第45話 漆黒の雷
こんにちは(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾
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すみません!
瘦せぎすの体格。恍惚の表情ながらも、目の下のクマがその不健康さを物語る。
フード付きの全身を覆うローブは、土や埃にまみれてボロボロもいいところだった。見た目からして不気味で、清潔感のかけらもないこの男は。
『大逆の魔導士』──アストロロギア。
レプトス曰く、史上初の『魔法使い』らしい。それは確かだろう。というのも、数分前、キリグマへの一斉攻撃を、このアストロロギアに防がれた際、俺たちのそれぞれの武器を弾いたのは、かの有名な『魔法陣』だったからだ。
ラノベやアニメ好きならば見慣れた魔法陣は、宙に現れた円盤状の光で、俺のナイフの刃先が触れた瞬間に、押し返されるように弾かれた。
大気を埋め尽くす『神気』を変換し、様々な効果・現象をもたらす『神法』が存在するこの世界では、原則、『魔法』は存在せず、魔法使いに最も近しいのは、神法使いである『神託者』だった。
見慣れた神法とは一味も二味も異なる“魔法”には、その得体の知れなさ故、対応が難しいところだ。
そんな、“特異”を使いこなすアストロロギアは、鼻から大きく息を吸って、その血走った目を爛々と輝かせた。
「キリグマ様に従える者として、恥ずかしくないよう、スタヴロス監獄の囚人の中でも、最悪の囚人とされる、世界秩序の異端者たちを44名連れてきました。無論、その全てが、キリグマ様の駒であり武器であり、盾であります」
「……めんどくさいな」
相変わらずキリグマは不機嫌な表情を浮かべている。
別段、キリグマは、仲間や部下が欲しかったわけではなかったのだろう。ただ、自分が『最強』であると、現龍皇であるアマルティアを殺して、世界に示したいという、それだけだから。
しかし、そんなキリグマの意思なんて関係ない。キリグマがアストロロギア率いる最悪の囚人たちを受け入れようが受け入れまいが、あのフード付きローブを目深くかぶり、羽織る囚人たちは、俺たちの敵だ。
見るからに体格の大きなやつや、やたらと小さいやつもいるようだが、その個性がなおさら怖い。
「……おや?また随分と穢らわしい者どもが……」
不意に、アストロロギアは森を振り返る。
キリグマも、レプトスも森を凝視していて、思わず俺も目を凝らした。
音が聞こえる。声が聞こえる。
「森の中には、何人か配置しておきましたが……」
そういうアストロロギアは、指を折って何かを数えている。
配置された何人か、というのは無論、彼の背後に立つ多くの囚人たちのことだろう。
俺は、世界新聞に記載されていた、『脱獄した計45名の囚人』というのは、バラバラに逃げたりするのだと思っていたのだが、どうやらそんなこともなかったらしい……しかし。
ここにきた理由が、キリグマへの恩義、それ故だとアストロロギアは言った。
その恩義の所以も語った。しかし、ならば背後に立つ彼らは? 彼らさえも、もれなく、キリグマに何らかの恩を感じている者たちなのか?
それは怪しい気がする。というか、おそらく違うだろう。
なにせ、さっきの『配置しておいた』という発言もそうだが、何より、アストロロギア本人が自己紹介をしようとした時、その態度に怒ったキリグマが、彼を殺そうとした、その瞬間に、間に入ってアストロロギアを守ったのは、3人の囚人だった。
喜んで自ら死ににいったようにも見えなかった。純粋に、アストロロギアを守ろうとしていた。
さらに言えば、そうして自分の身代わりになって死んだ3人の囚人に、アストロロギアは目もくれなかった。まるで当たり前かのように。
これだけの人数がいて、罪人がいて、悪人がいて、実力者がいて、それらが全て静かに佇んでいるのにも少し違和感を感じる。
おそらく、後ろに立つ彼らは、アストロロギアに従っている。どういうわけか、命を賭してアストロロギアを守るほどに、彼らは“従者”であるように見えて仕方がない。
「……おっと、これは、まさか。殺られてしまいましたか。……No.8からNo.22までで、始末してこい」
アストロロギアは確実に、“命令”をした。そして『No.』で呼ばれた計15人の囚人たちが、ゆらりと、背後の森に消えていった。
今も聞こえる、森の中の声。それを始末しにいっただろうことは、さきの言葉から受け取れたが、これではっきりした。
世界で恐れられる最悪の囚人──それもアストロロギア曰く最も重い罪を負う者たち──スタヴロス監獄の、極悪人たちは、『大逆の魔導士』の“駒”だ。
何故スタヴロス監獄の囚人ともなる実力者たちが、彼1人に従えるのかは、わからないままだが、統制のとれた敵というだけで、倒す難易度が跳ね上がった気がする。
──と、俺が考え込んでいた、その瞬間。
──金髪。
およそあり得ない速さで、森から飛び出してきたのは、剣を片手に、紫紺色の淡い光に全身が包まれた、金髪の剣士──紀伊ちゃん。
目を見開く。どうしてまた、紀伊ちゃんがこんなところに。
驚きと混乱に、開いた口が塞がらないままに、直後、視界に──リム湖に、飛び込んできたのは。
「──紗江!?」
わりかし大きな声が出た。
桃色の髪を揺らして、紀伊ちゃんや傘音と同じ、『自警軍』の制服にその身を包んだ彼女は、間違いなく、あの、紗江だった。
俺が、『あの世界』で、初めて会った、少女。
俺が固まっているうちにも、続々と『自警軍』の制服を着た男たちが森から飛び出してくる。
「……なんと、人間、ですか」
アストロロギアは少し驚いた様子で、頬をぽりぽりと掻いた。
大して広いわけではないリム湖に、一目では数え切れない人数の人間たちが押し寄せた。
キリグマ、俺、アマルティア、レプトス、アグノス、ピズマ、アストロロギア、紀伊ちゃん、紗江、そして島崎慶次も見えたのと、未だ佇む囚人たち、そして今しがた飛び込んできた人間たち。
正直、人数が多すぎて混乱している。紗江について気になることが多すぎるが、それを考えつつ戦えるほど楽な敵ではないのはわかっているので、切り替えた。
しかし、こんな状況で暴れようものなら、味方さえ傷つけかねない。
大混戦は避けられない、か。
「おいおいなんだお前ら……お前らも俺の邪魔をするのか?」
めまぐるしく変化した現状に別段、驚き、狼狽える様子のないキリグマは、自警軍の人間たちに、そう言った。
すると。
「さて、どうだろうね。ただ、味方ではないことは先に言っておくよ、キリグマさん」
こちらも、余裕の表情の紀伊ちゃんが、その小さな胸を張って答えた。
「でもでも紀伊ちゃん!あんな強いのがいるなんて聞いてませんよ!?」
「ちょっと静かにしてて紗江っち。そんな空気じゃないから……」
「き、紀伊ちゃーん……」
見たことのある光景。見たことのあるやりとり。
懐かしく蘇る記憶が、目頭を熱くした。
紗江にも、会えた。
全身が粟立つほどの“何か”がこみ上げてきて、思わずナイフを強く握った。
「……もういい」
ふと、低い声がした。
「──“強いやつ”だけ、いればいい」
刹那──暗黒。
暗黒の轟音。暗黒の雷。
澄み渡った空のどこからともなく、その“黒い雷”は姿を現した。
暗黒の落雷に打たれたのは──キリグマ。
耳をつんざく轟音と、衝撃。揺れる地面に、吹き荒れる暴風。
アマルティアの降らせた雨が、晴れてしまうほどに、全てを打ち消す暗黒の閃光。
静寂の中、誰もが、黒さを増した肌から蒸気をたちのぼらせ、俯くキリグマを見やる。
キリグマが、顔を上げ、その口を、大きく開いた、刹那。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!」
雄叫び、そして──落雷の雨。
黒い光が、黒い雷が、雨を思わせるほど、無数に、降り注ぐ。
地面がめくれ上がる。周囲の木々が焼け焦げる。
真上から落ちる漆黒の輝きを、俺はナイフで斬りはらう。無我夢中のまま、何とか耐え凌ぐ。
全身を襲う爆音の中、紀伊ちゃんと紗江が連れてきた人間たちが、そしてアストロロギアの背後に立っていた囚人たちが、断末魔をあげる間も無く、雷に打たれ、絶命していく。
凄まじい轟音と落雷の雨が、やがて静まった。
──立っていたのは、13人のみ、だった。
総勢、軽く60人以上いた、リム湖には、最凶の悪意に選ばれた、13人、以外の大量の屍が、焦げた皮膚を地面に付けて、転がっているのみだった。
「な、んだよ……おい、これ」
思わずつぶやき、見渡す。
満足げに指を鳴らすキリグマ。目を輝かせてキリグマを見るアストロロギア。ローブを雷に焼かれ、姿を現したスタヴロスの囚人、3人。
足元に転がる仲間たちの死体を見て、唇を噛む紀伊ちゃん。何が起こっているかイマイチ理解しきれていなさそうな、紗江。「最悪だ」と呟く、島崎。
ひゃはは、と笑うレプトス。紀伊ちゃんを見ているアグノス。怒りに満ちた形相でキリグマを睨むピズマ。「無事か!?ラン!」と、俺の元に駆け寄るアマルティア。そして、呆然と見渡す俺。
──干上がったリム湖、湖底。
そこを舞台に、弱いものは一律、殺された。
この舞台に残されたのは、選ばれし13人の戦士たち。
満足げに、俺たちを見て、キリグマは言う。
「──これで、本番開始、だな」
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雨は、再び降り始めた。
「……なんてことをしているんだ、キリグマ。今お前が殺した中には、お前の味方だっていたと言うのに」
アマルティアは、失敗した料理の残骸のごとく、黒く焼け焦げて地面に倒れ伏す、スタヴロス監獄の囚人たちを、痛々しそうに見て言った。
鼻で笑うキリグマ。
「そもそも、こいつらを俺の味方だとは思っちゃいない。俺は俺1人でいい」
「さぁすがですキリグマ様ぁッ!美しい!あの漆黒の雷、確か『始祖の力』でございますよねッ……まさかそれまで使いこなせていらっしゃったとは!ああ!敬服の限りです!キリグマ様ッ!」
キリグマの言葉なんて聞こえちゃいないアストロロギアは、その瘦せぎすの身を震わせて叫び散らす。
唾を飛ばして喜び叫ぶアストロロギアを、最高にイラついた様子で睨みつけるキリグマの視線には、どうやら気づいていないらしい。
「強いやつだけ残したとはいえ、俺の目的は龍皇だけだからな、さっさと片付けるか」
キリグマはニヤリと笑う。風邪をひきかねないほどの寒気が全身を襲う。尖りに尖った殺気に、思わず手に力を込めた。
戦闘態勢。
足元の地面を粉砕し、漆黒の影は風を切る。
雨の中、目にも留まらぬ速さで飛び込んできたキリグマの拳が、レプトスの腹を捉えた。
「ぶッ……!」
拳が腹に触れる直前、そのキリグマの腕に短剣を突き立てて、勢いを多少殺したレプトスだったが、止めきれず、腹を襲った衝撃に、肺の空気を全て吐き出す。
ほぼ同時、ピズマの回復神法の光がレプトスを包み、その光に隠れるように接近し、飛び出したのはアグノス。
漆黒の長剣が“しなる”。
首を刎ねようと、加速する刃を、寸前で避け切るキリグマ。
一瞬でアグノスを蹴り飛ばし、キリグマは俺の反応速度を遥かに超えた速さで、アマルティアに肉薄した。
振り上げた右腕。打ち出される拳は、不可避の一撃。
剣を構えるアマルティア。しかし、間に合うはずもない。
「お前は……私が殺すッ!」
声と共に、飛び込んだのはピズマ。下から振り上げた大剣でキリグマの腕を斬りつける。
拳の軌道がズレて、アマルティアは間一髪、助かった。
ピズマが言う。
「キリグマは……こいつだけは、私にやらせてくださいッ……」
「でも!ピズマ!1人じゃ勝てるかどうか……!」
「ひゃはは、俺とアグノスもいる。俺ら3人なら、お前とアマルティアを合わせた5人より強いと思うぜ」
叫んだ俺の肩に手を置いたのは、レプトス。
何年も一緒にいる3人だ。確かに連携がうまく取れて、俺やアマルティアがいる時よりも良く動けるのかもしれない……けれど。
「危険すぎるだろ……!」
「俺がいるんだ、大丈夫だ、ひゃはは」
その言葉だけで、頷かざるをえない。
事情があって、みんなの前で本当の実力をバラしたくないレプトスとはいえ、いざとなれば本気を出すのだろう。
あの元龍皇、フロガを手も触れず殺したレプトスだ。安心といえば安心だが……。
じゃあ俺たちはどうすれば……?
「ランくんとアマルティアくんは、あっちを手伝ってきてください」
アグノスが、紀伊ちゃんを指差して言った。
「……なるほど、わかった」
アマルティアが頷く。そのアマルティアと目を合わせ、頷き返した俺も走り出す。
「死ぬなよ!ピズマ!アグノス!」
「ひゃはは、俺も心配しろよ」
必要ないだろ。
──向かうは、今も交戦中の紀伊ちゃんと紗江の下。
機械仕掛け、という言葉がよく似合う、まるでロボットのような鋼鉄のフレームに身を包んだ大男が、その鉄の塊に近しい腕を振るっている。
人造人間とも呼べそうな男の、圧倒的暴力であるそれを、“矢一本”で止める島崎と、目が合う。
「久しぶりだな、同志!」
「だから同志って呼ぶな!黙って弓引いとけ!」
性癖が全く同じというだけで、同志と呼ぶのはやめていただきたい。
──黒く、長い髪の毛を揺らす、細身で長身の、死神のような男が見えた。
今も、ブツブツと何かを呟きながら、その細い手足を振り回す長身の男──死神男と呼ぼう──は、紀伊ちゃんの剣を素手で弾いていた。
「やっば、瑞樹っちの紫紺石、効果切れちゃった……!あと2個しかないよ」
何か独り言を言っている紀伊ちゃんの下に、アマルティアが飛びこむ。
「えっ!アマルティアくん!?」
「助太刀するぞ、キイ」
驚きつつも、振り下ろされた死神男の脚を剣で受け止める紀伊ちゃん。
すかさず死神男の軸足をアマルティアが斬りつけた。
しかし剣は、まるで同じく剣の刃とぶつかったかのような、鋼の甲高い音を立てて、弾かれた。
鞭のように振るわれる死神男の細長い手足を、丁寧に流し、弾く2人の姿が、重なって見えた。
──そういえば。
紀伊ちゃんとアグノスは同じ師匠の元で修行してたらしいけど、そのアグノスから教えを受けたアマルティアもまた、その太刀筋に似るのか。
おそらくは同じ流派であろう剣士2人を横目に、俺はそのさらに向こうに走りこむ。
「こらぁ!ずっと後ろに隠れててずるいですよぉ!」
自警軍の制服では隠し切れないその無駄にエロい肢体を雨に濡らしながら、紗江は離れた位置に立つアストロロギアを指差してぷりぷり怒っていた。
その紗江の背後──筋肉か脂肪か、いずれにせよ全体的に太い大男が、その手に持った槌を音もなく振り下ろした。
「紗江の馬鹿ッ……!」
加速。蹴り飛ばした地面が湿っているのも構わず、落ちゆく雨粒すら置き去りに、駆ける。
怒って地団駄を踏む紗江の頭を後ろから叩き割らんとする大槌。
その大槌を持つ手首を、深く、えぐるように切り込みつつ、大槌を蹴り飛ばす。
「──この世界でも天然キャラやってんのかよ、紗江ッ……!」
思わず叫ぶように言った俺に、振り返った紗江が驚く。
「……え、蘭、くん……?」
「うぼぉうあわあぁぁあッ」
紗江の言葉は、手首を、切り落とされんばかりに切られた大男の、血を撒き散らしながらの醜い叫びに消された。
蹴り飛ばされた大槌は、まるで幻のように、淡い光の粒となって消えた。
「え、君は……?」
唖然と俺を見る紗江。名を聞かれた。
俺は、無論。
「……ゴブリンの、ランだ。よろしく」
うまく笑えていたかはともかく。微笑みながら言った、つもりだ。
困ったような顔をする紗江に、心臓が痛む。
久しぶりに会ったのが、こんな死体だらけの戦場とは、嬉しくないなぁ。
「とりあえず、このデブ男と、アストロロギア、倒すぞ、紗江!」
「ちょ、なんで名前呼び……って置いて行かないでください!」
走り出す。ニヤニヤと笑うアストロロギアは、右手をかざした。
「大槌の次は……大剣でどうです?」
そう言ったアストロロギアの右手に、『魔法陣』が出現。直後、ゆっくりと魔法陣の中から、血に濡れた鋭さの大剣が姿を現した。
その大剣を、太った大男──肉団子と呼ぼう──に投げるアストロロギア。受け取った肉団子がまた叫びながら走り、向かってくる。
「うぼばわぁばああッ」
「ひっ、気持ち悪い!」
「集中しろよ、紗江……!」
ダンベルのような形をした、長い棒──杖?を構えなおした紗江と、雨降り注ぐリム湖の地面を駆けた。
──キリグマvs.ピズマ・レプトス・アグノス
──人造人間vs.島崎慶次
──死神男vs.紀伊ちゃん・アマルティア
──アストロロギア・肉団子vs.紗江・ラン
この時代に揃った運命の戦士たちの、真の殺し合いの火蓋が、音もなく、切って落とされた──
お読みいただきありがとうございました!
紗江と共闘する展開になりましたが、ここで皆さんには、1つ、ラブコメ世界での紗江の特徴というか、隠れステータス的なものを思い出していただきたい!
それが、紗江の戦闘にて、凄い力を発揮します。
再来週、また読みに来てくださると嬉しいです!




