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ライトノベルじゃあるまいし  作者: ASK
第ニ章【ゴブリン・パトリダ】
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第39話 雨

こんにちは!


昨日、修学旅行から帰ってきて、本当は最新話を執筆しようと考えていたのですが、修学旅行中、毎晩徹夜していた疲れで熱が出てしまったため、急遽、本日急いで書きました。


少し短いですが、勘弁してください。



「出るくいは打たれるが、“出た杭”が打たれ弱いと、誰が決めた」



 美少女(男)が放つかっこいい言葉は心に響くものだなぁ、と。


 なんとも言えない感動に心温まる俺の視界には。


 剣先をキリグマの喉元に向けた、アマルティアの姿。


 剣身が地面に刺さった大剣を握るピズマ。


 漆黒の長剣を構えるアグノス。


 短剣ダガーを手のひらでクルクルと回して遊ぶレプトス。


 アマルティアに切断された右脚の切り口と、身体中から蒸気を立ち上らせ、アマルティアを睨みつけるキリグマ。


 キリグマが口を開いた。



「剣の腕には自信がある顔つきだが、それですらフロガに劣るぞ、龍皇りゅうおう



 眉をピクリと動かしたアマルティアだが、そこは挑発に近いものだろうと割り切り、何も言わない。


 しかし驚いたのは、あの炎の暴力男、元龍皇フロガが、器用にも剣を使っていたということだ。にわかに信じがたいようで、200年も生きていれば色んなものに手を出すのだろうなとも思う。



「そこの白いやつは、まぁ確かに剣を振るうことの本質と意味を、その歳で理解しているのは感心するが、その若い芽をここで詰むのは気分が良さそうだ」



 白いやつ、という言葉と同時、キリグマの瞳に映ったのは、いつも通り白ランを着たアグノス。


 剣の腕を認められたらしいが、その才能を潰すことを楽しみにしているような様子から、褒めているわけでもなさそうだ。



「ピズマのその神法、一度ベータに見せた方が良かったかもしれんが、この先の俺のためにここで死んでくれ」



 憎き男に再び名前を呼ばれた怒りに、思わず剣を握る手に力が入るピズマだが、大きく息を吐いて平静を保っていた。


 ベータ、というのは無論、加護神ベータのことだろう。


 この世のあらゆるものを『存在』という加護で守り、15歳を迎えた生命体に、その者に相応しい“力”を与える、現在の世界で最も偉い神様。


 その加護神ベータに一度見せた方がいい、と、そう評するほどにピズマの回復神法はキリグマの観察眼にとまったらしい。



「お前は……いたのか?」


「ずっといたよ!!」



 俺を見たキリグマの言葉に思わず声を荒げる俺。


 このように、挑発にすぐ乗って、冷静さを欠く俺が、この中で最も、精神的にも弱いのだとわかる。


 6歳にして、感情抑制を会得したアマルティアに比べ、20年以上生きた俺がこのざまなのは笑えない。


 緊張感の足りない俺に反して、未だ空気がピリついている中、キリグマは最後にレプトスを一瞥した。



「お前は……そうか。“お前も”か。相変わらず趣味が悪いな、パノプティコンは_____」


「楽しくおしゃべりをする時間じゃねぇぜ?ひゃはは」



 キリグマの言葉は途中でレプトスに遮られたため、よく聞こえなかった。


 お前もか、という言葉まではちゃんと聞こえたが、お前も、というのは一体どういう意味だろうか。


 わかる気がしないので考えるのはやめておくが、確かフロガと戦った時も、フロガはレプトスに何か言っていた気がするな。



「レプトスの言う通り、話している余裕はないぞ。右脚を失ってなおその態度を変えないのはさすがの一言に尽きるが、私に比べても実力の長ける者に囲まれた状況を甘く見ない方がいい」



 アマルティアが鈴の様に美しい声を響かせる。


 そうなのだ。ここにいるパトリダ幹部は、この時代の天才が集まったと言っても過言ではないのだ。


 圧倒的な実力が、キリグマにはあると、本当に身をもって理解してはいるが、それ以上に、アグノス、レプトス、ピズマの3人が揃うとそれだけで安心できるほどに、この3人は強い。


 それに加えて、先ほど、キリグマの右脚を剣で断ち切って見せたアマルティアもいるのだから、絶望的な状況なのはどちらかと言えばむしろキリグマなのではないかと思える。


 本格的に俺の存在感がなくなっているが、死ぬよりはマシだ、死ぬ気で戦おう。



「別に、俺以外、雑魚しかいないなんて言っていない。最強ってのにも種類はあるが、周りが雑魚しかいない中での最強と、強い奴がひしめき合う中での最強だと、全く意味が変わってくるだろう。俺は後者しか見ていない」



 別段、アマルティアの言葉に焦った様子のないキリグマはそう言った。


 それを聞いたピズマが、地面に刺さった大剣の剣身を抜きつつ、口を開く。



「最強、なんて子供じゃないんだから、そんなに言葉を並べてまで言ってて恥ずかしくないのか?強くありたいのは誰だってそうだ。比べるのはその強さの指標になるからで、ことの本質は比べた結果ではなく比べてみて見えてきた自分をどうするか、だ。最強、なんて子供じみた言葉だけを追いかけるお前は結局、何も見えちゃいない」


「子供の頃に憧れた“強さ”の眩しさから、200年も目を逸らさなかったわけでもねぇさ。紆余曲折あって最強でありたいと思ってるだけだ。まぁ確かに、そこに意味はなく、理由もなく、あるのは被害だけだからこそ、正義感とやらで動くお前からすれば俺は、自分勝手で人を殺す悪魔かもしれないな」


「結局は、あの元龍皇フロガも倒せなかったお前が、フロガが死んですぐにスタヴロス監獄から出てきて最強をうたっても、誰も信じやしない。所詮はフロガがいない世界での最強だ。二番煎じもいいところだ」


「笑わせるなよピズマ。フロガだって最強だったわけじゃない。あいつより強いやつなんざ、これまでの時代にごまんといた。誰だって、誰かの二番煎じだ。今更そんなこと考えてるのは過去と現在いまを割り切れないやつだけだ」



 ニヤリと笑ったキリグマは、そう言ってのけた直後、ゆらりと動き出す。


 警戒を強める俺らに囲まれる中心で、キリグマは残された左脚を曲げた。


 刹那。


 キリグマの黒い影が、上に向かってブレた──気がした。


 わけがわからないままに、上にブレた黒い影を追って、俺とアマルティア、アグノス、ピズマが、一斉に上を見上げる。


 が、しかしそこにあるのは、濁したような灰色がぶつかり合う、黒くて白い曇り空だけだ。


 膝を曲げ、上に飛んだように見えたキリグマに騙されなかったのは、レプトスだけだった。


 俺たちが目線を地上に戻す頃には、キリグマは、アマルティアに切断され、遥か後方の地面に転がる自分の右脚を拾っていた。


 拾い上げた右脚の切り口を、右の太ももの切り口に合わせて、押し付けるキリグマに、レプトスが短剣ダガーの刃を煌めかせる。


 キリグマの背後から、胸の中心を貫く一撃。心臓を仕留める。


 傷口から吹き出す血液と蒸気。


 が、しかし。直後、引き抜かれた短剣ダガーに付いた血を振り払うレプトスを襲ったのは、キリグマの回し蹴り。


 もっと言えば、淀んだ空気を切り裂いて、レプトスの脇腹に直撃した、キリグマの“右脚”であった。



「右脚が……!」



 思わず声をあげ、棒立ちする俺に反し、アマルティア、アグノス、ピズマは弾かれたようにその場から走り出した。


 キリグマの正面、目を疑う速さで加速したアグノスが、漆黒の長剣の剣先を突き出し、キリグマの首を切り落としにかかる。


 先ほどレプトスを蹴り飛ばした回し蹴りの体勢のままで、片脚立ちのキリグマだったが、地に着いた左脚だけで、後ろにバク宙。空中で振り上げられた右脚が、アグノスの剣を蹴り弾いた。


 キリグマの着地と同時。


 肉薄した剣身は、アマルティアの握る剣のそれだった。


 斜めに振り下ろされた剣は、キリグマの肩を切り裂く──かのように見えたが、流れるようにたった一歩後退したキリグマに避けられた。


 そしてまたもやキリグマの右脚が、空気を破裂させるような勢いで放たれ、アマルティアの胸を捉えた。


 後方に飛ばされるアマルティアと入れ替わるように走りこんだのがピズマ。


 キリグマとはまだ距離がある場所で、大剣を振るう。



 ──以前にも説明はあったが、ピズマの回復神法の根源は“物質生成”である。


 傷を負ったりした際に失われた細胞や血液を新たに作り出し、あたかも時を戻したかのように元通りに治している。


 その物質生成能力で、斬れ味鋭い刃を作り出し、神法回路の拡張を実現したピズマの大剣で、より遠くの対象に神法の効果を発揮できる。


 簡単に言うならば、離れた敵の体内や体外に、何らかの物質を生成できる。


 今回はそれが刃である。



 ──ピズマがその大剣を振り切ると同時、キリグマの全身が、瑞々しい肉の音を立てて切り裂かれる。


 全身に大量生成された刃が、キリグマを切り刻んだ。


 一気に立ち上る蒸気。噴き出し、滴る血液。


 しかし。


 自らの体から立ち上る蒸気すら置き去りに、一瞬で前方に移動したキリグマが、またも右脚でピズマを蹴り飛ばす。


 まるでアピールするように、執拗に右脚で対応するキリグマに、俺は呼吸を忘れる。


 立ち尽くす俺に、案の定、黒い影が迫る。


 蒸気を伴って風を切るキリグマの右脚が、俺の顔面を蹴り潰して、再びリム湖に静寂が訪れる。



「センチルの始祖の血を飲んでから、傷の治りが早くなったんだ。切断された右脚がすぐにくっ付き、刺された心臓がすぐに再生し、切り刻まれた傷口がすぐに無くなるほどに、な」



 見れば、確かにキリグマの体は、傷1つ無くなっていて、あいも変わらずその黒い肌の至る箇所から蒸気を揺らめかせていた。



「そんな俺の血を継いだからこそ、ピズマ。お前の回復神法はやたらと効果が強いのかもな。……だとすれば皮肉なもんだ。何百という命を殺して手に入れた血液の力で、お前はこれまで人の命を救ってきたんだからな」



 嘲り笑うキリグマ。それに対する怒りも掻き消されるほどに、今、身体中が痛みに悲鳴をあげていた。


 しかし、直後、見慣れた光が視界を包んで、光の粒が冷たい空気に溶け込む頃には、痛みと傷は無くなっていた。


 ピズマがいるのといないのとで命の数さえ変わる。その恐ろしいほどの安心感を糧に俺たちは立ち上がり、再び剣を構えた。



「黙れ……!何もかもお前は間違っている。ピズマの力は彼自身の優しさによるものだ。それが理解できないのはお前自身が彼の回復神法を体験していないからに他ならない。あの光はピズマの心そのものだ」



 アマルティアがそう言って、再び剣先をキリグマに向けた。



「くだらない。優しさなんてものは自己満足だ。優しいやつは単に自分に優しいってだけだ」


「強さだって自己満足だ。捻くれたお前が物を言ったところで何もわかりはしない。さすがに200年も生きていれば、根性も腐り落ちるものだな」



 アマルティアは目を細める。キリグマは肩をすくめた。



「どうだろうな。自分が間違っているかを決めるのは最後は自分自身だ。考え続けた時間に対して答えはあっさり出たわけだが、結論俺は間違ってはいない。お前のいう自己満足の強さとやらにしがみつくために多くを殺して自分を高める、それだけだ」



 “開き直った悪”ほど、タチの悪いものはない。


 キリグマという男は、何1つ、当たり前のことを見てはいなかった。


 許されざる事というのが、あくまで他人に許されないことでしかないというのを、曲解している。

時に人は、他人のみの評価や判断に従うべきなのだ。それが秩序であり、常識という縛られた正義に繋がる。


 悪は悪だ。


 キリグマは自分の考えに、人を殺す理由に、正当性を求めない。


 物語に登場する悪役に、悪に染まった理由や、悪をはたらく理由があるのは、その悪人すらも1人の人間だからであるが、このキリグマという男は、人でなくゴブリンだからというのは無論関係なく、単純に“悪”なのである。



「つまらない話を長々としていたみたいだ。私たちは話し合って理解すべきではなかったみたいだ。……キリグマ、強さを求める者の心構えがそれでは、見えてくるものも汚れてしまう。後悔しろ、200年という歳月を無駄にしてきたことを」



 アマルティアは呆れたように息を吐いた。


 キリグマは、俺たちを今一度見渡して、それこそ、呆れたように言った。



「どうにもお説教じみた言葉を並べてるみたいだが、どうだ?実際はこのざまじゃないか。俺にやられて、ピズマに治してもらって。で、また挑んでくるのか?いつまで経ってもお前らは俺を止められない。それはもう十分わかったはずだが?」



 確かに、俺たちは5対1ですら押し勝てていない。


 しかし、逆に、キリグマも、俺たちを殺せていない。決着がつきそうにないと、そうも思ったが、やはり俺は頭のどこかで、レプトスがいればどうにかなると考えていた。


 が、この戦いの流れを変えたのは、レプトスではなく。



「……お前と戦っているうちに、私の中の潜在的な何かが見えてきた気がする。……先ほどまでと同様に事が進むとは思うな、キリグマ」



 そう言ったアマルティアであった。



 ──雨が、降り始めた。


 ポツポツと、雨が。


 やがて強さを増した雨ではあったが、しかしその雨粒は、俺の体を濡らさなかった。


 見渡せば、同じくレプトスも、アグノスも、ピズマも、濡れているようには見えなかった。


 そして、アマルティアの剣身に、雨粒が収束していく。


 雨を宿したアマルティアの剣が、キリグマに向かって振り下ろされた、その瞬間。



 ズドドドドドドッ、と。地割れを起こすほどの音を立てて、弾丸の如き雨粒が、凄まじい速さと量をもってキリグマの全身を襲った。


 アマルティアが、雨を操っているように見えた。


 水たまりが大量発生する、水を失ったリム湖の湖底の地面をアマルティアが蹴り、雨の弾丸に打たれて動けないキリグマに肉薄した。


 水に、雨に、覆われた剣が、キリグマの首を捉えた。



「っらぁぁぁああッ!!」



 叫び、何とか体を回転させたキリグマが、左の拳で剣を弾き、後退する。


 すぐに迫ったアマルティアの剣撃の雨に、キリグマは対応しているが、先ほどまでの余裕は見えない。


 戦局が大きく変わったと、確信した。


 押されていたのはあくまで俺たちであった先ほどとは打って変わり、今ではアマルティア1人がキリグマを押している。


 アマルティアの中で何が変わったのかは、彼にしかわからない。


 が、しかし、彼がここに来る前にも言っていた、“潜在的な何か”というのが、この雨を司る力だと言うのなら、それは明らかに。



「──“雨の龍皇”、誕生だなッ……!」



 俺の喜びに満ちたその声と同時、畳み掛けるように、俺たちは濡れた湖底を蹴ってキリグマに向かって走り出した。



 ──たった今、新たな龍皇が作り出す歴史の1ページが、ゆっくりとめくられたことに、俺はずっと後に気がつくのだった。




ありがとうございました!


今週は執筆やめようかなと思っていましたが、自分勝手なのはキリグマだけで十分だと思って頑張りました。


来週からも、読み続けて下さる方が増えるよう、精進します!

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