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ライトノベルじゃあるまいし  作者: ASK
第ニ章【ゴブリン・パトリダ】
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第9話 『加護』

こんにちは。ご来訪、感謝致します。


土曜日ということで寝坊しましたがなんとか投稿できました。


 涙で潤うぱっちりとした大きな瞳に俺を写して。細くて綺麗な指を俺の手に絡ませて。時折、鼻をすする。


 表面張力で何とか踏ん張っていた涙の粒が頬をつたって流れ落ちた。濡れた目元をそっと拭ってやると、安心したように目を閉じる。


 そうして、何かの不安に喘ぐアマルティアに、俺はもう一度優しく尋ねる。



「……それで、何だよ。重大な事態って。折り入った相談って。俺にできることなら何でもしてやるからさ、そういうのは口に出した方がいいぜ」



 手を握り返してやる。すると、微かに震える形の良い唇が、恐る恐る、開いた。



「これに気が付いたのは、もう少し前だったんだ。何だか怖くなって、それでも、隠していたんだが、もう、不安で、不安で……」


「大丈夫だから。俺がいるから。言ってみな?」


「……朝起きると、“ココ”が……こうなって……」



 そう言って、ズボンを膝上まで下ろすアマルティア。その手は確かに震えていて、そんな不安を拭ってやろうと思った俺だったが。その震える手に同調して震えている“ソレ”を見て、真顔になる。



「……なるほど。そういうことか」



 どうやら、男の子ならよくわかるであろう現象。股間に血液が溜まって何だか愉快そうなフォルムに変化する、あの現象。


 人間の親がいたならば、それはお父さんあたりに教えてもらえると思う。朝にそうなるのは、尿意が関係してて、草むらで拾った不思議な本を見て、そうなるのは生命として正常な証であると。(正確な仕組みとは差異があるが、そこまで正確に詳しく考える必要はないと、妥協しておく。)


 追記するなら(男ならわかるはず)、特に変な想像もしてなければ、トイレを我慢しているわけでもないのに、自慢の聖剣が元気になって、しかも全然収まってくれないケースもある。


 アマルティアは、その美しく可愛らしい容姿に似合わず、ちゃんとした男の子である。(今は男の娘の素晴らしさについては置いておくこととする。)


 従って、そのような整理現象は、無論。アマルティアの身にも起こる。


 しかしどうだろう、女性諸君も考えてみてほしい。起床時や、尿意に襲われた際、脳の命令を無視して雄叫びをあげる股間を、何も知らずに見たら。何を思うだろう。どれだけ不安な気持ちになるだろう。


 そういうときの為にも、親は、教育者は、保護者は。必要なのだ。


 別段、始祖じいはそういう現象を知らないわけではないだろう。ゴブリンだって股間の仕組みは同じだ。メスはどうか知らんが。


 色に目を瞑れば、ゴブリンも人間も股間は一緒。


 しかし、先刻に他ならぬアマルティアが言ったように。その事実を隠して、その話題を避けてしまっていたので、始祖じいや大人ゴブリン達から教わることがなかったのだろう。


 一緒の部屋で過ごし、唯一の友達にして相棒である俺になら、意を決して打ち明けることができることだ。


 だからせめて真摯に誠実に。答えてやるのが相棒の義務だ。


 俺は一層、アマルティアの手を握る力を強めて、努めて楽観的に言う。安心できるように、言う。



「安心しろ、ティア。それはな、ぼ◆◆(自重)と言って、人間なら、男なら誰もが経験する現象なんだ。そしてこの困ったちゃんには、これからも悩まされ続けるだろう。それでも、共存し合っていくのが、男だ」


「……よくわからないが、とりあえず、大丈夫、なのか?これは病気や死の予兆ではないのか?」


「ああ。むしろ、そうならない方が病気だし、生命体的に危ない。よかったな、ティア。それは健康に、しっかりと育ってる証拠だ」


「……!そ、そうか。よかった、本当に、よかった……!」



 アマルティアは俺の首に腕を回して安堵の息を吐く。


 俺的には感動的なシーンなのだが、いかんせん、アマルティアの下半身がオープンテラス状態なので不思議な絵になってしまっている。


 ……ゲイになりそうな新感覚の昂ぶる感情を殺して。新たな世界の幕開けを寸前で回避して。


 俺はアマルティアのズボンを上げてやる。


 まだ言わないでおくが、女性ほどではないとは言え、男だって苦労することがたくさんあるのだ。色々と処理せねばならない事態に陥るのだ。

 その辺は、もっとアマルティアが大人になってから。そういう変な気分になって、青春のエナジーのほとばしりを体感してから、話してやろう。


 というか、生まれてから、ゴブリンしか見てこなかったら、アマルティアはメスのゴブリンに興奮するようになるのだろうか?


 ちなみに俺は元人間なので、メスのゴブリン達には一切興奮しない。しかし、もう、当初の、『ゴブリン気持ち悪い』という感情は霧散して消え去った。


 でもまぁ俺がこのパトリダにいて興奮する相手なんかアマルティアくらいしかいなi……ゲイじゃないからね!!


 落ち着いたアマルティアは、もう一度改めて礼を言って、藁と綿の寝床に入って間も無く静かな寝息を立て始めた。


 …………可愛い。




❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎




 起きた。……いや、正確には起きていない。なにせ、寝ていないのだから。


 別段、今日、加護についての説明をやっとされるということに対するワクワクではない。ピズマの加護を知れることで対策を練れることに対する興奮でもない。


 いや、興奮というのはあながち相違ないようでしかしながら認めるわけにはいかないのだけれど。

 夜遅くまでアマルティアの寝顔を。たまに「んぅ……」とか言って身をよじる姿を。


 眺めていたら、何だか形容しがたい気分に襲われて、真っ赤な顔を床に叩きつけた後、落ち着け、落ち着け。俺はノーマル。俺はノーマル。と、自己暗示をひたすら繰り返していた。


 まじで、あやしうこそものぐるほしけれだった。


 そんなわけで。日本男児の夜明け(意味深)ぜよっ!と、目覚めてしまう前に、何とか平静を取り戻せた頃には、すでに日が昇り、石の壁の隙間から入り込む細い光の線に照らされていた。


 よし。もう大丈夫だ。俺はノーマルだ。今日はもう体を動かせるから、早く加護について教えてもらって、昼には修行を始めるとしよう。


 アマルティアを起こす。いつもは抱きついたり乗っかったり。脇腹をくすぐったりと、工夫を凝らしたセクハラまがいの起こし方をしてきたが、今日はそんなことできる気がしなかったので。


 近くの席で寝てる女の子を、チャイムが鳴ったので起こすときに触る部位ランキング1位(非公式)である、『肩』を揺すって起こした。


 僅かに反射した光に照らされて蒼く煌めく長髪に包まれたその小さな顔が。くしゃっと笑って。



「おはよう、ラン」



 そう言ったときに、一晩の努力が無に帰したのだった。


 可愛いぃぃいいいいい!!!!



 ──さて。


 朝ご飯を済ませた俺とアマルティアは、ワクワクも同調してか、いささか早すぎやしないかと思える早さで始祖じいの部屋に向かった。というか、競争してた。アマルティアの方が速かった。


 アホみたいに足の速いアマルティアが、始祖じいの部屋のドアの前で腕を組んでいたのを笑いながらラリアットして。部屋に入る。


 机に向かって、眼鏡をかけて、筆のような物に墨……ではないな、あれは血、か?を付けて、紙に何かを書いている様子の始祖じい。


 習字してる、みたいな。そんな感じで集中してたので少し待ってから、顔を上げた始祖じいにおはようと挨拶をして。早速教えてもらうことになった。


 始祖じいは、眼鏡を机に置いて、椅子に深く腰掛けて大まかに説明してくれた。



「それでは、これから『加護』について、大まかに説明する。


「まず始めに、『加護』とは、加護神ベータの特殊能力によって授けられる、力のことである。


「力のことではあるが、加護はそれそのものが身分証明ともなる。


「まず、大きく、非常に大雑把に分けて、加護は3種類。


「『戦士系加護』、『神託系加護』、『その他』


「1番多いのが、戦士系加護だ。


「戦士系加護には、例えば。『剣士』、『守護者』、『射手』……など、その他にもあるが、割愛する。


「名の通り、剣を使って最前線で戦う『剣士』は、その中でも、『聖騎士パラディン』や、『冥闇騎士グリード』などと言った、派閥に分かれる者たちもおるが、基本的には、『剣士』と一括りに呼ばれる。


「そして『守護者』は、いわゆる、『盾役タンク』。重装備で、大きな盾を持って防御に徹する。まぁ、大剣を装備して、いざという時には攻撃にも転ずるという者も少なくないがな。


「射手はそのままだ。この他にも、戦闘要員となる加護は全て『戦士系』となる。


「次に『神託系』。これは、加護神ベータが大気中に放ち続けている、特殊な力『神力』を使って、傷の回復や攻撃魔法、幻惑魔法などを使えるようになる加護だ。


「魔法、というと魔力を使っているようなので正確には違ってくるがな。神力だから、神法、と言ったところか?呼び方など所詮は呼び方に過ぎないがな。


「神託系には、『天使』、『神託者ウィザード』などがおる。神託者は、要するに魔法使いということだ。


「『天使』は、イギアのように、傷やダメージの回復を、神力によって可能とする者たちだ。


「神力を使って、超常的な魔法を使う際には、必ずと言っていいほど『詠唱』が必要になるので、お前たちが想像するほど、サクサクポンポンとは、魔法は使えない。……例外もいるがな。


「そして、これはあまりにも大雑把過ぎたかもしれんが、『その他』。


「ランが目指す、『盗賊』も、ここに含まれる。例を他にも挙げるなら、『屍術師ネクロマンサー』などだな。このその他に関しては、珍しい加護、という扱いになる。


「1番多い加護が、戦士系の剣士、守護者、射手。次に、ガクッと減って、少ないが、その他と比べればまだ多いのが、神託系の天使、神託者。ちなみに、天使の加護を受けるのは、9割以上が女性だ。


「そして、稀にいるのが、その他。このパトリダにも、盗賊は1人しか、レプトスしかおらんしな。


「別段、確率論ではないがな。知っているとは思うが、過去や性格も、受ける加護に影響する。


「と、そんな具合だ、加護とは」



 ふぅー、と大きく息を吐いて座り直す始祖じいに、食い気味に言う。



「あ、あと!ピズマ!ピズマの加護を教えてくれよ!あいつを倒すためには様々な情報が必要なんだ!」


「そうだな、うむ。教えてやろう。ピズマはな、パトリダで唯一の、『男の天使』だ。基本、女性が授かる加護である天使。それになれたということは、やはりピズマの優しい性格が反映したのだろうな」


「えええええっ!?あ、あいつ、あんなデカイ図体して、天使なの!?似合わねぇ!」


「そう言ってやるな。しかし。ピズマは確実にこの世界最高の天使だぞ。ほぼ無敵と言っていいほどに」


「……なぜだ?少なくとも神託系の中でも天使は戦闘派ではないだろう?」



 アマルティアが首を傾げてそう言うと、始祖じいは自分の自慢ように胸を張って鼻の穴を広げて返した。



「ふふん、そう思うだろう?しかし、ピズマは別格だ。お前らも経験した通り、ピズマの戦闘力はパトリダでも屈指の実力。それに加えて、“無詠唱での即時回復”が可能なのだ」


「無詠唱の、即時回復……?」


「うむ。そもそも、イギアのように優秀ならともかく、少しの傷を治すのにも、ある程度の長さの詠唱の後、長時間の治療が必要となる。それが一般の天使たちだ」


「まぁ、ヒーラーってそんなもんかもな、実際」


「しかし、ピズマは違う。無詠唱で、加えて一瞬で、自分の傷も対象の相手の傷も、治療することができる。つまりは、あの巨軀から繰り出される攻撃の嵐をやっとの事でくぐり抜けて、ダメージを与えたとしても、その場で即時回復してしまうのだ」


「まじでチートじゃねぇか」


「否定はしない」



 それが言えて満足だったのか、始祖じいは機嫌よさげに自らの仕事に取りかかった。



「まぁ、加護なんて使われたら、アグノスやレプトスにも敵わないがな」


「いつになく弱気な発言じゃないか、ティア。まぁ、確かにそうだけどな。加護があるかないかの差はあまりにも大きい。ピズマなんて加護のお陰で2倍くらい強くなったんじゃないか?」


「まぁしかし。私たちだって、それぞれ稽古をつけてもらっているからな。あと1週間ほどアグノスとレプトスに鍛えてもらってから戦ったら、ピズマの隙をつけるかもしれん」


「聞いた話によればピズマはパトリダ周囲の森の見回りとか、危険地域で仕事するやつらの護衛とか、もちろん始祖じいの護衛もあって、しばらく一緒に修行できないらしいけどな」


「それは残念だが、丁度良い。またピズマと戦えるころには、ピズマをひと泡吹かせられるくらいには強くなっているぞ、私は」


「俺だってそうだ。そうと決まれば早速修行だ、時間が惜しい!」


「……アグノスとレプトスは、仕事で忙しくはないのだろうか?」


「レプトスが言ってたけど、ピズマが仕事しすぎて暇らしい」


「なんだそれは……」




❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎




 閃光が走る。


 高く昇った太陽の光を反射して、俺のナイフが空を切る。レプトスは短剣ダガーを吸い付くようにナイフの刃に当てて、弾く。


 俺は今日も実践練習だ。アマルティアは、基礎練習をしている。素振りだ。まぁ、ただの素振りではなく、“一振りで絶命させる”ことに重きを置いた素振り。 しかも、ただ何もないところを振っているのではなく、アグノスがまとになっている。


 ほぼ実践みたいなものだが、アグノスは避けるだけで攻撃はしてこない。一撃必殺を繰り返し繰り返し練習して、習得することで、いずれアマルティアのあの雨のように降りしきる俊速の剣撃その全てが、一撃必殺となる。それは想像するだけで怖いけど。


 俺は、盗賊としては。基礎練なんてやらない。ひたすらレプトスと実践練習して、危機対応能力とか、死に対する恐怖心を育てて、盗賊らしくなったりとか。戦いながら、“盗賊”らしく、技を“盗め”とのこと。


 そんなこと言われてもレプトスの動きって見ててもわからない……と、思っていたが、数時間か経過してきた頃に、見えてきた。


 ダガーの動きに注目するのではなく、視野を広く、レプトスの一挙手一投足を隈なく見ていると、わかってくることがある。


 化け物だ、こいつ。ありえない。普通、威力のある攻撃はもちろん、普通の攻撃も、予備動作を無意識的にしてから繰り出されるものだ。でも、レプトスは違う。ノーモーションから、ありえない速さと威力の攻撃を繰り出してくる。


 反応なんてできやしない。しかもこれが加護の力ではない、ときたもんだからお手上げだ。素でこんなに強いのかよ、って絶望する。


 まぁ、でも。こんなに強いやつと毎日毎日戦ってたら、俺も驚くほど成長するのは目に見えてるけど。



 ──結局。


 この日も夜まで修行して、俺は一撃もレプトスに与えることなく体力が尽きた。


 アマルティアも大の字で倒れてるのが見える。


 今日はもう終わりだな。明日もまた朝から修行だ。


 大変なようで、俺はとても楽しいと感じてる。こんなに努力したこと、俺の人生であっただろうか?いや、確実になかった。努力なんてしてたらニートになんぞなっておらんわ。


 努力とか報われないからやるだけ無駄、そう思ってたけど。


 努力しなきゃ、届かないやつがいるんだ。やるしかないだろ。



 そうして。俺たちは。次の日も、そのまた次の日も。毎日毎日修行を繰り返した。強くなっていった。



 そして。俺が生まれて。



 ──5年が経った、ある日の、ことだった。



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