第48話 爆炎の奇跡
こんにちは〜(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾
第1章が『ギャグ多めのラブコメディ』だっただけあって、第2章への振り幅が大きすぎた気がしますね。
戦闘シーンにはなるべくギャグいれたくないので、どうしても真面目になってしまう……!
でも、やっぱりバトルは男のロマンだぜ!
煌めくは無数の光の円盤。
初めて世界に選ばれ、神に牙を突き立てる力を得た男の嘲笑。
「雨の龍皇──あなただけを残して、他は全て排除します」
一瞬、輝きを増した魔法陣から、光の銃弾が機関銃も顔負けの連射速度と弾数で放たれる。
魔法陣の数だけでも俺たちの人数を超えるのに、その一つ一つがこの物量攻撃を仕掛けてくるとは、笑えない。
「障壁、張ります! ──加護神ベータの名の下に!」
遥か前方、現れた光の障壁が、目では追えない数と速度の魔法の銃弾を、止め──られない。
まるでそこには何もないかのように、すり抜けて通るそれらに、目を見開く。
「嘘だろ!?」
「各自防いで!」
一人、声をあげて驚く俺をよそに、紀伊ちゃんの言葉とほぼ同時、飛来した光球に対処する。
時の流れが緩慢になる。言わばスローモーションの、限りなく遅い刹那の中で、少なくとも対処できそうな光球に、ナイフを振るう。
切る、というよりは、ナイフの刃が触れた瞬間に消滅する光球を、消していく感覚。
しかし無論、これが光の銃弾であろうと、本物の銃弾であろうと、無数に飛来するそれをナイフ一本で対処しきれるほど、俺のスペックは高くない。
奇跡的に、一、二個の光球を弾き飛ばし、そして隙だらけの体にさらなる光球が肉薄する。
その一つ一つが、どれほどの威力を秘めているのか、定かではないので、もしかすれば俺のパンチ一発くらいの衝撃しかないかもしれない。
あるいは、体を貫くほどの威力かもしれない。自分の体で試してみるにしては、後者の威力だった時に取り返しがつかないので、警戒するに越したことはないが。
今更、避けようがない──
「もう、手間がかかるんだから、ほんと」
振り上げられた一刀は、有無を言わせぬ絶対の一振り。
俺と光球の間に割り込むように飛び込んだ紀伊ちゃんの、究極の剣技。
全身をくまなく動かし、丁寧に、しかし豪快に、何よりも正確に振るわれた長剣は、やがて全ての光球を切り払った。
「おや、誰一人仕留められませんでしたか。これはまた、魔力の無駄遣いをしてしまったようです」
薄汚い猫耳をシュンとさせ、瘦せぎすの男は大げさにがっかりしてみせる。
「この世界において、魔力の供給はかなり困難なのですから、貴重な魔力の浪費は避けたかったのですが」
「初代魔法使いって言うからどんなやばい奴かと思えば、魔力の供給の仕方もよく理解できていないとか、名前負けもいいところね」
わ、黒紗江だ。また代わったのか。
「しかしまぁ、100年以上も監獄に囚われていたら、供給源を探そうにも不可能だったんだろうね。毎日回復する程度の魔力しか貯められなかったんでしょ」
「でも隊長、瑞樹さんが特殊な例なだけで、普通は魔法ってそういうものじゃないんですかね?」
今度こそはっきり聞こえたぞ。瑞樹って言ってるよな、絶対。
いや、もちろん、アマルティアを助けに行った時、自警軍の最下層部で、紀伊ちゃんとアグノスが戦っていた場所に、瑞樹の存在を思わせる二つの機械があって、その時にも瑞樹がこの世界にいることを確信したけれど。
しかしどうだ、実際に名前を聞いたのが五年ぶりなのもあるけれど、瑞樹の実在を改めて思い知ると、どことなく不安になるな。
紗江や紀伊ちゃん、傘音たちとともにこの世界にいる瑞樹が、立花ミズキの方か、俺の妹である千葉瑞樹の方か。
どちらかによってはかなり物語の方向が変わりそうなものだけれど、いずれにせよ、俺には警戒すべき人物だ。
──なんでもいい。結局は、ここで死んだら何もかも終わりなわけだし。
現に俺は、紀伊ちゃんに守ってもらえなかったらさっき死んでたからな。
「私も知っていますよ、『魔女』のことは。 監獄内でも世界新聞は読めますからね」
アストロロギアは首を傾げる。
「しかし、あの魔女は魔力供給の効率的な方法を知っているのですか……通りで何度も大魔法についての記事が載るわけですね」
「地味にチェックしてんなあいつ」
初代魔法使いとしては、二代目の動向は気になるに違いないだろうけれど。
いずれにせよ、神法しか存在しないこの世界において、魔法を使うアストロロギアには、苦戦が強いられると危惧していたが、どうやら紀伊ちゃんも紗江も島崎も、少しは魔法というものに慣れているらしい。
しかし、この世界の瑞樹が使う魔法と、アストロロギアの使うそれが、同じようなものならいいけど、そうもいかないだろうな。
「キリグマ様に貢献するためにも、ここで魔力をいたずらに減らしたくはありませんので、短期決戦でいきましょうか」
そう言ったアストロロギアが、両手を正面にかざす。
今までのとは桁違いの大きさの魔法陣が、リム湖湖底に現れる。
すぐに距離をとった俺たちの目の前で、それは現れた。
「実は私、幻魔獣を飼っていまして、可愛いでしょう? 名前はポチです」
突如、湖底を割って飛び出したのは巨大な“触手の化け物”。タコやイカのような生物ではなく、それこそ触手のみで構成された化け物。
この動く糸こんにゃくみたいな気色の悪いのが、ポチって名前なのはアストロロギアのセンスを疑わざるを得ないけれど。
その巨大さを考えると、俺たちが集団でいる利点が失われた気がするが、しかし。
「触手か……期待大だな……」
呟いて、ニヤリと笑う。
そう、触手といえば、エロである!(暴論)
女の子が触手に掴まれて、絡まれて、服を溶かされ、そして……。
「そんなとこらめぇぇえッ!」
「うわっ、どうした、ラン!?」
「たまんねぇ! よぉし早くかかってこいよ幻魔獣ィィッ!」
「どうしてこんなにテンションが高いの……?」
いつの間にか戻っていた白紗江の困惑の声を無視して、俺はナイフを構える。
こんなやり取りの間にも、降り注ぐ雨を吸うように、大きくなり続ける幻魔獣。
「いきますよ、気をつけてくださいね。幻魔獣は、大喰いですから」
水々しい音を立てて激しく動き出した触手の影に、包まれる──
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轟音、水飛沫、衝撃。
地割れを伴った横薙ぎの一撃が襲い来る。
向かって走り出したアマルティアが、その触手の一本を見事、縦に切り落とす。
キリグマを想起させるほどの蒸気を曇らせて、触手の切り口が暴れ回る。
切り落とされた触手の先は、ほんの一瞬で蒸発した。
そして──
「またかよ……くそッ」
暴れ回る切断面から、また再び触手が伸び生える。触手というだけで、ある程度想像はできていたが、再生までの速度が速く、さらには触手の数も多いとなると、まともに一本一本に対応していたらキリがない。
幸い、アストロロギアが操っているわけではなく、幻魔獣の意思で攻撃して来るので、微妙に攻撃にムラがあったり、どこかでたらめに触手を振るっているようにも思える。
それも微々たるものではあるけれど。やはり、その巨体ゆえに、暴れるだけでもそれなりの攻撃にはなる。
触れても別に服は溶けなかったが、ヌルヌルになるのは確認済みだ。
これに紀伊ちゃんや紗江が捕まったらと思うと、不謹慎ながらも興奮してしまう。
やっぱり男だからな。
しかしまぁ、先程から見ていても、俺以外、誰一人捕まりそうにならない。
俺だけ何度も捕まって──
「ちくしょー! またかよ!」
「今助けるッ!」
何本もの触手に体を締め付けられる。ヌルヌルという音が聞こえそうなほどに、粘着質な触手が全身を湿らせる。
くそ、美少女ならいざ知らず、ゴブリンのクソガキが触手プレイとか、地獄すぎて自殺するのもやぶさかではないぞ……。
「ふッ」
「おっと、さんきゅ、ティア」
「そもそも、そんな短いナイフ一本で、あんなのと戦おうというのが無茶なのだ、ラン」
そんなこと言うなよ。俺のアイデンティティなんだから。
確かに、圧倒的なリーチの短さゆえに、かなり触手に接近しないと攻撃できない俺が一番、捕まりやすいのは否定できないけれど。
「いくら斬っても再生するし……キリがないなぁ」
紀伊ちゃんも苦笑い。そりゃそうだ、こういう敵は往々にして剣士と相性が悪い。
「神法は効くんですけど、この大きさのを一気に消し去るとなると、かなりの詠唱時間が必要ですし……でもそんな余裕が……」
「紗江っちをどうにか守って、一発で片付けてもらうのが一番なんだけれど……この数の触手が一気に襲ってきたら、さすがに対処しきれないからね」
あの紀伊ちゃんをもって、ここまで言わせるほどに、あの幻魔獣は厄介だ。
先ほど、紗江の神法で、火をつけたときに、幻魔獣が凄まじく怖がっていたので、恐らくは炎の神法は有効なのだとはわかったけれど、アマルティアの降らせた雨が、ここでは逆効果となってしまった。
アマルティア曰く、雨を降らせたはいいが、どうすれば止むのかわからない、とのこと。
まだ龍皇としての力が目覚めきっていないためか、コントロールが効かないらしい。
「劣勢かもしれないのは変わらないが、しかし見てみろ、アストロロギアのやつ、座り込んで瞑想してるぞ」
「魔力を少しでも貯めようとしてるのかな? だとすればこの幻魔獣ちゃんを出すのに相当な魔力を使ったんだろうね」
俺の指差した方向にいる、瞑想中のアストロロギアを見て、紀伊ちゃんはそう言いつつ、頬に張り付いた髪の毛を手ではらう。
アマルティアの努力の結果、なんとか小雨くらいには弱められたので、今はそれほど雨は気にならないが、髪が伸びた紀伊ちゃんには少し、うっとおしいのかもしれない。
「しかし隊長、どうしますか。 『大逆の魔導士』の魔力がまた復活する前に、このデカブツを片付けないと……」
「うーん、今の私たちには対処法がないんだよなぁ……紫紺石も温存したいし」
「……えっと、じゃあ、私たちで、なんとかしてみますね」
紗江が、右眼に手を当ててそう言った。
「いや、さすがに負担が大きすぎるよ紗江っち。幻魔獣ちゃんを倒しても、アストロロギアと、もっと言えばキリグマだっているんだし……ここで動けなくなるのは……」
「でも、瑞樹ちゃんの紫紺石をここで使うよりかは、いいと思うんですけど……」
「そうやって、石一つより自分の方が価値が低いみたいなこと言ってるとまた傘音っちに怒られるよ……?」
「あとで怒られるためにも、今を勝たなきゃですから」
傘音に怒られたいのか、紗江は。
作戦会議もそこそこに、そろそろ行動しなければ、話し合いの間、ずっと俺たちを守ってくれている島崎に申し訳ないな。
矢の数にも限りがあるだろうし。
「……じゃあ、お願いね。──紗江っち、黒紗江っち」
『任せてください』
ん? なんか、声が重なってない?
と、首を傾げた、その瞬間、俺は思わず開いた口が塞がらなくなる。
──紗江の右眼が、黒く染まっている。
その桃色の髪の毛と同じく、いつも通りの桃色の瞳は、左だけで、その右眼は炭を注入したかのように、黒く、深く染まっていた。
「じゃあ、紗江っち達にはいつものをお願いするね。……私たちはその援護、紗江っち達の対処しきれない触手は私たちがどうにかするから」
『はい、わかりました……絶対にヘマしないでよね』
おお……表情がコロコロ変わるな。
というか、今の紗江は、二つの人格が同時に存在している状態なのか。それって脳への負担とか大丈夫なの?
「一発で終わらせるよ、みんな」
「隊長、そろそろやばいです!」
「守ってくれててありがとう島崎くん! よし、突撃!」
『いきます!……わよ!』
変な日本語になりつつ、紗江と黒紗江が走り出した。
島崎が一旦退避して、矢の応酬から解放された触手たちが嬉しそうに暴れ出す。
紗江は、長いダンベルのような形の魔法杖で、迫り来る触手を殴り飛ばしていく。
そして、走り、触手を殴り飛ばしつつ──詠唱を開始した。
二つの人格が、それぞれ二つの行動を、一つの体で行なっている。
極度の集中を必要とする、強力な神法の詠唱と、一瞬の油断も許されない高度な戦闘の、両立。
こんなことをしていたら、精神的にも、肉体的にも紗江がぶっ壊れてしまう。
「早く終わらせようって、そういうことかよ……!」
ぬかるんだリム湖湖底を駆ける俺と島崎、アマルティア、紀伊ちゃん。
最優先は紗江の防衛。死んでも守りきる──!
『──どうかこの手を離さぬよう、どうかその目を逸らさぬよう、陽の光さえも覆い隠す輝きをもって、奇跡の真実に触れさせて──』
かすかに聞こえる詠唱。どうにかなりそうと思った、その時。
「幻魔獣、潰しなさい」
不意に鼓膜を叩いたのは、アストロロギアの声。
途端、半透明だった触手の怪物は、赤紫色に変色。その動きの速度が増す。
幻魔獣の足下には、巨大な魔法陣が再び現れていた。強化魔法、とでも言ったところか。
最悪だ……紗江の体のことも考えて、この作戦はやり直しがきかないのに。
「そうはさせない──アマルティアくん!『霧雨』!」
「わかった!」
「──『六芒星』……!」
小雨の中に溶け込むように消えたアマルティアと紀伊ちゃん。そして、数えきれない数の矢を放ち、その全てのベクトルを一度に操る島崎。
紗江に肉薄していた赤紫色の触手が、粉々に斬り刻まれる。雨のカーテンに隠れるように、かすかに姿が見えたアマルティアと紀伊ちゃんは、全く同じ動きをしていた。連携剣術。
さすがは同じ流派の剣士だな、と感動にも似た関心をしていると。
宙を舞う、島崎の放った無数の矢が、それぞれ六芒星を描き、星の爆発を思わせるような、広範囲の攻撃で、視界に入るほぼ全ての触手を貫き払った。
『──加護神ベータの名の下に!』
そして、詠唱が、終わる。
幻魔獣の正面、手を伸ばせば届くほどの近距離で魔法杖を構えた紗江。神法の輝きが、彼女を覆う。
信じられないほどの眩しさの中、仕留めきれなかった一本の触手が、紗江の背後から振るわれた。
──無我夢中で、駆ける。
自分でも驚くほどの速さで、蒸発した触手の湯けむりの中を駆け抜ける。
豪速で突き出された触手の先が、紗江の背中に突き刺さる、直前の刹那。
「いっけぇえええええええッ! 紗江ぇえええッ!」
ナイフを刺し、加えて全身で触手に突進し、叫んだ。
そして。
『──爆炎の奇跡』
静かに響いた紗江と黒紗江の声が、業火の竜巻を巻き起こし、灼熱の赤色が視界を、感覚を、心を、覆う。
あまりの近距離での大爆発に、体が動かない俺と、爆発元の直下にいる紗江を、アマルティアと紀伊ちゃんが、引っ張って、投げ飛ばしてくれた。
灼熱の熱風にも押されて、かなり離れた位置に、着地もできずに転がる俺と紗江。
スライディングで、ギリギリ、爆炎から逃げ切った紀伊ちゃんとアマルティア。
立ち昇る炎の柱と、広がる火花。
まるで巨大な炎の花が咲いたようで、どこか美しいその爆発は、巨大な触手の怪物を、一片も残さず消し去った。
詠唱時間の長い神法の、その恐ろしさを感じつつ、それを成し遂げた紗江に拍手を送りたい気分だった。
ぐったりとする紗江を紀伊ちゃんが背負って、俺たちは、陽炎の奥に立つアストロロギアを一瞥する。
少し驚いた様子のアストロロギアが、その猫耳を撫でながら笑う。
「まさかここまでの神法の使い手がいたとは……あぁ、可哀想な幻魔獣……」
「あの怪物の召喚に、その強化。そろそろ魔力にも限界がきてるんじゃないか?アストロロギア」
ニヤリと笑う俺に、アストロロギアはわざとらしく肩をすくめる。
「ええ。それはもう、ほとんど使い切ってしまいましたよ、魔力」
「大人しくスタヴロスに戻るつもりはないのかい?」
紀伊ちゃんの言葉に、
「まさか、ありえません。私はキリグマ様の為に生きるのですから」
食い気味で言い放つアストロロギア。
「『大逆の魔導士』とキリグマ。この二人を野放しにできるわけがない……ですよね、隊長?」
「島崎くんの言う通りだ。それに、どうせスタヴロス監獄にぶち込んでも、また脱獄するのは容易なんだろう?」
「もちろんです。あんなハリボテの刑務所を、伝説の監獄なんて呼んでいるのが信じられません」
恐ろしい発言だな……。
ま、反省の意思も、監獄に戻る意思もないんだ、答えは一つだな。
「アストロロギア。お前の200年の人生には、ここで終止符を打たせてもらう」
剣を構えるアマルティアの言葉に、アストロロギアは薄く笑った。
「一人が眠っているとは言え、四対一では敵いません……終止符とやらを打たれてしまう前に──」
視界が、揺れた。
「一人──私にくださいよ」
直後、俺は横にいたアマルティアに──ナイフを突き刺した。
ありがとうございました。
触手に絡まれたり、最後の行動だったり、なんだか主人公というよりは、ヒロインや主人公の親友とかが、よくやられる展開ですよね。
あれ?ってことは蘭は主人公ではない……?(メンタルダメージ)




