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ライトノベルじゃあるまいし  作者: ASK
第ニ章【ゴブリン・パトリダ】
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第21話 満を持して登場

こんにちは、今日8/2は、パンツの日ですね。


それはともかく、他の方のなろう作品を読んでみると、前書きを書いている人があまり見られませんでした。

やっぱりいらないですかね?前書き。


とりあえず本編どーぞ!


 ワイワイガヤガヤと盛り上がる兵士たち。先ほどまで攻めてきていた大量の人間兵が、一気に肉塊と化したため、俺たちゴブリン側の危機的状況は一歩回復に進んだ。


 そのトンデモ事象を起こしたのは、騒ぎ立てる兵士たちに囲まれ、嫌な顔をしている妹と、苦笑いの兄。


 “絶対攻守”のコインの双子。


 その力は、今しがた見たばかりだというのに、にわかに信じがたいものだった。


 俺はこの荒野に点々と生える草むらの1つに身を潜め、お祭り騒ぎの仲間たちを見ていたが、数十秒後、双子を囲っていた全員が吹っ飛ばされ、不機嫌なアリステラ・コインの頭を撫でるデクシア・コインの表情が見えた。


 ──浮かない顔をしている。


 脱帽せざるを得ないような完璧な大勝利だというのに。どうしたんだ?


 自分の顎をつまみながら、うーむ、と考え込むデクシア。それを心配そうに見上げるアリステラ。そんな双子に先ほど吹き飛ばされた兵士たちは、ご機嫌もそのままに、立ち上がり、その中の1人が一言。



「ぃよしっ!今の所、敵の姿も、もう見えねぇし、このまま攻め上がるぞ!」



 その言葉に、双子に吹き飛ばされる前の騒がしさが戻る。



「「「よっしゃぁー!」」」



 一斉に走り出す兵士たち。前線を押し上げるチャンスだ、と、ここぞとばかりに叫びながら進む。

 その背中に手を伸ばしかけ、何か言おうとしたデクシアを横目に、俺も少し前に移動しようかな、なんて考え、立ち上がろうとした、その時。


 ──日が昇り始めた。


 いや、それだけなら普通だ。奇襲を受けて、応戦し始めたのは夜中のことだ。時計は持ってないので正確な時間はわからないが、おそらく日が昇ってもおかしくない時間帯のはず。


 しかし。やはりおかしい。


 “西の空”が、地平線から赤く染まっていく。


 ──太陽は、東から昇って、西に沈むものだろう?


 バカボンの歌では、西から昇ったお日様が、という歌詞があるが、あれは馬鹿だからこその間違いだろう。


 何が起きてるんだ、一体…?


 振り返って、東の空を見上げる。パトリダの空を見上げる。


 そこには、明るいオレンジ色の光が、少しずつ空を覆い始めているのが見えた。


 つまり、確かに東の空には日が昇り始めている。しかし、今まさに西の空からも、赤い太陽が……?


 何が何だかわからなくなっていた俺の視界に、逆光を浴びる双子の姿があった。


 相も変わらず、兄を恍惚とした表情で見上げるアリステラ。そして、そんな重い愛を向けられる張本人、デクシアは。


 何かに気がついたように顔を上げ、大声で叫ぶ。



「止まれぇえーー!!行くなぁーー!!そっちにはっ……!」



 そう言いかけた、刹那。


 ──世界が、赤く染まる。


 爆音。驚いて、兵士たちの方に振り向いた俺の顔を襲う、灼熱。


 吹き荒れる熱風に火の粉。東から昇る朝日より、よっぽど明るく、そして禍々しいほどに赤い光景が、目の前に広がる。


 それは、炎。


 視界一面、空まで覆い尽くすほどの、炎が、今しがた張り切って走って行った仲間たちを呑み込んだ。


 あまりの熱に顔をしかめる。正直、何が起きたのか把握できていない。目の前に広がる荒野を呑み込んだ大きな、大きな炎が現れたことだけがわかる。


 唖然としていると、やがて炎は何事もなかったかのように消える。何者かが消化したわけでもなく、ただ“役目を終えた”というように、焦げ臭い煙を残して、消えていった。


 そこに残ったのは、黒い土と、熱されて歪んだ鉄の防具。数百人といた兵士たちは跡形もなく灰にされた。


 大量の、死者が出た。


 ものの数秒で。荒野の土は黒く染まり、焼け焦げた仲間たちは、死体すら残っていない。


 本能的に震えだす足。膝を抑えつつ、今一度双子の方を振り返る。



「にぃ、い、今のは……?」


「……やっぱり、そうか」



 不安そうにするアリステラの手を握りながら、心底悔しそうに爪を噛むデクシア。



「おかしいと思っていたんだ。目に見えて攻めてくる人間は、アリステラが一掃したけれど、それだけの数で攻めてくるわけがなかったんだ」


「どういうこと?にぃ」


「人間兵は、まだまだいたはずなんだ。だって、アリステラが手を下さなくとも、あの程度の数だけで攻め落とせるほど、パトリダは甘くないと、人間だってわかっているはず。態勢を立て直すにしても時間がかかり過ぎだとは思っていたけれど」


「……わかんないよ、にぃ。つまり?」


「パトリダを攻め落とすために必要な、残りの大量の兵士たちがいない……つまり、それに相当する存在が、現れたということ。……そんなの、1人しかいないじゃないか」



 そうか。確かにそうだ。急に攻めてこなくなった理由が必要だった。ゴブリン兵が大騒ぎしている時間にも、大人数で攻め入ることはできたはずなのに、詠唱はおろか、人の声すら聞こえなかった。


 それなら、もうあの荒野の向こう側には、人間兵の姿はなく、それに代わる“何か”があるはず。


 軍に匹敵する人間と言えば、もはや1人しかいないだろう。


 俺とデクシアの思考が一致した、その時。煙柱の上がる荒野の向こうから、人影が見えた。



「……まさか、あんなのと本当に戦うことになるなんてね……。アリステラ、構えてくれ」



 苦笑いで、その人影に手をかざすデクシアは、嫌そうに呟く。



「──“伝説”のお出ましだ……!」



 瞬間。俺の鼻先を灼熱が通り過ぎる。


 炎の一閃。遥か遠くから、生きたような炎が一直線に双子を襲う。その炎の余波で、一帯の草花が焼け落ちる。


 無論、俺の隠れていた草むらも、見るも無残に真っ黒焦げ。


 若干、裾が焦げたマントを翻して、一旦退避しようと立ち上がる。



「き、君は!」


「やべっ、バレた!?」



 $アリステラをお姫様抱っこしながら、驚きを露わにするデクシアと目が合う。



「たしか、アルファの祠で生まれた、自然性胎児の……えーと」


「ランだよ、よろしくな」


「そうか、ラン。しかし、今のを見たとおり、こんな呑気に自己紹介をしている場面じゃないんだ。それに君だって始祖様に戦争への参加は容認されてないじゃないか」


「それはそれ、これはこれだ。とにかく、あいつってやっぱり……」


「ああ、あいつは──」


「──“あいつ”ってのは、この俺が思うに、失礼なんじゃないか?」



 会話に割り込んできた男の声に、即座に反応できたのは俺。そんな訓練ばっかりやっているし、何より急に現れることに関してはレプトスというプロがいるので、正直驚きよりも先に体が動く癖が付いていた。


 炎の竜巻が空まで届くほどに立ち昇る。


 熱気に思わず涙目になりながら、その声の出どころに視線を向ける。


 遥か遠くにいたはずなのに、目の前で火の粉を巻き上げながら堂々たる態度でふんぞり返っているその男は。



「この俺が思うに、言うまでも無いが。この俺はフロガという。この俺から直々に自己紹介をしてもらえるなんて幸運の極みだな、最弱種」



 フロガ。約200年前からこの世界の最強を歩いていた男。この時代の強者の到達点。


 ──“龍皇”。



「残念だけどよ、もう自己紹介の下りはこっちもやってたんだわ。やっぱり200年も生きてると間の悪さに磨きがかかるのな、龍皇」



 挑発……ではない。ビビって足が動かないくせに、なぜか口だけは達者になっているだけである。


 汗をダラダラと流しつつ、先ほどの炎で熱された体の体温がみるみるうちに冷えていく。



「この俺が思うに、だいぶ口が悪いな、ありんこ」


「なんだよ、人間語を話せることには触れねぇのか?」



 俺がナイフケースに手を当てて、とことん人間語アピールをしていると、背後の炎の竜巻から声がした。



「君が人間語を話せることには驚きだけれど、ラン。人間語を話すゴブリンは意外といるんだよ」



 炎の竜巻がかき消される。ジュッ、という音がして、煙を上げながら消された炎の中から、双子が歩いてくる。普通に無傷。



「え、そうなの?結構、みんな喋れるの?何で?」


「にぃに話しかけるな、クズ」


「幹部クラスのゴブリンはみんな人間語を習うんだよ、とアリステラは言ってるよ」


「いや嘘つけよお前」


「おいおいおいぃ……この俺がいるってのに仲良くお喋りしてんじゃねぇよ、蟻んこ共」



 またも話に割り込んでくる最強さん。うっとおしい。



「なんだよさっきから“この俺”って。ナルシズムが溢れ出てるぞお爺ちゃん」


「この俺がお爺ちゃん……?軽口を叩くのはいいが、あんまりふざけたこと言ってると灰にするぞ蟻んこ」


「……それで、龍皇様はやはり、僕たちを殺してパトリダに?」



 デクシアがアリステラの手を握りながら問う。それはもう確信した事実の再確認で、YesもNoも求めていない。


 傷はないとは言え、明らかに余裕のないデクシアの声音と態度に、俺も焦りを覚える。そうだった。今目の前にいるのはかの有名な男でした。やばしやばし。


 ナルシスト代表みたいな龍皇さんはニヤリと笑う。



「この俺がわざわざ出向いてんだ、当たり前だろう」


「仲間くらいひき連れたらどうよ、もっと強そうに見えるぜお爺ちゃん」


「この俺の横に並んで仲間ヅラされるなんざ御免だからな、さっき全員殺しといたぜ。ついでにお前らの仲間もな」


「なんだ、それで向こう側の空が赤かったのか。太陽が西からも昇ってきたのかと勘違いしたわ」



 どうやら彼の炎の犠牲者は俺らの仲間だけでなく、実際に戦場に派遣されていた多くの人間兵もらしい。自分勝手過ぎるだろこいつ。



「そもそもこの俺には人間も近づいてはこねぇよ。怖がってな。昔は“ため息ひとつ焼け野原”なんて言われてよ……はぁ」


「ぅおおいっ!」


「この俺が思うにお前少しうるさすぎるぞ」


「ため息ひとつ焼け野原なんて呼ばれてたって話しの終わりにため息とかお前やっぱり馬鹿だろ!?」


「……ランはなぜこんなにもフレンドリーなんだ」



 明らさまにイライラしてる龍皇と、勝手にペラペラと話し出す口を止められない俺と、呆れた様子のデクシアと、それを見上げるアリステラ。


 どうにも殺気を感じられない空間だった。戦場で敵同士が至近距離にいるときの空気じゃない。


 このまま戦わずに話し合いでこの場を収められるんじゃないか?いけるんじゃね(フラグ)



「まぁ何にせよ、僕たちの仲間を何人も殺したヤツを許してはおけないけどね」


「この俺に対しての口の利き方を教えてやろうか」


「ありゃあー」



 もうダメだ。フラグ回収が早すぎた。戦闘モードだこれ。



「あんまりゴブリンを舐めてもらっては……困るよっ!」



 言い終わると同時にコインの双子は高く飛びながら後退しつつ、水の新法を乱れ打ち。


 それらを全て炎で薙ぎ払い、龍皇は拳を握りしめる。


 俺は慌てて逃げる。何かやばい攻撃がくることだけがわかる。


 龍皇は拳を地面に叩きつける。勢い余って手首くらいまで埋まる。地面に亀裂が走り、双子の足元まで届く。



「ふっ!」



 龍皇の拳により作られた亀裂から炎が噴き出す。地面が焦げながら崩れていく中、双子が両手をかざす姿が見えた。



「にぃ!」


「わかってる!」



 2人の両手から風が生まれる。爆風にさらされた炎が消えていく。間髪入れず、水と氷の弾丸が龍皇に飛んでいく。


 また炎で薙ぎ払う。龍皇は右手を正面に、左手で右手首を握って、一言。



「吹き飛べ蟻んこ」



 炎が掌から発生。目に見えぬ早さで広がり、あっという間に一帯の草花は焼け落ちる。大規模な炎に逃げ道をなくした俺はナイフを取り出し、迫る炎に向けて思い切り振る。


 若干は意味があったが、結局全身に炎が着火する。すぐさまマントを脱いで地面にバタバタして鎮火。火傷した皮膚の痛みに、改めて炎の恐ろしさを知る。



「おいこらシスコンとブラコン!遠距離攻撃、全然効いてねぇじゃんか!その度にやり返されてたら勝ち目なんざねぇぞ!」


「言われなくともわかってる!」



 水の壁に囲まれたデクシアが言い返してきた。なんとか防いだようだが、彼らが無詠唱神法の使い手じゃなかったら即死だったはずだ。



「この俺はしぶとい蟻んこは嫌いだ」



 龍皇は別段、驚いている様子もない。一撃か二撃防がれたとしても、結果的に自分が負ける未来が見えないのだろう。そのナルシストぶりは慢心だけでなく、自信につながり、迷いのない攻撃を生む。



「てか、何だっけ?アスピダ?だっけか、忘れたけど、あの何でも防いじゃう神法使えよ!」



 火傷を負った不満を乗せてデクシアに叫び散らす俺。礼儀のなさが露骨にでた。


 俺の言いたい神法は、あの光の壁のこと。昨夜は炎の神法の雨から森を守り、先ほども炎や氷、雷など様々な種類の神法を霧散させた、あの防御神法のこと。


 あれさえ使えば炎なんて怖くないだろうに。



「役に立つなら使ってる……さ!」



 再び飛来した炎の砲弾を水の神法で包みつつ、横に飛んで距離をとる双子。


 無論俺の方にも炎が迫ってくる。さっき着火した時に気が付いたのだが、レプトスからもらったこのカメレオンマント、火が消えるのがめちゃめちゃ早い。そういう生地なのだろうか、わからないが、燃えるのは裾部分の刺繍のみ。


 どこかの青いタヌキロボットのごとく、炎をマントで受け止める。



「ひら○マント〜!」



 瞬時に着火。高温にビビって手からマントを落とす。すぐさま足で踏みまくって鎮火。


 これなら、炎も怖くない……わけではないが、ひとまず即死する危険はなくなった。


「なんだかんだで余裕だね、ラン」


「水の神法とかズルいぞお前ら!」


「この俺の前で余裕ぶっこいてられんのもこれまでだぞ蟻んこ共!さっさと燃えて畑の肥料にでもなりやがれ!」



 手の形をした巨大な炎が、横薙ぎで迫ってくる。右前方から襲いかかるそれをマントで防ぐ。しかしあまりの炎の大きさに、結局火傷を負う。



「熱ッ!!ふざけんなクソジジイ!てか灰って肥料になるのか?」


「この俺が思うに、いつまでもいつまでもふざけた蟻んこだなぁ、お前……!」



 やべ、超おこってるし、まじ激おこ。


 デクシアはアリステラをお姫様抱っこしながら走っている。体勢を整えてるのだろう。俺もそろそろマントだけじゃ防ぎきれなくなってきた。


 こちらは余裕がなくなり、あちらは激おこプンプン丸。普通にピンチ!



「この俺がお前らを殺すのに使った力は、蟻んこを殺すのに必要な程度の力だ……。だが、もうこの俺を怒らせたお前らに手加減はしない。灰も残さず消してやる」



 龍皇の両手から放たれた炎は、先ほどのよりも小さなものだった。


 数は多いが、それぞれが小さいため、マントで受けやすい。怒りで冷静な判断ができなくなったのか?


 とか思っていると。



「きゃあっ!」


「アリステラッ!」



 双子を覆っていた水の神法が一瞬で蒸発。アリステラが炎に包まれる。


 その様子に驚いていた俺も、マントが一瞬で燃え尽き、全身を炎が襲う。



「あっづぅぃあっ!!」



 地面に転がりながらなんとか鎮火。それでもやはりダメージがでかい。


 なるほど、量より質、か。まずいな。


 横目に双子の姿を捉える。


 倒れ伏すアリステラに必死に呼びかけるデクシア。


 ゆっくりと近づいてくる龍皇。近づいてきてるのは、圧倒的な力と恐怖、そして、死。


 ──詰みだ。完全に。


 炎を防ぐすべを失った俺らに、龍皇に抵抗できる要素は存在しない。


 再び巨大な炎が視界を覆う。俺は必死に立ち上がり、走り出す。


 無我夢中で俺が向かったのは、双子のいる場所。


 何をするでもなく、俺はただ、“2人の後ろに隠れた”。


 直後、爆音を連れてやってきた灼熱に、目の前の2人が飲み込まれる。無論俺も肌を焼かれるが、被害を最小に抑えた。


 そして。


 全身を火傷で赤く、そして黒くした2人が、地面に倒れるのを見て、俺は無意識に呟く。



「──助かった……」



 この時、俺の人間らしい本性が垣間見えていたことに、誰1人気づいてはいなかった。


本日もありがとうございました!


世界最強のナルシスト、フロガさんの登場ですね。対人間戦争編も佳境に入ってまいりました。


頼りになるはずの“絶対攻守”を盾に使って生き延びたラン君ですが、これからどうするのでしょう……。

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