第25話 金髪の剣士
こんにちは!なろうのサーバーの調子が悪いのか、中々開けなかったのですがやっと投稿できました。
最新話投稿、かなり遅れてしまいました。1週間に1話のペースで書きたいと思ってますので、せめて来週は土曜日に!!
本編どうぞ!
「──くるなっつったろうがっ!」
強く叫ばれる。
「だからと言って、あの光景を見て見過ごせるわけがないだろう!」
叫び返す。目頭が熱くなるのをこらえる。拳を強く握る。
「お前も知ってんだろ!あの森はパトリダの最終防衛ラインなんだよ!んでもってそこまでもう人間軍が来てんだよ!今はわがまま言ってる場合じゃねぇんだよ!弁えろ!」
そう言って彼は──ランは廊下を走り、外へ向かっていった。
……ふざけるな。私だって、私だって。
ランが戦場に立って、それで帰って来なかったらと思うと、不安で仕方がないというのに。いつもいつも自分勝手で、それでいて何でもそつなくこなしてしまう。
ずるいではないか、いつもいつも私ばかり置き去りで。
悔しいではないか、ランが危険な目に遭った時、側にいられないのは。
募る不満や悔しさを、握りしめる拳の力に変える。深呼吸して、目を閉じる。
「……今は怒っている場合ではないな」
私は、先ほど窓に見た、森を燃やす炎の雨を思い出す。ランも言っていたが、敵兵は、人間は、もうそこまで来ているのかもしれない。
確か、炎が打ち上がったのは、“北側の海”の方向だったはず。ならば、そこに向かえばいい。
私は石造りの部屋の壁に立て掛けられた、私の背丈ほどの長剣を手に取り、その鞘を紐で体と結び、背中に斜めに掛けた。
ランのナイフをナイフケースに丁寧にしまい、その表面を指で撫でながら、心を濁らす様々な想いにケジメをつける。
廊下に飛び出し、勢いそのままに、階段を駆け下りて、開けっ放しの玄関を抜け、パトリダの北へ。北の海へ。
たしか、あの辺りは漁業を営むおじさん、おばさんたちが仕事場としているはずだ。こんな夜にまで働いているのかはわからないのだが、どちらにせよ、もし本当にそこまで人間が攻め入って来ているのならば、パトリダにとっては危険だ。
ランやレプトスには劣るが、少なくともピズマより足が速い私は、パトリダの村の道を風の如く走り抜けた。
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──木々を掻き分け、やがて潮の香りが鼻腔をくすぐる。
夜はやたらと森が暗く、さらに濃霧で満ちているため、視界はほとんど真っ暗だ。これでは、ランも迷子になっているのではないか?
私は偶然、北の海に向かう仲間たちの声や足音を聞きつけ、それに付いて行っているので、このまま行けばやがて森を抜けるだろう。
それにしても、もう攻撃は止んだのか?走るのに夢中であまり考えていなかったが、あれだけの炎の量にしては、森はあまり燃えていないように思える。
普通に考えて、ここ一帯はすでに焼け野原になっていてもおかしくはなかったはず。
誰かが消火もとい、防衛したのだろうか?いったい誰が、どうやって?
わからないことはとりあえず頭の片隅に置いておいて、そろそろ相対するであろう人間との戦い──殺し合いに集中しよう。
やがて視界に、月明かりが差す。空を覆う葉を抜けて、肌に張り付く濃霧と髪を振り払って、森を出た。
眼前に広がるのは月に照らされ不気味にゆらゆら光る海面と、そこに浮かぶ一隻の巨大な船。
その船の甲板には、黒いローブに包まれた、神法使い。つまり神託者らしき人間が、何人も並んで立っている。
神法については学が浅いどころか、全くわからない私だが、今まさに彼らの手に宿る光を見て、これが神法なのだと察する。
横一列に並ぶ赤い光を見て、先ほどの炎の雨を連想する。また森を燃やし尽くすほどの炎の神法が放たれるであろうことは火を見るよりも明らかだった。火は見たくないが。
案の定、海上にいる彼らに手を出せない私たちをよそに、彼らは一斉にその手から、あるいは杖から、炎の大玉を発した。打ち上げられたそれはゆっくりと放物線を描いて、やがて加速しながら、流星群のごとく森へと襲いかかった。
──が、まるで森の表面の色が変わったような。というより何かの光が森の表面を覆っているように見えたと思ったら、気がついたときにはあの空を覆う炎の星々は跡形もなく姿を消していた。
状況から考えて、はじめに森に着弾した炎によって燃やし尽くされたはずのここ一帯の森が未だに残っているのと、その後も何度かあったであろうあの炎の神法の攻撃を防いだのは、この光の壁なのだろう。
……防いだ、というより、炎の神法が消えたように、無効化されたように、見えた。
ともかく。あの守りの正体がわからない以上、信用し続けるのも下策かもしれない。いつまでもあの光があるとも限らない。わからないものには頼らない。
次が来る。
炎や雷、氷の槍に水の弾丸。列に並んだ神託者たちは、交代交代に、絶え間なく神法を放ってくる。それら全てが森を包む光に消されるのが見えた。
ついにしびれを切らした私たちゴブリン軍が、海上に鎮座する大船に攻め入る。
遠距離攻撃を得意とする戦士系加護『射手』や、神託者たちが、一斉に大船めがけて攻撃を繰り出す。しかしその全てが、防御防衛に優れた戦士系加護『守護者』達によって防がれる。
両軍共に、対象にダメージを与えられない状態。森は光に守られ、大船は守護者に守られる。
完全な均衡状態に陥るかと思われた、その時。
「やはり来ていましたか、アマルティアくん」
白い服(ランは、これを白い学ラン、つまり白ランと呼んでいた)を潮風に揺らしながら、今しがた夜闇の森から出てきたのは、私がこれまで様々なことを学び、そして受け継いできた師匠。
「──アグノス」
アグノス。いつも白ランを着ていて、手に持つ刀は己が身長をも超える長さ。何より特徴的なのはその漆黒の刃。
何もかも切り裂く黒の狂気は、見た目に反して酷く重い。あれを振り回すなんて私には到底できない。
幹部唯一の『剣士』の加護を授かり、その実力は誰もが認める剣の達人。言い訳癖が強いのが玉に瑕だが、基本、紳士的でかっこいいハイゴブリンだ。
「こんな所にいるのが見つかれば、始祖様やピズマに怒られてしまいますよ?アマルティアくんとランくんは戦場に立つことを許されていないのですから」
いつもの優しい口調でアグノスは言う。月光を反射する白ランに目を細めながら私は。
「……そんなこと言ったって、ランもずっと前から戦場で戦っていたのだ!今更私だけ許されないなんて、理不尽極まりないではないか」
「喧嘩してましたもんね」
「な、なぜそれを!?」
相変わらず、大船を見ながら涼しい顔で話すアグノスのその言葉に、体を跳ねさせる。
「あんな大きな声で言い合っていたら、それは、まぁ」
「……そんなぁ」
「でも」
アグノスはこちらを向く。少し身をかがめて、その高い目線を私に合わせて、いつもの優しい口調で。
「僕はアマルティアくんを止めません。心配性の始祖様やピズマは、危険だの万が一だの言いますが、アマルティアくんの実力は、僕が1番わかっていますから、ね」
「アグノス……」
姿勢を正したアグノスは、私の頭を撫でながら、大船を睨みつける。
「ここで成果を出せば、始祖様たちも認めてくれるかもしれませんし、どちらにせよ、やりますよ。修行の成果を見せてください」
「……ああ。わかってる。死んでも足は引っ張らない」
次の瞬間、私の頭を撫でていたあの大きな手が消える。無論同じく、アグノスの姿も目の前から消えた。目の前、アグノスが立っていた地面は大きく抉れて、舞い上がる土と砂埃のその遥か先。
アグノスは既に大船の甲板にいた。
同時。打ち合わせ済み、とでもいうように、ピッタリのタイミングでパトリダの神託者たちの神法の詠唱が終わる。
──加護神ベータの名の下に。
その言葉とともに彼らの掌や杖から放たれたのは氷の神法。冷え切った空気が肌を掠める中、やがてそれらは海面を白光の道に変えた。
海面が凍りつき、足場となった途端、今度は神託者たちの後ろにいた戦士系加護を受けた兵士たちが走り出していく。大声を張り上げて、氷の地面を走り抜け、大船に乗り込んでいく兵士たち。
遅ればせながら走り出した私は、滑る足場に苦戦しながらも、大船の下までたどり着く。背中にかけた長剣に手をかけ、今から大船に乗り込もうとした、その時。
赤く温かい雨と共に、氷の地面に落ちてくるローブを着た人間たち。大船の甲板を見上げると、そこには少しだけ返り血を浴びた白ランの剣士が立っていた。
「アグノ──」
私も今から加勢する、と。彼の名を呼んでそう言おうとした刹那、アグノスがいつになく焦りきった表情で甲板から飛び降りた。
それに続くように落ちてきたのは、またもや赤くて熱い血液の霧と、見慣れた仲間たちの頭。
まるで自分が死んだことに気がついてないかのような顔をした頭たちが次々と凍った海面に叩きつけられる中、甲板から飛び降りて私たちの目の前に現れたのは。
「──やぁやぁ久しぶりだねアグノス。元気してた?」
──赤く染まった鋼の殺意を片手に、沈みかけの月光を浴びた金髪の女性だった。
「いつぶりだっけ、忘れちゃったけど、相変わらずその趣味の悪い白ランを着てるんだね」
「これの格好良さをわからない時点で話にならないな」
どうやら最悪の形で再会を果たしたのであろう2人は、剣を下ろして普通に話している。
その女性は、肩までの長さの金髪に、それと同じく綺麗な黄金色の目をしていて。元気発剌そうで勝気な笑みを顔に貼り付けていた。
「アグノス、その人間は……?というか、敵ではないのか?」
思わず聞いてしまった私に、アグノスは微妙な表情で答えた。
「いや、勿論敵ですよ。それもとびっきり因縁のある、ね。しかし色々とあって、戦う前に話したいこともあるんですよ」
「っていうか!何その可愛い子!女の子誘拐して連れ歩いてんの?きもっ」
「断じて違う!私は男だ!失礼だぞ人間!」
またもや女と間違われた私は大声でがなり立てた。ランもそうだったが、私の見た目はそんなに女っぽいのだろうか。私は正真正銘の男なのだが。
驚いた顔の金髪の女性は、笑いながら。
「へぇ、そうなんだ。可愛い顔してるね。で、君は何でこんな趣味の悪いアホと一緒にいるの?やっぱり誘拐されたんでしょ?」
「誘拐などされていない。アグノスは私の師匠だ!」
胸を張る。私はアグノスが私の師匠であることを誇りに思っている。剣技だけでなく、その立ち振る舞いや精神にも憧れる。いずれこんな男になりたいと本気で思う。
「うげ、何アグノスあんた、こんな可愛い子を弟子にして悦に浸ってんの?キモすぎ」
「違うわっ!私はアマルティアくんに単純に剣の極意を教えているだけだ。人聞きの悪い言い方ばかりするなアホ女」
「冗談冗談。こんな変態は無視して、えーっと、アマルティアくん?だったかな。私は──」
両手を後ろに、前かがみで彼女は言った。
「──紀伊。桜坂紀伊っていうの。よろしくね」
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金髪の女性はキイというらしい。明るい性格なのは話している様子を見ていてわかる。
が、しかし。私が最も気になったのが。
“こんなに優しい人間は初めて”ということ。私は父親の持つ特殊能力、『生命』によって生き返った。それゆえに世界から疎まれ続けた。
──私はその能力の影響で、身体機能とやらが、普通の人間とは比べものにならないらしく、現に、私は生まれたその時の記憶さえある。脳のつくりからして、既に完成されて生まれてきたのだ。
それは良いことなのかと言えば、決してそんなことはなく。そのせいで、生まれてすぐに世界中の恨みを買ったこと、その子は“罪の子”だ、殺そうという大人たちの声を聞いてきた。見てきた。
加護神のベータ様が私を引き取り、世界中を歩きまわっていた時の記憶もある。あの加護神が、それぞれの種族の始祖に頭を下げ、この子を育ててくれないかと頼んでくれていた。
今思えば、むしろベータ様に育てられたならば……という可能性も思いつくが、立場上、世界の中心である彼が私の世話をするのは難しかったのだろう。
そして私はついに、パトリダに着いた。加護神ベータ降臨祭などという催しがパトリダで行われる中、中央王宮の入り口に立っていた、始祖様が、ベータ様が何かを言う前にこう言ったのを覚えている。
──この世界で最も醜く、弱い我々ゴブリンではありますが、どうかその子の“罪”を少しでも背負わせては頂けませんか?
始祖様は無論、自覚していた。自分たちゴブリンの世界的立場とその弱さを。パトリダに“罪の子”が渡ったとなれば、それを聞きつけてパトリダに攻め入る輩だって現れるかもしれない。
それでも、まだ幼い私に課せられた大きすぎる罪を一端でも支えてあげたいと、そう言ってくれたのだ。
こうしてパトリダに預けられた私は、そこで約6年過ごしてきた。
そんな私の記憶には、人間とは私を恨み、憎悪の限りをぶつけてくる恐ろしい生き物という印象しかない。それも仕方がないとはわかっているが。
──しかしこのキイは、私を嫌な目で見たりしない。しきりに可愛いだの言ってくるが、笑顔で頭を撫でてくれたり、時に抱きしめてくれたりもした。
そして気がつく。……あぁ。そうか、この人は、私が“罪の子”だと知らないのか。
そうして、腑に落ちたと共に落胆した私の鼓膜を打ったのは、思いもよらない言葉だった。
「君が人間なのに何でゴブリンと暮らしているのかも、世界に、未だに君の命を狙ってる者が多くいるのかもわかってる。でもね、アマルティアくん。君のお父さんは間違ったことは何1つしてない。一番大切なものを守ろうって想いが、間違っているはずがないのさ」
キイはもう一度私を強く抱きしめた。
「“私がこの世界に来たのは5年前”だし、6年前の君が生まれた瞬間のことは見ていないからわからないけど、それでも。君は生きなきゃいけない。お父さんの分も、お母さんの分も。世界の目なんて関係ない。君は“罪の子”でもなくて、たった1人のアマルティアくんなんだから、ね」
急に熱を帯びた目頭と頬。動揺を隠せない私はついに泣き出してしまった。涙が出たのはいつぶりだろうか。おそらく、以前ランに連れて行ってもらったリム湖の光景を見た時以来だろう。
私の心をこういう形で動かしたのは、ランだけだった。しかし、人間にも、こんなに優しい人がいて、私を許してくれる人がいる。それだけでこんなにも心が温かくなるなんて。
──やがて泣き止んだ私の頭を撫でながら、キイは言った。
「でも、私がここに来たのは、人間とゴブリンが戦争をしているから。だから、私はここに、ゴブリンを殺しに来たの。けど私の身勝手で、アマルティアくんは逃がしてあげようと思う。アグノス、あんたは殺すけどね」
私はキイのその言葉に酷く傷付いた。アグノスを殺す?何でそんなこと。こんなに優しいキイが、誰かを傷つけるわけが……。
「ごめんね、アマルティアくん。でも、ここで彼らゴブリンを殺さなきゃ、今度は私の大切な人が殺されちゃう。戦争ってそういうものなんだ。それに、アグノスだって私を殺すつもりだろうし」
私はアグノスに振り向く。アグノスはいつもと同じく、優しい表情で言った。
「ええ、殺しますよ。1人残らず。こういう時のために私は剣を握ったのだから。守りたいものは自分の手で守らなくては」
「キイ……アグノス……どうして」
「ごめんね、でも。私もアグノスも、守りたいものがあるから、戦うんだ。たとえ知り合いだとしても、たとえ生かすと決めた君の恩人だとしても」
儚く笑うその顔はとても綺麗で。痛いほどに動き回る心臓を感じて、胸に手を当てながら。僕は目の端から宙に浮いていった雫から逃げるように、後ろに思い切り飛んだ。
それを合図としたかのように、アグノスが漆黒の長剣を抜く。振り上げられたキイの剣は、氷の地面に冷やされた空気を切り裂きながら、アグノスに向かって刃を血走らせた。
ぶつかり合う鋼の音に、悲鳴をあげる空気の音に、酷く純粋な虚しさを感じた。もう気づいていた。
2人とも優しくて。それ故に守りたいものが沢山あって。大切だからこそ自分の手で守りたいと誓い剣をとった。種族や道は違えど、似通った信念のもと生きてきた彼らが殺しあうその光景は、ただただ何よりも悲しく、そして──。
「──かっこいいなぁ……」
立ち上がる。夜が明ける。パトリダの空を見上げる。
戦う理由が“憧れ”ではいけないのか、と。それで十分だ、と。
自問自答しながら正面を向きなおし、強く地面を蹴ろうとしたその瞬間。
視界がぐにゃりと歪むほどの、圧倒的違和感。究極的な不自然。
再び空に目を向ける。そして確認する。
やっぱり。
「太陽が、2つ……のぼってる……?」
目の前に輝く朝の目覚めと、西からのぼる赤い光。何が起こっているのか想像もつかないが、ただ1つ。
あの赤い太陽の下、西の荒野に、ランがいるような気がして。
もしかしたら今、ランは、とてつもない脅威に襲われているのではないかと、そんな嫌な予感が脳裏を掠めた──。
ありがとうございました。
金髪ショートカットの紀伊ちゃんの髪が、肩にかかるほどに伸びてます。これは時間の経過を意味してますが、詳細は後ほど分かりますので。
次話もよろしくです!




