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ライトノベルじゃあるまいし  作者: ASK
第ニ章【ゴブリン・パトリダ】
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第56話 その血が罪だと言っている

こんにちわ。


 第1章のラブコメが短く感じるほどに、第2章からのバトルファンタジーも長くなってきました。

 と言うのもまぁ、当初、僕が書きたかったのが、この先の第3章なので、その前置きである第2章は長くなってしまいます。



本編どうぞー




 ギラリ、と。音が聞こえてきそうなほどに、鈍く光る鉄の仮面。


 一歩、前に出た1人を除いて、横一列に並んだ深緑色のマントの集団は、横並びの鉄仮面の高ささえも同じで、無機質な不気味さを醸し出している。


 もはや生きているのか、死んでいるのか。あるいは人間かそれ以外か。いずれにせよ判断の難しい彼らだが、ひとつ、俺たちの味方ではないことはわかった。


 俺だけ感じ取れていないが、おそらく彼らは殺気とかそれらしいものを出しているのだろう。というのも、俺を除いたみんなは、殺してやろうか、みたいな顔をしている。


 顔だけ鉄仮面のてるてる坊主(深緑色)みたいな見た目の彼らは、無論、顔も、肌も、体の一部分でさえ、全く伺えないが、「無」を体現したような不気味さから、危険な敵だとわかる。



「何者だ、お前たち」



 剣の柄に手を添え、アマルティアが言った。


 視線の方向さえ掴めない鉄仮面が、その奥から出された声に、少し震える。



「罪には、罰を。断罪のときである」



 またか。さっきも同じことを言った。壊れた玩具じゃあるまいし、せめて言葉を発するだけの頭脳があるなら会話しろよ。



「……何が目的? 私たちの、敵? 味方?……まぁ、敵だよね、当然」



 落ち着いた様子の紀伊きいちゃんは笑みを浮かべる。目は笑っていない。


 好戦的とも受け取れる発言と表情だが、実際、戦っても大丈夫だと俺は思う。なにせ、紀伊ちゃんにアマルティア、レプトスにアグノス、始祖の力を解放中のピズマ、ついでに俺もいるわけで、あのキリグマも倒した面子めんつだ。


 世界で最も強いと言えば、誰もが『炎の龍皇フロガ』と答える時代が、約200年続いた。それを俺が形式的ではあるが、終わらせ、それを見計らった伝説のゴブリン、キリグマが、最強の座につこうとした。


 おそらくはフロガの次に強い力を持っていたであろうキリグマも、その上のフロガも倒した俺たちが、今更こんな謎集団に負ける理由が見当たらない。



「……我々がお前の敵か否かで言えば、敵である。しかし我々はあくまで“世界の味方”であり、その秩序と在り方を乱すお前は“世界の敵”である」


「普通に喋れんのかよ」



 もう同じことしか言わないキャラの登場かと思ってたのに。しかも割と饒舌だな。



「悪いけど、人違いじゃないかな、僕たちに“世界”を敵に回すような心当たりはない」



 一歩、前に進み出たアグノスが言うと、鉄仮面が再び、小さく震える。



「怯えるのも仕方がないと同情するが、別段、お前を殺しにきたわけではない。ただ監獄に収容されるだけでいい」



 何を言ってるんだ、こいつら。それにさっきから“お前ら”ではなく“お前”と呼んでいるのも、俺たちに用があるわけでなく、俺たちの中の誰かに用があるってことなのか?



「監獄に収容って……俺たちは罪なんか犯しちゃいない。むしろ、世界を脅かす大罪人、キリグマを倒した正義のヒーローだ。懸賞金を受け取りに役所に行きたいところなんだけど」



 師匠譲りのおちゃらけた雰囲気の俺の言葉に、反応はない。



「……信じてないだろ。いやまぁ確かにキリグマを倒したのは俺じゃないけど、ピズマ……こいつが倒したのは本当だ。またキリグマが世界で暴れ出すのを未然に防いだんだ」


「……何を、勘違いしている?」


「は?」



 キリグマとの戦闘で、地面は捲れあがり、周囲の森の木々はへし折れ、湖のくせに水のないリム湖だが、そこに立つ彼らは、あまりに均一で、整った印象を持っているため、ここではむしろ違和感に襲われる。


 見た目はもちろんのこと、身長も、全く動かないという点も、ぴったり一致する完璧な彼らは、ボロボロで不整合な今のリム湖には似つかわしくない。


 それでも、今の一言は、少し俗っぽいというか、人間らしいというか。俺を小馬鹿にしたようなニュアンスが感じれたので、彼らの深緑色のマントの下にはロボットなどではなく知的生物が入っているのでは? と思った。



「お前には関係ない。お前も、お前も、お前も、お前も。そこで寝ている2人も、関係ない」



 一切、微動だにせず、そう言った鉄仮面。しかし、視線すら感じ取れないやつに、お前と言われても、誰を指して言っているのか見当もつかない。


 ただ、8人いる俺たちに対し、7人の“お前”が関係ないと言われたということは、やはり当初から1人にしか話しかけておらず、1人にしか用がないのだろう。



「大人しくついてくれば、お前の仲間に手は出さない」


「悪いが、よくわからない上に、心当たりはないと改めて言っておく。私たちは今、長い戦いが終わって楽しい気分なんだ。水を差すのもいい加減にしてくれないか」


「……龍皇は、我々の敵か?」


「だとしたら、あるいは、でなければ、どうしたというのだ。理由の説明もなく監獄に収容されろなど言われて私たちがわかりましたとついて行くわけがないだろう」


「理由などお前自身わかっているだろう?」



 アマルティアを一度、龍皇と呼んだので、やつの言う“お前”との差別化はできた。つまるところ話の流れ的にはやつらの目的はアマルティアではないのだろう。



「もういい。十分だろ。話にならない。俺たちそんなに暇じゃないんだ、宗教の勧誘なら他を当たってくれ。便利グッズも買わないし、身に覚えのない配達物も受け取らない」


「ランくんは何の話をしてるんだい?」


「ボケたんだよ! 普通に首を傾げるなよアグノス……。ともかく! お前の言う“理由”に心当たりはないから、冤罪だ。人違いもいいところだ」


「小僧は黙っていろ……で、お前は本当に投降するつもりがないのだな?」


「だから誰に向かって言ってるかわかんねぇって」


「黙っていろ。小僧ではない、お前の意向を訊いている」



 小僧呼ばわりも中々だが、頑固だなこいつ。



「……実力行使も、やぶさかではない。と、警告しておこう」


「そうなったら負けるのはお前らだぞ」


「一言も、弁明も、肯定も、否定も、ないのなら。それでもいいが、無理やりにでも連れて行く」



 俺の挑発を無視した鉄仮面は、カツ、カツ、と。仮面と同じく鉄でできているであろう靴底の音を鳴らして、真っ直ぐこちらに迫ってくる。


 俺もすぐにナイフケースからナイフを抜き、構えた。


 改めて思うが、やはり俺たちに現状、太刀打ちできる実力を持ち合わせている相手だとは思えない。なのにどうしてこうも冷静で、強気なんだ?



「憎しみの連鎖は──」



 不意に、視界から消えた鉄仮面の輝きと、マントの揺らめき。


 ほんの少し、視界の端に捉えた深緑色へ、振り向いた。



「終わっていない」



 俺たちのすぐ隣に現れた鉄仮面は、その深緑色のマントの中から初めて、腕を伸ばした。


 中世の騎士の鎧か、あるいは義手を想起させる鋼の腕──いや、鉄の腕と言った方がこいつのイメージに合うのかもだけど。


 ともかく、腕があることがわかったが、それどころではない。



「……うすうす分かっていましたが、やはり、私ですか」


「ピズマ!?」



 伸ばされた銀色の腕は、ピズマの首を掴んでいた。


 一言も喋らなかったのはピズマとレプトスだったので、どちらかと言えば、レプトスの方が犯罪を犯してそうだなぁと、弟子ながら思っていたのだが、まさかのピズマ。


 ことピズマに限って言えば、確かに仲間のためならば誰かを殺すのだって躊躇しない、冷たい優しさも持ち合わせているが、それは戦争時や、やむを得ない時のみであり、理不尽に大量殺戮とかそんなことはしない。


 他に、ピズマに罪があるというのか?


 なに、じゃあピズマ、万引きでもしたのか? こいつらはその店の店員か?



「ピズマから手を離せ!」


「龍皇、これは──始祖様のご命令だ」



 剣を抜いているアマルティアも、剣を抜こうと構えていたアグノスと紀伊ちゃんも、その動きを止めた。


 世界を導く賢者たちの意思だと言われれば、下手に手出しはできない。



「……嘘の可能性だってあるだろ、いくら実力で敵わないからってそんなこと言っても……」


「そう思うのなら自分たちの始祖にでも訊いてくればいいだろう、小僧」


「冷たいなこいつ」


「ラン様、おそらくこいつの言っていることは本当でしょう。“始祖”が関わっていると言うのなら、私を狙うのも頷けます」



 そう言ったピズマだったが、ゆっくり腕を上げ、自らの首を掴む銀の腕を握って、忌々しそうに口を開いた。



「しかし、今更、私に何の用だ。お前らが追っていた大罪人は、先ほど私たちが始末したところだが?」


「お前をキリグマと見間違えるほど低脳ではない。その上で言っている。大人しく収容されろ──スタヴロス監獄に」



 それは、それこそ。キリグマの用件だろうに。世界最古にして世界最高の伝説の監獄、スタヴロス監獄から三度の脱獄をやってのけ、世界を脅やかしたキリグマに、スタヴロス監獄に戻れと言うのならまだしも。


 ピズマはキリグマではないと分かっているのなら、どうしてその手を離さない?



「……私が何の罪を犯したと言っているんだ? それが言い逃れのできない、妥当な理由に基づいているのなら私だって素直について行く」


「自分の肌の色を見ればわかるだろう」


「…………なるほどな。私の中を流れる“始祖の血”が目的か」


「目的などではない、罪だ」


「悪いがこの肌の色も、1日もすれば元に戻る。知っての通り私は親から継いだだけであり、真の意味で始祖の血に呪われているわけではない」



 始祖の血を継いでしまったという、精神的な呪いはあれど、自ら殺し、吸い取ったという事実がない以上、殺された始祖からも、アストロロギアを除いて根絶やしにされたセンチルという種族からも、ピズマが呪われることはないのだ。


 今更、罪には罰を、なんて言ってスタヴロス監獄に収容しようとしてるのだって、どうせキリグマの代わりにでも、しようとしているに違いない。


 不動の正義を演じているようで、その実、こいつらに正しさなんて存在していないのだろう。



「関係ない。私への抵抗は、始祖様への抵抗を意味する」


「納得できる理由も用意できないなら、帰ってくれ。私も先ほどまで上機嫌だったからいいものの、そろそろ虫の居所がわるくなるぞ」


「罪人の言い訳に耳は貸さない。その肌の色が、その体に流れる血が、全てを証明している」


「これはあくまで私の意思には関係ない! ふざけたことを言うのもいい加減に……」


「──その血が罪だと! そう言っている!」



 無機質なロボットみたく、ただピズマをスタヴロス監獄に連行するためだけのやつだと思っていたが、その予想を裏切る、怒鳴り声。


 今更だが、男か、こいつ。



「いい加減にしろ」



 甲高い、鋼の擦れる音と、静かなアマルティアの声。


 直後、ピズマの首を掴んでいた銀の腕が、肘から先のみ、地面に音を立てて落ちたのを見て、アマルティアが“斬った”のだと察した。



「冷静に考えれば誰だってわかる。まだ全てにおいて学の浅い私ですら。ピズマの体を流れる始祖の血は、キリグマの罪であっても、キリグマも呪いであっても、ピズマの罪でも呪いでもない」


「関係ない。その血がこの世界に存在すること自体に、問題がある」


「ふざけたことを言うな。斬るぞ」


「私の腕の切断面を見ればわかるだろうが、私は神力で稼働する自立型の機械人間だ。痛みに訴えた脅しに意味はない」



 機械なのに、声を荒げたりするのか……。体は機械でも、心は人間に近いのだろうか。


 心情の変化で冷静さでさえ失う人間らしさを持ち合わせていては、それは機械人間として失格というか、デメリットでしかないだろうに。



「技術者の努力の結晶が、ここまで馬鹿な鉄の塊だとすれば、機械人間とやらの製作は大失敗だな」


「小僧は黙っていろ」


「何で俺には冷たいんだお前」


「──ピズマさん自身に罪はないけど、それでもスタヴロス監獄に捕まれって、そう言ってるんだよね?」



 紀伊ちゃんが剣を収めつつ言う。



「そう言うことだ」


「それが、“始祖様の命令”だと、さっき言ったよね?」


「あぁ」


「自分たちが、殺されるに値する価値があることを、その身をもって証明するキリグマを罪として、その血を継いでいるピズマさんも、生きているだけで始祖様の命を脅かす因子を作りかねないと、そういうこと?」


「……始祖様のご意向を推察など、恐れ多い」


「始祖様たちが、ピズマさんが生きているのを見て、自分たちが今後、また強さを求めた何者かに殺される可能性を感じて、それが怖いから、自分の身を守るために、ピズマさんを犠牲にしようと、そういうことなんだね?」


「始祖様を悪とするか、女」


「保身の為だけに、ピズマさんを世界から隔離しようとする臆病者だとは思うよ。……というか、誰よりも罪が重いのは始祖様じゃないか、あきらかに──」


「始末する」



 言うが早いか、一歩踏み出した機械人間は、直後、鉄仮面も、深緑色のマントも、もろとも、斬り刻まれた。


 紀伊ちゃんの前に立つアマルティアが、ひどく冷たい目で、足元に転がる鉄の塊を見下ろす。



「キイ、こいつらは私たちが殺……違うな、壊す。どうせ、『始祖の使いである我々に抵抗した』などと言って人間領にこいつらが攻め入ることも想像に難くない。キイは手を出さない方がいい」


「それはさすがに申し訳ないよ、ピズマさんだって、一緒に戦った仲間だし」


「それでも、ピズマのことは私たちが、パトリダが、守るべきだ」


「そう言われちゃうとなぁ……」



 ま、アマルティアの言う通りだな。ここで紀伊ちゃんまでこいつらに敵対視されると、紀伊ちゃんの所にもいずれ、「罪には罰を」とかふざけたことを言いに機械人間が現れるだろう。


 それなら、どうせピズマを渡すつもりのない俺たちだけで、こいつらに──始祖に、背けばいい。


 少なくとも、俺たちゴブリンの始祖──始祖じいは、罪のないピズマを犠牲にしようと言うほど頭はおかしくないので、他の種族の始祖が何を言ってようと関係ない。


 俺たちは俺たちだけで十分だ。どうせゴブリンなんて世界から見下されて仲間外れにされた存在なわけだし。今更だ。



「ま、ピズマを、始祖の保身の為に犠牲にしようってんなら、パトリダが相手になる。それでいいだろ」


「うむ!」


「しかしラン様、アマルティア様……私1人の為に、今後、パトリダに何らかの危機が訪れたりしたら……」


「そんなの、全部、蹴散らせばいい。徹底的に。ふざけたことをしているのはあくまでてめぇらだと、そう言って反抗すればいい」


「私たちは、仲間1人守れないほど、弱い男にはなりたくないのだ」


「アマルティアくんもランくんも、やっぱりいい子に育ったね、ピズマ」


「ああ。泣きそうだ。……ありがとうございます、ラン様、アマルティア様」



 嬉しそうに笑うアグノスとピズマ。相変わらずレプトスは黙っているが、俺たちの意思は同じ。ピズマを守り、パトリダを守る。


 ふざけた目的のために動く始祖も、始祖の使いである機械人間も、全部敵対しても構わない。



「──と、言うわけで」



 振り返って、背後に迫っていた機械人間の鉄仮面にナイフを突き刺す。



「全部ぶっ壊すぞ、みんな」



 パトリダの戦士たちが、ニヤリと笑う。


 機械人間おもちゃを壊すという形で、キリグマを倒した俺たちの祝勝会が行われた。



ありがとうございました!


 第2章は、本当は、ランが龍皇フロガを倒したあたりで終わって、物語も次のステップに進もうと思っていたのですが、バトルファンタジーは書くのが楽しいです。長くてすみません。

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