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ライトノベルじゃあるまいし  作者: ASK
第ニ章【ゴブリン・パトリダ】
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第37話 キリグマ

明けましておめでとうございます!


元旦ということで、色々と忙しく、投稿する時間が遅れました、すみません。


今回は会話が多いです。文字も少なめかもしれません。

 キリグマ。


 ピズマの父親。


 その言葉に驚きの表情を浮かべたのは、無論、その事実を知らなかった俺やアマルティア。


 他のパトリダ幹部の皆は知っていたようで、驚いている様子はないが、負の感情に顔を歪ませていた。


 始祖じいは何か考え事をしているようにも見えるが、俯いているだけかもしれない。


 いびつな沈黙が横たわるなか、最初に口を開いたのは、まさかのまさかアマルティアだった。



「『3度目のスタヴロス脱獄』……とはどういうことだ?何も知らないんだ、私と、ランは」



 アマルティアと目が合う。



「あ、ああ。知らない。聞いたこともなかった」


「そんなこともないのだがな」



 重々しい声音でそう言ったのは始祖じいだった。



「以前、2人に、前回の龍皇りゅうおう戦争の話をしたとき、“始祖を含めて”1つの種族を根絶やしにした男がいたと言ったはずだ」


「さすがに覚えてねぇけど……。でも始祖ごと根絶やしってどういうことだ?始祖って全員、死なないんじゃないのか?」


「そんなこと誰が言った。始祖も死ぬときは死ぬ」



 呆れたように始祖じいは言う。



「寿命に上限がないだけで、殺されれば死ぬ」


「でも、殺そうとするやつなんてそうそういない……ってことか」


「始祖を殺したところでメリットがないからな。ましてや始祖を殺めればその種族が黙っていない」


「でも、種族を根絶やしにしたのなら、関係なさそうだな」



 アマルティアは腕を組んで眉をひそめながら言葉を紡いだ。



「しかし一体なぜ、そんなことを?」


「そもそも、そうして滅ぼされた種族は、『センチル』と呼ばれていた、猫人系の種族だった。センチルは、前回の龍皇戦争、つまりは200年前に、龍皇玉に選ばれたエルフの少女の命を狙ってエルフ領土に攻め入った種族の1つだ」


「ちょっ、ちょっと待ってくれ始祖じい!……200年前にセンチルって種族を滅ぼしたのが、ピズマの“父親”なのか?ひいおじいちゃんとかじゃなく?父親?200年前だろ?」


「それは後で話す。続けるぞ。……そうして、龍皇戦争が始まれば、エルフを守ろうとする種族が現れる。それは我々ゴブリンであったり、ハーピィであったり。自らの種族に龍皇の存在を必要としない種族が、エルフを守ろうと、エルフ領に攻め入るやからと戦った」


「えーっと、人間が攻めて来てたんだっけ?……あ、ウンディーネとかサラマンダーもそうか」



 人間が最終的に。もっと言えばフロガという男が最終的に龍皇となったせいで、200年前の龍皇戦争で人間以外の種族も龍皇玉を狙ってエルフ領に攻め入ったことを忘れていた。



「そうだ。そして我々はそれらと戦った。当時は、今ほどではなくとも、実力のあるゴブリンも何人かいた。その中で1人、常軌を逸していたのが、ピズマの父親であるキリグマだったのだが、キリグマはプライドの高い男だった。自分が最弱種ゴブリンであることを恨んでいた」


「でも本当に強かったんだろ?」


「うむ。キリグマは世界で最も龍皇に近い男と呼ばれていた。生身の生命体で彼ほど規格外の実力を持つものはいなかった。……まぁ、別段、龍皇になりたかったわけではないらしい。圧倒的な存在として君臨したかったという彼の思惑は、“寿命のある”龍皇など眼中にもなかったようだ」



 不思議な話だ。


 強さを求め、あるいはその強さゆえの特別な存在だと、世界中に認識させたいのなら、龍皇になるのが1番手っ取り早いと思うのに。


 龍皇よりも高位の存在なんて、他にいるのか?



「彼は何者かの手によって、とある事実を知ってしまった」


「事実?」


「うむ。加護神ベータと我々始祖が、ひた隠してきたことだが……」


「“始祖の血液は生命のことわりを超越する”……でしたっけ?ひゃはは」



 レプトスが不意に口を挟む。始祖じいも驚いた様子はない。話を続けた。



「うむ。当時の世界新聞にも載っていたことだからな、今更隠す事でもないかもしれんが、始祖の血液を一定量以上体内に吸収した生命体は、我々始祖と同じく、寿命という生命の限界から解き放たれる」


「え、死ななくなるってこと!?」


「ラン、勘違いしてもらっては困るが、単純に寿命の上限がなくなるという話ならば、血液を分け与える始祖もでてきたかもしれない。が、その条件を満たすために必要な血液の量は、生命体の致死量を遥かに超える」


「殺さなくてはならない、ということか。……毎日少しずつ、入れ物に溜めて一気に、というのはダメなのか?」


「アマルティアお前頭いいな」


「ダメだ。かつてそれを試した始祖もいたが、何度やっても失敗し、血液の鮮度さえも条件に含まれることが判明した」


「始祖の、鮮度抜群の血液をめちゃめちゃ飲み干せば、寿命のしがらみから解かれるってことか」


「うむ。当時は誰にも知られていなかったのだが、ある日遠征から帰ったキリグマは、その事実を知っていた。どこで誰に吹き込まれたかしらないが、おそらくは『パノプティコン』の……」


「え?」


「いや、何でもない。世界の歴史の裏で暗躍しているとされる組織の一員に目をつけられたのかもしれないな、彼は。おそらくはその組織の誰かによって、始祖の最高機密は、己が存在の高尚さを証明したがっていたキリグマのもとに渡ってしまった」



 パノプ何とかって、どこかで聞いたことが……。


 とにかく、その謎の組織の誰かによって、始祖の秘密がキリグマに伝わったのか。だとすると偶然には思えないな。やはりその組織は前々からキリグマに狙いを絞ってたのか。



「そうして、彼はちょうどその頃始まった龍皇戦争中、戦場から姿を消したと思えば、センチルの種族を皆殺しにし、そしてセンチルの始祖の首を切り落とした」


「……で、結局キリグマはどうなったのだ?寿命では死ななくなったのか?」


「その時点では、キリグマは意識を失っていた。というのも、始祖の血液に、キリグマの身体が耐えられなかったらしくてな。数々の目撃情報から、キリグマがセンチルの始祖を殺したという事実が確定して、眠るように意識を失ったままのキリグマを、始祖が管理する世界最古の監獄スタヴロスに収監した」


「なんで死刑にしなかったんだ?」


「……初めて、始祖の血液を吸収したと思われる生命体を、すぐに処分するのが、もしかすれば最善ではないと考えたのだ。これは我々の実験的で探求的な欲求の所為だった。この唯一の過ちが、意識を取り戻したキリグマの脱獄に繋がった」



 本当に始祖の血液に特殊な効果があるのか。はっきり確かめたかったということか。


 だとすれば確かに、“たかがゴブリン”という事は関係なく、キリグマをある意味での生命体改造の実験体にしようとしたのも頷けるような、200年前のことなのでよくわからないような。



「1度目の脱獄では、早期に対応したことが功を奏して、1ヶ月ほどで再びスタヴロスに閉じ込めることができた。……最終的に龍皇フロガの力を借りたからこそできたことだがな」


「フロガが人の為に動いてた時期もあったのか……。まぁ200年前ならありえるな」


「しかしながら、鋼鉄を重ねたような強固な牢屋でさえ、キリグマを閉じ込めておくことができなかった。2度目の脱獄で、キリグマは姿を隠し、約180年に渡って消息が不明だった」


「そのときも、フロガがキリグマをスタヴロス監獄に収監するのを手伝ってくれたのか?」


「何度要請しても請け負ってはくれなかったフロガだったのだが、最強の男の伝説として、キリグマが語られ始めた頃に、気に入らなかったらしいフロガが自主的にキリグマをスタヴロスに送り込んだ」



 本当にプライド高いなフロガは。人々が自分以外の誰かを最強として語るのがそんなに気に入らないのかよ。



「そして後に、約180年の、姿を隠していた期間中、キリグマは子供を作っていたとわかり、それが、当時、孤児院にいたピズマだったというわけだ」


「事の経緯だったり、自分の素性の真実を知りたがったピズマには、始祖様が直々に教えたから、10歳になる頃にはピズマは自分が“始祖殺しの男”の子だとしってたよね」



 アグノスが頬をかきながら言う。



「ひゃはは。それなのに『天使』の加護を受けられるってのはすげえな」


「なんで『天使』の加護だとすごいんだ?」


「心に深い傷を負ったやつは往往にして、無意識に黒い憂鬱を孕んでる。感覚的な“白さ”を持ったやつだけが授かる『天使』の加護は、よっぽど強い、誰かを救いたいという意志がない限り……ってのが常識だったんだぜ、ひゃはは」



 頑固な面も目立つけど、基本優しいピズマだからこそ、なんだな。



「何度か、ピズマはキリグマとの面会に赴いていた。何を話したのか、何を言われたのか、我々にはわからないが、その度にピズマは怒りを増していったように見えた。遂には、“キリグマは自分が殺します”とさえ言うほどに」


「正義感の強いピズマなら、自分の強さを誇示したいがために多くのセンチルを殺したキリグマを許せないのも、わからなくもないな」


「何だか……私と境遇が似てないか?」



 ふと、顔を上げたアマルティアが、思いついたように言った。

でも、確かに。父親が大罪人って点では全く同じだな。



「まぁ、創造神アルファを生き返させられる力を持ちながら世界の意思を無視して自分の子に能力を行使したガンマと、戦争に便乗して1つの種族を滅ぼし、始祖を1人殺したキリグマだと、どうしてもガンマの方が世界的に罪人として扱われがちだけどな、ひゃはは」


「それに、ピズマの父親はまだ生きてるわけだし」


「そうか、私とお揃いだな、と言おうと思ってたのに」


「そんな明るい話題じゃねぇよ……」



 それに、父親が犯した罪を背負わされているアマルティアと父親の罪を許さないピズマでは、根本が違うようにも思えるけどな。



「っていうか、その話だと、さっき出て行ったピズマが向かったのって、キリグマの居場所ってことか?」


「といっても、どこにいるかは誰もわからない。恐らくは情報収集にでも行ったか」



 そもそもキリグマは何が目的なんだ?己が実力を世界に認めてもらうだけなら、センチルを滅ぼした時点で、当時の世界新聞には取り上げられただろうし、後に最強の男として語られたくらいなんだろう?


 それならば、これ以上何をしたくて、再び脱獄なんかしたんだ。



「キリグマが何をしに出てきたかは、予想がつくけどな、ひゃはは」



 頭の後ろで手を組んで、軽い調子で言うレプトスに視線が集まる。どういうことだ?と注目しているのは俺とアマルティアくらいで、アグノスと始祖じいは、レプトスと同じく何かを察しているように見えた。



「アマルティアを狙ってんだろ、キリグマは」


「な、なぜ私を?」



 アマルティアを狙ってるって、狙われる筋合いもなければ、何より会ったことすらないはずだ。


 思わず首を傾げる俺とアマルティアに、アグノスが口を開く。



「というのも、キリグマは、以前から龍皇フロガを敵視していて、何度も何度も交戦してるらしいんだ。寿命というしがらみから解放され、さらには龍皇まで倒したとなれば、本格的にキリグマは、文字通り最強となる。強さに求める意味が、誰よりも単純だからこその、彼の行動なんだ」


「うむ。まぁ結局は、一度もフロガを仕留めることはできなかった。しかし、何も惨敗というわけでもないという話を聞くと、やはりキリグマという男がどれほどの力を有していたかがわかる」



 あのフロガの若い頃……もしかしたら全盛期とかあったかも、という頃に、接戦を制すことはできなかったものの生身のゴブリンが、“何度も”戦ったというのは、確かに規格外としか言えないのかもしれない。



「スタヴロス監獄では、世界新聞を受刑者に読ませているのだが、恐らくはその際に新たな龍皇、アマルティアの存在を知り、ここぞとばかりに脱獄を仕掛けたのだろうな」


「え、世界新聞って今日届いたばっかしだろ?なんでキリグマが脱獄した記事が載ってるんだ?」


「世界で最も早く世界新聞を読めるのはスタヴロス監獄だからさ。だから勿論、最初にキリグマが読んだ新聞には、キリグマ脱獄!とは書かれていなかったんだ。その直後、脱獄したキリグマだったけど、それをすぐに新しい記事として再発行した世界新聞社の行動の早さには驚いてる」



 なんだかんだでアグノスも世界新聞をリスペクトしてるみたいだな、口ぶりからして。



「何にせよ、キリグマがここ、パトリダに迫っている可能性は十分にある。こちらも何らかの手を打たなければ。キリグマは危険な男だ」


「ですが始祖様、まずはピズマをどうにかしなくては」


「あいつどこ行ったんだ本当に」


「ピズマは……放っておけ。ピズマなりに考えていることも少なくないはずだ」



 始祖じいからの信頼の厚いピズマだからこその処置。さすがピズマ。



「で、どうする?ティアは」


「どうするも何も……どうすればいいのだ?」


「戦うことになるんじゃね?でもキリグマってめちゃくちゃ強いんだろ?いくら龍皇だからって……」


「別に私1人で戦うことはないだろう。ランがいざという時に守ってくれる」


「いや、前はそう言ってたけど、今じゃ俺足手まといにしかならねぇし。ティアの方が強いし。うん」


「何を拗ねてるんだ、ラン……」



 4日前にやっとのことで、いろんな騒動が終わり、問題が解決したばっかりなんだ。もう強敵とかと会いたくなんてないのに。


 次から次へと強敵現れて、さぁどうするって……ライトノベルじゃあるまいし。



「ひゃはは。しかしまぁ、アマルティア、お前が新龍皇として時代を担えるかを試すには丁度いい相手じゃねぇのか?」


「緊張感ないなぁレプトスは」


「これで私がキリグマに勝ったら、また世界新聞に載るか?」


「確実にな」


「よし、頑張るぞ、皆」



 あーあ。アマルティアまで世界新聞大好きっ子になっちゃった。


 しかしまぁ最弱と呼ばれるゴブリン達の会話とは思えないほどに好戦的だよな、パトリダ幹部って。自分が強いってわかってるからこそだろうけど。



「よし!じゃあ『緊急クエスト!キリグマ討伐!』頑張りますかー!」



 立ち上がって言う俺に不思議そうな顔をする皆を見下ろして胸を張る。



「ピズマのこともあるし、ティアも危険かもだし、大変なことたくさんあるけど、ここでキリグマに勝ったら、今度こそゴブリンって種族が最弱種なんて言われなくなる時代がくるぞ」


「それもそうだな。よし、龍皇アマルティアと龍皇殺しランの力を見せてやろう」


「そ、そうだな」



 龍皇殺しって異名はあんまり嬉しくないなぁ。倒したの俺じゃないし。



 微妙な顔をする俺の横でアマルティアが立ち上がる。



「さぁラン、時間もないかもしれない。食器を片付けて早速修行だ!キリグマがパトリダに到着するまでにもっと強くなるぞ!」


「……そうだな。よしっ!いくか」



 久しぶりの感覚。


 修行しようなんてのは随分と聞いていなかったように思えた。それほどに先日の戦いは長く感じたし、辛いものだったと言うことだ。


 俺たちの新たな一歩として相手するのは、フロガがいない今、最強と思われる男。


 相手にとって不足なし!



改めて、明けましておめでとうございます!


去年の3月に書き始めたこの物語ですが、僕が想像していたよりも多くの方に読んでもらえて嬉しく思います。

本当に書きたい展開だったり、ネタはまだ書き切れていないので、今年はいい感じに展開を進められたらな、と思います!


今年もよろしくお願い致します!ありがとうございました!

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