第62話 雨の壁
おはよウサギ!(懐かしい)
視力検査の結果、両目ともD。眼鏡を掛けても両目ともCでした。
おっぱいを揉めば視力回復すると思うので、女子更衣室でスタンバイしてきます。
…………本編どぞ。
「ティアー、もうちょい強め」
「うーむ、調整が難しいな」
パトリダ中央地、王宮中庭。
カーテンのように、薄く、ゆらゆらと揺らぎながら、雨が降る。
無論、昼前の陽気。照りつける太陽に目を細める。こめかみを指で押さえながら、アマルティアが唸る。
「ぅう、“雨の壁”なんて実現できるのか?」
「ティアならできる! 可愛いから!」
「嬉しくないぞ」
アマルティアが挑戦しているのは、雨の壁。
この前の、『黒曜団』による大規模な反乱の際、壊された中央地外壁の西側を、水の塊で塞いだことがあった。その時は、その場所に水を留め、壁の形を維持させるだけだったが、今回俺が提案したのは、本格的に“雨”。
というのも、パトリダの領土を戦争に勝って広くするという約束のもと、反乱が収まったはいいが、土地を広げるというのが簡単なことではないと、後になって気がついた。
今現在のパトリダは、その土地を一周、ぐるっと囲う森が存在し、その森は昼間でも暗く、濃霧が立ち込めるちょっとした秘境みたいなものだ。それは、下手に這入れば迷ったり、その森を知り尽くしたゴブリンと戦う場所としては不利ということで、戦争中でもない限り、誰も近寄らない理由になる。
森がある、というだけだが、それでもパトリダの土地を守るには十分な役割を果たしてきた。
しかし、その外にパトリダを広げようというのなら、外周の森に変わる、新たな“壁”が必要だ。目に見える国境といっても差し支えない。
ここまでは俺たちゴブリンの土地である、と。そう示せる印が欲しい。そして何より、それが強靭な壁として機能すれば、土地を取り返されたり、他種族に奪われたりすることもないし、簡単に侵入者を入れてしまい、市民が被害に遭うということもなくなるだろう。
しかしそんな強靭な壁なんて作る時間もお金もない。ならば、世界で唯一の存在である、アマルティアなら、『龍の加護』の力でどうにかできるのでは、と考えた。
「……しかし、壁のように雨を降らせても、濡れるだけだから普通に出入りできてしまうのではないか?」
「そこはティアの腕前次第だ。雨の勢いを殺人的なまでにしちゃえばいい」
「ええ、それではパトリダ内のゴブリンが外に出ることができないではないか」
「みんな出ねぇだろ。外になんか」
「一生をパトリダの中だけで過ごすのが嫌な者だっているだろうに」
うーん。キリグマ戦の時、アマルティアが雨を弾丸のように扱い、戦っていたのを思い出して、その弾丸の雨でパトリダを囲ってしまえば、誰も這入れないと思ったんだけど。
外の世界を旅したい奴だっているのか。
広くなったパトリダの周りを囲うほどの大規模な雨を降らせている中、一部だけ雨を止ませて出入り口にするというのは、さすがに無理だろうな。そこまで器用なことはできないはず。
せっかく『雨の龍皇』がいるんだから、雨を使った方法を試したかったんだけど。
「何かいいアイデアないかな」
「ランのアイデアは突飛すぎるのだ」
「みんなに聞いてこようかな」
「私は疲れた、お風呂に入ってくる」
「体拭いた後の布は俺の枕に巻いておいてくれ」
「意味がわからん」
汗を拭うアマルティアと別れ、俺は王宮の玄関へ。
世界新聞での大ニュース『4番目降臨』。あれの影響かどうかは知らないが、あの日以来、他種族がパトリダを攻めてくることがなくなった。
パトリダ外周の森に侵入してきた敵はいつも、『始祖会合』によって雇われた傭兵や殺し屋だったが、その始祖たちが、俺たちゴブリンよりも優先すべき事柄に着手していると見ていいだろう。
十中八九、デルタ。どんな能力なのか、どんな人物なのか。始祖たちにとって敵なのか味方なのか。この世界の方向性を司る始祖たちにとって、デルタは時代を変えるに足る人物。
ならば、最低最弱の種族、ゴブリンの相手なんぞ後回しに、デルタについて調べる方が先だという判断だろう。故に、最近は敵が攻めてこない。
気が緩んでいるわけではないが、久しぶりの“普通の日”。今くらい、戦いからは目を逸らそう。
まぁ結局、敵をパトリダに侵入させないための壁作りなんてしてる時点で、争いのない世界なんて想定していないけど、平和が続くための手段として戦うのなら、仕方ない。
もう、遊び半分で命が奪われるような、そんな理不尽な扱いは受けたくないんだ。俺たちは劣等種じゃない。
「世界を見返す第一歩のために、アイデア収集!」
俺は螺旋階段を駆け上がる。5歳児の俺の小さな体にとって、この王宮はかなり広いが、5年も住んでればもう部屋は覚えた。まずはあいつの部屋から。
「ピズマー!」
ノックもなしに扉を開ける。
「うわっ、ラン様!? ……って、あああああッ!」
「どうしたピズマ」
几帳面に整理整頓の行き届いた部屋の中心、机に向かっているピズマが頭を抱えて叫び散らす。
机の上には、よくわからない木片。
「何だこれ? うんこ?」
「違いますよ! もう! 彫刻に挑戦してたんです! それなのにラン様が驚かせるから!」
あー、なるほど。このうんこみたいなのは彫刻の一部か。
「何を作ってたんだ?」
「……熊です。でも驚いた拍子に頭がへし折れてしまって……」
「かわいそうな熊さん……」
「誰のせいだと思ってるんですか!」
しかし、ピズマは体がでかくてめちゃめちゃ強いくせに、趣味といったら彫刻やら裁縫、料理とか、なんかイメージに合わないんだよな。そういう性格だから、男なのに『天使』の加護を授かったのかもしれないけど。
──やたら怒るピズマの肩に手を置く。
「落ち着けピズマ。今度、中央地外にある彫刻作品とか売ってるお店に連れてってやるから」
「そ、そんなところあるんですか?」
「あぁ。……それでな、本題は別だ。アマルティアの雨を使って、パトリダ外周の森に代わる“壁”を作りたいんだけど、いいアイデアないか?」
目を丸くしたピズマ。数秒後、趣旨を理解したらしく、うーんと唸りながら考え始めた。
ピズマは頭がいいからな、期待できそうだ。
「……雨の壁というか、あの日の“水の壁”みたいに、雨を集めた水の塊を壁として扱えばいいのでは?」
「うーん、ティアが言うには、あれってかなり神経使うらしいんだよ。そんなのを常に展開するのは現実的じゃない」
「雨を降らすのには、神経は使わないのですか?」
「使わないこともないけど、ほぼ無意識でも雨を降らせることができるから、雨の壁の作り方さえ頭に叩き込めば、常に無意識でも、パトリダを守れると思うって言ってた」
「広大な土地を囲う規模の雨を、無意識のうちに降らせることができるとは……龍皇とはまた恐ろしい力の持ち主ですね」
「ほんとそれ。……ま、ピズマにいいアイデアを期待したのも悪手だったわ」
「そんな言い方ないでしょう!?」
「彫刻壊してごめんな、次の作品も頑張ってくれ」
扉を閉める。ノックもせずに開けるのはよくないな。気をつけよう。
次の部屋に向かう。隅々まで掃除され、ピカピカの廊下を滑るように歩く。立ち入り禁止と書かれた扉の前に立つ。
この部屋の主は、ノックしないで入れば殺してくるだろうけど、ノックしても入れてくれなさそうなんだよなぁ。
ここは盗賊としての実力を発揮しよう。音もなく扉を開けるくらい、造作もない!
「こんにちわー」
もはや口パクに近いほどの小声でそう言って、扉を音もなく、ゆっくりと開ける。
少しの隙間から、部屋の中を覗き見る。
「んむぅ、れろ、ん。……にぃ、好きぃ」
「こらこらこらこらこらこら!」
思わず扉を思い切り開け、大声を出しながら部屋に飛び込む。
部屋の中では、ベッドでぐっすりと眠っているデクシア・コインと、その唇を貪る妹、アリステラ・コイン。
アリステラが兄であるデクシアのことを性的に好きなのは周知の事実だが、まさか寝込みを襲っているとは。これは片思いでは済まされない!
「何してんじゃクソビ◯チこらぁ!」
「はぁ!? なに勝手に入ってんだクソガキ……!」
「寝込みはダメでしょうが! デクシアの口元ベットベトになってるじゃん! これはひどい!」
「にぃとアリステラは両想いだからいいんだよ! 殺すぞ!」
「両想いなら起きてる時にやれよ! なんで寝てる時に…………って、おい」
口を犯されたデクシアを凝視すると。顔の周りに、光の粒が浮いている。
これは、まさしく“神法の残滓”。
「デクシア、寝てるんじゃなくて、眠らせられてるんじゃねぇかよ!」
「何が悪い!」
「神法で眠らせてからのレ◯プとか何考えてんだお前!?」
上着を脱がされたデクシアの上半身を手で撫りながら、アリステラは激昂する。
「うるさいクソガキ! たかが5年しか生きてない赤ん坊にはわかんない世界なんだよ!」
「何だとコラ、兄と違って口が悪いなクソアマ!」
「3秒以内に出て行け、殺すぞ」
「こっわ! ……レ◯プ反対! レ◯プ撲滅! 反対はんたーい!」
「3、2……」
「お邪魔しました!」
扉を閉めて全力疾走。なんてことだ、デクシアが犯されていた。いやまだ唇を奪われてただけではあるけど、あの後に何をされるか想像したら、それを寝てる間にされてしまうデクシアが可哀想で仕方ない。
兄が好きだからって眠らせて襲うって最低だろあの女。しかも、俺と口論しながら、さりげなくデクシアの乳首を指で弄ってたし。何してんだあいつ。
デクシアもシスコンではあるけど、アリステラのことを性的な目では見ていないし……まさか寝てる間に大人の階段を登っていたなんて知らないんだろうなぁ。
階段を登っていたというか、アリステラに引きずり上げられてたというパターンだけども。
忘れよう。あれはR-18だ。次の部屋に行こう。
──廊下の角を曲がる。
長い廊下の先、ボロボロの扉の前で立ち止まり、ノックする。
「おーい」
反応がないのでもう一度ノックすると、少しして、扉が開いた。
「あれ、ランくん、どうしたの」
「おっすアグノス。話があってさ」
汗だくのアグノスが水を片手に出てきた。これは予想通り。
アグノスの部屋はやたら広く、部屋の奥に設置されたトレーニングスペースで、いつも筋トレやら剣の素振りやらをしている。集中すると周りの声が聞こえなくなる時があるので、1回目のノックに気がつかなかったのもいつものことだ。
せっかくの戦いのない日くらい、休みたいと思う俺は、こういうストイックな奴には一生勝てないんだろうな。
「特訓の邪魔して悪いな、1つ聞くだけで帰るから」
「お気遣いどうも、で? アマルティアくんのこと?」
「よくわかったな。そうなんだけどさ──」
雨を使って、パトリダを守る方法を探していて、いいアイデアが欲しいことを伝える。水を飲みつつ、目を閉じたアグノスは、口元を拭う。
「そうだなぁ。……“雨の迷路”なんてどう? 雨の壁で迷路を作って、敵を迷わせるみたいな。パトリダから外に出るためのルートは掲示したりして知らせておけばいいでしょ?」
「おお、やっとまともなアイデアが出た。雨の迷路か。ティアに提案してみるよ、ありがとうアグノス」
「いえいえ、パトリダを守るため、アマルティアくんには頑張ってもらわないとね」
「任せっきりだからな、だからせめて戦いの時以外、ティアのためにやれることはやってあげたいし、俺も頑張るわ」
笑顔で扉を閉めるアグノス。やっぱりいい男だな。アマルティアが師匠としてめちゃくちゃ尊敬してるのもわかる気がする。
対して俺の師匠は……はぁ。
「呼んだか?」
「ぅびゃあがっあッ!?」
背後から投げかけられた声に、肩を跳ねさせる。死ぬほどびっくりした。
いやもうこういう男だって知ってるけど、いざいきなり驚かされると、心臓がキュってなる。
「……レプトス、頼むから普通に話しかけてくれ」
「いや、呼んだか? って普通だろ。ひゃはは」
いきなり背後から声をかけるのは普通ではない。頭おかしいのかこいつ。
「まぁいいや、どうせ俺が何を求めて王宮を歩き回ってるのかも知ってるんだろ?」
「ひゃはは、まぁな。しかし俺にアイデアはないぜ。何も思い浮かばねぇ」
「役立たずめ!」
「あん? 剥がすぞ?」
「何をだよ! 怖ぇよ!」
何かは知らないが、剥がされてたまるか。逃げよう。
「俺は忙しいんだ、イタズラしたいなら他を当たってくれ!」
「ひゃはは、俺も暇ってわけじゃねぇよ。ここにいるのも偶々だ。仕事があるからな」
「じゃあお互い頑張ろう、いえーい。はい、さよなら」
「適当に返事すんなよ、お師匠様だぞ」
「自称する時点でダサい」
「ひゃはは」
笑いながらめっちゃ首を絞めてくるので振り払って走って逃げた。
──螺旋階段を下りて一階へ。
食堂の前を通り、奥の部屋に入る。
「おっす、少しだけ時間ある?」
「あら、ランちゃん」
王宮一階奥、治療室。
ピズマは『天使』として世界最高レベルだが、戦力としても欠かせないため、怪我をした時はピズマの神力を浪費しないために、この治療室で治してもらう。
ピズマの回復神法は確かに規格外だが、この治療室の主も『天使』界隈では名のある人物。
「イギア姉、それは?」
「これ? これは治療を頼まれたのよ」
イギア姉が持っているのは、割れた木片。
「誰に?」
「ピズマ」
「何してんだあいつ」
俺に驚いて壊してしまった熊の彫刻を、あろうことか治療室に持ってくるってどういう頭してんだよ。ショックすぎて冷静さを欠いてるじゃねぇか。
「それ、熊の彫刻らしいよ」
「あら、そうだったの。何をモデルにしてるのかわからないから治しようがなかったけど、熊だったのね」
「てか治すってなに? 回復神法は無機物に効かないでしょ?」
「治すというか、直す、ね」
「多分文字起こししないと伝わらないよそれ」
「作り直すのよ。私、彫刻得意だし。っていうかピズマに彫刻教えて上げたの私だし」
おお、イギア姉は彫刻もできるのか。もしかして王宮の裏庭に飾られてる大量の彫刻ってイギア姉の作品だったのかな。
「まぁそれはともかく──」
またも説明。雨の迷路という案が出たことも伝えた。
下手くそな熊の彫刻の破片を見ながら、悩んでいる様子。
何か画期的なアイデアさえあればいいんだけど、中々浮かばない。
「……ごめんなさい、これといっていい案は浮かばないわ」
「そっか」
「でも、あの森はどうするの?」
「森? パトリダ外周の?」
「そう。あの霧の深い森は、パトリダを守るという意味では便利だけれど、その外もパトリダにしようって言うなら、あの森は多少、邪魔じゃない?」
確かに。森を知り尽くしている者も多いが、俺を含め、あの森に入ると毎回迷う者も少なくない。というのも、森の外に出ようとは思わないゴブリンもかなり多いからだ。
いざパトリダが広くなりました、となっても、パトリダ市民があの森の外へ、迷ってしまって出られないなんてことになったら意味がない。
あの森は無くした方がいいのだろうか。
「全部伐採とまではいかなくても、何箇所か通行路として伐採すればいいでしょ」
「……それがベストだな。うん。ありがとうイギア姉、森のことは忘れてたから助かった」
「雨の活用については力になれなかったけど、頑張ってちょうだい」
新しい木材を取り出して削り始めたイギア姉。俺は手を振って治療室を出た。
角を曲がった奥に、大浴場があるが、その外にも露天風呂がある。アマルティアがどちらにいるかは匂いでわかるので、俺は真っ先に露天風呂へ向かう。
匂い? え? 気持ち悪い? うるせぇなバーカ!
「やっぱり露天風呂は外から覗くに限るな」
俺は裏庭から露天風呂の方へ向かう。背の高い竹が重なり、壁となっている。
立ち昇る湯気を見上げ、俺は近くの木に登る。竹の壁は滑って登りづらいので、近くの木から飛び降りる方が早い。
アマルティアの風呂を覗くのは日課だが、アマルティアは男だから不自然な湯気や光が発生しない。
──合法チクビである。
「さてさて、可愛いアマルティアちゃんは……」
「曲者ー!」
「ぎゃっ!」
木の枝にぶら下がりながら湯気の中の人影を見つめていたら、石ころが飛んできておでこにヒットした。
泣きそうになりながら露天風呂に落下。落下中に服を脱ぎ捨てる神業を披露するが、直後、水飛沫と痛みに襲われる。
熱いくらいの湯。最高に気持ちいい。
「極楽だなぁ」
「おい」
「お、どうしたんすか、ティアさんじゃないっすか。奇遇っすね」
「何をしてるんだ、ラン。いいアイデアを聞いて回っていたのではなかったのか?」
「聞いてきたよ、アグノスの考えた“雨の迷路”ってのが面白そうだった」
腰に手を当て、頬を膨らませるアマルティア。少しのぼせているのか、肌も顔も赤い。
美しいお尻を見ながら説明した。
「ふむ、迷路か。面白そうだ」
「それはそうと、なんで俺がいるってわかったんだ? これでも盗賊見習いだから、気配は消せてた筈なんだけど」
「ふふん、それはな。私の張った“網”に引っかかったからだ」
「網?」
「うむ。センサーとも言えるが、網のように雨粒を配置して、それに何か触れれば、私にはすぐわかるという、新たな雨の活用法を編み出したのだ。これは毎晩ずっと練習を重ね──」
「それだぁぁぁああッ!」
ザバッと立ち上がり、股間をブルンブルンさせながら近づく。
困惑の色を見せるアマルティアの両肩をがっしりと掴む。
「そのセンサーで、パトリダを囲えるか!?」
キョトンとするアマルティア。可愛い。ちゅーしたい。……って違う!
──2秒ほど停止した後、アマルティアが目を見開く。
「そうか! その手があったか!」
「それだ! それしかないんだ! いえーい!」
「いえーい……って、しかしラン、それができたとして、常に私が侵入者が雨粒に触れるか、感覚を研ぎ澄ませていなければならないのか?」
「そこは工夫しようぜ!」
ハイテンションの俺はアマルティアを置いて走り出す。先ほど脱ぎ捨てた服を拾い、脱衣所に向かう。
「雨を使ったシステムを独立させればいいんだよ! ティアなら出来るさ!」
「ま、待ってくれ」
アマルティアが追いかけてくる。布で体を拭きながら俺は笑う。
「例えば、東西南北を示すコンパスを、お盆の底に描くだろ? んで、水を入れて、パトリダを囲む雨粒に何か触れたら、お盆の中の水が変化する、みたいな!」
「もし南側の雨粒が何者かに干渉されたら、お盆に描かれた南側の水が動き出したり、泡立ったりすればいいのか?」
「そう! そんなことができるのかが疑問だけど!」
「神法の力を借りればできると思うぞ」
「じゃあ今すぐデクシアの部屋に…………あの部屋はダメだ」
急に暗い顔になった俺を心配そうに覗き込むアマルティア。
それはともかく、これで、領土を拡大したパトリダでも、警備体制は確率された。どこまで正確なセンサーとして機能できるかはやってみないとわからないけど、理論上は十分だ。
あとは、領土を増やせるか。
戦争に、勝てるか。
今後、紀伊ちゃんたちとまた戦うこともあるかもしれない。でも、そこで勝たなきゃゴブリンという種族に未来はない。
常に最善を選択したいとは思ってる。紀伊ちゃんや紗江、傘音が命を落とすなんてことがあったら絶対に嫌だし、パトリダのみんなが傷つくのも嫌だ。
わがままでも無茶でもなんでもいい。
がむしゃらに生きてみせる。全部うまくいく方法に導いてみせる。
……気になることと言ったら、4番目くらいだけど。
嫌な予感ほど当たるから、何も考えないようにしよう。
まだ何も──始まっていないのだから。
ありがとうございました。
アマルティアは合法チクビ!アマルティアは合法チクビ!アマルティアは合法チクビ!(狂気)