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ライトノベルじゃあるまいし  作者: ASK
第一章【テンプレート・ラブコメディ】
9/105

第9話 モブキャラに生きる価値はない!!

※書式を修正しました。


 瑞樹みずきと風呂に入るかで一悶着あったが、結局一緒には入れなかった。


 瑞樹は、自分が入った後に俺に風呂に入られるのは嫌らしく、自分が出るときにお湯を抜きやがった。抜かりないな。ふざけやがって。


 妹の後の残り湯を拝借しようとしていた俺はひとしきり絶望した後、大人しくもう一度風呂を沸かしたのだった。




❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎




 夜。


 寝る前に、もう一度瑞樹の部屋に入れるかチャレンジしよう。絶対諦めないぞ……!


 ふっふっ。今日の千葉蘭ちばらんはひと味違うぜ。針金はりがねを持ってきているのさ。

 実際にやったことはないけれど、ドラマとか映画で見たことあるだろう。針金で鍵を開ける、あれだ。やってみたかったんだよねぇ。


 いざ、参る!!


 かちゃ。かちゃかちゃ。かちゃちゃちゃちゃ。


 ……あれ?おっかしいなぁ。映画ではすぐ開くはずなのに……。


 うをおおおお!!ガチャガチャガチャ!!!


 力任せに針金を突っ込んだり回したりしてみる。


 くっそ!なぜだ!なぜ開かない!……汗がすごい。凄まじい緊張感だ。


 そんな、ピンと張った俺の緊張の糸を切ったのは。



「何してるの。お兄ちゃん」



 という。低い、黒くて暗い。重すぎる声だった。


 あっ、殺される。直感でわかった。


 しかし、花園を、楽園を前に死ねるわけがなかろう。



「……邪魔しないでくれ。瑞樹。お兄ちゃんは今。戦っているんだ」



 かっこよさげな言い訳をしてみる。……かっこよくはないな。



「…………」



 何も言わず、近づいてくる。怖い怖い。



「み、瑞樹?ど、どしたの?お、おトイレ行きたいのかにゃ?」



 さすがに怖すぎて瑞樹の方に振り返って、話しかけてしまう。無言の無音は怖すぎる。



「…………」



 瑞樹は何も言わない。そのまま俺の真横に立った。



「……そうか。今日はお兄ちゃんと寝たいのか。それなら、言ってくれなきゃわからな──」


「しね」



 ──刹那(せつな)。瑞樹が床を蹴って、体を半回転させた辺りで。おれの記憶は途切れている。



 ──翌朝。



「お兄ちゃん、ほら、起きてってば」



 妹の急かすような声で目を覚ました。……身体中が痛い。拷問でもされたのだろうか。



「……今起きる……。いててて」



 いやまじで身体が痛い。……ん?……んん?

 

……ここ廊下じゃねぇか。こんな硬い床で寝てたのか。俺は。



「……おっす、瑞樹。おはよう。ところで、なんで俺はこんなところで寝ていたんだ?」



 寝る直前の記憶って、覚えてないもんだよな。



「さぁ。なんか馬鹿なことでもしてたんじゃない?」


「馬鹿なこと、ねぇ。うーん、なんかとても大切な、大きな謎に立ち向かっていたような」


「……はぁ。アホみたいなこと言ってないで。早く準備しないと遅刻しちゃうよ、お兄ちゃん」



 ……いやまじで思い出せねぇ。けど、過去のことなんて気にしててもしょうがない。これからやれることを考えよう。前向きにな。


 手始めに、今日の夜にでも、妹の部屋に侵入してやるか。……そうだな、針金とかあったらいけるんじゃないか?映画とかでよく見るし。そうだな、それでいこう。(無限ループ開始)



 おっと、まずは学校が先だ。急ごう。


 リビングに下りると、これまた朝からうまそうなご飯が並んでいた。



「……すげぇ。瑞樹、お前ほんといいお嫁さんになるよ」



 素直にそう思ったので、そう言うと。



「あ、あったりまえじゃん!冷める前にさっさと食べてよね!」



 おいおい、ツンデレか?かわいいな。お嫁にしたいな。



「……もぐもぐ。そういや、瑞樹。お前の中学ってどこにあるんだ?てか何中学校に通ってるんだ?」


「……あ、藍蘭あいらん中学校。とか」


「とかってなんだよ。って、それ、うちの高校と名前同じだな。付属とか?」


「……付属ってわけじゃあないけれど、まぁ関係はあるよ」



 ふーん、とか適当に返して、いいから早くしないと、とか言われて、特に意味もない会話を妹として家を出た。

 なんの変哲もない会話ができる妹がいるって、素晴らしいなぁ。




❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎




 いつもの十字路に着くと。



「あ、蘭くーん!」



 ぴょこぴょこと、紗江さえが手を振っている。ちょっとかわいいな。



「おはよう、紗江。どうしたの?」


「どうしたのって、普通に、登校中ですよ」


「あ、そっか。ここで待っててくれたのかと思った」



 十中八九待っていてくれたのだろうが、あえてそう言うと。



「……待って、ましたよ。蘭くんのこと」



 うつむき、スカートの裾をちょっと握りながら紗江はボソッと言った。



「そっか。ありがとな、紗江。じゃあ行こう。2日連続で遅刻はまずい」


「……そ、そうですね。行きましょうか」



 紗江は俺の横に並んだ。



 ──学校に着いた。


 当たり前だけれど、かなり騒がしい。この感じ、懐かしいなぁ。俺の学生時代は、1人でコソコソと下駄箱に向かってそのまま教室に、って感じだったけど。


 今は、隣に友達がいる。こんな学生生活もあったのか。


 真新しい下駄箱に靴を入れて、懐かしの上履きに履き替えて、紗江と教室へ向かう。


 教室は、思ったより騒がしくなかった。そりゃあそうか。互いに初対面の人が多いんだもんな。


 大半の人は黒板の前に群がっている。……あ、そうか。席が書かれてるのか。席って言っても、出席番号順だろうな。俺は何番で、どこだ?



「……お!うっし!1番後ろの席だ」



 1列6人で、6列あるのだが、その4列目の1番後ろの席だ。



「……あ!わたしも!わたしも後ろです!」



 飛び跳ねながら紗江がこっちに来る。おお。紗江は3列目の後ろか。隣じゃん。さすが俺。ラノベ主人公は運が良い。




❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


        |教卓|


     □ □ □ □ □ □

     □ □ □ □ □ □ 廊

     □ □ □ □ □ □ 下

     □ □ □ □ □ □

     □ □ □ □ □ □

     □ □ ■ ■ □ □



❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎




 こんな感じである。左の■が紗江。右の■が俺だ。


 なんとも良い位置だな。窓際も良いけど、真ん中は真ん中でやっぱ良い。



「隣だな、紗江」


「はいっ!はいっ!そうです!隣です!やったっ!」


「大袈裟だなぁ……まぁ。俺も嬉しいんだけど」


「えへへ〜」



 ニコニコしてる紗江と周りを気にせず話していたが、さすがに。



「…………」 「…………」 「…………」



 黙ってはいるけれど、チラチラ、というかがっつり見られてる。……恥ずかしい。紗江は気づいてないし。はぁ。しょうがない。



「蘭くんと隣〜、えへへ……きゃっ!」



 紗江の手を握る。引っ張る。



「え、あの、蘭くんっ、人がいますし!恥ずかしいですっ」



 ……わかってるよそんなこと。それより教室の前の方でイチャイチャしてる方が恥ずかしいわ。


 俺は無理やり紗江を後ろに引っ張ってきて、とりあえず席に座る。



「いやさ、紗江。教室の前にいる方が、目立つだろう?」


「そう……ですけど……」



 顔が真っ赤だ。……ていうか。おい。



「……紗江?あの、そろそろ手を離してくれないか?」


「わわっ!ご、ごめんなさい!あの、つい!いや、ついっていうか、なんというか!」


「いや別にいいけど。嫌じゃないし。でも、ほら」



 少し声を抑えて言う。



「……みんな見てるし」


「そ、そうですね。うん。そうです」



 まだ真っ赤だし、上手く頭も回ってない。チョロ過ぎるな、このヒロイン。


 ……でも、正直。今、紗江がいてくれて助かってる。


 “席にいて、クラスメイトから見られている”という状況は、俺のトラウマを思い出させるには十分だったからだ。


 ヒソヒソと、悪口を言われ。前日の立花たちばなミズキとの一件もあり、倒れてしまったあの日を思い出して、吐き気がする。


 怖い。人の目も。たくさんの人がいるという事実も。何もかも。怖いのだ。


 でも、紗江が手を握ったままでいてくれたから、どうにか。


 “ここはあの日の教室じゃない”と、思えたのだ。味方と呼べる人がいるのといないのでは、こんなにも心の密度が。安心感が、違うのか。


 ──その後は普通に。担任の先生が来て自己紹介。


 俺らクラスメイトも一人一人自己紹介を済ませた。初日のため、しっかりとした授業はやらなかったので、学校初日は、俺が想像してたそれよりも幾分いくぶんと楽だった。



 ──昼休み。ちなみに俺は今日、瑞樹が作ってくれたお弁当を持ってきている。

 購買にも行きたかったが、とりあえず今日はありがたく愛妻(ではないが、愛は入ってるはず)弁当をいただくとしよう。



「……蘭くん、お弁当ですか?」



 紗江にそう聞かれたので、俺は。



「ああ。妹が作ってくれたんだ。昨日別れ際にあった子なんだけど」



 自慢げに答えた。しかし、紗江もお弁当だな。



「紗江のは、自分で作ったのか?」


「え?あ、はい。まだそんなに上手には作れないんですけど、練習として作って、実験台は私自身って感じですっ」


「へぇ。十分美味そうだけどな」



 しかしながらうちの瑞樹には敵わないな。……競うようなものじゃないけれど。


 2人で仲良くエンジョイ・ランチタイムしていると。



「ねぇねぇ」



 と。いかにもモブキャラって感じのやつらに話しかけられた。なんだよ、邪魔すんなぶっころすぞ。



「君たちってさ〜、入学式の日に遅刻してきた、“あの”千葉と菊里だよねぇ?」



 うぜぇな。なんだこいつ。話し方気持ち悪っ。


 ……というか、“あの”なんて呼ばれるほど有名なのか、俺たち。まぁ、あんだけ騒げば、しょうがないか。



「2人は、付き合ってるの?」



 今度はおかっぱ頭の地味顏の女にそう言われた。



「い、いや別にそういうわけじゃあ……」



 とりあえず否定したが、紗江は何にも言わないな。


 気になってチラッと見ると、嬉しそうな、恥ずかしそうな、なんとも言えない顔で震えていた。



「付き合ってるんでしょ〜!お似合いだしね〜〜!」



 きもっ。なんだよまじでモブキャラのくせに!もう描写すらしてやらねぇからな!!


 女A(2度と登場しないだろう)にバカにされたが、ほんとに、そんなことないから。と言って席に帰らせた。



「はぁ……。まったく。学生は色恋沙汰が大好きだなぁ……」



 なんて、今は自分も学生だということも忘れて、そんなことを呟いていると。紗江が、下を向いたまま小さな声で何かブツブツ言っている。



「蘭くんと私は……付き合ってるように見えるのかな……でもでも、2人でいたからそう勘違いされただけかもだし……でも、お似合いに、見えるのかな……うふふ。えへへ」



 ……そんな嬉しかったのかよ。なんかこっちまで照れるな。


 なんかちょっと気まずくてお互い無言で食べていると。



「……らんらん?」



 と。知らない女の子に話しかけられた。


 ちっ、またかよ、いい加減にしろって思ったが、どうやらさっきのクソ女じゃない。



「らんらんだ!らんらんも2組だったんだ!」



 らんらん?誰だそれ。俺の高貴なる名前は『蘭』だぞ。漢字がかっこいいだろう。



「あれ?わかんない?私だよ、私。桜坂さくらざか紀伊きいだよ?」



 ……誰だよ!


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