第4話 紗江ちゃん、天然っ子やめるってよ。
※書式を修正しました。
──ふっふっふ。
華々しく(そんなことはない)始まった……のかもしれない俺の夢の高校生活初日。
ウキウキの初日に早速、俺が学校でやっていること。それは。
──土下座。
そう、今あなたが頭で想像したのと同じ。あれです。
足を折りたたみ両手をついて額を地面に押しつけることで申し訳なさを最大限にアピールする伝説のあれだ。
時は午後2時。儀式の地は職員室。つむじの先にはこれから僕たちのクラスを担当する担任の先生。
完璧だ……!条件は揃っている……!(なんの条件だ)
くだらんことを言っている場合じゃねぇ。
とりあえず、意味わからん良い加減にしろという声が聞こえてきそうなので状況説明だ。
それは、今から3時間ちょっとくらい前まで遡る。
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──走る、走る。
紗江を抱えて、未知の道を走る。みちだけに。なんでもない。
美少女をお姫様抱っこして登校できる日が来るなんて……人生捨てたもんじゃない。
しかしながら、その抱っこされている美少女の方はというと、最初は顔を赤らめて恥ずかしがっていたのだが──
「この先300m前方、左折です」
──もう本格的にナビです。
いや、あのね?ナビしてくれとは頼みましたよ?しかしながらナビになってくれとは言ってないぞよ?
「了解しました。……指定点到着、左折します。左折しました。次の指示をお願いします」
とは言え俺もこんな調子なわけでして。
イケイケ(笑)の男子高校生と美少女JKの会話とは思えないが、現実から目を逸らすことは流石にできない。
とりあえず間に合うかギリギリなのに変わりはないのでペースは落とせない。最悪紗江は落としても構わないが。
一応、これでもラノベ主人公なんでね。ヒロインは大切にしていこう。
──お?あれは……学校か?見えたぞ……けど、遠くないか?いや全然間に合わないでしょう、あれは。
学校は見える。ありがたいことに学校でまではあとは直線だ。
だから学校が見えるのだが、おい。5、600mあるぞ。もう入学式は始まっている可能性だってあるというのに。
……それに、言いづらいのだけれど、女の子とはいえ、さすがに重いのです。
いやほら、「お前……軽いな」「ええっ……///」なんて会話をラブコメで聞くけれど、そんなわけないです。どんなに痩せてても40キロはあるわけでしょう?人間なんだし。
ましてやこんなに乳が大きいんだ。おそらくこの乳が2キロくらいあるんだろうって思っちゃうくらいには大きい。荒めに揉みほぐしたい。
そんなわけで、人間1人抱えてここまでまぁまぁの距離を走ってきた俺はもうそこに見える学校に向かって走るペースを上げることなどできはしない。
あーあ、初日から遅刻だ。ある意味よくあるのかな?ラノベでは。
「はぁ、はぁ、あ、あーあ……間にあわねぇなぁ……」
なんて、呟くと。
「喋ってないでペースをあげて下さい!まったく。もう遅刻確定ですよぅ。どうするんですかぁ」
よぉおおし、脱がそう、脱がしてやろう。生まれたままの姿にしてやろう。
と、決意をした頃には、着いた。着いちゃった。
とにかく、脱がす脱がさぬは後にして。校門の後ろの板には体育館で入学式を行っていること、体育館の位置が記されている。
人がまったく見当たらないということは、まぁそういうことなんだろう。
遅刻だ。確実に。
「はぁ……もうだめだぁ……私はここの先生に目をつけられちゃうんだ……不良だって言われちゃうんだ……」
「安心しろ、誰もお前の胸以外見てねぇから」
「そうだといいんだけ……ど……え?今なんて──」
「先を急ごう」
紗江の言葉を遮って(さえだけに)俺は看板に記された体育館へと向かう。
……ダジャレそろそろやめようかな?
そんなわけで俺は体育館に着いたのだ。
「え、ちょっと、あの、もう大丈夫です、下ろしてください……」
──紗江を抱えたままで。
この後の展開なんてもう決まっている。
このまま突入だ。
紗江を裸にして電柱の後ろに立たせて、「おいおい、隠れきれてないぜ……その大きなお胸がなぁ!!」とか言ってやりたかったのは事実だが、そういうのはやめだ。……今のところはな。
また別の辱めをこの小娘(胸は大)に与えてやろうじゃないか。
よおし、そうと決まったら即行動。体育館の扉をわざと思いっきり開ける。
なんか紗江が最後の抵抗を見せはじめたが無視だ。よいしょっ。
ガラガラガラン!!!!
小気味良い音を立てよるわ、この扉。気に入った。
──シーン…と、してる。
まあね。誰だお前らってなりますし。入学式中だし。
大体は予想通り。──1つ予想外なことと言えば。
紗江が静かだ。貴様ぁあ!!とか言って怒ったり、いやぁぁぁあんとか言って恥ずかしがるんじゃないだろうかとは予想していたのだが。
静かだな。というか、無表情だ。何してんだこいつ。
「…………あは」
……え?いやなんで急に笑っ──
「あははははははははははははは!!」
おおお落ち着けぇええ!?イカれてやがるこいつ!
「お、おおいっ、どうしたんだ、急に!大丈夫かお前!?」
「どうしたもこうしたもないわよ!どこかの誰かさんのおかげでもう私の高校生活は終わりよ!」
ふむ、どうやら業腹のようだ。
「ご乱心のところ悪いんだが、とりあえず席に着かないか?文句は後で聞くからさ」
「もう私に『後』なんてないわよ!ここで、この時点で!私の人生は終わりなの!」
「何言ってんだ、俺たちには輝かしい『明日』があるだろう!終わったことにギャーギャーいってないで、今やれることをしろよ!」
「はぁ!?明日ぁ?ふざけんじゃないわよ!明日なんてあるわけないでしょう!所詮、明日なんて今日の延長でしかないし、今日だって昨日までの延長線上に過ぎないのよ!そうやって『明日』って言ってれば前を向いてると勘違いしてるやつがいるから今の日本はしょぼい国のままなのよ!」
「何かっこいいこといってんだ!やめろてめぇ!日本を馬鹿にすんじゃねぇよ!水道水がこんなに美味しい国、他に知ってんのかてめぇ!」
「馬鹿にしてんのは日本じゃなくて日本に居るあんたみたいな馬鹿のことを言ってんのよ!」
「あぁん!?なんだとぉ!言わせておけば好き勝手に……」
──バァン!!!
凄まじい、音。ここら一帯の空気が集まって弾けたような、そんな、発散性を感じさせる音。
「……君たち。とりあえず席に着きなさい。式が終わったら私の元に来るように」
先生、だろうか。やたら強面だが。
出会った当初とは別人と言えるほどキャラが崩れ落ちた紗江との言い合いで周りのことに気づかなかったが、どうやらかなりまずい状況らしい。
新入生全員、その保護者、連なる職員たちの、まるで化け物を見るかのような奇怪な視線を浴びている。
……ジ・エンドォォォ!!
──そうして、妙な空気の入学式を終えた俺と紗江は、半ば強制的に職員室に連れて行かれた。
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──で、今ここ。土下座だ。
別に土下座をしろと言われたわけでもない。しかし、何事も先手必勝。
先生方が何か言う前に。これからこいつらを叱ろう、という意思を固めるよりも早く、速く、俺は額を地面に叩きつけた。
「ほんっとうに申し訳ありませんでしたぁぁぁぁあ!!」
叫ぶ。喉の奥が千切れてしまいそうな、そんな痛みを感じさせる、声で。
こういうのは全力でやることに意味がある。許されやすい。
「……さぁ、紗江。お前も──」
「何してんのよ、蘭。土下座なんて、恥ずかしくないの?」
「──あやま……は?」
「馬鹿言ってんじゃないわよ。なんで私まで謝らなくちゃあならないの」
「なんでってそりゃあ……2人でやらかしたんだから当たりま──」
「だから!私はあなたに抱えられて、勝手にそのまま大恥かかされたのよ!事と次第によっちゃお金が貰えるほどには、かんっぜんなる、被害者よ!!」
いやもう、誰だよこいつ……。