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ライトノベルじゃあるまいし  作者: ASK
第ニ章【ゴブリン・パトリダ】
72/105

第44話 大逆の魔導士

こんにちは。


すでに学年末考査2週間前を切りました。

来週は……もしかしたら投稿できるかもしれませんが、再来週は確実に投稿できません。


またご迷惑をおかけします。すみません。



 乾いた風が吹く。


 澄み切った水が煌めく──はずの『リム湖』には、今や数個の水たまりが点在するのみで、剥き出しになった湖底が風に撫でられている。


 しかし、先ほど降り始めた“雨”が、そんなリム湖を包み始めた。


 リム湖湖底を舞台に、全身から蒸気を立ちのぼらせて佇むのは、漆黒のゴブリン──キリグマ。



「……やっと忌々しい『龍皇』っぽくなってきたな」



 矢のような雨粒に撃たれた黒い肌が、焔赤の血潮と蒸気にぼやける。


 口を開いたキリグマに、正面に立つ龍皇──アマルティアは。



「龍皇だからな、私は」



 あくまで冷静に。


 目を細めたアマルティアは、宙に浮く雨粒を収束させた刃の剣先をキリグマに向ける。



「……雨、激しくなってきたな」



 今も肩を打つ雫に、思わず俺が呟いた。


 この雨も、自然現象ではないだろう。見上げた空は、ここに着いた時の灰色の曇り空からは晴れて、今では快晴の青空となった。


 だからこそ、天気雨なんて程度ではないこの雨に、何か超常的な、超自然的な、『力』を感じる。


 その力の根元が何なのか──誰なのかは、わかりきっているけれど。



「アマルティア様が、世界新聞において『雨の龍皇』と呼ばれる所以は、こういうわけでしたか」



 大剣を担ぎ直したピズマが言う。


 アマルティア自身も、自分が『雨の龍皇』と呼ばれたことに疑問を感じていたが、今となればそんな疑問は雨粒に撃たれて消え去った。



「とはいえ、“雨を操る”なんて、想像以上に凄いな、アマルティアくん」



 少し嬉しそうなアグノスが言った。


 アマルティアの師匠として、剣の腕を育ててきた彼にとってアマルティアは弟みたいなものだしな。



「…………」



 対照的に。1人、手のひらで短剣ダガーをクルクルと回して遊ぶレプトスは、珍しく真面目な面持ちで、日の差し込む森の奥を見つめている。


 レプトスの行動の意味なんて、俺たち常人にはわかりっこないので、とりあえずおいておくが、この戦況は、随分と希望的なそれになってきた。


 というのも、アマルティア自身も言っていたが、彼の中の潜在的な『何か』が、目を覚ましたらしい。


 ラノベ好きの俺なりに言うなら、『覚醒』。


 やっとこさ龍皇という名に相応しい力を行使できつつあるらしい。



「しかしまぁ、雨粒で攻撃とは、どの時代も龍皇ってのは無茶苦茶しやがるな……」



 白い蒸気に包まれながら、癒えていく傷口に目をやるキリグマは、ニヤリと笑う。



「……そんなやつを殺したとなれば、それこそ俺の『最強』は揺るぎないものになるが」


「まだそんなこと言ってるのか……呆れも通り越して可笑しく思えてきたぞ」



 嘲笑を浮かべるピズマ。


 自分が最強なのだ、と。そう主張するために、前龍皇フロガと幾度となく戦い、フロガの死後は、新龍皇アマルティアを殺しに『スタヴロス監獄』を脱獄。


 キリグマという男の行動に、もはや論理性も正当性もなく、自己満足の独りよがりだと感じたピズマは、嘲笑と、そしてまた、どこか哀れみを孕んだ目をしていた。



「もう、いいだろう、キリグマ。私が終わらせてやる。200年もの間、燻らせたその憧憬を。手を伸ばし続けた幻想を」


「ガキが悟ったふりして背伸びをするのもいいが、俺のやることは変わらない上に、お前の末路ももう変えられない。この時代の名は俺のものだ。そのための200年だ。そのための『血』だ」


「『始祖の血』の力を借りて謳う『最強』に本当に価値があると思っているのか?」


「お前が『龍の加護』を、そしてお前らが『ベータの加護』に護られている時点で、誰1人自分1人だけの強さで戦うわけではない。手段も過程も関係ない、結果、俺が頂点であれば、ただそれだけでいい」


「救えないな……どこまでも」



 恐らくは、この時代の『強さ』の象徴となり得る2人は、互いの距離を少し開けた。


 アマルティアは、剣を覆う雨粒の流れのように、静かに剣を構え、キリグマを見据える。


 完全に治癒が終わったキリグマは、ポキポキと首を鳴らし、体勢を低くして、目を細めた。



「早いところ片をつけさせてもらうぞ、龍皇。──めんどくさいことになりそうだからな」


「……なんのことだ?」


「さぁなッ!」



 ドォンッ!と。凄まじい轟音を響かせたのは、地面。


 地面を蹴って前進したキリグマによって、地面が大きな悲鳴をあげて崩れた。


 ブレて見えるほどに速い、刹那の移動に、ギリギリでアマルティアが反応する。


 アマルティアが剣を振り下ろすと、殺人的なまでに勢いを増した雨粒が、キリグマめがけ落下する。


 弾丸と化した雨に、キリグマのその黒い肌が血飛沫をあげた。


 ──しかし、止まらない。



「龍皇の力ってのも、完全に目覚めたわけではなさそうだな?」



 そう聞こえたか、否か。直後に訪れた暴風に流された声は、余裕を見せるキリグマの声。



「……ぶッ!」



 剣を構える間も無く、胸のど真ん中に叩き込まれたキリグマの掌底に、アマルティアは信じられない速度で後方に吹き飛ぶ。


 雨で湿った森の木々を薙ぎ倒して倒れ伏すアマルティアを横目に、ぼーっとしている場合ではないと、直感した全神経が粟立ち、弾かれるように、俺は走り出した。


 濡れた湖底を音もなく進んだ俺は、亜水晶石のナイフの半透明の刃を突き立てる。


 キリグマの真後ろで跳躍。


 走り込み、飛び、そして落下するその勢いもそのままに、静かにナイフを振り下ろした。


 

「ランくん!」



 アグノスの叫ぶ声が聞こえ、直後、骨を砕く衝撃が脇腹を襲う。


 こちらを見もしないキリグマの裏拳が、俺の肋骨を砕き潰した。


 落ち葉のように無様に宙を舞う俺を、ピズマの回復神法の光が包む、直後。


 同時に肉薄したレプトスとアグノスを、キリグマの拳と膝が襲った。


 なんとか防御態勢に入った2人だったが、威力を殺しきれずに軽く飛ばされる。



「らぁあッ!」



 横薙ぎの一閃。


 ピズマの大剣が、雨を切ってキリグマの首に届く。


 が、しかし。その刃を素手で掴み止めたキリグマに、目を見開くピズマ。


 ピズマに向けて足を振り上げたキリグマに──雨の弾丸が降りしきる。


 キリグマの体を蹴って離れたピズマが、畳み掛けるように、回復神法の応用──物質生成の神法で、無数の刃を作り出した。


 雨粒の連撃、体内に生成された刃の応酬。


 ズタズタに切り裂かれる肌から蒸気と血液を噴き出すキリグマに、森から飛び出てきたアマルティア、接近したアグノス、いつの間にか背後にいたレプトス、そして真上からナイフを構える俺──全員の攻撃が集中する。


 圧倒的な威力を持つキリグマの一撃にも、ピズマの回復神法で対応した俺たちの捨て身の特攻。


 奇跡的にタイミングが揃ったらしく、ほぼ全員の攻撃が同時に重なる。


 アマルティアによる雨の弾丸で、動きを封じられた今のキリグマに、この同時攻撃を避けるすべは──ない!



「──けがらわしい」



 それぞれの長剣、短剣ダガー、ナイフの刃が、キリグマの身体に触れる、刹那。


 脳内に響くように聞こえた声と同時、見覚えのある円状の光が、間一髪、俺たちの攻撃を防いだ。



「……ッ!これは!?」



 目を見開いた俺に、弾丸の雨から脱出したキリグマの脚が炸裂。


 地面を転がりながら戦闘の最前線から弾き出された。


 一瞬、間を置いて、アグノス、レプトスが殴り飛ばされた。


 即座の判断で後方に跳躍したアマルティアは、ギリギリ、斜めに振り上げられた右脚から逃れた。


 すぐさまアグノス、レプトス、そして俺が、ピズマの回復神法で立ち上がる。


 キリグマも含め、全員が、先ほどの声のした方を向く。



「お初にお目にかかります──キリグマ様」



 森の中からゆっくりと出てきた、大きなローブを羽織った男は、丁寧にお辞儀をしてみせた。


 ──そして、その男の背後に並び立つ大量の人影も、恭しく腰を折った。




❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎




 1分にも満たない戦闘を中断させたのは、森から現れたローブを羽織った男。


 ぞろぞろと、目算だけで30人以上の何者かが、森の中に一列に並んで佇んでいる。


 心底気味の悪い笑顔を顔面に貼り付けるローブの男に、キリグマが口を開いた。



「……誰だ、お前」



 その言葉にも全く動じず、ローブの男はその目深に被ったフードをとった。



「ご存知ないのも仕方がありません。何せ、キリグマ様にとって私はあまりに“懐かしい”時代の男ですから」



 差し込む日の光に照らされて、外されたフードの下から出てきたのは。



「──猫耳?」



 思わず口に出してしまった。


 というのも、その男の頭から生えていたのは、紛れもない、あの猫耳だったのだから。



「なるほどな……ひゃはは」



 レプトスが何かを確信して、笑った。



「誰か近づいてきてるとは思っていたが、まさかお前らとはな、ひゃはは」


「……やはりいたのか。……だが俺には心当たりがないからこそ、龍皇どもの仲間だとばかり思っていたが」



 どうやら、レプトスとキリグマは、誰かがこのリム湖に近づいていていたことに気がついていたらしい。


 キリグマに関しては、それが俺たちの仲間、つまりは増援だと思っていたらしいが。



「気配は消したつもりでしたが……やはりキリグマ様ともなればお気づきになられますか」


「……で、誰だお前。俺の戦いを邪魔した罪は重いぞ」



 言われた猫耳の男は、少し考えた後、口を開いた。



「名前は……無いのですが。そうですね、『アストロロギア』と名乗っておきましょう。星が好きですし」


「……意味がわからないが、まぁいい。何をしにきたのか知らないが、まだ俺の邪魔をするつもりでいるなら、お前も、お前の後ろにいるやつらも、全員殺すぞ」


「邪魔だなんて、滅相もありません。私たちはキリグマ様に“使える者”でございます。キリグマ様の恩に報いる者でございます。それゆえ、お手伝いすることはあっても邪魔をすることはございません」



 アストロロギア、と。そう名乗った猫耳の男は、またニタリと笑う。


 緊迫した戦闘の雰囲気を壊された俺たちは、キリグマへの警戒もそこそこに、アストロロギアに思わず注目してしまう。



「……俺は誰かに恩を感じられるようなことはした覚えがない。何をもって俺に使える者と自称しているのか知らないが、そのムカつくニヤケ面をやめないと本気で殺すぞ、お前」


「でしょうから、私の身の上を語りにきたのでございます。……何事も先ずは自己紹介からでしょう?」


「ムカつくなお前ッ……!」



 俺たちも不快に感じ始めたアストロロギアのニヤケ顔に、ついにキリグマがキレた。


 瞬間移動に近い速さでアストロロギアの正面に立ったキリグマが拳を突き出した。


 俺たちは身をもって体感しているため、即座にわかった。


 ──不可避の一撃必殺。


 しかし。



「おっと」


「……あぁん?」



 空気の破裂音をも生むキリグマの拳が貫いたのは、ニタニタと笑い続けるアストロロギア──ではなく、直前に彼らの間に飛び込んだ3人の男たち。


 それは、今もアストロロギアの背後に並び立つ大勢の男たちの内の、3人だった。



「キリグマ様。我々は敵ではありません。キリグマ様が描く最強譚のお手伝いをさせていただきたいというだけの、いわば従者でございます」



 目の前で自分の身代わりとなって、肉片と化した3人の男たちに目もくれず、アストロロギアは話し続けた。



「キリグマ様が、私の感じる恩に覚えがないのも仕方がありません。かく言う私自身、200年以上前の時代の者ですから」


「……なんだと?」


「いえいえもちろん、私は忌々しき龍皇でも、キリグマ様のように『始祖の血』の飲んだわけでもございませんよ」



 ……だとすると、一体誰だ、アストロロギアという男は。


 そんな長い時を生きる種族はこの世界にはいないはずだ。


 ──心の中で首を傾げる俺たちの中で唯一、レプトスだけが得意げに口を開いた。



「なるほど、やっぱりな。ひゃはは、お前──『大逆の魔導士』だろ?」


「なんと。この時代にも私の名が残っていたとは。……そこのゴブリンが物知りなだけかもしれませんが」


「……レプトス?『大逆の魔導士』って?こいつ、有名人なの?」


「ひゃはは、ああ。かつて、史上唯一の『魔法使い』として世界を驚かせ、そして“加護神ベータの殺害”を目論んだ大罪人の──猫人種族・・・・センチル(・・・・)の男だ」



 『センチル』って、それは……!



「……俺が根絶やしにしたはずの種族じゃねぇか」



 キリグマの低い声に、頭の中で点と点が繋がった。


 そうだ。猫人種族センチル。その特徴的な猫耳をもった、かつて存在した幻の種族。


 約200年前、キリグマという男によって“始祖もろとも”滅ぼされた種族。


 その生き残りが、このアストロロギアだと、そう言うのか?



「やはり君は物知りなだけではなさそうですね……って、ああそうですか。パノプティコンの手先でしたか──」


「そんな大昔の大罪人が、今更何をしにスタヴロスから出てきたんだ?ひゃはは」



 アストロロギアの言葉に被せて言ったレプトス。アストロロギアが何を言っていたのか、よく聞こえなかったが、確かにレプトスの言う通りだ。


 そんな昔の男が、今更何をしに?……センチルの種族を滅ぼされた復讐か?



「私は、先程から言っている通り、キリグマ様に使える者です。キリグマ様が世界最強の生命体として世界に名を馳せる、そのお手伝いをするために、スタヴロス監獄からでてきた、それだけです」


「……センチルの生き残りか。そりゃたいそうな身分だが、お前に恨まれることはあってもその逆はありえないぞ」


「いいえ、大きな、大きな恩を感じています」



 話が通じていないかのように、アストロロギアはキリグマの下手したてにでる。


 へりくだった話し方が余計にカンに触るのか、キリグマが再びイラつき始めた。



「……俺が何をした?」


「──キリグマ様は、愚かで怠惰で醜いセンチルという、穢らわしい種族を、根絶やしにしてくださいました」



 帰ってきた答えは、あまりに予想外で、思わずキリグマも訝しげな顔をする。


 無論、後ろに立つ俺たちも、レプトスを除いて、怪訝な表情を浮かべた。



「私は、親が嫌いでした。家族が嫌いでした。そんな親を生んだ始祖が嫌いでした」



 あくまでニヤケ顔は崩さないものの、どこか怒りを孕んだ声音でアストロロギアは続ける。



「私が『魔法』という力を手に入れた途端に、手のひらを返した偉そうな奴らが嫌いでした。全部、全部が、嫌いでした。周りにあるもの全てが、憎くて仕方がなかったのです。……どうして当時、私がそこまでセンチルという自分の種族を、その国を、恨んでいたのかは、いまいちわからなかったりしますけれど、ね」



 自分の種族が、憎かった。彼は拳を握りしめて繰り返した。



「最初は何でも押し付けて決めつける親が嫌いで仕方がなくて、おそらくその延長でしょうね、私は自分のいる場所が酷く穢れて見えました。


「全部壊してしまおうと、思いました。誰の手でもなく、この私自身が、忌々しいセンチルを滅ぼして、自由な世界を1人で生きようと思いました。


「まだ若かった私には、正当な理由も、全部を壊した後の未来への考えも、ありませんでした。


「しかし私は、早々に挫折を知りました。


「手始めに、センチルという穢れの象徴である、始祖を殺そうとしました。しかし、どういうわけか、私の『魔法』は、始祖には、まったく効果をあらわしませんでした。


「おそらくは創造神アルファの力と関係があるのでしょう。……いずれにせよ、当初の目的だったセンチル全滅という目的を果たすのが、不可能となりました。


「傷などすぐに回復する始祖を、魔法なしで殺せるとも思えませんでしたし、ね。


「行き場をなくした怒りを、私は家族にぶつけました。


「親を殺しました。


「妹を殺しました。


「知った顔の者を、ひたすらに、殺しました。


「大量殺人犯として、そして何より、危険な『魔法使い』として、私はスタヴロス監獄に収容されました。


「自分の最も恨む家族や、その知り合いを殺せたことに、多少満たされた心も、監獄内で何年か過ごすうちに、消え失せ、また止めどないセンチルへの恨みが湧き上がってきました。


「それこそ、私にも理由はわかりません。今でも、どうして嫌いな家族の延長で、種族まで恨んでいたのかは。


「しかし、その恨みの炎が募りに募っても、根源である始祖を殺せないという事実に、絶望しました。


「そんなある日です。ざわつき始めたスタヴロス監獄内にただならない違和感を感じ、私は魔法を使って脱獄しました。というのも、何かとんでもないことが外で起こっていると、耳にしたので、気になってしまいまして。


「外に出るとすぐにわかりました。私の穢らわしい故郷であるセンチルの土地から、火の手が上がっていました。それも大量に。


「センチル領土全域を覆う炎に、身が震えました。


「急いで向かうと、そこにあったのは燃え盛る民家に、積み上げられた死体の山。


「血と炎の、赤色が視界を埋めるなか、センチル領土中央に位置する『始祖の塔』の頂上に見えた1人の男の姿に、全身が粟立ちました。


「それが、無論、キリグマ様でした。


「その時、まさに、私が唯一殺せない始祖を、殺し、そしてその喉元に噛み付くキリグマ様の姿を見て、私は全てを悟りました。


「キリグマ様こそが、救世主であると。


「秩序も、摂理も、人々の羨望も、キリグマ様のためにあるべきだと。


「そんな風に、当時、まだまだ若かった私は、思い、キリグマ様が逃亡中、朽ち果てたセンチルの地に訪れた加護神ベータを、殺そうとしました。


「神なんていらないと、そう思っていましたからね。キリグマ様より上位の存在がいてたまるものか、と必死でした。


「結果はあえなく失敗。私の魔法は加護神ベータにも効かなかった。とはいえ、加護神ベータは始祖のように、不死身に近い体を持っているわけでもないことは知っていた私は、センチルの地で追悼の祈りを捧げる加護神ベータに、瓦礫、死体、『始祖の塔』を魔法で動かし、潰し殺してしまおうとしました。


「何十人という神託者ウィザードや守護者に阻まれ、そして明らかに神法の規模を超えた現象を理由に、その場で失敗したことに発狂していた私は、再びスタヴロス監獄に収容されました。


「それから100年以上、監獄にいて、頭を冷やした私には、加護神ベータを殺し損ねた悔しさよりも、上限のない、キリグマ様への感謝しか、頭の中にはありませんでした。


「そのキリグマ様が、再び世界を変えに動き出したのですから、私も44人の囚人を連れて、脱獄し、ここまで追ってきたというわけです」



 加護神ベータに手をかけようとした『大逆の魔導士』アストロロギアは、それはもう興奮した面持ちで、キリグマを見た。


 ただでさえ手に負えないキリグマに加わったであろう敵は、大罪人揃いのスタヴロス監獄の囚人40人以上と、史上初の『魔法使い』。


 ──数分後に乱入してくる人間の少女たちの存在を知らない俺は、言いようもない絶望に唾を飲み込んだ。


ありがとうございました!

少し長かったですかね?


前書きでも言いましたが、再来週は、最新話を投稿できないと思います。


ご迷惑をおかけします。すみません。

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