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ライトノベルじゃあるまいし  作者: ASK
第ニ章【ゴブリン・パトリダ】
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第63話 頭蓋骨を形どった笛

こんにちは。


GWも受験勉強。


ツライお❤︎


頭おかしくなりそうだぜ☆(時既に遅し)



 『黒曜団』の大反乱から約半年。


 連日のパトリダへの襲撃にも慣れてきた。いくら傭兵ようへいや殺し屋を雇い、パトリダに向かわせても、誰1人生きて帰ってこない現状には、始祖の集まり『始祖会合』も、違和感を感じ始めた。


 弱いはずのゴブリンに勝てない。


 そのギャップ(・・・・)こそが、ゴブリンという種族が隠し持ってきた伝家の宝刀。昔から、ゴブリンには強い個体もいるということを知っている者も一部いるが、世界的な視野で見ればまだ最弱種族のレッテルに傷はない。


 とはいえ先述の通り、連戦連勝を続けるパトリダに対する始祖たちの懐疑心も強まってきた。それを原因に、多種族協力のもと、大規模な“ゴブリン駆除作戦”なんてものを組まれれば、いくら粒ぞろいの現パトリダとはいえ、たまったものではなかった。


 世界新聞などで情報が広まり、世界を揺るがせた『4番目(デルタ)』。その存在が人間領で確認され、一時的に始祖たちの注目がそちらに逸れたが、デルタが行方不明になってから時間が経つと、再びパトリダに始祖たちの目が向く。


 デルタは最重要課題として棚に上げつつ、とりあえずは危険分子であるゴブリンの駆除。始祖としての権力や財力を駆使し、集めた兵士たちが幾度となく返り討ちにされた現状を受け止め、そして世界がゴブリンの実力を疑い始める。


 世界新聞もこの戦いを放っておくわけもなく、記事はそれほど大きくないが、毎日のようにパトリダと始祖会合との戦いが報道された。


 あれだけ弱いと、劣等種だと。そう言われ続けてきたゴブリンだが、これだけのことをしでかせば無論、混乱を生む。使用言語の違いから、我々ゴブリンは他種族からしたら、意味不明の言葉を発する気色の悪い生物。そんな奴らが、世界のトップ、始祖会合に一泡吹かせているとなれば、“悪い奴ら”が食いつく。


 世界中でデマが蔓延する。


 ──ゴブリンは人を喰う。ゴブリンは病原菌を持っている。


 今さらではあるが、ゴブリンへの世界の嫌悪感が増幅した。──いや、嫌悪感に、恐怖感が加わっただけに過ぎないのかもしれない。


 世界との共存なんて夢のまた夢だが、酷く敵対視され続けるのも世知辛い。何度も言うが、“今さら”であることに変わりないけれど。


 そして、始祖会合はついに、最悪の選択をする。



「──人間に頼るのか、始祖会合あいつら



 世界新聞を読んで呟く。最悪中の最悪。


 ──この世界における『人間』という種族は、始祖である創造神アルファが既に死んでいるため、世界の“方向”や“色”を操り、頂点に君臨する始祖会合には、人間の姿はなかった。


 ゆえに、世界規模の権力を持った始祖会合よりも、政治的な力は乏しい。しかし、世界への影響力は群を向いてトップ。人間種族のリーダーが、始祖会合に属していないということは、世界の頂点と分断されていることだけでなく、それらの権力とは一線を画すという意味合いを持つ。


 世界がどうあるべきか、それを導く始祖会合でさえ、人間という特異な種族は操れない。彼らは独自の技術力、文化、政治によって、世界から一目置かれる存在であった。人間以外の他種族が暮らせる地域を建設したり、世界最高峰の軍隊を所持していたり。


 象徴としても、実権としてもトップである始祖会合と、対をなす第二の巨大勢力と言えた。


 独走する軍部の存在が、世界中に戦争を仕掛け、耐えない争いを繰り返すせいで、人間種族の株を下げ、一目置かれていると同時に嫌われているが、それは無論ゴブリンのような生理的な嫌われ方ではなく、戦いに狂った野蛮な種族という認識だ。


 そして今回、その野蛮な種族を、始祖会合が雇った。



「『人間種族軍部下・対戦闘特殊部隊の派遣を決定』……人間のプライドはどこにいったんだろうね、これまで始祖たちの言うことを大人しく聞くことなんてなかったのに」



 アグノスも首をかしげる。


 始祖会合と、実質、同等の力を有している人間だからこそ、始祖会合に雇われた形になったのが不思議だ。彼らは彼らの判断で動いてきたのに、ここにきて始祖会合に従うことに何の意味があるのか。



「とっておきの報酬を用意されたのではないか?」



 アマルティアの言う通り、人間にとって始祖会合を頼ってでも手に入れたい何か、あるいは成し遂げたい何かがあったのかもしれない。いずれにせよ、人間種族が攻めてくると分かれば、最大級の警戒をしなければならないことに変わりはない。


 しかし、奇襲や不意打ちでもなく、こうして世界新聞で世界中に──ゴブリンにさえこの情報を晒していることから、未だに始祖会合が俺たちゴブリンを舐めてるのがわかる。


 その油断をついて争いを有利に進めたかったが、人間種族はゴブリンを過小評価してくれない。



「彼らと戦うのですか……ついに」



 ピズマも唾を飲む。そう、始祖会合が雇った特殊部隊とは、勿論。



「──『よいあかつき両隊の戦闘準備が進む』……か。嬉しくねぇな」


「キイと、戦わなければならないのか? ……私は、嫌だぞ」


紀伊きいは僕が相手をする。これだけは譲れないよ」


「しかしアグノス、キイは、友達で……」


「こうなるのをわかってても、紀伊たちは僕らに優しくしてくれてたんだ。それを引きずって剣が鈍れば、紀伊が悲しむ」



 紀伊ちゃん。紗江さえ傘音かさね。ついでに島崎。


 対キリグマ戦で共に戦った頼もしい戦友が、今度は最悪の敵となる。


 世界最強の戦闘狂集団。その強さは知っている。



「ひゃはは。今さら何言ってんだ。俺たちはゴブリン(・・・・)だぜ? まともで幸せな人生歩めると思ってたのか?」


「そういうこと言うなよレプトス。俺たちだってわかってる。けど、それでも対等に接してくれたあいつらと戦うのは、嫌に決まってる」


「俺の弟子ながら甘っちょろいこと言ってるけどよ、多分あっちは躊躇なく殺しに来るぜ? ひゃはは」


「わかってる……わかってるよ」



 特に俺は、彼女たちを殺すなんてできない。5年も前に、たったの数日間だけ同じ時間を過ごした、ただそれだけでも。俺は彼女たちが好きで、失いたくない。


 でも、もう最善は存在しない。戦争はやめられないし、ゴブリンか人間の部隊、どちらかが壊滅的な被害を受けなければ、終わらないのだ。


 いや、それでさえ終わらない。ゴブリンが絶滅するまで。



「しかし、あの戦闘部隊と戦うとなると、一筋縄ではいきません。完璧にこちらが有利な状況でもないと、被害なく勝つというのは不可能ですし」



 ピズマは顔を上げた。確かにそうだ、戦いたくないとかそれどころではない、彼女らの思うように戦いが進めば、俺たちは確実に殺される。



「でも、下手に作戦を考えたって、そんな小細工でどうにかなるとも思えないよね」


「だがアグノス、わたし達はともかくアマルティア様やラン様が単独で動くのは危険じゃないか?」


「ピズマは心配性すぎるんだ。アマルティアくんは十分強い。ランくんも、持ち前のズル賢さでどうにかなるだろう? なぁレプトス」


「ひゃはは、どうかな。まだまだひよっこだからなぁ。まぁ、それでも戦う以外にはねぇけどな」



 未だに受け入れられない俺とアマルティアを置いて、アグノスとピズマとレプトスは、話を続ける。彼らはこれまでずっと戦ってきて、ゴブリンという立場の弱さや、生まれた瞬間から決められた悲しい運命を知り、受け入れている。


 ゴブリンとして生まれた時点で、“普通”の生活なんて出来やしない。


 そんな簡単なことでさえ、俺たちはわかっていない──わけではない。が、しかし。



「……部屋に戻ってる」


「あ、ラン! ……私も!」



 俺はどうしても受け入れなれない。無理だ、無理に決まってる。


 おそらく、もうじきアマルティアは受け入れるのだろう。アマルティアは頭がいいし、しっかりした男だ。俺みたいなクズとは違い、察しも決断も早い。


 1番子供なのは俺だ。俺だけだ。それでも。



「何かないのか、誰も死なない方法は。誰も傷つかない未来は」



 噛み締めた下唇に血が滲んだ。舌を伝う鉄の味に、嫌気がさした。


 夕飯も食べずに俺は寝た。現実を見たくなかった。


 ──もちろん、運命は、その歩みを止めることはない。




❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎




 凄まじい神法の光。


 朝の陽光さえ塗りつぶす勁烈けいれつの力が、パトリダ外周の森を包んだ。


 それに気がついたパトリダ幹部唯一の『神託者ウィザード』、デクシア・コインが、神法さえも無効化する防御神法──アスピダを発動したその時には、すでに。



「霧が……なくなってる……!?」



 パトリダを囲う森の、視界を遮る濃霧が、跡形もなく、消え去った。あの霧があったからこそ、あの森での戦闘はゴブリンにとって有利なものだったのに。


 あの霧に慣れ親しんだ俺たち特有の戦い方が封じられた。こんな大規模な神法を使える人間がいるのか。



「人間領方面の森へ向かう! 霧がない上に奴らは強い、油断だけはするな!」



 アグノスが声を張り上げ、次いで兵士たちの雄叫びが上がる。


 ──戦いが、始まった。



「……ラン、その、私は」


「わかってる。ありがとなティア。俺ももう覚悟を決めたから」


「……そうか。それでは、健闘を祈る」



 アマルティアの背中を見つめ、拳を握る。もう選択肢はない。


 彼女たちと、戦うしか。


 でも、俺がもし本当にこの物語の主人公なら。


 俺がもし本当に、このライトノベルみたいな世界の中心なら。


 起きるかもしれない。圧倒的なまでに、理不尽な──奇跡が。



「──おい」



 神に祈るような気持ちで、奇跡を望む俺の肩に、手が置かれる。


 振り返る前から誰かはわかっている。



「なんだ、レプトス」


「人間の女たち、お前の前の世界での友達なんだろ? ひゃはは」


「ああ。でも、もう逃げられない。みんなが幸せになる方法なんて、何かの奇跡が起こるかしないと」


「ひゃはは、それもそうだな。……まぁ、方法はないでもないけどな」



 勢いよく顔を上げる。いつも通りのにやけ顔。俺は震えた声で問いかける。



「レプトス、お前なら、どうにかできるのか? この絶望的な運命を……」


「俺じゃねぇ、お前だ。どうにかすんのは」


「…………俺? 本当に? だって、もう戦いは始まってて……」


「南西に向かって走れ。真西では戦闘が始まってる。安全な最短距離を進むなら南西だ。戦場のギリギリ横を通るくらいでもいい」


「え?」


「森を抜けろ。その先に行けば全てわかる。あと、これを持っとけ」



 俺の理解が追いつかないままに、手渡される。


 ──『頭蓋骨を形どった笛』。


 わけもわからず、レプトスの言葉を待つ。



「何かあったらそれを吹け。俺が駆けつける」


「いや、レプトス、お前何を言って……」


「急げ、南西だ、いいな?」


「レプト──」


「確かめてこい、お前が主人公かどうか」



 背中を強く押され、思わず地面に転がる。起き上がるとそこにレプトスの姿はなく西の森の方向から聞こえる怒号と、鋼のぶつかり合う音に、寒気がした。


 頭蓋骨を形どった笛をポケットにしまい、俺は走り出す。西の空が赤く染まっていた。誰かが森に火をつけたのだろうか。もうすでに、誰か仲間がやられているかもしれない。


 助けに行きたい、けど。ひたすら、南西へ。


 もう俺にできることなんて何もないと思っていた。



「俺が主人公か、否か……賭けてやるよ、俺の全てをもって……!」




❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎




 暗い森。朝方だとしても、霧がなくとも、頭上を覆う枝葉のせいで、夜を思わせる闇。


 時折吹いた風に、重なる枝葉が揺らされて、差し込む日差しと涼しさ。


 近くから聞こえる戦闘の音。耳を塞ぎたくなるような現実。今も彼女たちが戦っているのだと思うと、心臓が痛む。早く、早くなんとかしなければ。


 恐ろしいほどに誰もいない、森の中を進む。


 森を抜けるだけなら、まっすぐ進めばいい。もう迷わない。


 転びそうなほどに悪い足場を蹴り、闇を駆ける。


 そして、目を閉じたような黒の真ん中に──それは現れた。



「──誰だ、お前」


「…………」



 ボロボロの外套がいとうを羽織り、旅装束とも見える服装。


 おそらくは男。しかし、筋骨隆々なわけでも、これと言って高身長で細身なわけでもない。


 しかし、その顔に貼り付けられた『仮面マスク』を見る限り、まとも(・・・)なやつではないと、それだけはわかった。


 異様な男。ただ立ち尽くし、こちらをじっと見ている。


 これまでに戦った、元龍皇フロガや、キリグマのような威圧感もなければ、ピズマをスタヴロス監獄に収容しようと襲ってきた鉄仮面の機械人間のような気味悪さもない。


 仮面という点では、あの機械人間と同じだが、この男の仮面は鉄ではないように見える。


 深い蒼を孕んだ黒。群青色と黒の間。そんな色の仮面。顔全体を隠すそれは、闇の中でも鈍く光っているようにも見えた。


 いずれにせよ、この状況で、俺の目の前に現れたとすれば、おそらく味方ではないだろう。


 怪しさだけを纏った男。



「もう一度問う、お前は誰だ?」


「…………」


「答えない、か。悪いけど、俺は急いでるんだ、言葉も話せないやつに構ってられない」



 歩き出す。じっとこちらを見る男の横を通り抜けようとする──刹那。



「ぎッ!?」



 肩を襲った鈍い痛みに、全身の筋肉が強張った。


 熱い。血が伝う腕が震える。一瞬で、背中と脇が嫌な汗で冷える。



「──てめぇッ!」


「…………」



 ナイフケースからナイフを抜く。幸い、傷を負ったのは左肩。右利きの俺は片腕でも戦える。


 距離をとってナイフを構えた。──男も、ナイフを持っていた。


 なるほど、左肩は刺されたらしい。鋭い痛みからそんな気はしていたが、相手もナイフとなると、やりづらい。



「やっぱ敵かよ!」



 顔が見えない不気味さだけで、特別強そうなオーラは感じない。


 一気に肉薄。ナイフを振るう。弾かれた。


 縦横無尽に立ち回り、死に物狂いで刃を滑らす。空を切った煌めき。いくら左肩に傷を負っているとはいえ、ここまで攻めても全て防がれるのはおかしい。


 弾かれ、受け流され、避けられる。何度でも言うが、そんなに強そうな雰囲気は全く感じないのに。


 柔らかい動き。戦闘に慣れているのはわかるが、それにしても勘がよすぎる。俺が動く方向やフェイント、時折混ぜる蹴りなども、全て読まれている気がする。


 2分ほどだろうか、ナイフ同士で命を奪い合い、そして気がつく。


 この戦い方は。この男の、戦い方は。



「俺と──レプトスと、同じ……!?」



 俺の動きと同じ動き。つまりは、その戦い方を教えてくれたレプトスと同じ。


 暗闇の中、恐ろしい事実に気がついた俺の視界の中央。群青色の仮面の奥に一体何があるのか。


 恐怖は試す。そして再度、しつこいほどに問う。


 ──お前は本当に主人公か?



ありがとうございました!


主人公。奇跡。救い。追い求めるべきです、男なら。

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