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ライトノベルじゃあるまいし  作者: ASK
第一章【テンプレート・ラブコメディ】
7/105

第7話 俺の初恋

※書式を修正しました。

あと、一部セリフの口調を変更しました。


 ……とても今更なことを言おう。


 あーだこーだ仮説とか唱えて色々考えたけれど。


 考えてみれば、紗江さえとの出会いの時点で感じていたんだが。


 ……ここ、ライトノベルの世界観なんだよな?


 天然(?)巨乳ヒロインに、美少女妹。今のところ、完全にラノベ展開だ。


 しかもラブコメ系。これからこの世界観の中、過ごしていくのだが、しかし。


 残念なことに、この千葉蘭ちばらん、異性交際経験がまったくもって、ない。


 いやべつに、恋をしたことがないわけではないのだ。1度だけ、ただの1度だけ。


 俺は、告白をしたことがある。俺の、初恋。


 これからも数々のラブコメ的展開に遭遇するだろうから、その前に。


 俺のなけなしの恋愛経験談を、振り返ることにする。


 今現在、ラブコメ系ライトノベルの世界観を生きる俺の。


 初恋の話を少しだけ話そう。


(ちなみに、少し前に言った、『ミズキという名前にはトラウマがある』というのも、ここからきている。)




❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎




 中学3年、春。


 千葉蘭、14歳。


 進級したばかりの春の日、1年生の時に同じクラスだった、ある女の子に告白をする。


 きっかけとしては、中学最後の1年である、この年に、また同じクラスになれて、しかしまた遠くから見ているだけでは何も変わらない、と、そう感じたからである。


 そうして、俺は始業式の日の放課後、彼女を教室に呼び出していた。


 彼女の名は、立花たちばなミズキ。


 聡明で、可憐で、誰に対しても平等で。


 百合の花を思わせるその白い肌と対象に、黒薔薇くろばらを想起させるその艶やかな髪と瞳。


 誰もが彼女を“ホンモノ”だと感じていた。


 ──ちょっと待って、今君、立花ミズキって完璧……って思った?……愚か者!!


 先ほど言った『誰に対しても平等』というのは、誰に対しても“同じ反応”からこその、『平等』である。


 特筆するほどの仲の良い友達はいない。彼女は『特別』を作らない。他人を区別しない。無論、彼氏もいない。


 そうやって、自分を囲うボーダーラインを作っている。


 『これ以上は私に踏み込まないで』と、言外に告げている。


 だから皆、ミズキは完璧で、誰にも嫌われていないとは思うが、同時に誰にも好かれていないのだと、気づいている。


 これほど美しい彼女に色恋沙汰の噂が1つも浮上しないのには、そんな彼女自身に近づきづらいという、畏怖いふや拒絶に似た遠慮のような感情を、皆が抱いていたからだろう。


 だからこそ、俺は、狙い目だと思っていた。


 ……狙い目も何も、狙うことのできる選択肢すらない俺が、ミズキをそんな風に見ること自体が間違っているけれど。


 1年生の時、それもかなりの入学当初、ミズキがまだ周りと自分の距離感を決めていなかった頃。


 最初で最後のガールズトークなるものにミズキは参加していた。


 可愛い女の子達が『どんな人がタイプ?』などと話し合っていた。


 その際、ミズキは。



「私は……私の全部を……受け入れてくれる、そんな人が、良いなって……思うよ」



 そう、言っていた。盗み聞きのプロ(自称)の俺が聞き間違えることはない。


 俺はとても有力で、優れた情報を手に入れた。


 そして、放課後、教室。


俺は、思いきって、言った。叫んだ。



「僕は……貴女の全てを受け入れます……!僕は、僕なら──」




「──貴女の“おしっこ”だって、飲むことが……できると、思います……!」



 ──それ程にあなたが好きなんです。と、伝えた。


 ミズキは何も言わない。


 不安になって、俺は付け足す。



「君から出たもの、全てを僕は受け入れることができる……!」



 ……完璧だ。事前に手に入れた情報を元に、誰も超えられない『受け入れる』の究極体、“君から出たもの全てを受け入れる”という必殺奥義。これでイチコロさ。


 なんてったって、彼女は2年前、『私の全部を受け入れてくれる人がいい』と言っていたんだ。


 つまりはこういうことだったのだろう。……これでやっと、俺にも彼女ができる。


 しかし現実はどこまでも現実的だった。(当たり前だけど)



「──るい……」


「え?」



 消え入りそうな声で何かを呟いたミズキ。聞こえなかったので聞き返すと。



「──きもちわるい」



 ……え?きもち、き、え??



「何言ってるんだ、立花……」


「それはこっちの台詞せりふよ……あなた、最低……」


「いや、だって、ほら!お前言ってたじゃないか!『私の全部を受け入れてくれる人がいい』って!」


「そんなこといつ言ったってのよ!」


「2年前!入学式の次の日、朝の教室で、話してたじゃないか!」


「……そんなことあったわね。でも、なぜあなたがそれを知っているの?あれはいわゆるガールズトークって呼ばれるたぐいの会話でしょう?」


「……聞き耳をたてていて、それで」



 ぞっ……そんな音が聞こえてきそうなほど、激しい寒気に襲われたミズキは、恐る恐る聞いた。



「じゃあ、あなたは……女子たちの会話を盗み聴きして、それを2年間覚えていたの……?」


「当たり前じゃないか。それも全部、お前の為だ。今日、こうやってお前に告白する為に、覚えていたんだ」



 目眩でもするのだろうか、ミズキはこめかみをおさえて、ふらつく足取りでもどうにか立ち、言った。言い放った。



「気持ちがわるいわ。もう2度と、私に話しかけないで。いや、近づかないで……下さい、お願いします……」



 お願いされてしまった。


 フラれた。気持ちが悪い、と。拒絶された。


 正直、この告白では失敗するだろう、という気持ちもないでもなかったのだ。



 ──しかし。負のスパイラルは、終わらない。


 俺はさっき、『貴女のおしっこだって、飲むことができます』と、“叫んだ”のだが。


 その際、第三者に聞かれて、さらに見られてしまったらしい。


 まぁ確かに、進級して、階も変わった新鮮な教室に放課後、おもむく生徒も少なくはないだろう。


 新しい教室に遊びに、あるいは見に来た他生徒に、聞かれた。見られたのだ、一部始終を。



 ──翌日。


 俺は席に着くと、思わず。



「……えっ」



 口から零れる。驚きが零れる。ぽろぽろ。


 俺の机には、大きく、大きく。恐らく油性マジックであろう。


『変態おしっこ野郎』


 と、書かれていた。その時はまだ、前日の出来事を、第三者に聞かれていたとは思いもしていなかったため、ただただ、困惑した。


 声が出ない。すると、必然的に周りの音が聞こえてきた。


 くすくす。くすくす。くすくす。くすくす。くすくす。くすくす。くすくす。くすくす。くすくす。くすくす。くすくす。くすくす。くすくす。くすくす。くすくす。くすくす。



 “あいつ昨日立花にフラれたらしい” “おしっこ飲むとかなんとか言ってたよ” “えぇ、変態じゃんか” “きもち悪いわね” “そりゃあ立花も学校休むわけだよ” “学校に連絡も無しに休むなんて” “立花さんらしくないわよね” “それってやっぱり千葉のせい?” “それしかないだろう”


 などなど。


盛り上がってるところ悪いんだけれど──。


 ──どさっ。


 倒れてみました。……いや意図的なわけではないけれど。


 周りの音が遠くに響いて。俺だけが違う空間にいて。それでいて自分への嫌悪感や罪悪感、後悔だけが思い巡って。


 視界がぐにゃりと。歪む。どっちが前でどっちが後ろ?今何時?みんなここでなにしてるの?たちばナハ?オレハ?わルい?だレガ?


 ──オレノセイ。



 そうして、倒れて意識を失った俺は保健室に運ばれて、ゴートゥーホスピタル。


 特に身体に異常は無いので、そのまま帰宅。


 5日ほど学校を休みはしたけれど、期末テストが近く、テスト当日は休むわけにもいかないので渋々登校。


 無論、ヒソヒソ何かを周りが話しているのも聞こえてくる。それだけで、また頭が重く、視界が揺らぐ。


 しかし、もう割り切らねばならない。あと1年。この1年間を乗り切ればいい。


 ……そういえば、この日も立花は休みか。また会った時、どんな顔すればいいのだろう。


 ──しかしその悩みは、杞憂きゆうだった。…いや、杞憂なんてやさしいものじゃなく、無駄、であった。

 結局その答えがわかる日は、来なかった。


 ──1年後。俺は高校に入学することができた。それは嬉しかったけれど、結局、あれから一度も立花は学校に来なかった。

 その事実は俺の心に、わだかまりとなって、深く、深く。沈んでいた。




❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎




 これが、この救いの無い物語が。俺の、初恋。


 いい話だろ?(涙目)

 

 というわけで、俺が『人と接するのが嫌い』なのも、『ミズキという名前にトラウマがある』というのも、この話からくるわけだ。


 もうミズキには会うことは無いだろうし、合わせる顔もないが。俺は、もう一度、ミズキに会うことを許されるなら、本当に、本当に。


 ──謝りたいんだ。ミズキに。



普通に蘭が悪いでしょうね。この話。

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