第57話 人工世界線の交錯と矛盾
第1章の、軽い雰囲気を思い出していただきたく、今回は、下品な表現なども含まれます。
セリフばかりですが、ふざけまくるランをお楽しみください。
「世界に背く形になったが、なに、以前とあまり代わり映えもないだろう」
時は夕方から夜に切り替わるあたり、暗さを増した窓の外が、あいも変わらず絶望的な立場を嘲笑うかのように静かに冷える。
場所はパトリダ、中央地。広大な面積を誇るパトリダの中心に位置する丘の上、円状に塀で囲まれた特別地域には、命を賭して戦う兵士たちの寮や、パトリダ辺境とは比べ物にならない規模の食事処が立ち並び、その中心に王宮が鎮座する。
無論、中央地に住める者は、兵士を除けば、限られているために、生活水準の差に怒りを覚える民衆も少なくない。
とくに、農業、漁業などの、第1次産業を生業とするゴブリンたちは、多種族との国境線ギリギリでの危険な作業を日々、繰り返しているにも関わらず、中央地と比べて劣悪な環境に生きねばならないことに不満を隠しきれていない。
時々、反乱、一揆が起こるが、その度にどうしたものかと頭を悩ます俺たちゴブリンのリーダー、つまりはパトリダの長──始祖じいが、食堂の椅子に腰掛けて呟いた。
区別はしても差別はしない。そう言っていた始祖じいだけれど、どうしても中央地とその外では差が出る。
だが、これまで伝統として受け継がれて来たパトリダのルールを、今更に変えることもできず、いつもはそのことで眉間にシワを寄せている始祖じいだが、今日はまた別の悩み。
「私も無論、抗議したのだがな。世界のトップである“始祖会合”の場でさえ、ゴブリンという種族に対する差別が存在するというのは、悲しいというよりも情けない限りだ」
「ひゃはは、でも、ブチ切れて、他の始祖たちに喧嘩売って来たんでしょう?」
「うむ……申し訳ない、ついカッとなってしまった」
しょんぼりしながら、小さく切られた肉を口に運ぶ始祖じい。しかし、気の遠くなるような年月を生きて来た始祖という存在でさえ、未だに差別意識や、選民思想など、そういった考え方があるというのも、確かに情けない。
現実世界で言う、総理大臣や大統領なんてレベルではなく、この世界の始まりから、様々な種族の繁栄と衰退を、繰り返される戦争の歴史を、その目で見て来たというのに、始祖たちだけでもゴブリンいじめのようなことが行われてるなんて。
長く生きていれば、全てを悟って、俺たち一般の民とは違った視点で物事を捉えられるのが、始祖の強みであり、種族を導く資格でもあるのだと思っていたが、ただの頑固な年寄りの集まりだったとは、拍子抜けだ。
「全然大丈夫だよ始祖じい。俺たちも、どこかの始祖がよこした刺客とやら、全部ぶっ壊して、全面戦争だー! うおー! とか盛り上がってたし」
「……龍皇戦争も、キリグマとの戦いも、ようやく終わって、落ち着いた生活が少しばかり戻ってくるのかと思っていれば、この様子だからな……」
「なにしけたツラしてんだティアー! 食え食えー!」
俺はもう楽しくて仕方がない。
というのも、今まで、完全に最弱種として、世界から差別されて来たゴブリンという種族が、今度は仲間を守るため、世界に喧嘩を売ったのだ。
かっこいいと思う。誰もが見下しているゴブリンが、世界に歯向い、そしてピズマを守りきってしまえば、それはもう一種の革命。
ゴブリンという下等な生物がいる。という世界の常識を、殴り壊すような爽快感に襲われることだろう。
「元凶である私がこんなこと言うのもあれですが……最近は中央地に住むために兵士を志願する若者も増えて、ラン様もアマルティア様も、驚くほどの成長を見せていて、正直、どんな種族が相手だろうと負ける気がしません」
「よぉく言ったぁっ!」
「お前たちは……楽しそうで何よりだな」
疲れ切った表情ながらも、盛り上がる俺たちを見て、美味しそうに酒を飲み干す始祖じい。
いち早く食べ終わったアグノスが、椅子の背もたれに背を預け、天井を眺めながら口を開いた。
「複数の種族が、団結して、一気にパトリダに攻め込まれでもしたら、たまったものではないけどね」
「そこは大丈夫! なんせ俺らの味方には雨の龍皇様がいるのだからぁっ!」
「ふふん! 私が雨の龍皇だー! ……って、そこまで期待されても困るぞ!」
フォークを天に掲げて叫んで、すぐに座り直したアマルティアが、俺を半目で睨む。
楽観的に、現状を捉えすぎているのも自覚しているが、絶望するほどではない。
「修行の日々に変わりはないけど、ティアが龍皇の力を制御できるようになれば、色々と楽になるな」
「アマルティア任せかよ、ひゃはは」
「もちろん、俺だって活躍するさ。なんてったってこの俺、ラン様は、元龍皇フロガを倒した男だからな!」
レプトスに酒を無理やり飲まされたせいもあるが、俺もめちゃくちゃなことを言っている。
「俺が買ったナイフの力だろうが、調子に乗んな、ひゃはは」
「なんだとレプトスてめぇこの野郎っ!」
完全に酔っ払った師匠と弟子の取っ組み合いに、アグノスが笑い転げる。酒を飲まないピズマも、楽しそうに笑っている。
アマルティアが行儀悪く、椅子の上に立って声を張る。
「あの元龍皇フロガも、たった1人で、人間と他種属との戦争を成り立たせていた! ならば私も、この剣で理不尽な偏見を切り刻んで、パトリダこそが世界で最も強者揃いの土地だと世界に知らしめてやるのだ!」
「ひゅーひゅー! ようやく酔いが回ってきたかティアぁ! 最高だぜぇ!」
「こんな騒がしい食事も久しいな、たまにはいいものだ」
行儀の悪い俺たちを叱りもせず、ニコニコしながら野菜を頬張る始祖じいも、多少酔っているのかもしれない。
──結局、夜の12時を過ぎるまで、俺たちの馬鹿騒ぎは続いた。
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「んぅ……斬ってやるぅ……、私が最強だぁ」
「ちょ、おい、ちゃんと掴まれって! あぁ、こんなとこで寝ようとすんな!」
俺たちの部屋に戻る途中、階段でフラフラとしゃがみ込むアマルティアの腕を掴んで立ち上がらせる。
水をがぶ飲みして、酔いが覚めた俺とは違い、酒を飲み続けたアマルティアは、ベロッベロに酔っていた。
「ラーンー、おんぶしてくれ……おんぶぅ……」
「くっそ可愛いなおい!」
「確かにまだ『龍の加護』の力を出し切れていないが、それでもいつか私がパトリダを守るのだぁ……」
「おうおう、期待してるぜ、だからとりあえず涎を拭けよ、舐めとっちゃうぞこの野郎」
じゅるり、と、口の端から涎が垂れる。酒臭くても見た目超絶美少女だから、その涎さえオークションが行われてもおかしくない価値がある。
1、2年前とは違い、筋肉質になってきたアマルティアは、もうプニプニの体ではなくなったものの、引き締まった美しさや、溢れ出る色気は未だ衰えていない。
ほんのりと赤い頰と、荒い息遣い、とろんとした目が可愛らしい。
「それにしてもぉ、なぜデクシアとアリステラは一緒に食事をしないのだぁ!」
「あいつらは2人きりがいいんだよ、邪魔しちゃ悪いだろ」
「私だってあの2人と仲良くしたいと思っているというのにぃ……」
俺とアマルティアの部屋の前に着き、ゆっくりと扉を開け、アマルティアをベッドに座らせた。
とりあえず水でも持ってこようと、部屋を出ようとすると。
「ランー、1人にしないでくれー……」
俺の服の袖を掴んで、上目遣いのコレ。
いやまぁアマルティアも男だしこんなことで20歳を過ぎた大人である俺が興奮するわけが何これ死ぬほど可愛いんですけどやばいパンツ弾け飛びそう。
「ティア、お前、もしや魔性の女だな!?」
「んむぅ、また私を女みたいだと言うのかぁ? ふざけるなぁ! 私は立派な男だ、ほら、見てみろぉ」
おもむろに上着を脱ぎ出すアマルティア。
窓から差し込む月の光が、きめ細やかな白い肌を祝福する。処女雪を思わせるその肌だが、胸のあたり、凛と佇む薄桃色のティクビ☆が、俺の視線をゲットだぜ。
ティクビマスターになる旅に出かけようかとマサラタウンを飛び出しかねないほどの美しさに鼻の下が伸びる。
「おいおい、脱ぐなんてやめろって」
「んあっ、ラン、ではどうしてズボンを下ろそうとするのだ、寒いぞぉー……!」
「は!? 俺は何を!?」
やっべ、超興奮するんですけど。酔ってるアマルティア、エロエロなんですけど。テンション上がるわ。音楽聴きながら、音量調節バーを指で擦ってDJ気分を味わいたくなるくらい。
あるあるだよねー。
「ちょっとだけでいいから乳首舐めさせてください」
「何を言ってるのだラン。自分のでも舐めていればいいだろう、私は乳首さえも最強なのだぞぉ……ふふ、龍皇だからな」
「全く……何を言っているんだお前は! いいから舐めさせろ!」
「こっちのセリフだぁ」
ちくしょうこんなエロエロの美少女(男)がいたら、今日は寝れねぇじゃねぇかよ。
さすがに今、騒ぐのは、寝てる人の迷惑になるから、そろそろ俺たちも寝なければならないが、しかし。
「……とりあえず、髪、梳かすか、ティア」
「うむ! 私はな、ランに髪を櫛ですいぃーっと、されるの、とっても好きだぞ」
「ボロンッ」
「ん?」
やべ、興奮し過ぎて股間を曝け出す時の効果音を口で言ってしまった(謎)。
「やっぱ、髪、結びたいよなぁ、長くて邪魔だろ?」
「切ってはダメだと言ったのはランだろぅ……?」
「毛先整えるくらいはいいけど、なるべくロングヘアーでいてほしいな、ティアはこれが似合うからさ」
「んふふ、ランは、褒め上手、なのだな」
「ボロンッ」
「ん?」
「なんでもない。……痛かったりしないか?」
「うむ、心地いい……」
櫛が、霧雨のような蒼い長髪を滑る。アマルティア特有の、甘い匂いが鼻腔をくすぐり、抱きつきたくなる衝動に駆られる。
大浴場でアマルティアの髪を洗うのはいつも俺なので、手入れは行き届いているはずだが、最近は激しい戦闘もあって、切れてしまっている部分もあるようだ。
しかし、まるで宝石のように輝くこの髪、結ぶのさえ気がひけるな。
「ごめんな、ティア。龍皇だからって、任せっきりにしようとしててさ」
「むぅ、ラン……」
「あ……そうか。……ありがとな、だったな」
「うむ。それに、そうやって大切なみんなを守れると思ったから、初めは断ったこの龍の力を受け入れた。これは私のやりたいことであって、自己満足なのだ」
「優しいな、ティアは。そういうところほんと、大好きだよ」
「むふふぅ、なんだかこそばゆいなぁ……」
「大好きだよ」
「ふむぅ、ふひひぃ」
「だーいすき」
「ふふっ」
「愛して──」
「何やってんだお前、気持ち悪、ひゃはは」
…………最悪のタイミングに最悪の男が最悪の言葉と共に乱入してきた。
開かれた扉に背中を預け、相変わらずのニヤケ面を浮かべるレプトスが、月明かりだけの薄暗い部屋の入り口に立つ。
「おおー、レプトスぅ、眠れないのかぁ?」
「ひゃはは、なんとなーく様子見に来ただけだ。そしたら案の定、ランが気色悪いことしてたからな、明日はみんなに報告だ」
「悪魔かお前」
「まぁそれは嘘だが、しかし、酔ってるアマルティアはともかく、どシラフのくせにこの気持ち悪さって……ラン、お前、救えねぇな、ひゃはは」
「そんなこと言いに来たのかくそったれが! はよ出て行け! 今から濃厚なキスシーンなんじゃい!」
「ひゃはは。どうした、マリファナでもキメてんのか」
「キメてねぇわ」
ふざけ合うのもそこそこに、レプトスには聞きたいことがあったのだと思い出す。
あくびをして、そろそろ戻って寝る、とそう言って部屋を出て行くレプトス。
「……ティア、ちょっと、先に寝ててくれ。──よいしょっと」
「わわっ、ラン、急に持ち上げるなぁ」
「持ち上げるっつーか、抱き上げてるんだけど、よし」
アマルティアをベッドに寝かせる。不思議そうな顔で俺を見上げるアマルティアの可憐さに、思わず唇を奪ってしまいそうになったが、優先順位が違う。
レプトスは足音なんて立てないから、今も無音の廊下で、部屋を出たあいつがどれくらい遠くまで行ったかわからないけど、すぐに追いかけなくては。
「えーっと、そうだな、お手洗い行ってくるわ」
「むぅ? 部屋に戻る前に行ったではないか」
「また行きたくなったの。じゃ、おやすみ」
「うむ、おやすみなさい」
アマルティアの髪を少し撫でてから、足音を立てないよう走り出す。まぁ、とりあえずレプトスの部屋に向かえば会えるだろう。
勢いよく、部屋を出た。その瞬間。
「よぉ、俺に何か用か? ひゃはは」
部屋を出てすぐ、扉の横で、壁に寄っかかって立っていたのは、無論、レプトス。
待ち伏せに驚いて大声を出しそうになったが、すぐに口を押さえて、うぎゅうっ! という気持ち悪い声だけで済んだ。
俺の考えることなんて、大抵レプトスには見透かされているから、その展開もよくあることだが、しかしびっくりする。
「……ここで話すとアマルティアが起きるかもだから」
近くの窓から、背の高い木に飛び移って、静かな風に草花が揺れる中庭に降りた。レプトスが正面玄関から外に出るほうが珍しいから、別段不思議な光景ではない。俺もすぐに続いた。
夜に鳴く虫の音と、夜露に濡れた芝生の摩擦音に、心が落ち着く。深く吸って吐いた息が、少し白く残って、パトリダの夜に溶けた。
少しの肌寒さが心地よい中庭で、ベンチに座る。レプトスは転がっていたボールでリフティングをしている。俺は口を開いた。
「レプトスはさ、何を知ってるんだ? この世界のこと、俺のこと。あとは、紀伊ちゃんや他のみんなのことも」
上手く頭にボールを乗せたレプトスが、バランスをとりながら小さく笑う。
「ひゃはは。何で、俺が知ってると思うんだ?」
「さすがに、お前が謎めいてるだけじゃないってのはわかるさ。……俺が、別の世界から来たってことも、知ってんだろ?」
「……別の世界ねぇ。ひゃはは、そんなものが本当にあると思うか?」
「思うよ。現に俺は、別の世界の記憶を継いでる」
「──人が、世界を作り出せるとしたら、どうなると考える、ラン」
なぜ、急にそんなことを。唐突なのはいつものことだが、そんな曖昧な問いに答えを出したとして、それが俺の求める何かに繋がるのか?
「世界は、増え続けるんじゃないかな、作られた世界の中の人間が、また世界を作って、その中の人がまた世界を……恐らくは無限に」
「ひゃはは、そうだ。しかも、作られる世界は1つとは限らない。何十個もの世界が同時に作られ、様々な方向に伸びて行く。並行世界なんて言葉があるが、そんなレベルじゃねぇ、作り出された世界線がバラバラに伸びて、交錯する」
「何が言いたい?」
「世界線が交わると何が起こると思う、ラン」
「世界が、壊れるとか?」
ひゃはは、と。笑ったレプトスが、ボールを置いて顔を上げた。
「そんな形もあるかもしれねぇが。基本的には、“矛盾”が起こる。全く違う2つの世界が、どこか一点で交わると、2つの世界であり、そのどちらでもないような、あべこべな状態が出来上がる」
「へぇ」
「この世界も、幾つかの矛盾を抱えてる。お前の言う別の世界だけでなく、様々な世界が、この今俺たちのいる世界と交わり、重なり、矛盾を引き起こしている」
「それが、どうしたってんだよ」
「矛盾がある世界は、現実ではない。と、考えるものがいた」
「……まぁ、そうかもしれないけど」
「ほとんど無限に、並行でなく、様々な方向、角度に伸び続ける人工世界線を、止める方法は何だかわかるか、ラン」
もう、どの世界で何個の世界がどの方向に作られているのか、予測もできない無限の可能性の中で、それら全てを断ち切る方法。
「一番最初の、つまりは──現実世界で、作り出した世界を消去すればいい」
「ひゃはは、正解だ」
「元々、一本の世界線である現実世界なら、どの世界線とも交わっていないから、矛盾が起こっていない。『矛盾がある世界は現実ではない』っていうのは、そういうことだろ?」
「あぁ。しかし俺はそれも間違っていると思うぜ、世界は、もう取り返しのつかない状態に陥っていると、な。ひゃはは」
「矛盾のない世界へと、遡っていけば、いずれ1つの世界に辿り着いて、その矛盾のない世界こそが現実世界、間違ってないだろ」
「一本の道が、無限に枝分かれしていて、その無数の道が全て、元の一本の道と繋がっていないと、なぜ思える?」
「……確かに、そうか。道が──世界線が、前にだけ進むとは限らないから、様々な過程を経て、元の世界線とも交わってしまう世界が現れる……」
「そうなると、『矛盾のない世界』を現実世界だと考えている奴らは、永遠に現実世界に辿り着けなくなる。矛盾のない世界なんてもう、存在しないからな」
「なんか、絶望的なのはわかったけど、結局、俺の質問の答えになってねぇじゃんかよレプトス。お前が何を知っているか聞いてんのに」
強めに吹いた風が、レプトスの着崩した上着を揺らした。
「何も、知らない。俺も、お前も、あいつらも、何も知らねぇんだ。その答えすら無限の間違いと交わって、重なって、塗りつぶされた」
「……少なくとも、俺が別の世界から来たことは知ってただろ」
「別の世界と言っても、さっきの話の通り、それすら誰かがどこかの世界で作り出したもう1つの現実世界に過ぎねぇ。ひゃはは、お前が現実世界だと思っている世界と、俺が思う現実世界は、多分全然、違っているかもしれねぇしな」
「……お前は、何を目的に、この世界にいるんだ? お前も、この世界の住人じゃなかったってことだろ?」
「あぁ。ランと同じく、ここではない何処かから来た。現実世界に戻ろうなんて考えはもうやめた」
「戻った世界すら、現実とは限らないから、か?」
「まぁそうだな。今や全ての世界が、現実であり、現実ではないという大きな“矛盾”に囚われてる。俺たちはこの迷路から抜け出せねぇ」
「……やけに弱気だな。まぁ俺も、別に俺の思う現実に戻りたいわけじゃないけどな。毎日家でグータラしてるだけの、クソみたいな生活も、情けなくてやってられないし」
「まだ覚えてるのか、お前なりの現実を。今、何個目の世界だ?」
現実、紀伊ちゃん、紗江、傘音と出会った世界、そしてここ。
「3つ目かな」
かと言って、1つ目のニート生活をしてた世界が現実である可能性すら危ういという話をさっきしたばかりだけどな。
「そうか。ひゃはは。羨ましいぜ」
小さくあくびをしたレプトスは、珍しく、というか初めて、少し悲しそうな、寂しそうな、顔をした。
「俺はもう──思い出せないほどの数の世界を、渡ってきた」
──どの世界にいた自分が本物なのかわからねぇんだ。
弱々しく、そう言ったレプトスを見て、レプトスは、この世界の謎について詳しく知ってる訳でも、俺のことをよく知ってる訳でもなく、ただ、多くの世界を知っているのだと。
──知り過ぎているのだと、気がついた。
ありがとうございました。
新たなキーワード、『人工世界線』。
僕たちが住んでる地球すら別の世界の誰かに作られた世界線だとしたら、ひどく滑稽ですね。
ボタン1つで消えてしまうかもしれない世界を生きている可能性、考えるだけ無駄かもしれませんが。
それでも受験生なので、勉強は頑張ります。




