紀伊です。……あの、恥を忍んで聞くんですけど、どこか寝泊まりができる場所ってありませんか」
「この辺の宿屋は料金が高い。体を洗うのに川を使うような貧乏なメス豚には無理だ」
「う……じゃあ、お金を稼げる場所って……」
「その貧相な体を売ればいいだろ。俺には全く理解できないが、メス豚の体を好む男は多い。というか俺以外ほとんどそうだ」
最悪の提案だ。やっぱりこの人嫌い。まぁ紗江っちくらいスタイル抜群だとそりゃあ水のようにお金を稼げるかもだけどそんなことをさせるくらいなら世界を滅ぼしてやる。
諦め、3人の元へ戻ろうとしたその時。
「香沙薙さーん! ちょっとー! なんでまた会議サボってるんですか! 釣りなんていつでもできるでしょう! 僕が怒られるんですから、早く戻りましょ……あれ?」
「あ、えっと……島崎……くん、だっけ?」
現れたのは、香沙薙さんと行動を共にしていた島崎。下の名前は、確か慶次だったっけ。いずれにせよラッキーだ。この人は特別女の子に優しい。
「あの! 急いでるところ申し訳ないんだけど、島崎くん」
「名前呼んでくれた! うわぁあい! ……じゃなくて、どうしました?」
「私たち、家もお金もないの。どこかお金を稼げる場所と、なるべく安い宿屋を教えてくれない?」
少し考えた後、島崎くんは顔を上げる。
「とりあえず、『加護』を授かってみたらどうです? 戦士系加護だったら自警軍に行って部屋を貸してもらえますし」
「加護?」
「加護っていうのはですね──」
──説明を受けた私たちは、さっそく大聖堂とやらに向かった。島崎くんは、香沙薙さんを引っ張って警軍本局に戻った。
人通りの多い町を進み、やたら巨大な城を見て。
「あのお城ですかね?」
「多分違うと思う。国王がいるらしいし、あれは国王の城でしょ」
「じゃあ大聖堂ってどこにあるんでしょう?」
首をかしげる紗江っちの横で、瑞樹っちが口を開いた。
「町の案内図ありましたけど……どうやら国王のお城の一部が、そのまま大聖堂と呼ばれてるらしいです」
「へぇ、じゃあ結局あそこに向かうしかないか」
「もうだいぶ暗くなってきたし、僕らも急ごう」
傘音っちの言葉を皮切りに、小走りで、白く美しいお城へと向かった。
──縹渺たる庭。豪華絢爛な白城。
華麗な空間に息を飲む。女の子なら誰しも、綺麗なお城と、お姫様に憧れる。歳を重ねるにつれて現実的なことに傾倒しがちだが、私たちはまだ15歳。瑞樹っちは14歳。まだまだ、こんなお城は好ましい。
町の広場や大通りよりも人が多く、行き来するのは貴族らしき子綺麗な服装の人や、逆に少しみすぼらしさを感じる人も。無論、毛皮に身を包んだ人も。
やたらと騒がしいので、近くの人に声をかける。
「えっとすみません。私たち、加護を授かりたいんですが、どこにいけばいいですか? あと、何かあったんですか?」
「加護ならあの人だかりの先に行けばいいけど、何で人だかりができているかといえば、今日は加護神ベータ様がいらっしゃってるんだ。一目見ようと集まった人でミミル城もごった返しだよ」
「加護神ベータ様?」
「加護を与えてくれる神様だよ。まぁ、今日はたまたま大聖堂にいらっしゃったみたいだけど、ベータ様が別のどこか遠いところにいても、加護を授かることはできるんだけどね」
「どうすればいいですか?」
「大聖堂の奥壁の、巨大な鏡の前に立つだけでいい。不思議だけど、目の前が光に包まれる感覚の後、鏡に映る自分の姿が変化してるんだ。それが授かった加護の姿。剣士なら剣を持ち、天使なら羽が生える」
「へぇ、わざわざすみません。ありがとうございました」
「いえいえ、女性に優しく、というのは、この町の鉄則ですから。……ただ、女性だけで男性の家に訪ねるのだけはダメですよ。性欲処理の売春婦だと思われて、襲われちゃいますから」
「そ、そうですか。それにしても詳しく教えてくれますね?」
「ふふ、この町で加護のことを聞いてくるなんて、相当の世間知らずか、本当に教わらなかった人くらいだし、知る機会がなかった人にはその機会を与えるべきだ。人は知らなければ何も考えることができなくなるのだから。まぁ知ってさえいれば考えることすら必要ないこともあるけれど」
「は、はぁ」
改めてお礼を言い、深く頭を下げた。親切なのはありがたいが、少し不思議な雰囲気の人だったな。
というわけで私たちは、ベータ様とやらを見に集まった人々の間を掻き分け、大聖堂の中へ。長蛇の列の最後尾に並ぶ。
白城の外観にも負けず劣らず、中世ヨーロッパの王邸を想起させる煌びやかな内装。どれだけのお金がかかったのか考えると目眩がしそうだ。
ぶら下がり、人の列を見下ろすシャンデリア、人1人より大きな窓。彫刻に彩られた壁と柱、天井。床と、所々に描かれた天使や動物の絵が、今にも動き出しそうな躍動感に溢れ、心踊らされる。
加護とやらの存在や、非科学的な説明に、そんなバカなと思うことも少なくはなかったが、人型の犬や猫、爬虫類みたいな人を見て、この世界が普通ではないことはわかった。故に、加護なんてものが、それを求める人を護り、その人に見合った力を与えてくれるというのも、信じるにやぶさかでない。
お金はかかるのだろうか。ただあのバカでかい鏡の前に立つだけでいいのだろうか?
最後尾のここからでも鏡は見えるけど……。
「あの人の鏡、あの人以外何も映ってなかったよね?」
私が言うと。
「プライバシー保護……なんて気が利いたシステムじゃないでしょうけど、鏡の前に立つ本人にしか加護の姿は見えないんじゃないですか?」
瑞樹っちが首を傾げて言う。それにしても顔可愛いな……今更だけど。らんらんが夢中になるのもわかるけど、近親ナンチャラはダメだろうに。
でも私もらんらんが弟だったりしたら好きになっちゃうのかな。……ないな、恋してる自分が好きなだけかもしれないし、真実の愛みたいなのは言いたくない。
──なんて、恋人の1人もできたこともない芋っぽい私が恋愛観を心に巡らせているうちに、順番はやってきた。鏡の前に立つとすぐにわかるらしく、みんなほぼ立ち止まらずに進むから、長蛇の列もそれほど苦痛ではなかった。免許証の写真みたいだ。
まずは紗江っち。緊張した面持ちで、鏡の前に立つ。ふわりと揺れた桃色の髪。同色の瞳が見開かれる。
「わっ!」
目をパチパチさせる。大聖堂の役員? さんに背を押され、列が進む。去りながら、唖然とする紗江っちを横目に傘音っちが鏡に向かう。
特に驚いた反応はなく、じっくりと鏡を覗き込んでいた。
次は私。手が少し震える。この世界の非現実感を、体感するのだ。見るのでも聞くのでもない、体で。
口を真一文字に結び、まるで怒っているかのような険しい顔の私が映る。短く切りそろえた金髪ショート。金眼。背も低いし、胸もない。さすがに「私ブスなんで〜」とか自慢を孕んだ謙遜をするほど愚かではないが、そりゃまぁ、可愛い方だとは自負している。
可愛い方だとは思うけれども、やはり周りが美少女揃いだと、少し自信をなくす。昼間では街灯が光ってても誰も気づかない。
「──ぅわっ」
突然。視界を舞う光の礫。縦横無尽に駆け回る淡い光球は、やがて鏡に吸い込まれるように溶けて消えた。一度、瞬き。正面に見えたのは──
「……剣?」
私の身長ほどの剣を握る私。鏡から目を逸らし、私の手を見ると、無論、何も握ってはいない。再び鏡に視線を移せば、美しい白刃の長剣が煌めいている。
理解が追いつく前に、役員さんに腕を引かれ、列から離れた。みんなはどうだったか、後で聞くとして、さて最後は瑞樹っち。
彼女は一体、どんな加護を授かるのだろう、と。その時、背後の人の波を割って、美しいローブに身を包んだ誰かが走りこんできた。深くかぶり、影を作るフードの奥。誰だろうと不思議に思うも、人集りから聞こえる声に答えをもらう。
「ベータ様!」
「どうしました!?」
ベータ様、と呼ばれていた。なるほど、この不気味なローブの人が加護神ベータか。神様って割にはローブには普通の人間が入ってそうな雰囲気だけれど。
この世界で神と崇められるベータは、振り返った私たちの背後。たった今鏡の前に立った瑞樹っちを見て、声を張る。
「全員、速やかにここから離れ──」
「きゃぁああーッ!」
悲鳴。そして鼓膜に響く破砕音。巨大な鏡が、割れる。
蜘蛛の巣の如くヒビに侵されたガラスが、キラキラと星のように光りながら、床に落ちる。降り注ぐガラスの破片の雨の中、頭を抱える瑞樹っち。
「ちょっと! 瑞樹っち! 今行くから!」
明らかに緊急事態。悲鳴をあげる瑞樹っちのもとへ。
が、しかし。その私の手首を、加護神ベータが掴む。振り返ると同時、先ほどよりも猛々しい大声が混乱の大聖堂を震わせた。
「その少女から離れろ──!」
「──どうして……!」
刹那。瑞樹っちを中心に──否、爆心地に。目を焼く色鮮やかな光の爆発が、大聖堂を襲った。
ありがとうございました。
ついに始まりました第3章!そんなに長くありません!追憶編ですからね。
紀伊ちゃんたちが蘭とこの世界で再開するまでの5年間をささーっといきたいと思いまする。