第50話 口移し
こんちゃー(適当
はい。とても短いです。
書けたらすぐ投稿!という形なので、いつもなら「❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎」で区切っているところを、投稿しちゃってる感じです。
「キイ! この女が呼んでいる! 急いで来てくれ!」
「えぇッ!?」
キイを呼ぶ。
アストロロギアに操られたランの自殺を力づくで、何とか阻止している私もかなり辛いが、この状況のせいでアストロロギアに攻撃できないキイとシマザキも、ひたすら攻撃を防いでいて、恐らくは大変な状況だろう。
それでも、目の前に横たわる黒眼の女に比べたならば、私たちはそれほど辛くもない気がしてくる。
それはキイも感じることだろうから、この女が呼んでいるとなれば、驚きはしても、すぐに向かって来てくれる。
しかし、アストロロギアがこちらの思い通りの展開を黙って見ているとも思えないが……。
「島崎くんは私たちのこと、全力で守って!」
「言われるまでもありません!」
女の前まで来たキイはそう言って、しゃがんだ。
地面に手も膝も付いて、黒眼の女の口元に耳を寄せた。
残り少ない魔力を総動員した、アストロロギアの魔弾の雨も、その一つ一つを矢で貫き消すという、シマザキの信じがたい妙技によって、何とか耐えきれた。
「な!? ラン、待て!」
直後。自らの首もとにナイフを突き立てていたランが急に飛び退いて、何とか会話をしているキイと黒眼の女の方へと走り出した。
この2人が現状を打開し得る可能性に辿り着きつつあることに、アストロロギアも気がついたらしい。
「届け……!」
伸ばした腕の先、長剣の刃は、間一髪、振り下ろされたランのナイフに届いた。
が、しかし、先ほどまでも体感していたように、ランの単純な力が魔力で跳ね上がった今、片手で握った剣では、その勢いを殺しきれなかった。
軌道は反らせたが、時すでに遅く、ランのナイフが深く、キイの肩に突き刺さる。無論、軌道を何とか反らせなかったら、キイの首に刺さったであろうことを思えば、まだマシではあるが……。
私の反応速度や、力不足で、キイを傷つけてしまったことには、ひどく悔しく、自分への憤りさえ抑え難かった。
「痛ッ……効くなぁ……」
「すまん! キイ! 止めきれなかった!」
「もう少しで分かりそうだから、アマルティアくん! 耐えて!」
口の中で、了解、と答えて、私は体ごとランを押しのける。
確実な致命傷ばかりを狙うランに、それはもう汗の吹き出るような苦戦を強いる。
速さも強さも段違い。魔力の効果で限界を超えた力が発揮されているとは言え、もともとのランの潜在能力の高さゆえの、強さだ。
ましてやこの殺しに長けた戦い方も、ランの鍛錬の成果であることも私は知っている。
それをこんな形で利用されることも、許せるはずがない。
「しかし……ランも将来、これくらい……あるいはこれ以上強くなるのだと思うと、頼もしいがな……!」
「ぅぁ……」
相変わらず言葉を使うことさえままならないランの泣きそうな、苦しそうな表情は変わらない。
敵に利用され、キイを傷つけてしまったことにより、一層、その表情に悲しみを重ねたランも、辛く厳しい自己嫌悪に駆られていることだろうことを思うと、心苦しい。
「── アマルティアくん!」
そして、時は満ちる。
私を呼ぶ声に、振り向くことはできなくとも、反応を示す。
「私は何をすればいい!」
「これを……!」
一瞬だけ振り向くと、鈍く輝く、紫紺色の石を、キイが私に投げてよこした。
「これを噛み砕くと、魔力が発生するの! それをランくんに使って!」
その言葉と同時、私は両手で握っていた剣から、片手だけ離し、その石を掴み取った。
が、次の瞬間、片手で握った剣では、ランの力強さに対応できないと、剣と手を襲う衝撃に直感する。
私はすぐに、その石を口の中に放り込んで、再び両手で剣を持ち、ランの雨のような連撃を耐え凌ぐ。
「ちょっと!? アマルティアくん、それ君が噛み砕いちゃダメだよ!?」
「わわっえいぅん! あんわうぁぅんあを?」
「石を頬張ってるから何言ってるかわかんないし……」
わかっている! ランが使うんだろう? と言ったつもりだったのだが。
しかし、どうしたものか。これを噛み砕くとなると、ランの口の中に入れて、かつ、噛ませなければならない。
自我のない今のランにそんなことはできないだろうから……それに、そんな隙を突くのさえ至難の技だ。
ランのナイフに剣を当てる度に力が入って思わず口の中の石を噛み砕きそうになる……早めに仕掛けないと台無しになりそうだ。
「急いでアマルティアくん! 島崎くんがそろそろ限界かも!」
視界の端に捉えたシマザキは、もはや矢が一本も残ってないらしく、弓そのものでアストロロギアの魔法の銃弾を叩き斬っている。
だが手が追いついていないらしく、今も身体中に傷を作り続けているようだ。
もう時間はないに等しい。
両手が塞がっている今、口の中にあるこの石をランに渡すには──
「ぇえ……!?」
「んむぅ、……はぁ、はぁ」
ランの口が微かに開いた瞬間を逃さず、私はその口に私の口を重ねた。
無理矢理、ナイフを握る腕を押さえて、もう片腕でランの腰に手を回した。無論、逃げられないために。
石を私の口から移す。石がランの歯に当たる音がして、成功したことを察する。
刹那の思いつきにしては、いい方法だったかもしれない。
私の口にある紫紺石を、ランの口の中に移すのなら、当然、口移しの方が早くて確実だ。
キイが驚いたような、間抜けな声を上げていた気もするが、今はどうでもいい。
しかし、私はこれをどうやって、ランに噛み砕かせようか分かりかねる。
「キイ! どうすればいい! 噛んでくれない!」
「え、あ、えっと……顎を下から殴れば!?」
なぜか顔が赤いキイが、なぜか投げやりにそう言ったので、適当に答えただろうことは予測できたが、しかし、的を得たやり方だとも思ったので。
「ラン、すまん!」
ランのナイフを剣で何とか弾いて──弾けていなかったけれど──力一杯、下から上へと、ランの顎を殴り上げた。
ガチンッ! という、およそ口元から鳴ってはいけない音と共に、拳を振り抜いた。
ランの口端から、紫紺石の欠片が、粉のように落ちて、キラキラと光って見えた。
その、刹那。
「いってぇぇぇぇええッ!」
淡い、紫紺色の光が、ランの全身を包み、神秘的な光景ながらも、それに見合わぬ叫び声がリム湖に轟いた。
熱くない炎のような、紫紺色の輝きを帯びたランは、手で顎を押さえながら、足をドタバタさせている。
──元に、戻った。
「ラン!」
「わ、ちょ! ってか死ぬほど痛ぇッ!」
抱きついた私に驚いた様子のランだったが、すぐに顎の痛みを思い出し、涙目で喚き散らした。
「復活早々、働いてもらうよ、ランくん! アマルティアくんも! 島崎くんの援護! ていうか助けてあげて!」
頷きつつ、駆け出した。
足の速いランの斜め後ろで、ランの背中を追う。
不意に、背中越しに声が掛けられる。
「……ごめん、迷惑かけた。ティア」
思わず笑みが零れる。
「礼ならキイと、シマザキと、倒れてる女にも言え。情けないが、私1人では何もできなかった」
「そうか──」
「それと!」
ランの言葉を遮って、語気を強める。
「ごめんではないだろう?」
「……!」
振り向いて、驚いた顔をするラン。このやり取りも、以前やった気がするが、覚えてくれているだろうか。
「──ありがとな」
困ったように笑ってそう言ったランの耳が、少し赤くて、私はおかしくて仕方なかったけれど、
「うむ!」
と、返事しつつ、思わずランの背中を叩いてしまうほどには、嬉しさのあまりに興奮していたのだった。
ありがとうございました。
もしかしたら今日中にもう1話投稿するかもです。




