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ライトノベルじゃあるまいし  作者: ASK
第ニ章【ゴブリン・パトリダ】
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第10話 見上げた朝陽に照らされて

こんにちは。今話も読みに来てくださり、本当に本当にありがとうございます。


自分的に、結構好きなお話です、今話。


 俺は5歳になった。アマルティアは6歳だ。


 それぞれ、俺は1歳から4年間、アマルティアは2歳から4年間。目指すべき相手から多くを学び、身に付け、成長し、進化を続けてきた。


 俺たちは、それぞれ5歳、6歳の時点で、パトリダでも屈指の実力を持つゴブリンだと、中央地外でももっぱらの評判だった。


 “腐れ煩悩ラン”と、“蒼剣そうけんのアマルティア”。


 なんでこんなにも呼ばれ方の格差が酷いのかはわからない。自覚してないだけで、俺が性根の腐った男だと周りにバレているのだろうか。


 まぁしかし。何も名声だけじゃあない。


 ちょっと生まれた場所が珍しいからって中央地でいい暮らしをしやがって。とか。


 人間が、“罪の子”が、なんでこのゴブリンの里パトリダにいるんだよ。とか。


 そりゃあもう、中央地外に出ればボロクソ言われることだって少なくなかった。


 嫌悪や嫉妬もそうだけれど、純粋な不満。そんな気がした。


 今更そんなのを気にするほど繊細な心は持ち合わせていないが。やっぱりアマルティアが、“罪の子”だと。恥晒しだと。そう言われるのは、俺が嫌だ。


 俺がキレて、そう言ってくるやつらに食ってかかると、アマルティアはいつも。困ったように笑って、大丈夫だから、ランは気にしないで、と。そんなこと言いやがる。ふざけるな。


 こういうのは、大丈夫とか、そうじゃないとか。そういうことじゃあないんだ。


 仮に“それ”が。自らのものではないとしても。その大罪の象徴が、産物が。それが自分であるなら、甘んじて受け入れるのが自分の役目だと。


 そう、言うんだ。でも。そんなの。強いとは決して言えない。でももちろん間違ってるとは言えない。けど、けれど。それじゃあ、あんまりにも。あんまりだ。


 別段、アマルティアは、困ってたり、傷ついているようには見えなかった。……いや、違う。見せなかったんだ。俺には。……傷つかないわけがないんだ。

 生まれて、拾われて、教会で暮らした2年間も、始祖じいの話じゃあかなり酷いものだったらしいし。


 だから、というのもあるんだけど。


 ちょっとした気分転換というか、まぁ、なんというか。励ましたいってわけではないんだけどさ、何だか無性に。


 2人で、綺麗な景色でも見に行こうかな、なんて。 行ったから、見たからなんだって話だけれど、さ。でも、もっと、喜びを、感動を。アマルティアに感じてほしい。そんな感じ……かな?


 俺でもわかんないけど、そんな曖昧な気持ちのままに、深夜。アマルティアの手を引いて、俺は。


 パトリダを囲む、広く大きな森を抜けた、人間領と、ゴブリン領、エルフ領の、それぞれの土地の間に位置する、どの種族の領地にも属さない土地にある、湖。


 森と山。それらに囲まれた、小さな湖──リム湖。


 そこの景色が綺麗だと、中央地外のサッカー少年達に教えてもらったので。そこに行った。手を引いて。2人で。


 もうすぐで、日が昇る。ちょうどいい時間に到着した。アマルティアは、握られた手と俺の顔を何度も見て。



「ラ、ラン?どうしたんだ、本当に。ここは、どこなんだ?パトリダ周囲の森を抜けたけれど……」



 そう言った困り顔の相棒に、俺は何も答えなかった。


 森と山に囲まれているが、案外開けた見晴らしなので、空は高く、広く見えた。


 そうして。またアマルティアの手を引いて、湖の畔にある、ちょうどよく平たい岩に腰掛ける。アマルティアも、何だかわからないままに座った。


 俺は、ただ前を見た。混乱していたアマルティアは、俺が前を見ているのを見て、視線を正面に向けた。


 そこには。


 今、まさに昇り始めた太陽の。強く、優しい朝陽が。俺たちを、湖の水面を、照らしていた。


 まさしく、絶景。水面に反射する朝陽と、心地よい風に揺れる草花。青く透きとおったリム湖をよく見ると、魚や蟹が踊るように喜ぶように、泳いでいる。


 思わずアマルティアの手を握る力が強くなる。


 ここでやっと、ここに連れてきた、理由とも言えない理由について説明すべきかと、横を向くと。


 アマルティアは、涙を流していた。


 頬をつたう涙を明るく照らす朝陽が、そろそろ眩しく感じる位置に昇ってきた。それでもアマルティアは前を向いて、止めどなく流れる涙に、自分でも不思議、といった顔をしていた。



「ティア。ごめんな、眠い中、わざわざ起こして、連れ出して。……この場所を見せてやりたかったって感じなんだけどさ。その、理由が、自分でもよくわからないんだ。けど、今のティアのために。今後のティアのために、何か大きな感動とか喜びとか。そういうの必要かなって。……迷惑だったか?」



 そう言われて、アマルティアはこちらを向く。口を真一文字に結んで、今にも大声で泣き出しそうな顔をしていた。

 俺はアマルティアの頬を両手で包み、涙を拭う。恥ずかしそうに身をよじるアマルティアは、変わらず泣きそうな顔のまま、口を開く。



「なぜかはわからないが、涙が止まらない。でも、何だか嬉しい。胸の奥が熱くなっていくような。なんて落ち着く光景なんだろう。……迷惑なんかではない。ランが、私を思ってここに連れてきてくれたのなら、それはとても嬉しいことで、……そして何だか心臓に悪い。ドキドキする」


「…………そ、そうか。うん。それなら、良かった」



 俺は思わず目をそらす。だって、だって。アマルティアが、ドキドキするとか言うから。俺までドキドキして、心臓が暴れまわってる。この光景も全然落ち着かないんだけど。なにこれ。


 俺は、不自然に湖を見て。上ずった声で言う。



「……ティア。強く、なろうな。俺たち。もっと、もっとさ。強くなろう。世間が、世界が、俺たちを何と言おうとさ」


「ランが、私が“罪の子”だと言われるたびに怒ってくれたり、その日一日中機嫌が悪くなったりするのは、困るが、それでも嬉しかった。だからな、ラン。強くなるのはもちろんだ。当たり前だ。でも、心はもう強い。というか、心強い。ランがいてくれる、それだけで。何をされても、何を言われても。大丈夫だ。私は、ランがいれば」


「……お前、そういうこと言うと、俺まで泣きそうに──」



 ──瞬間。俺はナイフを懐から取り出し、地面を蹴る。


 そして、アマルティアに向かって飛んでくる“ソレ”を、撃ち落とす。


 空中でナイフに叩き折られたのは、矢。


 つまりは、『射手アーチャー』の加護を受けた“敵”が、近くにいる。そして俺たちを狙ってる。


 俺は目を凝らす。見渡す。状況を理解したアマルティアは、その辺の木の棒を拾って構える。


 そこにもう一度。矢が放たれた。それをアマルティアが叩き折り、同時に俺とアマルティアはその矢が飛んできた方向を向く。


 すると。



「おいおいおーい。小汚いゴブリンと人間が一緒にいるかと思えばよ、お前。“罪の子”だろ。知ってるぞ、ベータが生かした罪の子はゴブリンの始祖に引き取られたって。その蒼い髪は父親譲りだなぁ」


「なぁ、あのゴブリンさっさと殺してよ、あの罪の子、持って帰ろうぜ」


「かなり上玉だぜ?あいつ。可愛い顔してんだ、色々と楽しめそうじゃねぇか」


「いや、罪の子って確か男だったぞ?」


「まじかよ、でもまぁあんだけ可愛いなら、この際男でも構わねぇ」


「いやいやぁ、そこはそういう趣味の変態貴族どもに売り払おうぜ。高値で売れそうだ」



 男たちが。人間の男たちが、3人出てきた。1人は弓矢を。1人は大剣を。1人は手ぶらだった。


 アマルティアは人間の言葉がわからないので、首を傾げていた。対して俺は、アマルティアを軽視するような発言に怒りが頂点に達していた。


 そして、無意識的に。



「お前ら……ふざけたことぬかしてんじゃねぇよ。殺すぞ……!」



 そう、人間の言葉(・・・・・)で、言った。



「ラ、ラン!?お前まで何だ、その言葉は!?意味がわからないぞ!?」



 アマルティアがそう慌てるのを見て、何秒後かに、人間たちは飛び跳ねて驚く。



「おーいおいおい!あいつ、あのゴブリン!人の言葉を話したぞ!!こりゃあすげぇ!」


「しかし、罪の子は意味わからねぇ言葉のままだな。人間のくせに人間の言葉が話せないのかよ」


「それにしたってクソゴブリン、お前。殺すぞとはご挨拶じゃねぇか。たかがゴブリンごときが。調子に乗ってんじゃねぇよ。こっちこそ、殺すぞ」



 俺は一歩踏み出して、叫ぶ。



「先に言っておくが、お前らじゃ俺たちを殺すどころか、傷1つ付けられねぇからな!」



 聞いた射手の男が。



「図に乗るなよクソが!泥でも食ってろ最弱種!」



 そう言って矢を放つ。加速して、俺の命を突き刺しにくるそれをナイフで弾く。進む。また矢を放つ。へし折る。進む。連続で3発。矢が飛んでくる。その内2本を手で掴み。残りの1本は足で蹴り折る。


 ふざけやがってぇ!と。叫びながら、大剣を持った男が駆けてくる。歩く俺に大剣を振り下ろす。俺はナイフを、大剣の刃の根元に置いて、撫でるように刃をなぞる。そのまま力を加えて後ろに受け流す。男の脇を抜ける。男が振り向く前に背中を刺す。


 が、しかし。毎日毎日。4年間。レプトスの短剣ダガーと打ち合った俺のナイフは、刃がボロボロで、男の革の鎧を貫くことは叶わなかった。


 が、怯んだ男が、射手の方へ急いで戻る。もう1人の姿は見当たらない。



 俺はナイフをクルクルと回して、2人に言う。



「さあどうする、人間。このままだと死ぬのはお前らだ。尻尾巻いて逃げたほうが賢明だと思うけど?」



 言われた2人は。急に笑い出し。そして2人の後ろから現れた先ほどのもう1人の肩を叩いて、俺に言う。



「あひゃひゃひゃひゃっ!死ぬのはお前らだぁ!?何言ってんだ、“俺らだけだと思ったか”?最弱種」



 途端、俺の後ろの森から2人。先ほどの3人の後ろから2人。アマルティア近くの森からもう3人。人間が出てきた。合計10人の人間が俺とアマルティアを囲むように寄ってくる。


 1人が指を鳴らした瞬間。射手と手ぶらの男を除いた8人がそれぞれの武器を持って駆けてくる。殺しにくる。



「ティア!ごめん!こんなことになるとは!」


「何が起きてるのかわけがわからないが!今はそれどころじゃない!修行の成果をここで見せてやろう!」



 俺たちは1番近い人間に襲いかかる。


 俺は普通の剣と盾を持った男に肉薄。振り下ろされる剣をナイフで弾いて男の足を蹴る。膝をついた男のうなじをナイフで“叩く”。刃がボロボロのせいで切れないので、打撃で倒していく。


 倒れた仲間を見て激情した大柄の男と小さな男がそれぞれ大剣、短剣を持って踊りかかってくる。俺は、いつかピズマにやったように。大柄の男の股の間にスライディングで滑り込む。

 そして、まだギリギリ鋭い刃先で、思い切り大柄男の膝裏を刺す。血が噴き出て、男が喚きながら転がる。怯んだ小柄な男の鼻を殴り、気絶させる。


 勢いそのまま。走る。駆ける。射手の男の元に。


 走り寄る俺に何発も矢を放つ男。その全てを弾き、折り、避けて。俺は射手の男に肉薄。目にナイフを突き刺す。切れ味悪く、うまく刺さらなかったが、血が流れる目を押さえて男がうずくまる。


 隣にいる手ぶらの男の腹に回し蹴り。後ろの木にぶつかり気絶。


 すぐに振り返り、アマルティアの元に向かう。と、その瞬間。


 アマルティアの持っていた木の棒が折れる。当たり前だ、相手は鉄の剣だ。


 俺が5人倒した。が、残りの5人が、武器を無くしたアマルティアに襲いかかる。不慣れな格闘技で応戦するアマルティアだったが、両腕を抑えられ。身動きの取れないところを腹に1発。血を吐くアマルティア。


 俺は全速力で5人に斬りかかる。が。そこに1人の『守護者』。盾役タンクだ。守備専門の大男。前に進めない。攻撃も通らない。まずい。


 やばい、どうすれば、汗が止まらない。アマルティアは?無事か?まずこいつをどうにかしないと。倒すのは無理だ。どうにか隙を突いて抜けるしかない。まずい、早くしないと。焦るな、震えるなよ、いけ、いくんだ。


 俺は右に走り出す。合わせて俺の目の前に移動する大男が、体重移動をすると同時に俺は体を回転。変わって左に飛び込む。


 重い装備と盾のせいで体を動かすのが遅い大男の脇を抜けて、残りの4人の元へ。


 アマルティアは長身の男に抑えられ、縄で縛られている最中だった。俺は長身の男めがけて飛びかかる。残りの3人が俺に対応する。

 3人同時の剣撃を丁寧に弾き、流し。俺はそのうち1人の手首を刺す。自分の血に恐怖を覚えた男が1人、脱落。


 理性を無くしたもう1人が横薙ぎの一撃。跳躍して剣を避けて空中で男の顔を蹴る。鼻がおかしな方向に曲がって、血を噴きながら倒れる。

 もう1人の突きを普通に避けて、肉薄。股間を蹴る。悶絶の様子で倒れこむ男を踏み台に、アマルティアを縛っている長身の男に向かう。


 しかし。後ろから大きな盾で地面に押さえられる。地面に爪を立てて、俺はアマルティアに手を伸ばす。



「ティアッ!!ティアァァ!!」


「ははははははっ!ざまぁねぇな!おい、そのまま押さえとけ!そいつは後で殺す」



 長身の男がアマルティアの口を押さえて、笑う。そこに。また人間の男が2人現れる。まだいるのか。まずい。このままじゃ、アマルティアが。


 長身の男に担ぎ上げられるアマルティア。ラン!ラン!と叫ぶ。


 静かにしろと、長身の男がアマルティアを殴る。そうして、3人の男が俺の前に歩いてきて、見下ろしてくる。



「どんな気分だぁ?おい。よくも俺らの仲間をこんなにも傷つけてくれたなぁ。クソ最弱種が。楽に死ねると思うな、よっ!」



 語尾を強めて、俺の顔を蹴る長身の男。痛い。痛い。怖い。怖い。でも、何より。


 アマルティア……ごめん……!


 俺からこんな危ないところに連れてきておいて。守ることさえできなかった。この後俺は殺されて。アマルティアはどんな扱いを受けるかわからない。


 俺のせいだ。全部。俺が悪い。痛む頬を、顔を。地面に叩きつけて。俺は俺の行動を悔やむ。憎む。


 俺が。こんなことしなければ。大した理由もなくパトリダ外に連れ出さなければ。こんなことには。クソっ、クソ!


 涙を流す俺を心底楽しそうに見下ろす男たち。そして、先ほどやってきた2人のうちの1人が、短いナイフを取り出して。



「そんじゃ、まず右目からいきますかぁ!」



 そう叫んでナイフを振りかぶる。笑う男たち。やめろと叫ぶアマルティア。土と血の味がする口を結んで、全てを、諦め──



 刹那せつな



 目の前にいた3人の。“首が飛ぶ”。それも、同時に。


 空高く立ち上る血の噴水。ピクピク震えながら、その3つの死体が地面に倒れこむ。次に、俺を押さえていた大男が横に倒れる。見ると、大男も首が無く、地面を赤く染めていた。


 地面に落ちるアマルティアを、俺はキャッチする。ナイフでなんとか縄を切る。


 横から大きな影が、俺たちを覆う。その影の方を、2人で見上げる。


 そこには、返り血を朝陽に照らされた、根は優しいけど強面の。



「ピズ…マ……?」



 見慣れた。顔が。笑っていた。


 すると。ピズマは大きな剣を背後に振るう。直後、森に隠れていたもう2人の人間の首が飛ぶ。葉が、枝が、血に染まる。


 ただでさえ隠れていた敵を。見ないで。そして首を同時に飛ばす。


 ──ああ。なんて。なんて感動的な、理不尽。救いようのない安心感。


 こんなやつ、敵わねぇよ。強いとか、そういうレベルじゃない。


 そしてピズマは、大剣を背中の鞘に納める。と、同時に。俺とアマルティアが黄色い光に包まれた、かと思った時には、すでに体の傷が治っていた。


 聞いてはいたけれど。これが。“無詠唱の即時回復”。まじで、チートじゃねぇかよ。味方で本当に良かった。


 そして、俺とアマルティアは立ち上がる。無言で森に歩きだすピズマに、小走りで付いていく。


 アマルティアの手を握って。2人で顔を見合わせて。そしたら何だかおかしく思えて。どちらともなく、笑いだした俺たちを。困ったようにピズマは眺めていた。


 ──王宮に帰ってから死ぬほど怒られたのは言うまでもない。


ありがとうございました。


今一度言います。アマルティアは男です。ランはゲイではない……はずです。

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