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ライトノベルじゃあるまいし  作者: ASK
第ニ章【ゴブリン・パトリダ】
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第28話 攫われた龍の巫女(男)

こんにちは。

そういえば、週一更新を目指そうと思い、毎週日曜日に最新話を投稿しようかな、と考えています。


が、しかし。火曜日からテスト2週間前なので、来週と再来週は多分更新されないと思います……ごめんなさい……テスト頑張ります!


 どこかの最強クソジジイのせいで、地表が真っ黒に焦げた荒野を、俺たちは並んで走り抜けた。


 やがてパトリダを囲うように、あるいは守るように鎮座する森に入る。


 これは以前言ったと思うが、パトリダ外周の森は日中も暗い。頭を覆い、空を隠す木々は日の光を通さず、さらには濃霧がたちこめる、絶望の二段構え。


 正直言って、何度通っても迷いそうになる。


 しかし、今日は違った。


 頭上は確かに枝葉に覆われている。しかし、北の方向のみが、青く、蒼く、ぼんやりと光っている。光を通さないはずの森の中でも見て取れるあの光の柱。


 あれを見た途端に、走り出したピズマとレプトス曰く、あれは龍の誕生の光。すなわち、同時に龍皇りゅうおう誕生の光でもある。


 いつもは、森のあらゆる所に設置された看板を手探りで探してパトリダに帰るのだが、今日はひたすらにその光に向かって走った。


 少し前を走るピズマとレプトスの表情を見て、俺は息切れも気にせず話しかける。



「なぁ、なんでそんな顔してんだよ。てか、何をそんなに焦ってんだよ、龍が生まれようが誰かが龍皇になろうが、俺たちができることなんて、ないだろ?」



 少し振り向いたピズマが口を開く。



「私たちに何ができるかはともかく、パトリダ領内で起こっていることなのですから、他人事として無視するわけにはいきません。そして何より、最も恐ろしい可能性は、“同胞が龍に選ばれた”という可能性です」


「恐ろしいって……いいじゃねぇか、ゴブリンにも龍皇がいれば、それこそ最弱種族だなんて汚名も晴れるし。逆に、北の海に攻め入ってきた人間兵の誰かが龍に選ばれてるほうがピンチだろ」


「いえ……ラン様。龍に選ばれた、というのが何を意味するか、以前始祖様からも説明しましたよね」



 ……何だっけ。覚えてねぇ。



「あー、『裸なんてハレンチよ!』って言ってる女はお風呂に入るたびに『今の私、とてもハレンチだわ』って思ってるかと言えばそんな事は絶対にないから裸に対して性的で不潔だという固定観念は持たないでほしい……みたいな話だっけ」


「全然違いますよ……。つまりは、龍皇戦争がまた起こるということです。前回はエルフの少女が選ばれたから、戦地はエルフ領でしたよね。様々な種族が龍皇玉りゅうおうぎょくと、そして選ばれた少女の命を狙ってエルフ領に攻め入った……」


「あー、そうか。じゃあもしあの光の下にいるのが俺たちの仲間なら、今の俺たちみたいにあの光の正体に気づいた殺し屋とか強い奴らがパトリダに攻め入ってくるってことか」


「そうです。そうなったらパトリダはタダでは済みません、どれだけの同胞が死ぬことか……」



 心底心配なのか、走るスピードが若干早くなるピズマ。


 “絶対攻守”のコインの双子、妹のアリステラ・コインは、疲れたとかなんとか言って、兄のデクシア・コインに今はお姫様抱っこしてもらっている。


 視界だけでなく、足場も悪い森の中を、妹を抱えながら走るデクシアは、辛そうな顔をしているが、妹が傷ついたり不快に思うことは基本言わない性格からか、『疲れた、もう走れない』とは言っていない。顔にはそう書いてあるが。


 相変わらず甘やかしすぎだ、アホ兄貴。


 レプトスは先頭を走っているが、依然としてニヤニヤしている。楽しくてしょうがない、と表情に現れているが、今のこの状況が、もしかすればパトリダの危機にも繋がるというのに、本当に緊張に欠ける師匠だ。



 ──やがて視界に、陽の光が加わる。開けてきた森の道。苦しむデクシアには申し訳ないが、一気に加速して、森を抜けた。


 途端に眩しく感じる光に包まれて、開けた視界に映る世界を認識する前に、全身が感じたのは……。



「さっむ!!寒すぎる!!」



 吐いた息は、白く、ゆっくりと空に溶けていく。しかし季節は冬ではない。日中にこんな寒いのはありえない。


 眩しさに目が慣れてきて、よ〜く周りを見てみると。



「うっわすげぇ。海が凍ってるじゃん」



 2つの大船が浮かぶ海面は、手前にある大船の底ごと凍りつき、氷の大地となって空気を冷やしていた。


 そして、その氷の地面に転がる、無数の死体、血痕を見て。鼻腔を刺激する死の匂いを感じて、ここでどれだけの戦いがあったのかを察する。



「……くっ!アグノスと張り合うほどの剣士がここに来ていたとは聞いていたが、ここまでやられているとは……神託者ウィザード達はほとんど殺されてしまったのか……」


「……同じくらい人間の死体もあるが……それにしたってピズマ、今はそんなこと考えてる場合じゃないんだろ?」


「そんなこと、という言い方は良くありませんが……そうですね、優先順位を間違えないようにしましょう、まずは先ほどまで見えていたはずの光を探さなければ」



 そう。俺の失言を見事に注意したピズマの言う通り、森を出た直後に、俺たちが追っていた光の柱は、綺麗さっぱり無くなっていた。



「さて、どうしたもんかなぁ……とりあえず歩き回ってみるか」


「はぁ、はぁ……ら、ランくん、もう少し休まないかい?」


「妹を甘やかすお前が悪い。どんなに疲れてても休む暇などない!バカタレが!」


「ひゃはは。ラン、お説教の所悪いんだが、向こうの森から誰か来るぞ、隠れろ」



 横入りしたレプトスの一言に、全員が反応する。生い茂った草の後ろに隠れて、声がする方に目を向ける。


 少し離れた所の森の道から出て来たのは、意外や意外、イギアねぇだった。


 服も体もボロボロのイギア姉は、足を引きずりながら進み、海に浮かぶ大船を睨んでいる。


 今一度大船の方を見ると、少しだけ人影が見えた。手前にある船は、船底が海面とともに氷漬けにされているため、おそらく使い物にならないのだろう。


 しかしその奥にある船からは、耳を澄ませばかすかに“人間語”の話し声が聞こえてくる。


 さっきまで気づかなかったが、俺たちのすぐそばに人間達がいたらしい。


 何が何だかわからないが、とりあえず傷を負ったイギア姉の元へ向かう。



「──イギア、どうした、大丈夫か!?」



 ピズマが小さめの声でそう言いながら、木にもたれかかるイギアの体に手のひらを向ける。


 瞬き。


 目を開けばそこにいたのは服のみがボロボロのいたって健康なイギア姉。やっぱピズマすげぇ。


 立ち上がり、木の後ろに身を隠したイギア姉が話し始める。



「ありがとうピズマ、助かったわ。……色々と聞きたいことはあるだろうけど、重要なことだけ言うわね」



 大船を指差しながらイギア姉は続ける。



「今にも出発しようとしているあの船には、アマルティアちゃんがいるわ」


「ティアが!?ど、どうして」


「ランちゃんちょっと黙ってて。……あなた達がここに来た理由は、蒼い光を見たからでしょう?」



 俺たちは無言で頷く。



「その光が何を意味するかは、ピズマとかから聞いたと思うけど、お察しの通り、“龍皇玉”は私たちの目の前に現れた」



「……もうわかった気がする……」


「そうね、状況を見てみればわかることだわ。つまりは、今まさに人間軍の船に乗せられている、アマルティアちゃんが、選ばれた……」



 アマルティアが。龍に選ばれた。


 龍の姿が思い浮かぶ。赫き龍。熱、痛み。


 200歳を超えてなお堂々とした男。世界の頂点の力を手に入れた代わりに孤独と最強を背負って生きた男。龍皇、フロガ。


 その力の継承者が、深い業を背負う者が、アマルティア。



「人間軍には1人、アグノスと互角の剣士がいて、アマルティアちゃんが誘拐されそうになった時はアグノスがその剣士をここから離してくれたんだけれど、敵の神託者ウィザードの睡眠神法で眠らされて、私も助けようとしたんだけれど、さすがに無理だったわ……ごめんなさい」


「いいや、イギア姉は悪くないだろ。それにしたって急がなきゃいけないのは変わらねぇな。……ティアが、殺されるかもしれないんだろ?」


「いえ、ラン様。すぐに殺される、ということは、基本的にありえません。ましてや人間ともなると」


「どういうことだ?」


「もちろん、龍皇玉が覚醒、つまりは孵化する前には、親である者を殺すのが、龍の力を奪い取る条件です。しかし、龍皇玉を育てる力が最も強いのは、親として選ばれた本人です。いち早く孵化させたいと思うなら、孵化ギリギリまで本人の近くに置いて、成長を促すものです」


「なるほど、正真正銘選ばれた者以外じゃあ、孵化までに時間がかかり過ぎるのか」


「はい、ですから、孵化の予兆が現れるまでは、アマルティア様が殺される可能性は低いと思います。人間という種族ならなおさら」



 一安心、とは言えない。依然としてパトリダの、そして何よりアマルティアの危機は去っていない。


 ふざけんな、このままアマルティアが死んだりしたら、俺とあいつの最後の会話は喧嘩じゃねぇか。そんなんで終わってたまるかよ。


 助けにいくんだ。俺が。絶対に。



「しかし早く助けには行きてぇが、ひゃはは。どうすんだ?」


「何か案はないのか、レプトス。作戦とか」


「どうしたってあの船に乗り込むしか、ねぇんじゃねぇか?あるいはあの船ぶっ壊して人間領に帰れなくするか、だな。ひゃはは」


「それ採用」



 そうか、あの船ぶっ壊しちゃえばいくらアマルティアを乗せてても、人間領に帰れない。そうなればこっちのもんだ。兵力も何もかもがすぐ近くにある俺たちと戦地で孤立した敵軍じゃ、どちらが有利かなんて話す必要もない。



 ──話し合った結果、イギア姉はアグノスを探しに行くとのこと。回復役としてはこっちにはピズマがいるので、分配としては妥当だろう。


 俺たちは森の中を通って、眠らされたアマルティアのいる船に一番近い草むらに隠れた。



「よし、まだ出発してないな」


「ランくん、どうするつもりだい?壊すって言ったってあの船、かなり大きいけど」


「デクシア、そりゃあお前決まってるだろ。……おい、起きろアホ女」


「死ね」


「うっわシンプル」



 今度はデクシアにおんぶされていたアリステラ。頭を叩いて起こした。



「アリステラ、お前、何だっけ、“トリュボス”?……忘れたけどすげぇ地面をガタガタにしてた神法あったよな、あれ使ってくれよ」


「お前に呼ばれるために付けられた名前じゃない」


「嘘でしょ何その拒否の仕方」


「にぃ、こいつの言うことは聞きたくない、にぃが指示して」



 相変わらず生意気なアリステラはデクシアを見つめる。



「うーん……とりあえず、氷の神法で、もう1つの船みたいに、とりあえず海面ごと凍らせて、動きを止めてから、相手の動き次第ではアリステラの神法で一気にぶっ壊しちゃうのもありかもね」


「さすがにぃ。頭いい。かっこいい。好き」


「ありがとう、アリステラ」


「おいコライチャついてる場合じゃねぇよ」



 デクシア考案の作戦通り、海面に向かって手をかざしたコインの双子。


 2人の手のひらが淡く光り、そして冷気が生まれる。


 刹那、白い光を放った海面は、気がつけば一面氷漬けになっていた。もちろんしっかり船底も海面に固定されている。


 すると。


 大船からぞろぞろと人間が出てきた。神託者ウィザードらしきローブを羽織った人間たちが、甲板から、周囲を警戒している。


 船から降りた何人かの男たちが、何か話し合いながら、氷を割り始めた。


 なぜあんなに静かなのだろう。


 敵襲〜!とかエマージェンシー!とか叫びながら船から飛び降りてくると思ってたのに。



「ひゃはは、アマルティアを起こさないように静かにしてんじゃねぇか?」


「何だそれ……」



 誘拐されたままのアマルティアだが、確かに起きてさえいれば、人間たちの想像を遥かに超える身体能力で、どうにか脱出するかもしれない。


 けど、あんなに静かに氷を割って慎重に動いてる姿を見てると、何か面白くも思えてくるが、何より“確実”にアマルティアを人間領に持ち帰ろうとしているのがわかる。


 大船の中にアマルティアがいるのはわかってるが……ここは。



「よし、ぶっ壊せ!アリステラ」


「もう壊しちゃおう、アリステラ」


「うん、私頑張るから見てて、にぃ」


「何でデクシアを挟まないと命令が通らねぇんだよ……」



 アリステラが大船に手のひらを向ける。


 一言。



「──“トリュボス”」



 瞬間、何人乗れるんだろ、と思うほど大きな船は、まさかの木っ端微塵に吹き飛んだ。


 もっとこう、船が真っ二つに割れたりだとか、そういう感じだと思っていたら、もはや舟を修復させる気もないらしい。


 突然足場を無くした大勢の人間たちが氷の地面に落ちていく。


 何が起きたのかわからず、アマルティアの事を無視して叫び散らかす人間たち。


 想定外過ぎたのだろう。まさか船が一瞬で粉々になるとは思っていなかっただろうに。


 ふんぞり返るアリステラの頭を撫でるデクシアを無視して、ピズマとレプトスとアイコンタクト。走り出す。


 氷の地面に転がる人間たちの中に、アマルティアがいるはずだ。


 森から飛び出してきた俺とピズマに気づいた人間が大声を張り上げる。



「敵だ!2体いるぞ!」



 無論、レプトスは誰にも気づかれていない。


 しかし、今更だが、やはり人間は俺たちを“2体”とか、“2匹”と呼ぶのか。すこしイラっとするな。


 俺はナイフを抜く。ピズマも大剣を片手に加速する。


 そして詠唱を終わらせた敵の神託者ウィザードたちが、一斉に神法を放ってきた。


 氷に炎、水に雷。土に風、岩に毒。種々雑多な神法が冷たい空気を切り裂いて飛んでくる。



「──“アスピダ”」



 声が聞こえた。優しい声。


 振り返らずともわかる。“絶対攻守”の鉄壁の兄、デクシアの防御系神法。


 神法を構成する神気しんきを無効化する神法。


 この世界に存在するものは全て『存在』という加護を受けている。それ故にこの世にあるもの全てが神気を帯びている。


 それを無効化するのだから、鉄壁どころではない。無敵だ。


 これに勝ちたいなら龍皇でも連れてこいやって話だ。



「ナイスだデクシア!」



 駆け抜ける。目の前で神法が情けない音を立てて消えていく。霧散する自分たちの攻撃に、動揺を隠せない人間たちの集まりの中央へ。



「必殺!回転斬り!」



 もちろんそんな技はないけど、とりあえずそう言いながら近くの敵の手首を切って行った。


 数人の剣士の剣を体を回転させて避けつつ、すれ違いざまに手首を切っていく。


 無論致命傷ではないものの、誰もが武器を握れなくなる。


 前衛部隊を一時的に戦闘不能にする。


 ピズマが地面を蹴る。跳躍したピズマは、朝日を浴びながら輝く大剣を振り下ろす。


 大剣の軌道上にいなかった敵まで、首が飛ぶ。



「おい、ピズマすげぇな、どうなってんだそれ!?」


「この大剣は特別製でして、私の神気を循環させることで、より多くの対象に神法の影響を与えることができるのです」


「いや、お前『天使』の加護だろ?回復神法しか使えないはずじゃ……」


「例えば腕が切り落とされたとします。その時回復神法で腕を回復させます。すると、その時に起こるのが、“失われた物の生成”です。皮膚や千切れた血管、神経。それらのものを再び生み出して、新たな腕を作り上げ、対象の傷口と接着します」


「へぇ。回復神法って、物体を作るって能力なのか」


「はい。ですから、私はその物体生成能力で、彼らの首元に刃を作りました」



 器用なことをするなぁ。


 通常、数人に向けてしか使えないピズマの神法を、特殊な大剣を通じて、より大人数に効果を与えることが可能となっていて、かつ使う神法は回復神法の根本を逆手に取った“武器の生成”。


 刃を敵の首元に生成、そのまま切り裂く。もしくは体内に何かを生成し、内側から壊す。


 龍の加護に守られた龍皇には効かない技でも、ここでは効果抜群だ。


 俺が動きを止めた人間たちを、ピズマが片っ端から首を飛ばしていく。


 レプトスはどこにいるかわからないが、どうせ信じられない数の人間をサラッと殺して回ってるだろう。


 気が楽だ。こんな言い方は良くないけれど。


 正直、まだ殺しという行為に抵抗が少しある。この世界ではそれをしていかないと生きていけない場合だってあると理解している。


 それでも、ただニートとして暮らしてきた俺には、命を奪う行為が等しく恐ろしい。


 しかし今は、俺は動きを止めるだけ。殺すのは、それに慣れたピズマやレプトス。


 嫌なことを押し付けているように感じるが、それでも俺がこの戦場でいつも通り動けているのには、精神的に余裕があるからなのだ。



「ティアー!!ティアー!どこだ!」



 やがて人間兵はほぼ全滅したので、俺たちはアマルティアを探し始めた。


 が、どこにもいない。その姿は見当たらず、こちらの声に反応もしない。


 粉々になった船の真下には、見知らぬ人間の死体しかない。


 じゃあ、一体どこに……。



 ──ドドドドドッ……!!



 急に耳に飛び込んできたのは凄まじい轟音。鼓膜を叩くその音のなる方を向くと。


 森の木々が次々に倒れていく。ドミノのように倒れていく。そして、近くの木々を薙ぎ倒して森から飛び出してきたのは。



 ──金髪の、剣士。


 髪は大体肩までの長さ。宝石のような金髪に、金眼。勝気な表情。低めの背丈。


 俺は、あの女の子を知っている──



紀伊きい……ちゃん……?」



 俺の呟きは、切り倒された大木が地面を割る音にかき消された。


 金髪の剣士に続いて、アグノスが飛び出してくる。少し遅れてイギア姉も出てきた。


 鋼のぶつかり合う音。アグノスとその金髪の剣士は互いに一歩も譲らない剣撃を浴びせ合う。


 しかし突然。



「よいしょっ!」



 金髪の剣士はそう言いながら胸元のポケットから何かを取り出す。


 白い玉を、金髪の剣士は足元に投げつける。

 

 途端、離れたここまで届くほどの爆風がそこから生まれる。


 吹き飛ばされるアグノス。同じく金髪の剣士も風に飛ばされ宙を舞う。


 が、しかし、そのまま彼女は、まだ破壊されていない方の船の甲板に着地。



「逃げるぞみんな!」



 と叫ぶ。



「遅いです隊長!」


「ヒヤヒヤした……」


「早く!早く行こ!この子も起きちゃうよ!」



 船から何人かの声が聞こえた。


 人間はまだ残っていた。大勢が載っていたあの大船はフェイク。あの船にアマルティアがいると思わせるための囮だった。


 船底の氷を一刀両断した金髪の剣士は、剣を納めながら大声を出す。



「アグノス!じゃあね!アマルティアくんはもらっていくから!大丈夫!どうにか殺させないように私も頑張るから!」


「ふざけるな!アマルティアくんがタダで済むわけがないだろう!」


「それでも私は彼を連れていく!ただ力のために龍皇玉を巡って争うことがどれだけ愚かなのかもわかってる!それでも!……仕事だから!」



 金髪の剣士は辛そうな表情で叫ぶ。


 船は、風の神法を応用したエンジンにより、一気に遠くまで進んで行ってしまった。


 アマルティアは誘拐された。龍皇玉が敵の人間の手に渡った。


 色々と一大事なのはわかっているが、それでも。



「何で……紀伊ちゃんが……」



 俺はそれしか考えられなくなっていた。



本日もご拝読ありがとうございました。


テストさえ終わればまた続けます。楽しみにしてくださる方がいるのかはともかく、ですけど。


ブックマークも以前より増えたので、もしかしたら1人くらいいるかもしれません!いますように!

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