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ライトノベルじゃあるまいし  作者: ASK
第ニ章【ゴブリン・パトリダ】
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第26話 やがて訪れた朝の色

すみませんでしたぁぁっ!!

前話より、2週間という期間を空けての投稿……申し訳ありません。筆が進まないこともありましたが、それよりも時間を見つけて書くということに全力ではありませんでした。反省します。


しかも若干短いです!今話!本当にすんません!


 吹き入る風は時に強く、肌を冷たさで焼いていく。赤く凍えた手には力がうまく込められず、思わず剣を手放しそうにもなる。


 足場は、パトリダのゴブリン軍の神託者ウィザードたちが、海面を直接凍らせて作り出した。海面と共に地面に貼り付けられた人間軍の大船には、人影はもうない。


 先ほど、大船の中から、多くの戦士系加護を授かった兵士たちが出てきて、金髪の女性剣士、桜坂さくらざか紀伊きいを筆頭に、こちらに攻め込んできた。


 現状、残存兵力では、人間側の方が多い。近接戦闘を得意とした戦士系加護の仲間たちは、ほんの数分でキイに殺されてしまった。


 その代わり、人間軍の神託者ウィザードは、もれなく全員アグノスが処理したので、神法に怯える必要は無くなった。


 しかし、前衛戦力をほぼ失った我々に対して、あちらは大量の戦士系加護の兵士がいる。こちらにも神託者ウィザードは何人もいるが、数に物を言わせた戦法を採られると、勝ち目は薄い。


 事実上の劣勢。数の差は埋められない。けれど、時に“個の力”が数を上回るのも、まぎれもない真実だ。


 現に、アグノスはキイと戦いながら、何とか隙を見つけては近くにいる人間兵を始末している。ただでさえキイと戦ってるというのに。流石の一言に尽きる。 ちなみにキイもアグノスと戦いながら、海面とともに凍らされた大船の付近の氷を切り裂いて、退却の準備を整えている。


 ここで指をくわえて見てるのが嫌で私は部屋を飛び出したのだから、私も無論戦う。ただ、実戦に限りなく近い修行をしてきたとはいえど、本当に“殺した”ことはない。

 “それ”が怖いかと訊かれれば大袈裟なまでに首を縦に振りたいところだが、ここでそんな躊躇はしていられない。


 油断が死に直結する場での、初の実戦。パッと見た様子では、人間軍の前衛戦士たちは私よりも実力が劣っているように感じる。事実、そうなのだろう。


 幸か不幸か、父親ガンマの影響であらゆる身体機能が発達した私に比べて、彼らはあまりに弱い。アグノスが私をパトリダに帰らせなかったのも、実力差を鑑みて、私が危険な目に遭うことは無いと判断したためだろう。


 単純に考えて、今ここで私が戦いの最前線に身を投じることは、数の上では劣勢の現状を好転させる一手になるだろう。



「……普通に考えて、私は行くべき……。実力差的にも失敗する要素はほぼ無いに等しいはず……」



 頭の中も、口から出る言葉も、ポジティブな事実ばかり。そんなのはわかっているが。どうしても、どうしても。


 足が動かない。手が震える。剣の振り方なら心得ている。臨機応変な対応には自信がある。わかっている。


 しかし。肌が、鼻が、心が。感じ取っているのは、濃厚な死の空気。削れる鋼の香り。それに混じるように蔓延する血の匂い。


 雰囲気が、想像していたそれとはまるで違う。


 既に戦場に“呑まれて”いる。


 立ち尽くす私の視界は、命を削り合う人間と仲間たちの姿。口を噤んで棒立ちする私だったが、突如背後からかけられた声に肩を跳ねさせる。



「──あらあらアマルティアちゃん。そんなに怖いなら大人しく部屋で人間語の勉強でもしてたらよかったのに」


「……人間語はもう大体覚えている。ランが丁寧に教えてくれるからな。……それより」



 濃霧と常闇に閉ざされた森から出てきたのは。

 修行を始めた当初に凄まじくお世話になった、パトリダNo.2の『天使』、イギアさんだった。ちなみにランはイギアねぇと呼んでいるが、何度命を助けられたか数え切れない私にはそんな呼び方はできなかった。



「イギアさんは何故ここに?今の私が言うのもおかしな話だが、ここは戦場。非戦闘系加護のイギアさんが来るところでは……」


「あら、失礼しちゃうわね。これでも数々の修羅場をくぐり抜けてきたつもりよ?ピズマがいない時の治療は私1人が全て担当してるんだから」


「イギアさんがすごいのは身をもって何度も経験しているが……そういうことでなく。王宮を空けてもよかったのか?」



 つり目がちの目を細めてイギアさんは答える。



「アマルティアちゃんも見ただろうけど、というか今もそうだけど。あの西の空が見えるでしょ?太陽は東の空に、既に昇り始めているというのに、西の空はむしろ東の空よりも赤く、明るい」


「ああ。あまり良い予感はしないが……あれは一体?」



 あれはあまりに不自然すぎる。禍々しく輝くあの赤は、何故か必然的な死を連想するような……何というか、生物が本能的に恐れるような……。


 まるで……まるであれは炎のような。



「あの空の下。西の荒野に、パトリダの兵士たちが、あ。もちろん戦士系加護の兵士達ね。彼らがいるのよ。そして、誰かさんと喧嘩した後に飛び出していったランちゃんも」


「ランが!?」



 驚きはしたものの、どこかそんな気はしていた。あのような、関わるべきではないだろう、と見るだけでわかるものには、往々にしてランが関わりにいっている。

 保身的な性格ゆえに、ランはトラブルメーカーではないものの、まるで吸い寄せられるようにトラブルに巻き込まれていくきらいがある。



「そうそう。でもそれだけじゃなくて。あの赤い空を見ればわかるように、あの西の荒野には、人間軍の……いや、この世界の最高戦力。最強の体現がいるのよ」


「……そこまで言われれば私でもわかる。……“龍皇”、だろう?」


「ええ。そうよ。龍皇史上初めて、自身に加護を授けて下さった“龍を喰らった”男、フロガ。始祖様が言うには、歴代でも指折りの実力者らしいわよ。そりゃあもうただの生き物じゃ敵うわけがないってくらいに」



 ──龍皇フロガ。その名は初めて知ったが、龍皇という存在の恐ろしさは、兵士達はもちろん、世界中でも話される。


 加護神ベータ様の加護を授かり、様々な方向に特化した今の生命体とは一線を画す。彼ら龍皇は龍の加護なるものを授かり、そのあまりに巨大な力ゆえに、“神殺し”の加護とさえ揶揄される。



「かなりの高齢と聞いていたが、あの空を見る限りは、まだまだ力は健在のようだな」


「いや実はそうでもないらしいんだけど、それでも敵わない事実は変わらないわよね。まぁとりあえず、なんで私がここにいるかという質問に答えると、西の荒野には、ランちゃんを追って、レプトスとピズマが向かったの」



 レプトスとピズマ、か。いかにもランについて行きそうな2人だ。特にレプトス。いつもランと修行(遊び)やら何やらで一緒にいて、おそらく戦場にランが立つきっかけを作ったのもレプトスだろう。何を考えているのやら、本当に謎だらけの男だ。



「何で、ピズマほどの実力者を西の荒野に向かわせたかと言えば、もちろん龍皇がいるから。……レプトスは、まぁよくわからないけどまた何か企んでることでしょうし。で、この北の海側にはアグノスが1人で向かったのよ。あ、アマルティアちゃんもね」


「人数合わせ、というよりは、戦力の均等な分配、か。あるいは『天使』が1人は必要、という判断か」


「どっちもね。どちらかと言えば後者。まぁ、アマルティアちゃんいるだろうし、心配だし、見に行こうかなー、なんて思ってたりもしたわよ」



 ありがたいことに変わりはないが、やはり非戦闘員を戦場にいさせるのには気が引ける。確かにイギアさんは弱そうに見えるかと聞かれれば、そんなことはないだろう、といささか小声で言いたくなるが、女性ということもあるので、ここは私が前に出るべきだろう。


 こんな形でよかったのかは不明だが、やっと戦う心構えが出来上がった。とりあえずはイギアさんを守りつつ、できればアグノスの助太刀に行きたいところだ。


 ……あの戦いに首を突っ込むと、突っ込んだ首は戻ってきそうにないな。邪魔になるくらいなら、他の兵士を一掃する方向で動こう。


 ──しかし。これは決してイギアさんを守るためでも、追い詰められた仲間達のためでもない。私の行動が結果的に彼らを守ることになろうが、私は先ほどランに言われたばかりなのだから。



『──結局は圧倒的な強者と!幸運の持ち主と!俺みてぇな卑怯な臆病者しか生き残らねぇんだよ!最後に立ってるのは“誰かを守りたくて戦ったやつ”じゃねぇんだよ!』



 あの時は頭に血が上っていたし、何より私を置いて戦場に立つランへの不平不満が爆発して冷静に考えられなかったが、ランの言うことはもっともだ。自分のために戦えないやつが、死に物狂いの世界で生き残れるわけがない。


 イギアさんの存在も、尊敬する師匠の戦いを邪魔させないことも。どちらも冷えた手で剣を握り直すきっかけでしかない。ここからは私のためだけに戦う。自分の命よりも大切なものなど浮かばない心境でなら、私は。



「イギアさんはここに。何かあったらまた助けてもらいますけれど。私はやることが──いや、やるべきことがあるので」



 駆け出した。強く蹴った地面。飛び散る土。やがて氷の戦場と化した、凍りついた海面に足を踏み入れる。多少滑るが、体幹には自信がある。


 背後から小さく聞こえた、「がんばれ〜」という声に口角を思わず上げながら、既に温まった全身を使って、肉薄した人間兵の首を飛ばす。


 ──初めての感触。


 いつもはアグノスに腕を切り落とされたり神経を切られたりと、やられっぱなしの私にとって、肉を裂きながら進み、やがて硬い骨を砕き、噴き出す血潮を浴びながら振り抜く剣の感触は、どこまでも新鮮で。やはり恐ろしく、そしてどこか清々しいものがあった。


 滑るように氷上を走り抜ける。


 私の身体は常人を遥かに超える性能を持つとは何度も聞かされたが、こうして流れる景色や倒れる敵を見ているとわかる。


 首を傾げたくなるほどに、遅い。単純に体を動かす速度も、反応も。全てが遅い。


 まるで私だけが違う時間軸を生きているような。そんな荒唐無稽な想像すら掻立てるほどに、彼ら人間は遅く、弱く、私は速かった。


 次々と氷の地面を赤く染めていく哀れな人間の姿や、初めての剣の感覚に、どうしようもなく、自分に酔いそうになる。自意識過剰な性格でもなければナルシストであるつもりもない。しかしここまで、自分の想像よりも事が上手く進むと、都合の良い勘違いをしそうになる。


 あくまで私は初めての戦場。“慣れ”という大きな武器を持っていない身であることをしっかり自覚しないと、簡単に足元をすくわれ、首が飛ぶのは私になる。


 謙虚にいかねば。……殺しに謙虚もクソもあるかと思わなくもないが。


 これは、部屋に戻ってからこの光景を思い出して気分が悪くなるのが今からでもわかる。今は興奮しているのか、不快感をそれほど感じないが、後々が辛そうだ。早めに済まそう。


 ──若干優勢だと意気込み、攻め入っていた人間軍だが、次々と絶命していく前線の仲間達を見て戦況が明らさまに変わったことに気がつく。


 やがて5人以上でかたまって私1人に立ちはだかるようになった。囲まれ、そして冷たい風を切って私に迫る鋼の殺意。しかし、それすらもやはり遅く。


 丁寧に弾き、流し、避けて。刺して切って抉り取った。



「ほんの数分前までボーッとしてただけの子には見えないなぁっ!」



 少し離れたところから、キイの声が聞こえた。



「そもそも、今この戦場で彼を止められるのは紀伊しかいないっ!彼を舐めてると簡単に首を飛ばされるぞ!」



 息切れしながらも、アグノスとキイは互いに叫び合う。かつての知り合いらしいが、かなり仲が良かったのだろうか、今もその名残があるように見える。


 2人のやり取りにどこか心が温まった私は再び剣を握り直し、明るくなり始めた空の下、氷の地面をキャンパスに、人間の血で下手くそな絵を描く。


 数え切れないほどにいた敵兵は、やがて多少の実力者を残して、地面に転がる使い終わった絵の具入れと化した。


 途中、足を滑らせ、太り気味の人間兵の斧が私の肩を裂いたこともあったが、そこは森の出口付近にいるイギアさんがすぐに治してくれた。


 戦況は一転。こちらの戦力は相変わらずの大人数の神託者ウィザードと、今もキイと一撃必殺のみの斬り合いを続けるアグノスに、自分で言うのも何だが大活躍の私。あとイギアさんも。


 しかし。


 ──確信した勝利に油断した私は、やはり戦場での“慣れ”に、してやられた。


 動き始めた人間の動きに、理解が追いつかず、行動はおろか、反応すらできなかった。


 均衡状態だったアグノスとキイだが、突如、合図も何もなしに、生き残った実力者の人間兵数人が、アグノスに襲いかかった。無論、一人一人の実力とアグノスでは比べるまでもないが、束になれば時間を稼ぐくらいはできる。


 そのうちに、襲いかかる多数の神法をいともたやすく避けながら、氷上を駆け抜けたキイは、今は凍った海岸に並んで立っていた、10人以上のゴブリンの神託者ウィザードを、ひと瞬きのうちに殺し尽くした。


 何をしたかわからない。先ほどまで立派なパトリダの戦士だったものは、今やサイコロのように切り刻まれた生肉となって氷の地面を転がった。


 見たくもない切り口が見えて、“切り方の根本が違う”と思った。


 摩擦を感じさせないその切り口は、彼女の実力のほどを何よりも語っていた。



「あらあら。ちょっとピンチかもしれないわね、アマルティアちゃん。彼女、あのアグノスと張り合うくらいだから普通じゃないのはわかってたけど、想像を遥かに超えて強いじゃない」



 呑気にも、腕を組みながらにやけた表情でイギアさんはそう言った。


 戦力差を一瞬で埋められた私たちだったが、視界の端で、腹から血を噴き出しながら吹き飛ばされていく数人の人間兵と、返り血で真っ赤に染まった白ランのアグノスが見えたので、劣勢には陥らなかったとは察した。


 あちらも済ませたらしい。今や人間軍の兵士はキイただ1人。


 ゆっくり歩いてきたアグノスは。



「……終わりだ。どうやって死にたい、紀伊」



 剣先をキイに向け、低い声でそう言った。



「いやー、1人になっちゃった。まさかアマルティアくんがこんなに強いとは。みんなやられちゃったよ。………まぁでも」



 キイは血に濡れた剣を下ろして、優しく笑いながら言う。



「──私はこの世界で、探さなきゃいけない人がいるから。どうしても会いたい人がいるから。“彼”に出会えるまで、私はこの世界ではまだ死ねないかな」



 キイの言う“彼”とは一体誰なのか。私が知る由もないが、“会いたい”と言う割には、願望というより必ず会うという事実を作り出そうと本気になっているように見える。


 彼女の探す男が、この世界のどこにいようと、必ず見つけ出すと、そんな覚悟が見て取れた。



「まだそんなこと言っているのか。……これまでも散々探し回ったのだろう?その男を。お前の言う“元の世界”の住人は、3人のみがこの世界にいて、そしてその男だけが、一つまみの情報すら掴めないのだろう?」


「アグノスは事実でしか物事を考えられないのかい?あの人は絶対にどこかにいる。……変な女に引っかかってなければいいけどね」



 一度剣を収めて、普通に話し始めるアグノスとキイ。やはり、そもそも2人は仲が良いのだろう。


 殺伐とした緊張感が霧散した戦場は、すでに明るく。やがて訪れた朝は、私たちを祝福するように、氷の地面で冷えた体を優しく温めた。



 ──刹那。


 大地が揺れ動くほどの、爆音。


 西の空から、広がるように、赤に染まっていく大空。


 雲は掻き消され、世界の温度が上がったかのような感覚。


 誰もが西を向いた。そして、戦慄。驚愕。



「──龍」



 誰が言っただろうか。わからない。いやむしろ、誰もがそう口にしたかもしれない。


 赤く染まり上がった西の空。そこに、灼熱の炎でできた翼をはためかせ、世界を見下ろす、赫き龍が──。



ありがとうございました。


紀伊ちゃんはとある男の人を、この世界に来てからずっと探してるらしいですね。見つけてもその人だとわかるとは思えませんが。


あとちなみに、ランが使ってるナイフはレプトスに買って貰ったものですが、アマルティアが使ってる剣は、アグノスのお下がりです。昔使ってたやつですね。

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