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ライトノベルじゃあるまいし  作者: ASK
第ニ章【ゴブリン・パトリダ】
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第60話 未来賭博

こんにちは。


 真面目な話、本当に疲れている時に、おっぱいを揉ませてもらうと、絶対に疲れが飛ぶと思うんです。真面目な話ですよ。

 何度も繰り返せば飽きてしまうかもだけど、一度や二度なら、おそらく想像を遥かに超える効能が期待できると思うのです。

 男女関係なく。人のおっぱいを揉むという非日常は、日々の疲れを癒すに足ると、確信します。



 触ったことありませんが。



 本編へGo!(すみませんでした)




「俺たちゴブリンは世界から切り離された」



 やけに紅い夕焼けに照らされて、パトリダが燃えるように煌めく。


 聴覚を共有リンク──というか、強奪ジャックしたことにより、俺の声が直接鼓膜を揺らした。



「いいか、ここからが──本当の戦争だ」



 粟立つ肌が傾く太陽に焦がされる。


 俺の声に顔を上げたゴブリンの中に、カンダチの目が見えて、思わず、口の端を吊り上げた。




❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎




 ──自作自演の玉音放送の数時間前。


 6度目となる『黒曜団』の反乱・暴動・一揆──あるいは、革命。それを鎮圧しようと各部隊が動きはじめた頃。


 武器を奪おうとも、『黒曜団』の要求に応えるつもりはないと態度で示そうとも、それでも王宮を中心とする中央地に対し反乱行動をやめない彼らは、おそらく今回を最後のチャンスだと見ているのだろう。


 これだけ大規模な反乱軍を構成し、これだけの賛成者を集め、これだけの歳月をかけて起こした反乱だからこそ、何があっても引き下がる気はないらしい。


 ここで反乱を鎮圧されて、諦めてしまえば、未来永劫、中央地外の苦しみが改善されることはないかもしれない。


 彼らが狂気的なほどに必死な理由は、そこにある。


 ゆえに、俺たち中央地に暮らす者も、現状維持という選択肢を排したうえでパトリダの未来を検討しなくてはならない。それが難しいことだとわかっていてもだ。


 3度目の暴動あたりで、それは誰もが察していた。世界と戦う前に、パトリダをクリーンにしなければならないと。


 『黒曜団』を中心とした、中央地に不満を持つ民衆の要求は、中央地とその外の格差の排除。


 それが、貧困な一般民衆側に合わせて、中央地という特別富裕層を無くすのか、あるいは中央地に合わせて、一般民衆の生活水準を上げるのか。あるいはそのどちらもをバランス良く進めて、平等かつ健康な国にしたいのか。


 話し合いには発展していないため、彼らが求める中央地の対応は、未だに判然としない。ただ不満をぶつけているだけだ。


 だからといって無視できるほどの規模ではないので、長年、始祖じいは頭を悩ませてきた。


 狭い土地で慎ましく暮らす彼らの生活を、より良くするためにはどうすればいいか。その答えは簡単なようで、しかし近すぎて見えていない。


 ゴブリンという種族が、他種族を拒絶し、真っ向からの戦争を決意したりしなければ、解決策はいつまで経っても見いだされなかっただろうことを思えば、近い未来に始まる対他種族戦争は、危険性とデメリットだけではないのだろう。



「ここが正念場だからな、念には念を入れとかないと」



 絶望的な立場にあるゴブリンという種族と、その故郷パトリダの問題。一見関係性の見えにくい2つではあるが、そこから糸を手繰り寄せた俺は、それを実行するための準備に取り掛かる。


 言いたいこと(・・・・・・)を一度、紙に書いてまとめる俺は、羽根ペンのインクが、指先に付いたことも気にせず、ひたすらにペンを走らせた。



「それで、どうするつもりだ? ラン、伝えると言っても、あの人数では……」


「うん。だからそこは神法に頼ろうと思ってる。うちには世界最強クラスの『神託者ウィザード』が2人いるからな」



 呼ばれて顔を上げた双子が、要領を得ないようで、視線で説明を求めてくる。



「あのさ、中央地の周りに押し寄せてる『黒曜団』……というより反乱軍の全員──欲を言えばパトリダ全域のゴブリンに、俺の声を届ける方法ってあるか?」



 聞くだけで無茶だと分かりそうな質問に、大げさに頷いたデクシアが口を開いた。



「できるよ、あまりに遠いと届かないけど、ある程度の距離内の相手になら、声を届ける方法がある。……まぁ、できるのはアリステラだけどね」



 ちらりと、視線を向けられて、頬を赤く染めるアリステラ。照れ臭そうに俯いてぼそりと呟いた。



「聴覚奪取の神法があるから、それ使えばどうにか……」


「聴覚共有の神法があるらしいよ、ランくん」


「奪取って言ってただろ……言い換えるなよ。……てか、大丈夫なのか、それ?」


「別に聴覚にも脳にもどこにも影響はない。ただ耳元で話しているように聞こえる状態に相手の聴覚を奪うことができるってだけ」


「ランくんの声が、みんなの耳元で聞こえるようになるらしいよ」


「だからなんで俺はアリステラと話すときにデクシアを挟まなきゃならねぇんだよ」



 もうアリステラ翻訳機みたいになっているデクシアをとりあえず信用して、これで俺の声がパトリダのみんなに届くとわかった。


 次は、パフォーマンスかな。



「ティア、なんかさ、雨とか水とか使って、派手なことできるか?」


「派手なこと……と言われてもな」


「こう、とりあえず強そうに見えて、目立って、すげぇってなるような」


「注文が多いな」


「レストランじゃねぇけどな」


「わかった。少し考えておく」



 俺が声を届けるだけでなく、パトリダのみんなに、強がって虚勢をはる。その時だけでも、パトリダのみんなが、俺たちならば“それ”が可能だと思わせたい。


 だってこれは──戦争だから。



「じゃあ各自準備して……そうだな、反乱軍を誘導して一箇所に集めるか」



 ──日が真上に上り、影がゆっくり短くなって。


 王宮を囲むように暴動を起こす反乱軍を、バレないように……とはいえ力づくで、正面大門とも呼ばれる東門の前に誘導した。


 ものすごい数のゴブリンが東門の前で騒ぎ立てているが、ここに集めるのに時間がかかってしまったせいで、もう日は落ちかけている。


 赤く染まり始めた空の下、東門の内側に梯子はしごを掛けて、後ろのデクシアに振り向く。


「よし。じゃあ、お願い」


「わかった。アリステラ!」


「にぃが後でご褒美くれるって言ってたから、頑張る」



 やたら嬉しそうなアリステラの掌から現れた赤い光が、一瞬、花火のように打ち上がって、同じく赤い空の中で弾けた。


 蜘蛛の巣のように空を駆け巡った神法の赤い光が──



「繋がった」


「ありがとう」



 最終確認を含めて、言いたいことを書いた台本に視線を落とす。なんだかクラスの前に立って発表とかしてる緊張感。ちょっと恥ずかしいが。


 息を、深く吸った。



「あ、あー。聞こえますか」



 大して、大きな声は出していない。というか、ぼそりと呟いた程度の声。しかし、分厚く背の高い正面大門を挟んだ向こう側──さらには、パトリダ全体で。


 先ほどまでの暴動による怒号や叫び声ではない、ざわめきが広がった。



「えっと、落ち着いて下さい。今、神法を使って皆さんのお耳を拝借しております」


「なんで敬語なのランくん」


「うっせ。……ごほん。えー、自己紹介が遅れました、私はランと申します。パトリダの幹部見習いでー……やっぱ敬語やめよう」



 梯子に足を掛けた。



「俺たち王宮暮らしの世間知らずは、そろそろお前らの声に応えなきゃいけないと思ってる。反乱とか起こるたびに鎮圧してきたけど、今回が最後だ。ここで変わる」



 ゆっくりと、ゆっくりと。一段ずつ足を運ぶ。



「お前らもこの反乱をやめる気はないんだろうし。俺たちも向き合うべき時がきたってことだな。……とまぁ何をこんな偉そうに言ってるのかと言えば。お前らに朗報だ」



 少し強い風に、揺らぐ足場が怖くなった。



「俺たちはこれから──パトリダの土地面積を、拡大する」



 一瞬、ざわめきがやんだ。が、すぐに潮騒のように戻ってきたのは困惑の声音。



「どういうことか説明する。世界新聞を読んでるやつはもう知ってると思うが、今、ゴブリンという種族は世界の敵になった。……以前から味方だったとも思えないが、とりあえず世界はゴブリンという種族を明確に敵と見做みなした」



 台本をポケットにしまって、あとは適当に喋ろうと決める。



「知っている通り、何百年も、そのもっと前も、ゴブリンは世界から最弱最低の劣等種として扱われ、多くの命が遊び半分に奪われてきた。それに怒ってやり返す力もなかった。人口が最も多い種族なのに、パトリダという土地は狭かった」



 まだ登らないといけないのか、と。高すぎる正面大門のてっぺんを見上げる。



「どうせ勝てないという自信のなさもあったが、ゴブリンは世界へ戦争を仕掛けることはなかった。何より、始祖じいが『始祖会合』で何度も何度もゴブリンの扱いの改善を求めてきたから、力づくで現状を変えようってのも極論だと思ってた」



 下を向くと怖いから、上だけを見た。赤い空が、落ちてくるみたいだ。



「でも、その戦争を俺たちが始めるきっかけができた。俺たちの都合でパトリダを戦争に巻き込んだことは悪いと思ってる。でも、俺たちは──勝てる。ゴブリン対全世界という一見、無茶な戦争ゲームでも、俺らは勝てる」



 上りきって、正面大門の真上に立った。丘の上に位置する中央地を囲む壁の上。



「俺たちは世界最強と謳われた元龍皇フロガを倒した。そして先日、伝説のゴブリンことキリグマを倒した。それだけの実力者がパトリダには揃っている。さらに言えば──」



 右腕を挙げた。これを合図に、アマルティアがその力を行使する。



「俺たちの仲間には、龍皇がいる」



 俺のドヤ顔と同時。遥か背後に聳える王宮さえ小さく見えるほどの、巨大な水の龍が、パトリダの空を彩った。


 夕焼けに塗られた空の赤色を飲み込むように、大きなあぎとを開けた龍が空を蹂躙する。


 俺も思わず正面大門の上から落ちそうになるくらい驚いたが、それほどの迫力と規模に、無論、反乱軍のやつらも目を引かれた。


 おそらくパトリダ全域のゴブリンも、見ていることだろう。


 驚きの声が所々から上がる。



「ゴブリンは、強い。最弱種でもなく、殺されるために生まれてきたわけでもなく、俺たちは俺たちの強さを持ってる。それは何百年も前からずっと同じだった。立ち上がる機会がなかっただけだ」



 俺たちならばできると。そう胸を張った。



「世界と戦争して、俺たちはそれに勝つ。そして──他種族の領土を奪い取る。パトリダを広くする。今よりずっと広くする。農地は大きくなるし、漁に出られる海域も広がる。住む家も大きくできる。でもこれは夢物語じゃない」



 蟻の巣を掘り起こしたような、犇めき合うゴブリンの群れを見下ろして、両手を広げた。



「俺たちゴブリンは世界から切り離された」



 騒めく声は次第に小さくなり、俺の声は、パトリダの空気にゆっくり溶けた。



「いいか、ここからが──本当の戦争だ」



 集まる群衆の前、正面大門の上に立つ俺を、燃えるような空に照らされた無数の目が見ている。


 顔を上げたゴブリンの中に、カンダチの姿を捉えた。



「これまで、中央地外にばかり窮屈な生活をさせたことは、謝る。いやもちろん、謝ってどうこうなる話でもないのはわかってる。だから行動で示させてくれ。俺たちに戦わせてくれ。俺たちに、パトリダの未来を、賭けさせてくれ」



 信じられない、という顔ばかりが目に映った。それもそうだ。ゴブリンが最弱種だという認識を、世界で最も強く持っていたのは、他でもない俺たちゴブリン自身だったのだから。


 しかも俺の言い分は無茶苦茶だ。パトリダの土地を増やすための戦争と銘打っているものの、そもそも勝手に始めたのは俺たち。なのにパトリダを賭けさせてくれなどと言うのだから、初めから民衆の意思なんて関係ない。


 ここでお前らなんかにパトリダの未来を任せられるか、と彼らが反発しようと、戦争が始まることに変わりはない。ゆえに、これはパトリダの民衆に合意と許可を求めた演説に見えて、その実、自ら起こした戦争に理由をこじつけているだけなのだ。


 戦争を始めてしまいました、勝てたら領土が増えると思います。……簡単に言えばその程度のことなのだから、もしかしなくとも反発される。


 と、思っていたのだが。



「本当に、勝てるんすか」



 独り言のように、しかしながら力強い声音で。



「今更になって、パトリダの在り方を変えられるんすか」


「それをずっと変えようとしてきたのはお前らだろ。だから俺らも手伝う。それこそ今更だけどな」



 ニヤリと、俺は笑ってみせた。カンダチは──ダッチーは。



「死んでも、パトリダをどぶに捨てるような結果にならないと、誓えるんすか」


「当たり前だ。他でもない俺たちが──パトリダの戦士たちが、胸を張ってんだ」



 はぁ、と。大きくため息を吐き出したカンダチが、声を張り上げた。



「もう終わりっす! 『黒曜団』も解散っす! 今までありがとうございました!」



 突然の発言だったが、『黒曜団』の団員と思われるやつらは何の文句もなく、すぐに動き始めた。



「あーあ、終わりか」


「あの頑固なダッチーが言ってるんだから、終わりだろ」


「もう私たちの役目も終わりかぁ」


「帰ろうぜ、団長リーダーが信頼できると判断したんだ。パトリダは任せよう」


「本当に大丈夫か?」


「大丈夫っす! さ、帰りましょ!」



 ざわざわと、暴動を起こしていた時の騒ぎ声でもなく。先ほどの困惑に満ちたざわめきでもなく。肩の荷が下りたかのような、力の抜けた声の群れが、パトリダを満たした。


 諦めた、にしては清々しい様子で、彼らは笑顔で帰っていく。その様子を、見下ろす俺の背後で、水の巨龍が役目を終えたとばかりに霧散して溶ける。


 俺も座り込む。これでも緊張で足が震えていたし、こんなあっさり済むとは思ってもみなかった。正面大門の内側にいるデクシアとアリステラも、ポカーンとしていて、何だか笑えた。


 夕日の赤色で熱を帯びたパトリダを見下ろして、一見広く見えるボロくさい町を目に写す。


 肌を焦がす紫外線に目を細めながら、すっかり寂しくなった正面大門の足元を見ると。



「お、ダッチー」


「……うっす」



 酷く恐ろしいが、勇気を振り絞って飛び降りた。着地……というか落下と激突で、足の裏がビリビリした。痺れるような痛みが足先から頭に駆け巡る中、何とか立ち上がる。



「『黒曜団』の団長リーダーってお前だったのかよ」


「形だけっすよ」


「意外と、人をまとめるの得意なんだな」


「そんなことないっす。みんな同じ目的だっただけっす」


「そうか」



 ダッチーと俺以外、誰もいない静かな東門前。夕焼けすらも淡くなり、少し夜の色が顔を覗かせる。


 言いたいことはお互いあるのかもしれないが。



「よし、ダッチー。歯ぁ食いしばれ」


「お互いっすよ」



 俺らは拳を握る。少しの恐怖心さえも笑顔に変わってしまうのは、何だか興奮が抜けていないからだろうか。それとも、俺たちが男だからだろうか。



「「おらぁッ!」」



 同時に互いの頬を殴り合った俺らは、痛みと清々しさに口角をあげながら、仰向けに倒れ込んだ。振り抜いた拳と、殴られた頬が同じくらいの痛みを訴える。


 どちらともなく、笑い始めた俺らの声は、やがて星が見下ろすパトリダの空に、混ざるように響いていた。



ありがとうございました。


 さてさてそろそろ『対他種族戦争編』ですが、これは、【第3章】への架け橋。

 強ければどうにかなるほど、甘くはないと、ランはまだ知りません。

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