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ライトノベルじゃあるまいし  作者: ASK
第ニ章【ゴブリン・パトリダ】
35/105

第8話 戦争の兆し

おはようございます。

今日でGWも終わりですねー……。


それはともかく、今話も読みに来てくださってありがとうございます。


 結局のところ、立花たちばなミズキが、このパトリダ、あるいはこの世界に潜んでいるのかどうかは、わからないという結論で妥協した。


 監視の目を怯えて、満足に暮らせなかったら、勿体ないし。開き直ろうと思う。


 それはともかく。


 昨日の修行で死にかけた俺とアマルティアは、イギアねえに傷を治してもらって、しかしながらまだ安静にしているよう言われたので、今日1日は何をして過ごそうか、決めかねていて、実質、暇である。


 ピズマは、帰ってきてるかな。始祖じいの部屋に行ってみよう。


 俺はアマルティアを起こさないよう、ゆっくりとドアを開け、廊下に出る。初めはボロい石造りの建物だと思ってたけど、やっぱりこのパトリダではこの王宮は段違いに綺麗で大きい。


 長〜い廊下を歩く。あれ、始祖じいの部屋ってどこだったかななんて思っていると。



「よう、へなちょこラン、お早いじゃんか、ひゃはは」



 背後から俺を馬鹿にするような声が聞こえる。俺は振り返らず、足も止めずに言う。



「ああ、おはようレプトス。おかげさまで身体中がダルいぜ」


「ひゃはは。ざまぁねぇ」


「……今日はどうしてここに?」


「暇なんだよ、意外となぁ。幹部って。ひゃはは。ピズマくらいだぜぇ毎日働いてるのはよぉ。ひゃはは」


「……仕事は自分から探すものだろう……。あ、そうだ。レプトス」


「なんだ。へっぽこラン。ひゃはは」


「へなちょこからへっぽこに変わったし……。あのさ、音を立てないで動く方法教えてくれないか?今さっき俺の背後に迫ったような。そんな感じのやつ」



 俺は振り返って言う、が。振り返るとそこにレプトスの姿はなく、またもや背後から声が聞こえる。



「おおう、いいねぇ。やる気があってぇ。教えてやるけどよぉ、難しいぜぇ?ひゃはは」


「そんなの百も承知だ。でも、俺が加護を受けるまで。正式に、身分的に、加護的に『盗賊』になるまでに、習得しておきたいんだ。レプトスの、色んな技を」


「ひゃはは。まぁ、でも“音消し”に関して言えばよぉ、さほど時間はかからなねぇと思うぜえ?」


「本当か?それなら、早速頼む……と言いたいところだけれど。安静にしてるよう言われてんだよな。イギア姉に」


「別に体をたくさん使うわけじゃあねぇけどなぁ、ひゃはは」


「念には念を、だよ。明日には完全回復してるだろうから、明日頼むよ。……それにしたって、あの量の傷がこんなに早く治っちまうなんて、イギア姉ってば凄えな。チートじゃねぇか」


「ひゃはは。確かに、回復に関して言えば、イギアはパトリダのみならず、この世界でも屈指の実力だぁ。でもまぁ、ピズマを見ちまったからなぁ。ひゃはは」


「なんでそこでピズマが出てくんだよ?」


「……ん?聞いてねぇのか?ピズマから。……ひゃはは。そうかそうか。そうだよなぁ……さすがに恥ずかしいかぁ、ひゃはは」


「……何を言ってるんだ、お前?」


「事の真相は、ピズマ本人から聞くんだなぁ、ひゃはは。……まぁ、少しだけ言うなら、回復する、させることにおいて、ピズマはこの世界でナンバーワンだ。確実にな」


「ええええっ!?な、なんであんな肉体派というか、肉弾戦系近接系統の男が回復系最強なんだよっ!?」


「ひゃはは。本人に聞けってぇ、ひゃはは」


「……あいつ、まだ隠してやがったのか。こんな大事なこと、くそぉ」


「ひゃはは。そんじゃあな、始祖様んとこ、行くんだろ?方向が全くの逆だぜマヌケのラン。明日からも究極に死に近い稽古をつけてみっちり鍛えてやるよぉ、ひゃはは」



 そう言って、俺の眼前でパンっと、手を叩くレプトス。ビックリして目を閉じたが、すぐに開ける。しかし。そこにはレプトスの影すらなく、猫騙しなんて子供みたいな手に見事にしてやられた俺は、Uターンして歩き始めた。


 始祖じいの部屋に行けば、ピズマはいそうだな。ピズマに詳しく訊かねぇと、さっきのこと。あいつ、戦士系の加護を受けてると思ってたのに、その実回復ができるような能力だったのかよ。

 ヒーラーは弱いってのはゲームバランス的に必須条件だろうが。……ゲームではないけれど。


 階段を上がる。長方形の形をした、王宮本館は、4つの螺旋階段が、それぞれ長方形の角の部分、つまり本館の隅にある。


 1番東の螺旋階段に着いて、上を見上げる。


 特に意味はなかったので、すぐに上り始めた。螺旋階段の柵の隙間から、窓の外を見ると。庭に植えられた木の上でレプトスが寝ているのが見えて、なんだか笑えてきた。


 上りきり、王宮最上階の部屋を全てあたる。どこが始祖じいの部屋かわかんないし。


 結局、1番奥の、1番大きな部屋から、声が聞こえた。盗賊に憧れる男の端くれとして、少しでも盗賊らしくすると意識している俺は、音をなるべく立てないようにヒタヒタと歩き、耳を澄ませる。ドアの向こうから聞こえてきたのは。



「では、始祖様。このままですと……」


「うむ。始まるだろうな……戦争が」


「……っ!……近いうちに、でしょうか?」


「いや、そこまでではないが、しかし、決して遠い未来じゃない。おそらくは、今から15年後、あるいはそれ前後、あたりではないかと予想しておる」


「……彼らもまた、戦場に?」


「それこそ、彼ら次第だ。聞いた話によれば逸材中の逸材なんて言われるほどの腕前らしいではないか。」


「しかし、もし、本当におよそ15年後に戦争が始まったとして、そのとき彼らはまだ加護を受けたばかり、到底、他種族の精鋭たちには……」


「だからこそ、ピズマ。お前に任せておる。あいつらを、アマルティアを、ランを。強く、逞しい子に育てあげてはくれないか」


「……始祖様に対して私が、できませんとは言えませんが。しかし、私に務まるでしょうか。彼らは、本当に。残酷なほどに強すぎる。……何か、悪い予感がして、私は、私は」


「お前は本当に、子供の頃からそうだなぁ。何故自分自身に自信が持てないのだ。お前はこんなにも強く、誠実で。何よりも、優しい。その持ち前の優しさが、お前の“能力”の強さの秘訣なら、確かにお前の規格外な能力も、納得できるというものだ」


「……始祖様。必ず、必ず私は、彼らを育て、強く、ゴブリンの種族の名に恥じない男たちに育ててみせます」


「期待して、首を長くして待っておるわ」


「しかし、始祖様」


「どうした、ピズマ」


「いくらこれからの我々ゴブリンにとっての希望の光だとしても。盗み聞きをするような者に育てるわけにはいきませんので、説教は厳しくしていくつもりですので。ご了承ください」


「……ほほう?……盗み聞きか……ラン、お前だろう?」


「……おいピズマ、なぜバラした。そしてなぜ気づいた」



 俺はドアを開けて、両手を挙げながら、無抵抗アピールで部屋に入った。



「はぁ、本当に……ラン様っ!始祖様の部屋に聞き耳を立てるなど言語道断!そんな調子では立派な戦士には到底なれませんよ!」


「ふふふ、案ずるなピズマ。俺が目指しているのは誇り高き戦士じゃあない。浅ましくて愚かで、誰より愉快で痛快な『盗賊』さ」


「……それでもやって良いこととそうでないことの区別くらいはつけられるようになってください!」


「おおうっ、声がデケェ!わかったよ、ごめんな、ごめん!許してくれピズマ、始祖じい!」


「始祖様をじいなどとお呼びするのはあまりにも……!」


「ふはははは。よいわ、よせ、ピズマ。ランは本当に面白い子だ。私を始祖じい呼ばわりしたり、イギアの娘をイギアねえとも呼んでおるらしい。……イギアは怒ると怖いのにな。でも、そんな風に、皆を家族のように接してくれるのは、嬉しいからな」


「ですが、さすがに始祖じい、というのは」


「いいではないか。私は孫はおろか、子供もいない。だが、ランは本当に孫のようで、嬉しいんだ。まぁ、これは内緒だったのだが、私は、ピズマやイギアなどの幹部達、そしてもちろんパトリダに住む全てのゴブリンを子供だと思っているがな」


「そのように思われて、本当に、本当に光栄です。幸福者です、私たちは」


「だからな、お前達大人は息子、娘で。ランとアマルティアは孫、みたいな感じだ。ふははははっ」


「やけに嬉しそうだな始祖じい。まぁいいや。それより、おい。ピズマお前、俺とティアに隠し事してただろう」


「……してません」


「お前、結局、自分が何の加護を受けてるか教えてくれなかったじゃんか。聞いたぞ、お前、回復系の加護らしいな」


「なっ!!だ、誰からお聞きになられたのですかっ!?」


「それは言わねぇ約束だけれど、今はそこじゃねぇよ、おいピズマ。お前の加護を教えろ。それがわかれば、俺とティアのピズマ討伐作戦が大きく飛躍するからな」


「いつの間にそんな作戦を……しかし。その、あまり進んで言いたいことではなくてですね」


「おいおい、仲間内で隠し事たぁ、そりゃあひでぇぜピズマ」


「い、いえ、ラン様やアマルティア様が加護についての説明を始祖様からお受けになるときにはお話ししますので」


「そうか。ならば明日話そう。加護について詳しく、な」


「ええぇ!?」


「やっとだぁっ!ぃよっし!」


「今日はまだやることがあるからな、そろそろ取り掛からねば」


「……まぁ、いずれ話すことでしたし、よいと言えばよいのですが」


「……となると、今日はまた暇になったな。修行はできないし」


「ご自室で、お休みになられてはどうでしょう?」


「ええー、まだ昼前だぞ?こんな時間からまた寝るのって、時間がもったいないじゃないか」


「……では、レプトスでも連れて、町に出てみてはどうです?」


「ピズマは来れないのか?」


「ピズマは農業、漁業ゴブリン達の護衛として、危険地域に赴くらしい。ラン、外に行くのは止めはしないが、くれぐれも無茶をするなよ」


「わかってるさ、子供じゃないんだ」


「まだ1歳でしょう……」


「そうだった」




❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎




 早速、何かの仕事に取り掛かった始祖じいと、大剣を持って出かけたピズマ。


 ……それにしても、何だったんだ、あの話。


 戦争が起こる?パトリダと、どこかが、争うのか?やっぱり、平和な世界ってわけでもないのかもしれないな。


 どうせさっぱりわからないから考えるのをすぐやめた。


 俺はレプトスを探しに庭に出た。すると、こちらから探すでもなく。



「ありゃ、もうお話は終わったのかラン?ひゃはは」



 背後からレプトスの声が掛かる。



「ああ。別に長い用事だったわけでもないし。ピズマも教えてくれなかったけど、明日にはわかるし。ピズマの加護について」


「そりゃあ良かったなぁ、ひゃはは。で、どうすんだこれから。昼寝も中々にいいぜぇ、ひゃはは」


「いや、そのことなんだけどさ、始祖じいとピズマには、中央地外を見に行ってみたらどうだとは言われたんだけれど。やっぱり身体動かしたいというか、早くレプトスみたいに卑怯になりたいというか」


「人聞き悪いが、褒め言葉だぜぇ、ひゃはは」


「そこでだ。音消しもそうだけど、その、短剣ダガーの扱い方も教えて欲しいんだ」


「ほほう、まぁ、いいぜぇ。俺も驚くほど暇だしなぁ、ひゃはは」



 そうして。中庭に行った俺たちは、それぞれダガーを持って向き合った。



「音消しは明日からにするとして、まずはダガーの扱い方なんだが。盗賊がダガーとか、武器を使う上で大切なのは、威力じゃねぇってことだ」


「威力じゃない……?」


「ああ。どちらかと言えば、どれだけ柔軟性高く、ダガーを扱えるか、ってことだ。こんな風に」



 そう言って、レプトスは手でダガーをクルクルと回し始めた。



「まずはダガーを持つことに慣れる。そこから、ハンドリングというか、自分の手の中で、自由にダガーを操れるようになること。それが上達すると、逆手に持ち替えたり、刃の角度を調整するときにスムーズになる」


「なるほど」


「そしたら次は、右手と左手。どちらでも同じようにダガーを扱えるようになる。両手で使えるようになれば、ゆくゆくは、二刀流だったり、片方の腕が使えない中でもちゃんと戦えたり。メリットだらけだ」


「二刀流ねぇ、両手剣、みたいな。いいねぇ、カッコいい」


「そうして攻撃パターンがかけ算式に増えていけば、ほらどうだ、最強の盗賊の出来上がりってわけ。そういうの、良いだろう?ひゃはは」


「おおっ!やっぱ盗賊が1番だな!俺、絶対盗賊の加護を受けて、レプトスに負けないくらいの盗賊になる!」


「まぁ、加護は、多少過去が影響するとは言え、ランダムだからなぁ、お前が盗賊の加護を受けられるかはまだわからねぇけどよ、それでも、加護なんてなくたって。俺が教えた極意を胸に刻んでるやつは、全員もれなく盗賊だぜぇ、ひゃはは」


「……そう考えると、加護なんて何の意味があるんだ?」


「まぁ、普通に考えたらあり得ないこととかは、できるようになるぜぇ。……こんなのとか。ひゃはは」



 そう言ってレプトスは、ダガーを持っていなかったはずの手に握られた、“俺のダガー”を見せてきた。



「うぇえっ!?意味わかんねぇ!今のは、どういうことだっ?」


「まぁ、スキルってやつだ。そういう説明は始祖様から教えてもらうんだろ?一応、少しだけ言ってやるが、加護を受けると、それに見合ったスキルが使えるようになる。盗賊なら、今のみたいな『奪取スティール』は、その一例だ、ひゃはは」


「……あっ、じゃあ、昨日!最後に俺のナイフがレプトスの首に届かなくて、それをレプトスが持ってたのも!そのスキルを使ってたのか!?ズルいぞ!」


「いやいやいや。昨日はスキルは一切使ってねぇぜ、ひゃはは。あれは俺の専売特許の技だ。加護を授かる前から使ってた戦法だったからな。ひゃはは」


「ええー。何だよそれ、お前、とことん盗賊向きだな」


「よく言われるぜぇ、ひゃはは」


「ダガーを持つことに慣れる、ねぇ。どうすればいい?」


「一日中ダガーを握ってろ。怪我してもピズマかイギアに治してもらえばいいからよぉ、クルクル回したり、投げてキャッチしたり。さやからの出し入れの練習とかも毎日しとけよ、ひゃはは」


「積み重ねが大切ってのだな。よし」



 俺はレプトスからダガーを再び受け取り、色々と試してみたが、初日とは得てしてこんなもので、中々思うようにはできなかったが、レプトスは筋はいいぜ、ひゃはは。と、褒めてくれたのでモチベーションは上々だ。


 音消しについて、それに加護についても明日には教えてもらえる。こうやってどんどん知識と力を付けて、やがて強大な敵を打ち倒す……!まさに、異世界ファンタジー!


 異世界ファンタジーではあるけれど、決して異世界“転生”でも、異世界“召喚”でもないのが悲しいけれど。


 ……そういや、考えてなかったけれど、この世界で死んだら、俺はどうなるんだ?現実世界に戻るのか?それともそのまま死んじゃうのかな。


 せめて、立花に会えれば……。まぁ会えても罪悪感と自己嫌悪と羞恥心で上手く話せそうにはないけどな。


 まぁどっちみち、そんなすぐには死なないだろう。俺はこの世界では、まだパトリダしか知らないけど、少なくともパトリダではかなりの逸材らしいからな。


 今のが死亡フラグにならないならば大丈夫だ。



 なんだかんだで、この日も夜までレプトスに色々と教えてもらい、部屋に戻った。


 部屋に入ると。



「おお、ラン。遅かったな。今日は何してたんだ?」


「レプトスに、少しだけ教えてもらったんだ。武器の扱いとか」


「そうか。……ラン。あのな、折り入って相談があるんだが」


「何だよ、改まって」


「かなり重要な……重大な、事態なんだ。これは、俺の今後に支障を及ぼすかもしれない……」



 アマルティアは、ともすれば泣きそうな顔で。俺の手を握って、そう言った。


…………可愛い。



ありがとうございました。


次回は、加護についての説明パートです。戦闘シーンは、ないかもしれません。字数によりますが。

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