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ライトノベルじゃあるまいし  作者: ASK
第ニ章【ゴブリン・パトリダ】
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第51話 理由

コンタクトレンズ(唐突)


この話も、いつもより短いです。


強く叩かれた背中。じんわりと熱を帯びて、その熱と痛みさえ、今は心地よかった。


 突然訪れた全身の不自由に、困惑する暇もなく、アマルティアを刺し、みんなの邪魔をして、紀伊きいちゃんの肩にもナイフを突き立ててしまった。


 後で謝るにしたって、この罪悪感は拭えないのだから、ならばもう、ここで活躍するしかないだろう。


 活躍──つまるところアストロロギアの討伐!


 俺が主人公だというところを見せつけてやるぜ。……誰に?って聞かれたら困るけど。


 強いていうなら、読者と──立花ミズキ。


 敵に操られる、といういかにも主人公らしくない──どちらかと言えば主人公の親友キャラなんかが陥りそうな状況になった俺が、主人公ではない匂いが濃くなってきたので、ここらで挽回だ。



「島崎! ありがとな! 迷惑かけた!」


「……遅いぞ、ラン……」



 湖底を駆けて、島崎の前に飛び出す。


 アストロロギアの魔法攻撃をナイフで切り払う。先ほど噛み砕いた──というか噛み砕かされた──紫紺色の石の影響だろうか、面白いほどに体が軽く、実力以上の力が出ている気がする。


 膝をついて、額から流れ落ちる血液を拭う島崎を、守る。


 自警軍の制服もボロボロになっていて、これは後で紀伊ちゃんか紗江さえにおっぱいを揉ませて貰ってもいいレベルの傷つき具合である。


 こんなに頑張ったのだから、島崎にもそれくらいの幸せが訪れていいと思うが、まぁ、無理だな。



「まだ魔力、そんなに残っていたのか? アストロロギア!」


「いえいえ、もう最悪の展開です。まさか魔石を所持していたとは……」



 魔弾の雨を縫うように避けて進むアマルティアの言葉に返すアストロロギアの表情は、確かに焦りの色が濃く見えていた。


 幻魔獣ポチの召喚と、その強化で、魔力の大部分を使ったアストロロギアが、苦肉の策として──あるいは最終手段として俺を操ったのに対して、それを石一個で打ち消したのだから、そりゃ、焦るに決まっている。



「……これ以上は、無駄でしょう」



 苦々しい表情でそう吐き捨てたアストロロギアは、攻撃をやめた。


 そろそろ魔力にも限界がきたのだろう。



「アストロロギア、お前の200年の人生も、これで──」


「終わりではなく! これはあくまで始まりであることを! お忘れなく……!」



 剣を構えて決め台詞を言おうとしたアマルティアの言葉は、アストロロギアの張り上げた声に上塗りされた。


 少し恥ずかしそうな顔をするアマルティアに萌え萌え〜!と思いつつ、アストロロギアの言葉と態度に違和感を感じる。


 もう絶体絶命じゃないのか? なぜ少し余裕がある感じなんだ?



「逃がさない……! アマルティアくん!」


「うむ!」



 俺の横を駆け抜けていった紀伊ちゃんとアマルティアが、アストロロギアに肉薄した。



「キリグマ様には、いずれまたご一緒するとしますが……どうせあなた達はここで生き絶えるのですから、言うに及びませんね」


「『閻虎えんこ』……!」



 2人の剣士の、豪速の刃は、アストロロギアの瘦せぎすの体を切り裂く──ことは、なかった。


 消え入りそうな言葉と共に、アストロロギアは本当に消えた。その姿がぼやけて、霧のように、あるいは初めからそこには何も無かったように。


 微かに見えた魔法陣の存在から、今の消滅すら魔法による逃亡だと気付いたのは、遠くから見ていた俺よりも、近くにいた2人の方だろうけれど。



「……逃がしてしまった」


「まだ魔力が残ってたみたいだね……」



 肩を落とすアマルティアの頭を撫でる紀伊ちゃん。こうして見てると彼女も、伊達にこの世界に来てから5年も経っていないなぁと思った。


 素直に言えば、大人になったなぁ、と。すっかり大人の女性!って感じがして、その成長と共にいられなかったことを悔しくも思う。


 同じ時を生きていたようで、どこかでズレてしまった。だって、紀伊ちゃんはもう20歳で、対して俺は5歳児のゴブリンだし。


 大人の魅力を手に入れた紀伊ちゃんともイチャイチャしたかったけれど、種族違うとかどうしてくれんだよ立花ミズキ。



 ──そして。


 島崎を紗江の横に寝かせて、何とか終わったアストロロギアとの戦闘に、胸をなでおろす紀伊ちゃんに、アマルティアが口を開いた。



「しかし、キイ。どうしてランは、元に戻ったんだ?」


「あれも、紗江っちの言った通りにしただけだったから、この説明も受け売りになるんだけれど」



 そう前置きして、紀伊ちゃんは話し出す。



「まず、アストロロギアが使ったのは、スタヴロス監獄の囚人にも使っていた、人を操る魔法。それでも自我を保っていた囚人がいたのを思い返すと、自我が残る場合と、ランくんのようにそうではない場合があるのかもね」


「自我を保てなかった俺の精神力の弱さか……」


「落ち込まないで……。でね、そもそもどうしてアストロロギアが、私でも島崎くんでも、アマルティアくんでもなく。ランくんを狙ったかと言うとね」


「残り少ない魔力では、一番弱い俺を操るしかなかったのか……」


「落ち込まないでよ……そんなことないってば。まず、動くことさえできない紗江っちを含めて、私と島崎くんは、一度、魔法を経験してるの」


「経験というのは?」


「上手く言えないんだけど、体内に魔力の残滓ざんしが循環してて、それが他の魔力への免疫になってるらしい」


「残滓? 免疫?」


「えっとね……私たちの仲間に、史上2人目の魔法使いがいるんだけど、その子の魔法の影響を受けたことがある私たちの体は、他の魔法を受け付けない状態にあるの。理屈はわからないけれど」


「……だとしたら、ティアはどうして狙われなかったんだ? キリグマの狙いだから手を出さなかったのか?」


「それもおそらく違う。黒紗江っちの話によれば、『龍の加護』に護られてるものには魔法が効かないらしいよ」


「つまりは、龍皇には、魔法が効かないってことか。……確か始祖にも、加護神ベータにも、魔法が効かなかったって、アストロロギアは言ってたな」


「条件はわからないけど、そういうことらしい。……で、結果的に残ったのはランくんただ1人だったから、アストロロギアは君を操って自分の身を守ったり、戦わせたりしてたってわけだね」


「あ! そうだ! 肩、大丈夫?」



 紀伊ちゃんが紗江から作戦を聞いていた時のことを思い出した。そうだ。俺は紀伊ちゃんの肩を刺して……



「もうだいぶ治ったから、いいよ」


「どういう仕組みなの……」


「……で、話を戻すけれど。魔力に対する免疫が無く、龍皇でもないから狙われたのがランくんなら、魔力を直接、体内に流し込んで上書きしちゃおうって作戦だったの」


「上書き?」


「うん。アストロロギアの魔法を、この紫紺石に内包された魔力で打ち消そうって話」


「そんなことできるのか?」


「体内に残滓が残っているだけで、他の魔力を受け付けないような力を持つのが、私たちの仲間の魔法使いの魔法の凄さなんだけど、単純に魔法としての格が違うから、あんな猫耳男の魔法なんて消しちゃえるらしいよ」


「その魔法使いさん、すごいな」



 瑞樹みずきだろ? 知ってるけど。そりゃチート級の魔法使えるだろう、あいつなら。


 言ってしまえばゲームマスターみたいなものだろ、あいつ。



「この紫紺石は、戦闘中、両手を使わなくても発動できるよう、噛み砕いた時に唾液と反応して、その効力を発揮するんだけど、そこでまさかアマルティアくんがあんなダイタンなことするなんて……」


「ん? 私は変なことでもしたのか?」


「いやいやいや! 全然いいよ! 全然! むしろあのやり方が大正解だった! 俺はそう思うなー!」



 必死に取り繕う俺だが、こっちだって気恥ずかしいものがある。


 アマルティアと、ちゅ、ちゅ、ちゅーしちゃった!


 いやまぁアマルティアは男だし? 俺はゴブリンだし? 絵面えづらはかなり酷いものだったかもしれないが、こちとら美少女(美少年)とキス出来たのだから大満足だ。


 人生初の口移しは、石ころでした♡



「……ランくん、もしかして変態さんかな?」


「さぁさぁ! 早くキリグマの方へ向かおう! こんなところでお喋りしてる場合じゃない!」


「……それもそうだね。誤魔化された気もするけど」



 いたずらっぽい顔も可愛いな紀伊ちゃんは。


 まぁ、俺が言ったように、今はまだ戦いの最中。ましてや、最も強く、恐ろしい敵が今も戦っているのだ。気を抜くにはまだ早い。


 ──と、思ったのだが。



「あれ……ピズマたち、どこ行ったんだ?」


「キリグマも、アグノスも、いないね。ランくんを助けてる時にはもういなかったっけ? 覚えてないや」


「こっちはこっちで忙しかったからな」



 見渡しても、ピズマと、レプトスと、アグノスと。そしてキリグマの姿が見当たらない。


 ただ、水の無いリム湖の湖底が、飢えたように乾いているだけだった。


 不思議に思った──刹那。



「オオオオオオオオオオオオオッ!」



 聞き覚えのある、雄叫びと、そして。


 空を切り裂く漆黒のいかづち。降り注ぐ雷鳴と殺意。


 耳をつんざく轟音と、捲れ上がるほど揺れる地面。


 少し離れた位置にある森の木々が、紙切れのようにくしゃっと潰れて、黒い影が、全てを薙ぎ倒して、リム湖に飛び込んできた。



「キ……キリグマ!?」



 全身の黒い肌から、その巨躯を覆い隠すほどの蒸気を曇らせて、漆黒のゴブリン──キリグマは、少し傷ついた体で、大きく呼吸をしていた。


 肩で息をするような疲れ具合に、ピズマたちの優勢を期待したが、そんなに甘くは無いらしい。


 直後、木々の薙ぎ倒された森から出てきた3人は、服もボロボロで、それこそ満身創痍と言った様子だった。


 傷はすぐに『天使』であるピズマの回復神法で治るのだろうが、体力はそうは持たない。


 それに、ピズマの神力が尽きるのも時間の問題だろう。


 絶望が絶望を呼ぶ死闘は、こちらが本番で、俺たちが相手取っていたのは、単なるおまけに過ぎなかったのだと。


 そう察するに難くないのは、立ち上る蒸気の中にいる黒い影を見ればわかるのだった。



「……あんなの、倒せんのかよ……」



 対キリグマ戦、最終局面。


 キリグマとピズマの、世界最強の親子喧嘩が、熱を帯び、加速する──

 


ありがとうございました!


今日はこれくらいにしておきます。

明日は投稿できるか……どうかわからないけど、春休み中は、なるべく更新します。

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